7.1資源

15.03.30

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/3/30に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

資源については2004年版について2年前に書いたことがある。今それを読み直しても私の考えは変わっておらず、書いたことその通りだと思う。
2015年版について理解したい方も、一応こちらをお読みいただきたい。
矢印

リソースからの妄想



とはいえそれでいいのだと言ってしまえば終わってしまうので、ここに改めて若干書き足す。
さてDISの該当項目の文言は次のとおりである。

7.1 資源 組織は、環境マネジメントシステムの確立、実施、維持及び継続的改善に必要な資源を決定し、提供しなければならない。
(ISO14001:2015DISより)

まず上記ドラフトの文章を読んで、その通りだとお考えの方はどれくらいいらっしゃるだろう?
審査員は乏しいリソースで頑張っている人たち、職場を見て、「ああ、これは7.1に不適合です」とCARを書けば良いのだろうか?
あるいは内部監査ならこの項番で内部告発するのだろうか?
いや、冗談ではない。真面目な話、そんなことが世の中で通用するはずがない。それが通用するならば世の中簡単だ。もしそうでなければ、痛みも苦しみも忍び耐えなければならないなんて讃美歌298番のようなことはないではないか。

君は、パナソニックがVHSビデオを開発したときの物語を知っているか?
工場が閉鎖になるかもしれないという状況下において、起死回生を狙って新製品を世に出そうと頑張った人たちの物語である。
当時SONYが会社として大きなリソースを投入し大々的に推進していた。パナソニックは大きな会社だがVHSを開発しているのは小部隊で本社に隠れて推進していたプロジェクトであった。しかし努力が実って最終的には日本のそして世界のビデオのスタンダードとなる。

「コンビニを作った素人たち」といいうお話を知っているか?
イトーヨーカドーの人たちがコンビニエンスストアというビジネスモデルをアメリカから持ってくる。しかし日本にはどうもあわない。いや、日本にあわないのではなく、元々ビジネスモデルが不完全なのではないか。流通、供給単位、POSなどなど、苦労に苦労を重ねる。そしてコンビニビジネスのノウハウを確立し、やがて本家アメリカのセブンイレブンを指導するようになり、ついには買収してしまう。

私だって小さなチャレンジを重ねてきた。
1991年にISO9002を認証しろと言われたとき、日本語訳もなく、英語も読めず、まわりに品質保証の専門家もおらず、右往左往して、徹夜を続けなんとか認証した。
あのときわからないとかリソースがないとか弱音は吐かなかったつもりだ。チャレンジとは不確定要素を含むのが当たり前で、リソースが与えられ、絶対確実に成功するならそもそもチャレンジではない。そんな仕事はつまらないじゃないか!

新しいものにチャレンジし世の中を革新していく革命家、発明家、起業家たちは潤沢なリソースをもって確実な勝利を保証されているのではない。アイデアはあってもリソースは乏しく、しかし追い詰められた状況を打破しようと、もがき苦しみ、そして勝利をつかんだのだ。新しいものは斬新な発想とそれを実現しようとする執念によってなされるのだ。
そして忘れてはならないが、追い詰められた状況を打破しようともがき苦しんだ末に、そのまま敗れ去った人たちの方が成功した人よりもはるかに多いのである。
もしリソースが十分確保されなければダメというなら、マイクロソフトもアップルもなかったはずだ。いや、この世の企業の大半は存在しなかっただろう。

グダグダ書いてもしょうがない、単に私の駄文を読むだけでも面白くないでしょう。
では、本日のケーススタディ
以下の応答をご一読いただいて、リソースについて討論してください(冗談です)

役者会話本音
ISO事務局

ISO事務局
事務局は今私ひとりしかいません。ISOのための負荷が大変ですから、社長に人を増やすことを観察事項として提起くれませんか。
俺が楽になるように、こいつからウチの社長に話してもらおう。
楽になるために人を増やしてもらおう。
審査員

審査員
それは大変ですね。経営者インタビューの際にお話ししておきましょう。それに報告書にも書いておいた方がいいかな。
どこに行ってもISO事務局担当者の語ることは同じようだな。
まあこんなことに金がかかるわけではないからリップサービスしておくか。
ISO事務局

ISO事務局

よろしくお願いします。
やったぜ 


社長審査員
社長審査員
審査員
「御社は業務遂行のためのリソースが絶対的に不足しているのではないですか?」
社長
「絶対的と言われるとどうかと思いますが、残業があるということはリソースが不足しているということになるのですかね?
とはいえ、あなたのご意見が経営にどんな意味というか価値があるのかよく分りませんが、」
審査員
「はあ!論点はですよ、リソースも確保せずに仕事をしろとかプロジェクトを成し遂げろというのはISO規格に不適合だということです」
社長
「なるほど、あなたのお考えではウチは事業をたたむしかありませんね。実際問題として我々は持っているリソースでビジネスをしていくしかない。それじゃだめだというならどうしようもないってことです」
審査員
「そういうことになりますかな?」
社長
「そういうことになりますね。もっとも私はビジネスをたたむつもりもなく、ウチの社員に弱虫はいませんわ。
そんなことなら、ウチはISOなんて止めるよ」
審査員 「はあ
社長
「ISO規格適合でビジネスに敗れ去るよりも、ISO規格不適合で生き残っていくしかありませんからね。
それともISO規格適合ならコンペティターに勝利できるとおっしゃいますか?」

インタビューが終わってからも雑談をしています。

役者会話本音
審査員

審査員
どうも御社のISO活動を拝見すると、ISO事務局が負荷オーバーになっているようです。リソースの投入が必要ではありませんか
まあ、これくらい言っておけば事務局は満足してくれるだろう。社長が右から左に聞き流してくれても俺はかまわないし
社長

社長
いや、これは気が付きませんでした。確かに業務繁忙ですね。考えなければなりませんね。
○○課長がご家族の看病で大変と聞くから、あいつをISOに回そう。そうすりゃ事務局もパワーアップ、○○課長も楽になり、今の担当者はリストラで楽になるだろう。三方良しだ
ISO事務局

ISO事務局
そうしていただければ一層ISO活動が進むと思います。社長ぜひともお願いします。
ヤッタね


管理者審査員
管理者審査員
審査員
「なるほど、環境目的として輸送エネルギーを徹底して削減することを取り上げているのですか。すばらしいですね。
ところで、その環境目的を達成するための資源としてどのようなものが必要で、それは十分に確保されているのでしょうか?」
管理者
「なにしろ新しいことへの挑戦ですから、環境目的達成のための施策がすべて解決されて決定しているわけではありません。
これから輸送機械(トラックなど)への積み下ろしの検討、最適流通ルートを考えるアルゴリズムの開発、情報システムの開発、従事者に必要な力量など不確定な要素が多々ありまして、鋭意開発中です」
審査員
「規格では『6.2.2計画するとき、決定しなければならない』とありますね、今現在、必要なリソースを決定できないわけですから、御社の仕組みと運用は不適合になります」
管理者
「あなたがそうおっしゃるなら、そうなのでしょう。ただ世の中の仕事ってのは、完全に方法が確定して、そのとおり実施すれば実現するなんてものは過去から存在しているものだけでしょうね。建築物だって飛行機だって情報システムだって、新しいものを作るには常にチャレンジが必要で、そのチャレンジに解があるかどうかさえも分からないわけですよ。
F35 アメリカのF35戦闘機開発なんて、作るものが革新的であるからこそ、次から次に問題が発生し、それを対策していく過程そのもののですからね」
審査員
「ともかく御社の環境目的とその計画は、リソースが決定されておらず、当然それが確保されていると言えないから不適合です」
管理者
「あなたがおっしゃることがよく分らないのですが・・・・あなたが適合と考えるものは、技術が確立した陳腐なものということになる。となるとISOマネジメントシステム規格とは革新とか発明をするなということなのだろうか?」


担当者審査員
担当者審査員
審査員
「あなたは時間外をどのくらいしているのですか?」
担当者
「季節によって繁閑がありますが・・・・やはり年度末とか年末は忙しいですね。まあならせば月40時間くらいでしょう。妥当なところだと思いますよ。時には深夜や徹夜がないわけじゃないですがね。
オット、ウチはブラック企業じゃありませんよ」
審査員
「ISO規格ではマネジメントシステムの実施に必要な資源を決定し提供しなければならないことになっています。残業40時間とか、ときには徹夜をしなければならないとなると、リソースは不十分と考えられますが?」
担当者
「残業がないのが正常というわけでもないでしょう。なにごとにもバッファが必要です。それに残業を含めてリソースを確保しているって考えることもできますよね。
ところで審査員の方は移動するのは勤務時間外だと思いますが、それはリソースが確保されていないってことなんでしょうか? 御社の見解は?」
審査員
「認証機関はISO認証を受ける必要はありませんよ」
担当者
「そりゃ確かに認証機関はISO認証を受けてないでしょう。でも、ISO17021に基づいて認定を受けてますよね。ISO17021にも『資源に対する要求事項』ってのがありましたね」
審査員
「ISO17021で要求している資源とは、審査員の知識やシステムについてであって、工数は含まれていませんよ」
担当者
「あれ〜そうですか、7.2.2に『認証機関は,認証活動のすべてを網羅し,実施する審査の業務量を処理するために,審査チームリーダー及び技術専門家を含む,十分な人数の審査員を雇用するか又はいつでも利用できなければならない』ってありましたよね」
審査員
「そうだったかな? ま、それはそれとして、仮にだ、当認証機関のリソースが不足しているとしても、御社のリソースが不足していて良いというわけではない」
担当者
「ま、そりゃそうですが、なんかダブルスタンダードって感じですね。李下に冠を正さずっても言いますし、誤解を招くような言い方はしないほうが良いですよ。ともかく、ウチがリソース不足ってこともないでしょう」
審査員
「誤解しては困りますが審査員の場合、審査工数はIAF基準などで決まっていますから、工数は厳密に確保されていますよ」
担当者
「それはあれでしょう、要するにISO審査というものは標準化されていて、かつ進歩がない単純作業だからできるのと違いますか」


作業者審査員
作業者審査員
審査員
「あなたの仕事のリソースは足りているのですか?」
作業者
「リソースって? ソースとかお塩味塩じゃないですよね?」
審査員
「ううーん、ISO規格を知らないなんてそれもまた問題だな、いやこれはひとり言だ。
ええとあなたの仕事をするためにの人手や機械設備などは足りていますか?」
作業者
「私は一人分の仕事しか与えられませんから、人手が足りないなんてことはないですよね。機械や工具は自分が使う分は用意されていますから足りないこともない。
そもそも人が足りなくて仕事しろとか、工具も渡さずに仕事しろっておかしくないですか? 私がそんなこと言われたら監督署に飛び込みますよ」
審査員
「まあまあ、落ち着いて・・・
じゃあ一日に一人が作る量は決まっているんだ?」
作業者
「当たり前でしょう。仕事が増えれば人を増やしてもらうか、足りない分は時間外をすることになります。
もちろん定時分の仕事がないときに帰れとは言われませんけど、そんなときは掃除をしたり勉強会をしたりですね」
審査員
「しかし時間外をなくすには人を採用すれば良いわけだが・・」

作業者
「あんたバカなの! ちょっと考えたらわかるでしょ、1割仕事が増えても人が1割多くなったら賃金が増えないし、仕事が減ったらそのぶん解雇するなんて言われたら最悪!」


役者会話本音
社長

社長
このたびは事務局の強化について改善提案を頂きましてありがとうございました。次回審査で来られるときは期待してください。
この審査に90万円も払うのか、いい加減にISO認証なんて止めたいものだ。
でもまあ今のISO事務局をクビにすれば人件主費・副費で年700万くらいは削減できるか。
審査員

審査員
提案を受けていただきありがとうございます。きっと御社の改善につながると思います。
おお、俺なんかいい事したみたい。会社も喜んでくれて俺って有能かも、
ISO事務局

ISO事務局
社長、それは業務改善につながると思います。文書改定の遅れは一掃されますよ。
部下ができて俺は事務局担当者から事務局長に昇進だあ
来月の辞令が楽しみだ。


おっと、精神論で頑張ればなにごとも可能になるとか、できないのは根性が足りないからだということではまったくない。
参考にリソースに関するエピソードをいくつか追加する。


うそ800 本日の課題
各グループは上記に基づいて次のことを討論してください。
リソースとは何か、リソースの確保をどう考えるべき、あなたの職場での改善策など

うそ800 本日のまとめ
結局この項番を読んで思うのは、ISO規格というものは会社の階層からいえば、定型的で与えられた業務を執行する最下層を管理するものでないのか?
間違っても経営とか指揮官レベル、あるいは新しい開発やチャレンジにおいて適用できるわけがない キリッ



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