7.4.3 外部コミュニケーション

15.04.06

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/4/6に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

注:ここでは外部コミュニケーションについて語る。内部コミュニケーションについては別項目を参照のこと(実はまだ書いてない)

水戸黄門 1996年版のISO14001規格にコミュニケーションなる言葉が現れたとき、いろいろな人がいろいろなことを語った。いい加減な思い付きを語ったというのが正しいのかもしれない。私が口が悪いのはみなさんご存じと思うが、とにかくISO黎明期は、いや今でも、ISO関係者はいい加減なことばかり語っている。2015年規格改定についても、巷にはいいかげんなほら話、うそ800があふれているじゃないですか。
私はそういう無責任、不勉強な連中を懲らしめる水戸黄門なのである。このウェブサイトはうそ800と名乗っていますが、うそを騙っているつもりはなく、仮に間違いがあればそれは私の力量不足によるものでございます。

おっと、話を外部コミュニケーションに戻す。
コミュニケーションに関わるいい加減な話というのは、例えば、
イヤハヤまいりました。今考えると、いや考えなくても、彼らはコミュニケーションとは何かを知らなかったのではないだろうか? もちろん当時は私もISO規格を読んでそれが語るコミュニケーションを理解していなかったことは間違いない。
しかしながらコミュニケーションと呼んでいたわけではないが、私は以前から内部コミュニケーションも外部コミュニケーションもしてきたように思えてきた。
私や同僚がしていたこととは、市や県の環境課に公害防止管理者の選任届や緑地の変更申請(内容や所在地が中核市か一般の市かによって報告先が違う)、消防署に危険物保安監督者の変更届をしたり危険物貯蔵所の改造についての相談、所在する町内会には構内で工事するときは説明したり、うるさいとか苦情があれば近隣住民に菓子折りを持って謝りに行く、などなど
お祭り いや、コミュニケーションとはこちらからのものだけではない、県の環境課から県条例が改正になるのでその説明会に出てこいとか昨年度発生した公害や水質事故についてのありがたい講演会をするから聞きに来い、消防署からは危険物取扱者の定期講習会があるから該当者は参加しろ、町内会からは地方祭があるので工場の中で休憩させろ、ついでに飲み物(お神酒)の用意もしておけとか、近くの小学校からは工場見学をしたいという要請などなど、そういったことをしておりました。
私たちはそれを外部コミュニケーションとは呼んでいませんでしたが、それが外部コミュニケーションではないのでしょうか?
いやいやそういうのどかなものだけではありません。朝来たら工場の窓ガラスが割れている。外から誰かが石を投げ込んだようだ、そういえば昨日は残業がうるさいと匿名の電話がありましたよとガードマンから言われたこともある。
お断りしておくが、騒音苦情は現実に大きな音がしたときに問題になるわけではない。工場が動いていない夜間でもトランスやコンプレッサーは音がしていて、そういう騒音に苦情がある。特に暑くなって夜縁側を開けて酒を飲んだりするようになると苦情が多くなる(経験から)。
反面うるさくて受験勉強ができないという苦情はなかった。しかし駐車場の照明が明るくて受験勉強の邪魔だという苦情は受けたことがある。気になるかならないかの違いなのだろうが、まあ、お互いに大変である。
おっと大きな工場でしたら省エネ法の計画とか実績もあるでしょうし、PCBがあれば点検報告や処理計画など外部コミュニケーションには事欠きません。ヤレヤレ

環境関連ではないが、社名の頭の部分が同じだけどまったく関係のない会社で不祥事があったときのこと、早朝始業前、黒塗りのワゴン車に日の丸を描いた車がやって来たことがある。対応したガードマンも大変だったろう。我々もビビったけど、
市内の別の会社で労働争議があったとき、そこの組合幹部たちが私の勤める会社の前で支援要請、カンパ要請のビラ配りをしていたことがある。こちらにとってはゴミが散らかるだけの迷惑な話である。関係ないとは言えず、ゴミ箱とか掃除は我々の仕事であった。
まあそういうものも外部コミュニケーションではないかと・・・
ともかく毎日仕事をしているわけですから、そんな外部とのやりとりは日常的に発生します。

では2015年版の外部コミュニケーションは、日常、現実に起きている外部コミュニケーションと同じなのか違うのか考えてみよう。
7.4.3 外部コミュニケーション 組織は、コミュニケーションプロセスによって決定されたとおりに、かつ、順守義務による要求に従って、環境マネジメントシステムに関連する情報について外部コミュニケーションを行わなければならない。
(ISO14001:2015DISより)

アハハハ、またまた難解ですね。いや言いたいことは分るつもりですが、なぜこのような文章を書いたのかを理解するのが難解です。
とりあえず2004年版の外部コミュニケーションと2015年版の関係はどうなりましょうか?
4.4.3b) 外部の利害関係者からの関連するコミュニケーションについて受け付け、文書化し、対応する。
組織は、著しい環境側面について外部コミュニケーションを行うかどうかを決定し、その決定を文書化すること。外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、この外部コミュニケーションの方法を確立し、実施すること。
(ISO14001:2004より)

文章ではわかりにくいから対照表にしましょう。
2004年版 4.4.3b)2015DIS 7.4.1&7.4.3
外部の利害関係者からの(EMSに)関連するコミュニケーションについて受け付け、文書化し、対応する。

組織は、著しい環境側面について外部コミュニケーションを行うかどうかを決定し、その決定を文書化すること。
組織は、次の事項を含む、環境マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションのためのプロセスを計画し、実施しなければならない。
組織は、環境マネジメントシステムの関連するコミュニケーションに対応しなければならない。
組織は、必要に応じて、コミュニケーションの証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。
外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、組織は、コミュニケーションプロセスによって決定されたとおりに、かつ、順守義務による要求に従って、環境マネジメントシステムに関連する情報について
この外部コミュニケーションの方法を確立し、実施すること。外部コミュニケーションを行わなければならない。

左右を比べると「外部の利害関係者」と「著しい環境側面」という語がなくなったのと、文書記録についての記述が若干違うくらいで他は同じである。ということは過去の版と同じように冒頭で語ったおかしな論を唱えるコンサル、審査員、企業側担当者などなどが湧き出てくることは間違いない。
それはどうかというと、
「環境に関する外部コミュニケーション」というものが「企業の外部コミュニケーション」の一部であり、それだけを抜き出すことができないと前述したが、仮に取り出せたとしよう。そのとき外部コミュニケーションは「著しい環境側面」に関わるものだけでないことは私の書いたことからわかるだろう。つまり責任者とか有資格者(これらを機関と呼んでも良い)は著しい環境側面ではないけれど、それらの中身が変わったとき外部コミュニケーションをしなければならない。おっと「公害防止管理者は著しい環境側面に関わる」なんて屁理屈を語るまでもなく、DISのように「環境マネジメントシステムの関連する」といった方が素直だろう。ということでこれは改定後の方がストンと納得できると思う。
もう1件、「外部の利害関係者」がなくなったことであるが、そもそも外部コミュニケーションの対象者は組織の外部に存在することは明らかであり、わざわざその形容詞を付けなくても良いというだけだと思う。
おっとご注意であるが、私は手順を文書化しなければならないとか記録だけで良いとか悪いとかいう枝葉のことには関心がない。

まあDISを読むと私の経験した外部とのやりとりを、外部コミュケーションにあてはめてもまったくおかしくはないようだ。
しかし同時に、過去の種々の解釈に当てはめてもまたおかしくないように思える。そこんところが問題である。種々の解釈というのは、例えば「外部コミュニケーションとは環境報告書を出すことである」という先入観を持ってDISを読んでも矛盾がないようであり、連絡報告のルートをフローチャートがなければならないと思い込んでいてもDISからは齟齬があるとは思えない。
正直なところ、そういう主張をするコンサルや審査員は、現実の環境管理におけるコミュニケーションを知らないのだろうか?
そして外部コミュニケーションとは環境報告書を出すことだと語っていたお方は、騒音苦情を言ってくる近隣住民や勘違いして抗議に来た右翼の街宣車に環境報告書を配れば問題が解決するとでも?
おっと、私が勘違いしているのかもしれない。だとするとそういった目の前の問題についてISO規格のどの項番が該当するのだろう? 緊急事態だろうか?

ということでもう少し外部コミュニケーションとは何たるかということを、具体的に描くべきではなかったのだろうかという気もする。いや大いにそう思う。
ただあまりにも具体的に表現すると、ISO規格のありがたみがなくなってしまうからだろうか?
お経はわからない方がありがたく、般若心経も意味が分るとありがたみがない
それともうひとつ重大なことだが、環境に関わるとか労働争議に関わるなんて分類は無意味であるということだ。あなたが近所の人から敷地境界の植栽からの落ち葉がひどいから何とかしてほしいと苦情を受けて、そのお宅に謝罪と対応の相談に伺った場合を考えてみよう。向こうの方は、せっかく会社の人が来てくれた機会だから、今まで思っていたことを全部言いたいだろう。例えば町内会の人々がスポーツするのに構内広場を使わせてほしいとか、危ないから通学時間帯は搬入搬出のトラックを停めてほしいとか、ストライキのとき鉢巻した人がたくさん自宅の前の道路にたむろして困ったとか言ったとしよう、そのときあなたは、そんなの私は知りませんとか、それは私の仕事じゃないと言えるはずがない。あなたは企業を代表しているのだ。
ここで「あなたは会社を代表するのである」と書こうとして、「環境方針」を確認したら言い回しが変わったことに気が付いた。
2004年版では「組織のために働く人(all person on behalf of the organization)」で多様な誤解釈が飛び交ったが、2015年版では「組織の管理下で働く人々(persons doing work under the organization control)」となっている。これで「会社のために働く人」のときのように下請とか廃棄物処理業者が含むという誤解釈が現れないだろうと期待する。おっと、それでもcontrolの解釈次第で「下請を含む」という審査員がいるだろうけど・・
controlというのは車のハンドルを握って操作するようなイメージであり、間接的に指導監督するような場合はアドミニストレーションという。もしよそ様の会社を本当にコントロールしているなら、偽装請負みたいで職業安定法違反かも知れない。あるいは経営権侵害で会社法違反になるのかな?

要するに環境コミュニケーションというものは存在しない。いや存在するのだが、それは企業と外部の利害関係者のコミュニケーションという一体化されたもの包含されているのであり、単独で切りだせるものではない。
そりゃ環境報告書を出すくらいなら環境単独でできるだろうけど、
もっとも環境報告書といっても、環境だけでなくCSRとか労働安全と一体にするのが多いし、報告書というよりもリクルートのための会社案内と言えるようなものもある。

ISO14001は環境についての規格であるから、環境の守備範囲しか記述しないのだと言われるかもしれない。だとしてもそれならそれでISO14001に書いてあることだけでは仕事にならんのですよ。そこんところがこの規格の問題であり、大勢の人が間違えた原因かもしれない。
ともかくその問題というか欠陥は21世紀の2015年版(DIS)になっても変わらないようだ。
いや、ひょっとすると英語版と日本語JISではニュアンスが異なるのかもしれない。ネイティブでない私にはわからない。

でもまあ、そんなことを言いだしたら文書管理から、内部監査、力量、とにかくなんでもかんでも独自に存在しているわけではない。そもそもJTCGによる構成の共通化というのは正しい方法ではなかったのではないかと私は考えている。そうではなく、マネジメントシステムの共通システムと個別項目という二つにした方が現実にあっていたのではないかという気がしていたが、まあ、今となれば手遅れだ。
JTCGの考え 私の考え
ISO9001
品質固有の要求事項
共通要求事項
ISO9001 品質固有の要求事項
ISO14001
環境固有の要求事項
共通要求事項
ISO14001環境固有の要求事項
ISO????共通要求事項
右のような構成にすれば、「企業のマネジメントシステムの審査登録」というビジネスが可能になったのに、IAFはビジネスを逃がしてしまったと同情する。

どちらにしてもISOMS規格が未来永劫存在するとか発展していくとは思えない。2015年版も一時の迷い、いっときのゆらぎであるならばどうでも良いことであろう。どうせあと7年もたてばISO-MS規格が改定されるか廃止されるだろう。

うそ800 本日のコミュニケーション
まあ、規格の欠陥は根本的なことであり、化粧だけでは直せないということだ。
すっぴんで勝負できない女性だけが化粧に凝るのだろう。

しまった、冒頭で外部コミュニケーションについて語ると言ったが、結局のところここに書いたのは外部コミュニケーションに限ったことではなく、規格全体に関わる大問題じゃないか・・




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