審査員物語31 有名人の実力

15.06.10

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基に書いております。

審査員物語とは

柴田元取締役ともめたものの結局三木は、首にもならずまた自ら退職もしなかった。柴田元取締役は社内でことあるごとに三木を批判したが、既に若手からは過去の人扱いされている柴田につく人は少なかった。他方、三木は積極的に敵対というか柴田に反旗を上げなかった。結局いつのまにか何事もなかったように二人のトラブルは忘れられた。それが長年のナガスネの体質のようである。もっとも三木と柴田は、それ以降必要以外は口をきかず挨拶もしない。
そして住吉は今も「経営に寄与する審査をします」とか「環境側面を決定するには点数法が好ましい」なんて話を営業でお邪魔した会社で語っていた。住吉はいったいどんな心境なのか、何も考えない人なのか、マンネリなのか、それもナガスネの体質なのであろう。


怒り
私の勤めていた会社とか関連会社での審査で、法規制や規格解釈に間違いがあると、まっとうに判断してもらわないと困るよと認証機関にお願いしたことは何度もある。言われたときはこちらの要求に従ったものの、審査員が変わるとまたおかしな解釈に戻ることが多かった。何度も同じ問題を起こし、そのたびに私は抗議というか指導のために電話をしたりお邪魔したりした。そして噂ではあったが私と縁のない会社では従来通りの誤った考えで審査をしていたようだ。マンネリとは恐ろしい。いや過ちを改めない認証機関が存続できるということが不思議でならない。
いや、そういうのが不思議でないのが認証制度の不思議である。

柴田とのチャンチャンバラバラの結果、三木は規格に詳しいとか、三木派を構えたとみなされるようになった。三木はそんなことを聞くと自分はそんな大物じゃないと否定する。ただ他の審査員が規格解釈や審査で悩み事があると三木に相談することが増えてきた。 久しぶりに三木が会社にいる、何年も前に三木と同期で出向した朝倉がやってきた。
朝倉審査員
「三木さん、ちょっとお話できますか?」
三木
「いいですとも、コーヒーでも飲みながらしましょう、少し息抜きしようと思っていました」
朝倉と三木は空いている応接室に入った。
コーヒー
朝倉審査員
「さっそく本題ですがね、審査で問題がありまして三木さんのご意見を聞きたいのです」
三木
「なにをおっしゃる。朝倉さんだってもう大ベテランじゃないですか」
朝倉審査員
「まあまあ、そう言わずに話を聞いてくださいよ。
先週審査に行った会社でのことです。その会社では大量のPCBを保管しているのです。ところがそれを環境側面にはとりあげていないのです。
もちろんそれは問題ですから不適合に取り上げたのです。すると認証するときから今まで審査員が了解しているのだから、今更問題にしてくれるなと言うなというのです。その会社は当社で認証してから7年経っているのですが、いままで審査したのは同じ審査員でした。そして小規模の会社なので毎回審査員はひとりなのです。だから関わったのは一人だけということです」
三木
「その審査員はどなたでしょうか?」
朝倉審査員
「樹村さんという方です」
三木
「木村? 私たちと同期の?」
朝倉審査員
「その木村ではなく、樹木の樹村さんです。ご存じないですかね、ISO雑誌などによく寄稿している方ですよ。昨年ウチを退職しましたが、今はよその認証機関で契約審査員をしているそうです。だから今年は私が審査に行ったわけです」
三木は思い出した。「きむら」という読みでも漢字が違う審査員がもう一人いた。『樹村みのり』という女性漫画家がいたが、あれと同じ漢字だった。
三木
「ああ、樹村さんでしたか。思い出しました。私はあの方とは一緒に仕事をしたことがありませんが、顔とお名前は存じております。この世界では有名だそうですね」
朝倉審査員
「まあ有名な方が立派とか正しいとは限らないようですがね」
三木
「はあ?」
PCBトランス
朝倉審査員
「その会社の話では認証しようとしたときコンサルを頼んだのですが、そのコンサルが樹村さんでした。当時は自分がコンサルした会社を審査するというのが通用したんですねえ〜
ともかくその会社にはPCBが大量にあるけれど対応方法がなく、また保管場所もいろいろと問題があって、どうしようかと樹村さんに相談したら、いっそのこと環境側面にとりあげないことにしろという指導されたそうです。まあひどい話ですね。
それで環境側面にはPCBをとりあげずに、審査でOKになり認証を受けて早7年というわけですよ」
三木
「別にPCBがあっても適正に管理していればいいじゃないですか」
朝倉審査員
「実を言って管理がとんでもないんです。置き場所も管理もなにもかもいいかげんで、実際に一部の機器が紛失というか行方不明になっているようです。行政からも管理を徹底するように何度も指示されているそうです」
三木
「それじゃ問題ですね。厳密に言えば法違反でしょう」
朝倉審査員
「そうなのです、それで心配になりました。このご時世ですからPCBを紛失した会社がISO14001認証していたとなると新聞記事になりますよ。当然、どの認証機関が知れ渡るでしょうし、そうなると私の責任問題だ」
三木
「いやいや新聞記事になるよりも環境汚染を心配しなくちゃ。それで朝倉さんはどのように?」
朝倉審査員
「とにかくPCBの管理をしっかりしなければなりません。常識で考えれば不適合なのですが、先方は過去のいきさつから不適合にしないでくれというのです。それで私は観察にしようかと思いました。しかし観察ということは改善提案であって実施義務はありません。更に問題は審査報告書に『PCBの管理改善をすべき』と書いたら後々証拠が残ります。それもまずいと思いまして」
三木
「確かに・・・・・それはまずい」
朝倉審査員
「それでクロージングの前に先方の管理責任者と関係者に、このままでは認証継続できない。次回審査までにPCBの管理状態の改善と行政の指導への対応をちゃんとすること、そして環境側面にPCBを取り上げることをしなければ次回審査では不適合にするということを話して聞かせました」
三木
「先方は納得したのでしょうか?」
朝倉審査員
「いや実を言ってものすごい議論になりましたが、なんとか了解はしてもらいました。
元はと言えば樹村さんが自分が指導した会社を手っ取り早く認証させるためにいいかげんなことをしたためで・・」
三木
「朝倉さんのお話を聞いただけでは、心配なことがいくつもありますね。今後本当にその会社が対応するかどうかわかりませんね。それに次回審査までのこれから1年間に問題が起きたり、行政が動いたりすると問題です。
この話は別途、審査部長に話をしておく必要がありますね。なんなら私もその話に参加しますよ。早急に手を打たないと、次回審査まで待つなんてできません」
朝倉審査員
「わかりました。ちょっとまとめまして改めてご相談に伺います」
三木
「しかし朝倉さん」
朝倉審査員
「はい?」
三木
「そういったケースはけっこうあるのでしょうねえ。つまり樹村さんがコンサルして審査した別の会社でも・・」
朝倉審査員
「そうでしょうねえ。それと思ったのですが・・」
三木
「なんでしょうか?」
朝倉審査員
「有名だとかISOの本を書いているとかいっても、大したことないんだなあと思いましたね。
私は審査員になれと言われたときから、いろいろとISO関連本とか雑誌を読みました。その樹村さんが書いた本や座談会での発言も読みましてすごい人だと思っていましたが、実際の仕事をみると・・まあ大したことはありませんね」
三木
「アハハハハ、尊敬するどころか後始末が大変ですね」
朝倉審査員
「この後始末には三木さんもご協力してくれるのでしょう?」
三木
「もちろんです。とはいえ第一義には朝倉さんと審査部長が対応しなくちゃなりませんよ」


今日、三木は三鷹にある従業員200人ほどの工場に来ていた。今回が初回審査である。
審査は二日間だ。三木の自宅から現場までドアツウドアで2時間半かかる。最近費用削減のために自宅から通える場合は宿泊するなという通知が出ている。それに片道2時間半の通勤をしている人もいるとは思ったが、湘南新宿と中央線を乗り継ぐことを思うと三鷹駅前のビジネスホテルに一泊することにした。朝晩2時間半電車に乗っては良い仕事ができないだろう。

初日の朝、三鷹駅前で同僚の菊地審査員と待ち合わせ、タクシーで工場に着くと審査開始30分前だった。ちょうどいい時間だろう。
すぐに担当者が控室に案内してくれた。まもなくお茶が出て、管理責任者と担当者と雑談をする。
管理責任者
「三木審査員さんは、辻池先生をご存知ですか?」
三木
「辻池先生?」
担当者
「あの、ISO雑誌に毎月いろいろためになるお話を書かれている方です。お読みになったことはありませんか?」
三木
「あああ、あの辻池さんのことですか? 私は面識はありません。有名な方ですね」
管理責任者
「そう、その方です。ウチではコンサルの先生の指導を受けたのですが、完璧を期すために辻池先生の模擬監査を受けた方が良いとコンサルの先生がおっしゃったものですから、その辻池先生に模擬審査をお願いしたのです」
三木
「模擬監査?」
管理責任者
「ご存じありませんか? ISO審査と全く同じく行うのです。コンサルの先生はご自身が模擬審査をしても馴れ合いになってしまうから別の方にお願いした方が良いということで」
三木
「そういうことに疎いのですが、模擬審査とは費用が掛かるのですか?」
管理責任者
「それが無償なのです。もちろん旅費とかホテル代それに食事などはこちらで負担しました。先生の他に2人ばかり審査員資格を持った方と、その他に2名が審査経験を積むためということで参加していました」
三木
「ほう、どういうものなのでしょうか?」
管理責任者
「お前、そのあたりについて聞いていたな。説明してくれ。俺はどうもその仕組みが分らなかったよ」
担当者
「ええとですね、ご存じとは思いますが、ISO審査員の資格を取るのはけっこう大変なのです。もちろん職業として審査員をされている方は日常仕事をしていれば審査経験を積めるでしょう。しかし一般企業にいる人やコンサルをしている人たちは、審査員補になっても審査員や主任審査員になることができません。経験としては内部監査経験でもいいわけですが、複数の組織の内部監査経験がなければなりませんから。
ということでその辻池先生は模擬審査を行うことによってISO審査を受ける企業のダメ出しをしてくれるのと同時に、審査員になりたい審査員補の人に経験を積ませる機会を提供されているのです」
模擬審査
三木
「なるほど、審査員補から審査員になりたい方はうれしいことでしょうね。ところでそれはビジネスつまりお金を取るのでしょうか?」
管理責任者
「いや、先ほど申しましたようにまったくのボランティア活動でして、旅費などの経費以外は無料なのです。審査員補の方から参加料をとるのかどうかはわかりませんが」
三木
「ほう、企業の負担がゼロとは、それはなかなかけっこうなことですね。それで模擬審査を受けた企業は実際の審査では不具合はないのでしょうか?」
管理責任者
「私も今回のISO認証の命を受けて頑張ってきまして、味噌を付けたくありません。近隣の工場で辻池先生の模擬審査を受けたら不適合ゼロだったという話を聞きましてぜひとお願いしました。
なにせお忙しい先生なので1年も前にお願いしておりました」
三木
「それはそれは、では今回の審査で不適合がでないと期待しております」
管理責任者
「それはもう太鼓判ですよ、アハハハハ」








































辻池先生お墨付きという前評判であったが、実際に審査をしてみると完璧どころかいろいろと問題が見つかった。いや、決して三木と菊地があら捜ししたわけではない。普通に見ていておかしいところがいくつもあったのだ。
まず現場審査では危険物庫の表示欠落、工場から排水処理施設までの排水路の破損からの土壌浸透などがあった。
書面審査では、文書や各種記録や行政の届において不具合はなかった。しかし重大なものとして順守評価をしていないというとんでもない問題が見つかった。

2001年に国際規格審査登録センターが認定停止を受けた。それは審査員の「記録があるか?」という質問に対して受査側が「ある」と応えたことでOKとした。常識的に「見せてください」となるべきなのに、エビデンスを見なかったというものである。
現実の審査をみると、それと同様の応酬は他の認証機関でも掃いて捨てるほどあった。


クロージング前の打ち合わせである。
三木
「以上申し上げたようにいくつか規格を満たしていないものがありました。これらを不適合として提示したいのですが、ご了承いただけますか?」
管理責任者
「ええと、辻池先生による模擬審査で問題がなかったのですから納得いきません。お間違えということはありませんか?」
三木
「まず危険物庫の表示がないことは明白ですから、これについてはご了解いただけますか?」
管理責任者
「しかし辻池先生の模擬審査のときには問題とされなかったのだが・・・」
三木
「あのですね、今目の前に現実があるわけです。もしこの現状が妥当とお考えなら私とか辻池先生ではなく、消防署にお問い合わせいただきたいと思いますが」
担当者
「部長、消防署に問い合わせてダメと言われると大問題になりますから、ここは三木審査員さんのご指摘を了解すべきだと思いますが」
管理責任者
「しかしだよ、辻池先生の模擬審査は実際の審査で問題がないようにするためのものだろう、それに見逃しがあったってことは・・」
担当者
「とりあえず部長、あのですね、表示については不備があったということでよろしいじゃないですか」
管理責任者
「ちっともよろしくないよ。じゃあ、あの審査は何のためだったんだ!?」
担当者
「まあ見逃しもあったのではないでしょうか。ともかく看板がないのは事実ですから・・」
管理責任者
「分りました。じゃあ次どうぞ」
三木
「工場から排水処理施設までの水路において破損があり、土壌浸透があったということについてもご了承いただけますか?」
管理責任者
「これは現実が現実ですからしょうがないでしょうねえ〜
おい、辻池先生のときにはあそこを見ているのか?」
担当者
「ハイ、ええと辻池先生ご本人ともう一人の方が、排水路を工場出口から排水処理施設までずっと追いかけて確認していました」
管理責任者
「模擬審査以降に破損したということはないのか?」
担当者
「コンクリートの破損部分が変色していますから、昨日今日破損したわけじゃありませんね」
管理責任者
「かの有名な辻池先生もあてにならないもんだなあ〜。
うーん、しょうがない。三木審査員さん、それについては了解します」
三木
「ええと、書面においてですが御社では順守評価というものをしていません。これは重大な不適合になります」
管理責任者
「えええええ、今までの問題は現場とか現実のことですからしょうがないと思います。しかし順守評価とは会社の仕組みの問題ですよね。それがコンサルの先生の指導や辻池先生の模擬審査で見逃しというのは納得できないなあ〜。
おい、お前、この順守評価というのはどういうことをすればいいんだ?」
担当者
「コンサルの先生の言うとおりしていたのですが・・・今回問題だと言われてみると、確かに抜けていますね」
管理責任者
「オイオイ、今頃そんなことを言われても困るぞ。だいたいコンサルの先生や辻池先生が見逃していたなんてことがあるのか!」
三木
「これは法規制を守っているかどうか定期的に点検しその記録を残すことなのです。御社においては法規制を守らせるという仕組みがあるのは分りましたが、それを点検する仕組みがないようです」
管理責任者
「おい、お前、三木審査員さんの言うことに納得できるのか?」
担当者
「うーん、そう言われると確かにそうなのですよ」
管理責任者
「いったいぜんたい、模擬審査というのは何の足しにもならなかったのか?
一段落したら辻池先生に問い合わせしてくれよ。あのときだって我々は相当準備したし接待までしたのだから。模擬審査は無料だといっても、そうとう費用はかかっているんだぞ」
担当者
「まったくです。模擬審査で見逃しがこれほどあるなんて」
三木
「すみません、時間が押していますのでとりあえず今回の審査での不適合として我々が提示した者にご了解いただけるでしょうか?」
管理責任者
「あ・・・わかりました。これほど不適合が出されるとは思いもしませんでした。ええと、そうしますと、これからどうすればよいのかお教え願いますか」


翌日、三木と菊地は久しぶりに会社に顔を出した。反省の意味もあって三木は菊地に声をかけた。
二人はコーヒーカップを持ってオフィスの隅の丸いテーブルに座る。
三木
「菊地さん昨日はお疲れ様でした。いろいろと問題がありましたが、模擬審査を受けていたというのは私は初めてでした。ところで菊地さんは模擬審査なんてのをご存知でしたか?」
菊地審査員
「いや、まったく知りませんでしたね」
三木
「企業が審査で不具合を出したくないという気持ちはわかります。しかしわざわざ模擬審査を依頼して、結果として不適合を検出できないならどうなんでしょうかねえ〜」
菊地審査員
「まあ排水路の破損とか表示板の欠落のようなものは我々も見落とすことがありますけどね」
三木
「まあ、確かにそれくらいはあるね。
しかし文書どころか仕組みに欠落があるようなことを見逃してはいけないよね」
菊地審査員
「三木さんのおっしゃる通りです。あんな規格要求そのものの欠落を見逃していたというのはどういうことでしょうか?」
三木
「実を言って、私もマニュアル審査のときに、順守評価がどうだったのかというのを確認したんですがね・・ええっと、これだこれだ
なになに・・・当社は、適用可能な法的要求事項の順守を定期的に評価する手順を確立し、実施し、維持するとある。まあ、規格の文言そのまんまだね」
菊地審査員
「その手順をどの文書に定めているかは書いてなかったのですか?」
三木
「マニュアルにはないね。とするとマニュアルに書いたものの手順書に展開するのを忘れたのか、それともこれだけ書いておけばオッケーと考えていたのか」
菊地審査員
「コンサルを依頼していたと言ってましたけど、コンサルはどんな指導をしていたのでしょうか?」
三木
「単純に忘れたのか、それとも順守評価というものを理解していなかったのか、あるいはマニュアルにあの程度のことを書いておけば間に合うと思ったのか」
菊地審査員
「だけどコンサルに大金を払って指導を受けて、更に模擬審査を受けて、もちろん社内には専任のISO事務局までいて、明白な欠落を見逃すなんてちょっとおかしいですねえ〜
まず金を出した方としては憤懣やるかたないところでしょう」
三木
「まったくだ。ともかくコンサルに頼んでいれば大丈夫だとか、模擬審査を受けていれば大丈夫だということはありえないということは間違いない事実のようだ」
菊地審査員
「でもあの会社の話だと、模擬審査とは審査員補の人が審査経験を積むためのもののようにも思えるし、まして無料というからそれが目的なのかもしれませんね。
そうなると模擬審査というのは信頼性がまったくないような気がしますね。実際に順守評価をしていないのを見つけていないわけだし、その他の点でもレベルがどうも・・」
三木
「我々の審査で見逃しとか間違いがあれば苦情もあるし認定機関からお叱りもあるし、実際に処分もある。またコンサルであれば間違ったことを指導したりすれば損害賠償もあり得るし、良くても嫌味を言われたり取引オシマイってこともあるわけだ。だけど模擬審査では間違いがあっても無償だからなにもなしってのもオカシイナア。もっともあの会社は無償だといったけど、インターネットでググると有償の模擬審査もあるようですね」
菊地審査員
「うーん、ともかく審査の信頼性がないなら、無償でも有償でもわざわざ模擬審査を受ける意味はなさそうですね」
三木
「いや菊地さん、我々だって同じですよ。ISO審査の信頼性がないならば、審査を受けて認証される価値がないことになります。昨今はISO認証の信頼性がないなんて語っている人も多いですからね」
菊地審査員
「おっしゃる通りですね。しかしそれであればなおのこと模擬審査なんて意味がないように思います」
三木
「思うのですが、結局すべてはお金でしょう。審査という制度は国家とは関係ない。認証しても何も保証しないし、万が一事故があっても何も責任を取らない。だけでお墨付きに価値があると思われているから審査を受け認証が欲しいという会社がある。
模擬審査もそれに便乗したビジネスでしょう」
菊地審査員
「しかし審査員補から補をとりたいって人が辻池氏の模擬審査に参加させてもらうとは・・補がとれることにどんな価値があるのでしょうか。そもそも審査員資格とはブランドとか誇りというものではなく、単に審査員の仕事するための要件にすぎません。おっと実際にはCEARとかJRCAに登録していなくても審査員はできるわけですし」
三木
「まったくですね。一般の会社員が、たとえISO事務局をしていようとも審査員とか主任審査員に登録してもまったく意味がないのにね」
菊地審査員
「力量なんて言葉がISOは好きなようですが、ISO審査員とか主任審査員として登録していても審査員としての力量とは違いますね。以前、柴田元取締役と三木さんの論戦を聞きましたが、柴田さんも有名な方ですが、規格解釈がまっとうかとなると・・・」
三木
「彼とはだいぶ議論しましたが、彼は彼なりにまったくの無から認証機関を立ち上げたという自負があるのでしょう。ただ1990年代はああいう考えでも通用したけれど、現在は通用しないことは間違いないと思います。
今回の辻池氏の件も、有名人必ずしも実力はないということでしょう」
菊地審査員
「それにしても一般の会社員がなぜにそれほど審査員登録にこだわるのか、わかりませんねえ〜」

某認証機関の取締役に聞いた話だが、その認証機関では審査員を採用するとき、内部監査や関連会社の監査経験で審査員や主任審査員に登録した人は力量があるとは認めないとのこと。まあいいかげんな内部監査をいくらしようと力量があることにはならないだろう。
もっとも認証機関の審査員や主任審査員に力量があるかどうかも疑問ではある。

うそ800 本日の出典
これは実話か創作かというご質問があるかと思います。私の体験した複数の実例を組み合わせました。新しいことを創作するより、見聞したことを基に書く方が楽ですから。

うそ800 本日の勉強
ことわざで鼎の軽重を問うというのがありますが、まさにこれかと・・・
あるいは裸の王様かもしれません。


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2015.06.10)
ここに出てくるような半可通はともかくとして、他人の会社を「見る」というのは決して簡単ではないと思います。それこそ経験にによって培われた嗅覚が必要でしょう。
どんな仕事でも1人前には10年掛かるといいますが、速成栽培の審査(以下

名古屋鶏様、毎度ありがとうございます。
御意!
営業職でも運送業でもタクシー運転でも、その職に就いて1年2年でその仕事について見知らぬ方に講釈を語るほどになるとは思えませんね。
ISO審査員というのはそれらより簡単なのか、いや審査員になる前に既に企業を知り尽くしていたのか、それとも単なるパフォーマンスなのか?
そういえばISOはパフォーマンスの向上を求めているから、その伝道師たる審査員のパフォーマンスはすばらしいの鴨


マサ様からお便りを頂きました(2015.06.11)
今回のお話のように、コンサルや過去の審査員の“やらかし”は、なかなか指摘出来ないのが現実のような気がします。
PDCAに関する要求事項は審査側には適用されない、なんてこたぁないはずなんですから、「必ずしも最善な指導やコメントではなかった」と遠回しでもいいですから撤回し、地に足が付いた指摘を期待したいですね。
(そうでもしないと、どちらも救われないというかなんというか)

マサ様 毎度ありがとうございます。
うーん、別の審査員が一度出してしまったらその考えは継承するというのもおかしなことですよね?
この場合(実話ですが)は不適合をOKとしてしまったケースですが、それは幸運だとかではなく、事故や違反の原因になるわけですからしっかりしてくれよと・・
そして反対のケース、つまり適合だったのに不適合ということになると、企業にとっては踏んだり蹴ったりです。
私も過去に危険物保管庫が法基準を守らないとかそんな間違い、いちゃもんをつけられたことがに三度ありましたが、消防署はそんなお門違いの指摘を受けての改造を認めません。当たり前ですが
しかし審査員閣下は己が天皇ですから改造しないと認証しないぞというだけ。結果として企業が板ばさみ、
やらかしをされた審査員閣下のご芳名を公の場に晒すとか、あるいは法的手段をとるということしかないのかもしれませんね。世も末です。

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