審査員物語25 環境実施計画

15.04.16
審査員物語とは

毎週このうそ800を二回か三回更新している。あらかじめ書き溜めておいてあるのかと聞かれたことがある。正直言って半年ほど前までは10件くらいは常に在庫していました。しかしすべてを完成しておくと、アップする順序を間違えたり、あらかじめ書いていた日付とアップした日がずれたりすることが多々発生しました。いや、書き溜めておくだけが原因ではなく、ボケが始まったこともあるのでしょうけど、
そんなわけで現在は次回更新分だけを文章にしておいて、それ以降のものはあらすじとかアイデアだけをメモっておきます。そしてアップする二日前くらいに文章にして前日夜htmにしているというのが実態です。
ついでに言えば今はメモ帳ではなく「tttedit」なるhtmlエディタを使っております。今年の1月にメモ帳じゃしょうがないと「Hetemulu」というフリーソフトを使い始めました。ところがこれオプションで設定できる事が少なく使いにくいんです。それでものすごく古いソフトですが、「tttedit」というものを思い出して使い始めました。これは現在のOSに合わないのか元々なのか、バグというかエラーになることが多々あるのですが、使い勝手が良い。ということでこれを使っています。それでhtmlにするのが大幅に能率アップしました。

ときは2005年、三木が出向して2年経った。三木は既に主任審査員になっており、日々審査に励んでいる。
ところで主任審査員というのは実はCEAR登録上のランクであり、審査を行うための資格ではない。そもそも審査員というお仕事をするには資格は必要ではなく、雇っている認証機関が審査をしてよいと認めれば、誰でも審査員を務めることができ、審査のリーダーをして良いとみなせばリーダーになることができる。実際問題としてCEARの審査員補で審査員を務めている人を幾人も知っている。制度上審査員補でさえなくてもかまわないのだが、まったくCEARやIRCAに登録していないで審査員をしている方を私は知らない。JA○○が費用削減のためにCEARとJRCAに審査員登録をしないことにしたとかするとかという話を2年ほど前に聞いた。一人当たり2万3千としても100人いれば230万、売上20億とすれば0.1%か、大したことはないな。そこの審査員を検索すると2015年時点登録しているのでどうなったのか分らない。
要は審査を請け負った認証機関がその人をその業務に就かせるかを判断することがすべてである。もちろん責任はその認証機関にある。
といっても驚くことはない。CEARあるいはIRCAに登録した審査員がミスをしたとしても、その責任は審査員登録機関ではなく、認証機関にあるのだから。となると審査員登録機関の存在意義はなんだろうということになるが、そこを考えると認証した企業が不祥事を起こすと認証機関がその企業を糾弾する現実を思い出してしまう。つまり認証制度とはまったく意味も価値もない(ように思える)。だから、まあそこを深く考えるのはやめておこう。

ともかく審査員登録機関の意味とCEAR登録は何かというものを考えてみると、なんの効力もなく、審査員補も審査員も資格ではなく単なるランク付けだ。囲碁や将棋の段位のようなものだ。段位がなくても遊べるし5段が2段よりも強い保証もない。というとランクでさえもなく、正確に言えば過去の審査実績を確認したものというべきだろうか。つまり審査員登録していますと言えば、ああこのくらいの審査経験があるのだなという想像はつく。とはいえそこから審査の力量が推し量れるわけでもなく、過去の審査でいかほどの成果を出したかミスをしたかがわかるわけでもない。つまり力量を知ることはできず、結局審査経験を知る手掛かりでしかない。
ただ全く意味がないわけでもなく、認証機関が新規に雇う場合に、改めてその人過去の業績なりを調査する代わりにCEARなりJRCAがした結果を参考にできるわけだ。英語の力をTOEICで表す程度の意味はあるだろう。だから一般企業で働いている人がCEARに審査員補あるいはその他の審査員資格(?)の登録をすることは、将来認証機関に審査員として雇ってもらおうと考えていない限り全く意味がないことである。そして実際に審査員登録の意味が広く知られるようになった現在では、一般会社員が審査員補に登録する例が激減してきている。

ISO14001審査員CEAR登録件数推移
ISO14001審査員グラフ
制度発足からの連続したISO14001審査員登録数のグラフは公表されていない。
上図は、おばQが過去に公表されたいくつかのグラフをつなぎあわせたものである。

グラフをみると過去10年くらい審査員登録者が単調減少しているが、内訳を見れば減っているのは審査員補だけであって、審査員と主任審査員は減っていない。もちろんISO登録件数が今より減少すれば審査員・主任審査員も少なくても済むといういか仕事がないから登録を止めるだろうが、そこまで減るには今以上の登録件数減になったときだろう。
なおJRCAでは審査員登録件数を公表するのを止めて何年もたつが、それはあまりにも減りすぎてしまったからだろうと推察する。

ともかく三木はCEAR登録では既に主任審査員になっていたが、社内の資格でも主任となった。社内の資格というとおかしいかもしれないが、要は今後はリーダーとしてやってもらうと社内で認められたということだ。
審査でリーダーを務めると、審査後に認証の判定会議のための資料作成と説明をしなければならない。とはいえほとんどの場合、審査ごとに幹事審査員というのを決めるのだが、その幹事審査員がしてくれるのでよほどの問題がなければシャンシャンと行くのがふつうである。
ときたま審査の際に異議がついたり、審査員がチョンボをしたりするとリーダーが冷や汗をかくはめになる。とはいえ、よほど先方に失礼なことをしたのでなければ、審査の判断に問題があっても企業側はおとなしく妥協するのが普通であり、リーダーが進退窮まることはまずない。
そしてリーダーを勤めれば審査においてはほぼ絶対の権限をもって仕事ができる。これば気持ち良い。どんな仕事でもお山の大将は一番である。

三木は決してバカではなく、ワルでもない。誠実であろうとし概ねそのように行っていた。今まで2年間、先輩と一緒に審査をしていて、間違った規格解釈とか、おかしい判断というのをたくさん見てきた。だから三木はそれらを他山の石として正しい規格解釈、客観的で公平な判断に努めているつもりだ。
とはいえ出向前からナガスネの講習を受けてナガスネ流に染まってしまっていることを自分は気づいていはいない。もっともナガスネ流に染まらないと社内では辛いよと言われたことは覚えている。そして自分自身、ナガスネ流に染まろうとしているところもある。
例えば環境側面を点数で決めなくてはならないという根拠はないとは思ってはいる。しかし実際の審査では点数方式の方が話が早いし、なによりも判定委員会でも説明するとき質問も異議も受けないので、点数方式であれば即OKと判断したし、それ以外の方法だとためつすがめつしつこく質問をした。実際のところ三木にはその企業の真の環境側面など分らないわけであり、いかなる方法であろうとそれが正しい結果であるのか否か判断できるわけがなかった。

注:
当時はガイド66が有効であり、そこでは
「環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが著しいかを特定するための基準を設定し、これを行うための手順を開発するのは、組織の仕事である」
「組織が環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが著しいかを決める手順が適切なものであり、また、守られているかどうかを審査するのは、審査登録機関の仕事である」

と決められていた。
しかし、これを知っていた審査員は半分もいなかったと私は思う。
なおガイド66は日本国内では、JAB RE300:2006及びJISQ0066:2006として翻訳されていた。ISO17021が発効して失効した。
ISO17021は他のマネジメントシステムにも使うためか、上記の記載がなくなってしまった。

結局、三木のように環境に関わってきていない審査員には、環境問題とか公害対策などの全容を理解することができず、形式上の怪しげな数字でのみでしか判断つかなかったのだろうか?
いやそれは失礼というか間違った論理だろう。やはり環境側面というものを正しく理解し教えるということをしなかった審査員研修機関、認証機関の責任ではないのだろうか?

主任審査員になったといっても常に審査でリーダーを勤めるわけではない。現実を見れば職業審査員の7割は主任審査員であり、お互いに交代でリーダーを勤め4回に3回はリーダー以外の役をする。
今回は阿賀野あがの審査員をリーダーに三木と同期入社の木村の三人で審査を行っていた。木村も既に主任審査員になっている。

三木阿賀野木村
三木阿賀野木村
審査はオープニング、現場巡回と順調に進んだが、書面審査のときに環境実施計画の審査をしていた阿賀野が何か大声を出した。あまりの大声に隣の机で審査していた三木は驚いて顔をあげた。

注:この物語は今2005年である。2004年規格改定で環境マネジメントプログラムは環境実施計画と源氏名を変えた。
ちなみに源氏名とは公家で働いている女性が源氏物語にちなんだ名前で呼ばれたことに発する。後にそれは武家の奥女中などに広まり、現在では本名を名乗るのがはばかれる飲み屋などで使われている。

阿賀野審査員
「ええと、御社には環境目的の環境実施計画と環境目標の環境実施計画はないということですか?」
会社担当者
「ハイ、なにか?」
阿賀野審査員
「あのね、ISO規格にちゃんと書いてあるでしょう。4.3.4のb)項に『目的及び目標達成のための手段及び日程』(ISO14001:2004)って、
これは目的の環境実施計画と目標の環境実施計画が必要だってことでしょう」
会社担当者
「いや、この規格の文章は『目的及び目標を達成するための計画』であって、環境実施計画に基づいて活動すれば目標と目的が達成されるのであれば良いわけです」
阿賀野審査員
「よくありません!、これは不適合です」
会社担当者
「不適合って・・・あなた、いや失礼、阿賀野審査員さんでしたね。不適合ならしっかりした根拠がいりますよ」
阿賀野審査員
「ですから環境実施計画がひとつしかないのだから、規格4.3.4で定める目的及び目標達成のための手段及び日程が策定されていないということです」
会社担当者
「・・・困りましたね。ええとですね、私どもも近隣のISO認証している工場などにも問い合わせました。ナガスネ認証さんではありませんが、他の認証機関では目的と目標を実現する環境実施計画であれば問題なく適合と判断しています」
阿賀野審査員
「それはその認証機関が間違えているだけです。私どもは正しい規格解釈を行っているのでそのような間違いを許しません」
会社担当者
「あのうですよ、私どもではISOTC委員にも問い合わせておりまして、環境実施計画はふたつ要らないというご教示をいただいておりますが、それでもだめですか?」
阿賀野審査員
「だめです。誰が言おうとここでは二つの環境実施計画を求めているのです」
阿賀野はそう言ってから、ISOTC委員がひとつでも良いと言ったということに気が付いた。まあ、いい、ここは押し切ろうと阿賀野は思う。
会社担当者
「分りました。とりあえず不適合にしておいてください」
阿賀野審査員
「ご同意いただけたようで結構です」
三木はふたりのやり取りを、手を止めて見つめていた。そして会社がおとなしく不適合に同意したのにいささか驚いた。ISOTC委員に確認したのなら、阿賀野に同意するのはむしろおかしいだろうと思う。
それとは別に、以前の審査でも目的と目標の実施計画が必要なのかは問題になったことを思い出した。あのときは朱鷺審査員が必要だと押し切った。だが三木はあのときからこれは本当はふたつ要らないのではないかという気がしていた。ただナガスネの内部では二つあるのが当たり前という見解だから疑問などを呈したことはなかった。本当はどうなのだろうか?


二日にわたる審査が終わった。
審査員最終打ち合わせで、いくつかの不適合の候補、観察の候補があげられた。阿賀野はそれらを取りまとめた。昨日の環境実施計画が二つないという問題も軽微な不適合にあげた。
三木も木村も、大先輩にあたる阿賀野の考えに異議も意見も唱えることはなかった。
最終会議の前の事前打ち合わせである。会社側は管理責任者である製造管理部長 と審査のときに環境実施計画は一つで良いと言った担当者の他に数名が出席した。

担当者

管理責任者
 


■ ■

三木三木
阿賀野審査員阿賀野
木村木村
阿賀野審査員
「このたびの審査でご対応ありがとうございました。早速ですが結論として軽微な不適合を2件、観察を3件あげたいと思います。その説明をいたしますのでご確認をお願いします。
まず軽微な不適合ですが、まず環境目的と目標に対応する環境実施計画がありません。これは規格要求を満たしていないので本来なら重大な不適合かと思いますが、目標の環境実施計画はあるので軽微な不適合としたいと提案します」
管理責任者
「おい、これは不適合であることに了解するのか?」
会社担当者
「ええと阿賀野審査員さん、これは審査のときも説明しましたが、私どもがISOTC委員にも問い合わせた結果、問題ないという回答を頂いております。よって不適合ではないと考えます。指摘事項から削除してください」
阿賀野審査員
「ええと、あなたは審査のとき不適合としてよいと同意したと思いますが」
会社担当者
「いや不適合であることには同意していません。私はとりあえず審査を進めてもらうことに同意したのです。
そして後で、つまりこの場で再度協議したいと考えておりました」
阿賀野審査員
「うーん、のらりくらりと北朝鮮のような言い草だな。ともかくこの問題は不適合であることは間違いない」
会社担当者
「ISOTC委員が問題ないといってもだめなのでしょうか?」
阿賀野審査員
「この審査においては私が判断します」
会社担当者
「ではどうすればよいのでしょうか?」
阿賀野審査員
「審査員の立場では是正処置をどうこうしろとは言えないのですが・・・具体的には目的の環境実施計画を作る必要があります」
担当者と管理責任者は顔を見合わせた。二人とも顔色が白かった。
管理責任者
「さようですか。それでは同意確認書には環境実施計画の問題について、当方は同意できない旨記載していただきます。その結果、御社で認証を出せないというならば、改めて協議したいと思います」
阿賀野審査員
「もちろん認証を継続することはできません。あ、正確には我々審査員が判断するのではなく、判定委員会が決定します。我々審査員は判定委員会に認証を継続できないと報告することになります」
管理責任者
「となるとこれからどうなるのかな?」
阿賀野審査員
「審査において審査側と組織側の見解が一致しない場合、主任審査員が預かりとなります。その判定は認証機関内部において審議することになります」
管理責任者
「ではその結果を待つことにしましょう。いずれにしてもこれに関しては再度審査を行うほどのことではないでしょう。我々も再検討したいと思います。
ともかく今日ここでは、審査員側から二つの環境実施計画が必要であるという説明がなかったとご理解ください」
阿賀野はそれを聞いて不満をあらわにしたが、何も言わずに他の不適合に話を移した。
引き続くクロージングでも、阿賀野はブスッとした顔をして提示した不適合の1件について同意を得られず認証の継続については社内で検討するという発言をして終わった。


審査は木曜日金曜日であったので、土日の休み明けに三木は久しぶりに出社して報告書をとりまとめていた。三木は今回幹事審査員を仰せつかっており、事前準備も報告書のとりまとめも担当なのだ。今回の審査では企業側が結論に同意しなかったが、全部がまとまっていなくてもできることはしておかなくてはならない。
木村は今日からまた別の審査に出張している。阿賀野審査員は三木から5つほど離れた席に座って書類を見ている。
審査部長である柴田取締役が阿賀野の席に歩いてきた。
柴田取締役
「阿賀野さん、ちょっと打ち合わせをしたいんだが、いいかね?」
阿賀野審査員
「ハイ、今でしょうか?」
会議室

柴田取締役
「そう、おお、三木君、君も一緒に来てほしい」
阿賀野と三木は立ち上がり、柴田の後をついて小さな会議室に入る。
阿賀野審査員
「なにごとでしょうか?」
柴田取締役
「うーん、昨日のこと・・・いや昨日じゃなかった・・・先週か、阿賀野さんと三木君、それに木村君だっけか、審査に行ったよね」
阿賀野審査員
「ハイ?」
柴田取締役
「その会社から異議申し立てが来た」
阿賀野審査員
三木「異議申し立てですって!
柴田取締役
「そう、正確に言えば異議申し立てではなく、異議申し立てをするにはどういう手続きをしたらいいのかっていう問合せだった。なんでもガイド66では審査に異議ある場合は異議申し立てできることを明示しなければならないとなっているが、ウチの審査契約書と審査登録ガイドには異議申し立てと苦情についての手順を書いていないから、ガイド66に反していると文句を言われたよ。驚いてガイド66を見直したらまさしくその通りだった。クソッ、恥さらしもいいところだ」

注:私は以前、某認証機関に異議と苦情の手順が明示されていないとご注意を申し上げたことがある。その認証機関はすぐにウェブサイトと審査登録ガイドにその旨を追加したが、残念ながらお礼の言葉はかった。お礼を期待した私の心が貧しいのだろうか?

阿賀野審査員
「どのようなことが問題だったのでしょうか?」
柴田はめがねを老眼鏡にかけかえて電話のメモを見ながら話す。
柴田取締役
「審査で環境実施計画が目的用と目標用のふたつが必要だとして、環境実施計画がひとつなので不適合にしたことについてだという」
阿賀野審査員
「ああ、思い出しました。でもそれって、おかしくともなんともないじゃないですか。ウチでは環境実施計画についてそのように判断するとしているはずです」
柴田取締役
「私もそう考えていたのだが、その会社ではISOTC委員にも問い合わせて、目的と目標を実現する施策があれば一つでも良いという回答を得ているという」
阿賀野審査員
「ああ、そう言えば審査のときもそんなことを言ってました」
柴田取締役
「ISOTC委員がそう言ったというなら、そのときに不適合を取り消すべきだったかもしれんな」
阿賀野審査員
「柴田取締役、何をおっしゃるんですか、困りますよ。それじゃ従来からのウチの考えとは違うじゃありませんか。もし今回の件について適合と判断するなら当社の見解を見直すのか、その会社だけは特別にOKとするのか、どうするのですか」
柴田取締役
「うーん、それをこれから考えたいと・・・ところで今言ったような要件の電話が来たわけだが、先方は明日にでもこちらを訪問して打ち合わせたいというんだ。向こうの言葉を正確に言えば、異議申し立ての手続きをしたいということだ」
三木
「私は入社前の講習会では須々木取締役から、入社してからの講習では早苗さんから実施計画はふたつ必要と教えられました。他の方も同じく教えられ、そのように理解しているわけです。ですから阿賀野主任のおっしゃるように早急に当社として判断を決めなくてはなりませんね。大勢が毎日審査をしているわけですから、当社としての見解をはっきりさせ内部に周知することが必要です。
ともかく早急に検討して来社される前に結論をまとめておかなくてはなりませんね
異議申し立てについては、その場の話次第ですから今すぐに手続きを決めておかなくても良いかもしれません。例えば不適合であることを向こうが納得してくれればそれでおしまいですし・・こちらが適合だと折れれば異議申し立てはしないわけですし」
柴田取締役
「うん、いずれにしてもこの問題を円満解決する必要がある。
ともかく結論から言えば、ISOTC委員がひとつで良いと言ったなら不適合にするわけにはいかんだろう」
阿賀野審査員
「委員がそう言ったということは間違いないのですか?」
柴田取締役
「実際にはその会社と委員がメールのやりとりをしていて、そのメールを添付して送ってきている。こちらからISOTC委員に確認する手もあるが、それじゃ我々が規格を理解していないことになってしまう。
よその認証機関はどうなんだろうねえ〜」
三木
「先方が言ってましたが、認証機関によってはひとつで良いというところもあるそうです」
阿賀野審査員
「もしひとつで良いとした場合、今まで社内にも二つ必要と周知していましたし、審査においても不適合というスタンスでした。それを完全にひっくり返すことになる・・・これは事ですね」
柴田取締役
「ともかくだ・・今は(と言って腕時計を見る)10時過ぎたところか、阿賀野さん、規格解釈について社内の古参審査員と解釈について話し合ってほしい。私も同業他社の知り合いに問い合わせてみる。
三木君は異議申し立てについて他社がどのように表示しているか確認してくれないか。少なくても同じようにはしておきたい。それと業務部長の山内取締役に印刷物とかウェブサイトの修正にどれくらいかかるか相談しておいてくれないか。
(また腕時計を見て)うーん、午後一番にまた集まって対策を協議したい。緊急事態だから、今の仕事は一旦止めて早急にとりかかってくれ。
三木君から山内取締役にも出てもらうよう言っておいてくれ、あっ、いや、山内取締役には私から頼むわ」


午後一、会議室である。柴田、山内の両取締役、阿賀野と三木がそろった。
柴田取締役
「ご参集ありがとうございます。早速本題に入ります。話は聞いていると思いますが課題が二点あります。ひとつは異議申し立てについて企業に説明していないこと、それから環境実施計画が二つ必要ないと異議申し立てを受けたことです」
山内取締役
「私の方からいいかな? 簡単な方から片付けておこう。
三木君から聞いてちょっと調べた。異議申し立て手順について、他の認証機関はすべてそういう窓口やルールがあることを審査契約時に説明していることと、審査のときにも説明しているようだ。まあ、それはガイド62とかガイド66で決めているんだけどね。当社ではなぜか初めからその対応が漏れていたようだ。
対応として、ウェブサイトに異議申し立ての方法を追加する。審査登録ガイドは修正してウェブにアップしているpdfのバージョンを変えて差し替える。これは今日中にできるでしょう。
それから審査登録ガイドの印刷物のほうは次回増刷時からになる。まあ今まで認証している会社は特段もめなければ大丈夫だし、新規契約するところには今印刷しているガイドに正誤表を入れて対応しよう。いや、待てよ、印刷してあるガイドを廃棄してしまった方が良いかな、当面用としては何十部かコピーして対応するとしようか・・・まあ、それはウチで考えるわ」
柴田取締役
「分りました。よろしくお願いします。そいじゃ山内取締役はお忙しければけっこうです」
山内取締役
「いやいや、この件にはとても関心があるので傍聴させてもらいますよ」
柴田取締役
「それじゃ、まず阿賀野さん、どうでしたでしょうか?」
阿賀野審査員
「数人と話し合いましたが二つ必要という意見が多数でした。いや、ひとつでよいという意見はありませんでした。一番詳しい朱鷺さんは、絶対にふたつなければならないと力説していました。
その他、他社の知り合いに電話してみましたが、そちらの方はひとつでも良いという意見が多かったです」
柴田取締役
「朱鷺さんは少し前にCEAR誌にそんな論を書いていたねえ〜、あのときだいぶ苦情というか異議があったそうでCEARは取り消したかったみたいだけど、ご本人はそれを諾とせず、いろいろあったみたいだねえ。あのときしっかりと白黒つけておけばよかったかも知れない。
ああ、私は同業三社の知り合いに電話してみたが、みな『目的及び目標を達成するためのものであればよい』という規格文言そのままの回答なんだ。ふたつともひとつとも言い切らなかったね」
山内取締役
「私はISO規格解釈なんて詳しくないが、今までのお話を聞く限り、無難な対応としては先方の環境実施計画が『目的及び目標を達成できる』かどうかを判断して、そうみなせるのであれば適合、できないのであれば不適合と判断するしかないじゃないの、
問題は、ふたつあればよく、ひとつではダメというというわけではないだろう。要するに中身がちゃんとしていて、目的と目標を達成できるなら合格ということでしかない。
まさか阿賀野主任も、今まで中身はともかく目的用実施計画と目標用実施計画のふたつがあればOKしていたわけじゃないでしょう」

最後の言葉はそこにいた全員に厳しい皮肉に聞こえた。
阿賀野審査員
「そんなことはありません。但し短期の目標用計画と長期の目的用計画は、おのずと異なると思いますし、それを一つの計画書で間に合わせることはできないように思います」
山内取締役
「あのさ、当面の対策はISO規格の真実とか深淵を探ることもないんじゃないの。今回審査した会社の環境実施計画がひとつであろうとふたつであろうと、その中身が目的目標と見合っているか否かが論点でさ、こちらもそこを良く見極めてさ、ひとつで良かろうと判断したら適合、目的実現までの進め方というか手順や施策が見えないなら不適合という判断をしたらいいじゃないか。
この問題を規格解釈の土俵に持ち込むこと自体、戦術としてまずいんじゃないかな」
柴田取締役
「おっしゃるとおりですね。阿賀野さん、ここはどうだろう、むこうの環境実施計画は今あなたの手元にあるだろうから、それを再検討してもらって、目的目標を達成できるかどうかの判断をして、OKなら来てもらうまでもなく適合にする、そうでなければその旨を回答するということにしてほしい」
阿賀野審査員
「おっしゃる通りじゃないでしょう。この問題は過去からナガスネの内部でいろいろと議論してきて、環境実施計画、いや1996年版からですから環境マネジメントプログラムは目的と目標のふたつ必要という見解だったじゃないですか。それこそ認証機関の確固たる信念に関わることではないですか」
山内取締役
「こうなると規格の解釈の問題になりますね。私のような素人が口をはさむことじゃない。柴田取締役が規格をどう解釈するかということを決めるしかないですね。当社としては二つ必要という判断であったなら、それを継続するか変更するかをはっきりさせるべきですよ」
柴田取締役
「いや、当社としての見解にはしていなかったと思う。正直言ってISO規格が基本であり、個々の審査において審査員が判断するものと理解している」
阿賀野審査員
「柴田取締役、それはおかしいじゃないですか。さっき三木君も言ってましたが、ウチでは外部への講習会でも社内研修会でも、環境目的と環境目標の実施計画が必要だと教えていたじゃないですか。
その他、著しい環境側面を決定するのも点数でなければならないとか、そういう社内で見解を統一しているものはいくつもあるわけです。今更そんなに簡単に変更するなんて言われては審査員も混乱するし、認証している組織からも信頼されなくなりますよ」
柴田取締役
「うーん、とりあえずこの会社対応としてはこうしよう。先ほど言ったように阿賀野さんは手持ちの環境実施計画を目的実現に妥当かどうかを判断してほしい。そしてその結果にて適合か否かを決めて対応する。二つという話は持ち出さない
阿賀野さん、1時間後再度集まって議論しよう。その結果を相手に連絡しよう。異議申し立てについては・・・、わざわざこちらから話を持ち出さなくても、こちらからの返事がそういう論理なら結果が適合にしろ不適合にしろ異議申し立てするという話にはならんだろう」

阿賀野は怒りからか顔を真っ赤にして黙ってブルブルと震えていた。
三木はこの問題に限らずナガスネの考え、ナガスネ流と呼ばれる規格解釈とそれを押し付けるやり方には問題があり、これからもどこかで吹き出してくるのではないかという気がした。そしてこれからは審査のときは先輩から教えられたことによらず、常に規格を基に考えなければいけないなと思った。しかしそうすればそうしたで、判定委員会や一緒に審査した他の審査員ともめるだろうなという気もする。

うそ800 本日の怒り
阿賀野審査員というのは仮名で、阿賀野川からとった。私とこの問題でチャンチャンバラバラした審査員のご芳名はやはり河川のお名前であった。まあそれでお名前を河川からお借りしたのですが・・
その審査員が環境実施計画がふたつなければ不適合だと大見得を切ったとき、私は腰を低くして懇切丁寧に説明(教育)してあげたのだが、その某河川の名前の審査員はまったく歯牙にもかけず私をシロウトが何を語っていると怒鳴るばかりであった。あの恨み晴らさずおくものか、
私は今でも、いやいつまでも忘れませんよ。そして、そういういい加減な審査員を横行させたISO認証制度のいいかげんさ、だらしなさを許さない。
いや、そういう怪しげな審査員の存在を許したからISO認証制度の信頼性が落ちたのだろう。
ところで過去に私とチャンチャンバラバラした多くの審査員がもしこのウェブサイトを見たら反省するとか後悔するものだろうか? それとも過去の考えに拘り火に油を注ぐ結果になるのか、どうなのだろう? もう一度議論ができるならぜひともしたいものだと思う。お互いに老後はヒマだろうから日永一日、いやいつまででも怒鳴り合いたいものだ。
私にとってはそういうフラストレーションと正義感でこのウェブサイトを運営している。彼らの息の根を止めるまでがんばります。

うそ800 本日の蛇足
思うことは多々あり書きたいことはあるが、初めに決めた一話の文字数上限の1万字を大幅に超えたので残りを次回に回す。


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