方針愚考

15.05.21

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/5/19に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

だいぶ前、調べると2年前になるが「方針て何なのよ」というものを書いた。今回と似たような題名であるが、切り口は少し違う。まあ、前回のも面白いと思うので(私から見ると)、ぜひご一読いただきたい。語り口と切り口は変われど、私のスタンスは変わっていない。
進歩がないともいう。

ともかく本日は方針について考えたこと・・・
まずは品質方針から
5.2.1
トップマネジメントは、次の事項を満たす品質方針を確立し、レビューし、維持しなければならない。
 a)組織の目的及び状況に対して適切である。
 b)品質目標の設定及びレビューのための枠組みを示す。
 c)適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。
 d)品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む。
(ISO9001:2015DISより)

なるほど、立派なことを語っています。これだけ読むとなにも疑問を感じません。
では環境方針はと見ると
5.2
トップマネジメントは、組織の環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で、次の要求を満たす環境方針を確立し、実施し、維持しなければならない。
 a)次に対して適切である。
  1)組織の目的
  2)組織の活動、製品及びサービスの性質、規模及び環境影響を含む、組織の状況
 b)環境目的の設定のための枠組みを示す。
 c)以下略
(ISO14001:2015DISより)

ところで方針と名がつくのはふたつではありません。ISO50001「エネルギーマネジメントシステム−要求事項及び利用の手引」ではエネルギー方針を作ることを要求しています。
4.3
エネルギー方針は、エネルギーパフォーマンスの改善を達成するための組織のコミットメントの表明でなければならない。トップマネジメントは、エネルギー方針を定め、それが次の事項を満たすことを確実にしなければならない。
以下略
(ISO14001:2015DISより)

そういやあ、ISO27001「情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティマネジメントシステム−要求事項」なんてのでも
5.2
トップマネジメントは・・・・以下略
(ISO14001:2015DISより)

ISO22301「社会セキュリティ−事業継続マネジメントシステム−要求事項」
5.3
トップマネジメントは、次の事項を満たす事業継続方針を確立しなければならない。
以下略
(ISO14001:2015DISより)

ISO26000「社会的責任に関する手引き」は認証規格ではありませんが、読めばISO26000全体が方針ないしはコミットメントのように見えてしまいます。

とにかくマネジメントシステム規格と称するからには「方針」作ることを要求というか命令することががデフォというか流行というか大好きというか、ともかくオヤクソクになっている。
ところで方針を作れっていうのはISO規格だけではありません。
個人情報保護法では個人情報取扱事業者が、「個人情報保護方針(またはプライバシーポリシーなど)」の策定や公表をすることを義務づけてはいませんが、「個人情報の保護に関する基本方針」(閣議決定)において、事業活動に対する社会の信頼を確保するために重要であるとして、その策定と公表を推奨しています。
その他原子力発電品質保証要求事項でも品質方針の要求がありましたね。会社法による内部統制も「方針」という言葉はありませんが、そういったものを定めることは必然です。
そんなことを考えると、企業で作らなくてはならない方針というものはとてつもない数になるわけです。
方針とは項目ごとというかいろいろな仕事について決めるもので、それらは単独で存在するものなのでしょうか?
とりあえず、ここではISOMS規格が要求する方針について考えることにします。
2015年改定がJTCGの共通テキスト化が最大要因によるものなら、テキスト共通化の中に方針の統一ならぬ方針の統合を入れ込むべきでしょう。そしてMS規格が多々あっても方針は一つで済むようにするべきです。そうしなければ他の手順書類は共通化されても方針はMS規格の数だけ作らねばならず、やがて手順書の分量より多い方針の海に会社は沈むのでしょうか?
ここはじっくり考える必要がありそうです。
方針がたくさん
方針がたくさんあってどうすりゃいいの?
さて方針は経営者(イクイバレント)が書けばおしまいってもんじゃありません。例えばISO9001:2015DISでは「組織内に伝達し、理解し、適用する(5.2.2)」とあり、ISO14001:2015DISでは「組織の管理下で働く人々を含めて組織内に伝達する」とあり、ISO50001では・・以下省略
伝達とありますが、原語はcommunicateですからto express your thoughts and feelings clearly, so that other people understand them、あなたの考えや思いを他の人に伝え理解させること、つまり方針カードを配ればオッケーなんてもんじゃないわけです。じゃあ組織の管理下にある人たちはそういうたくさんの方針を、読んで理解して自らそれに基づいて動こうとする意識、状態にならなければならないわけです。
普通の人間がそんなにたくさんの考えを読むのはともかく、常に実行しようという意識を持ち続けることができるのかとなると、どうなんでしょうか?

でもって改めて「方針」とは何だろうと考えたわけですよ。いえいえ、傍から見れば愚者の暇つぶしでしかありませんけどね・・・
「方針」の意味とはいったいなんだろうと広辞苑を引いてもせんのないこと
「せんのないこと」とは「詮のないこと」と書き、仕方が無いこと、どうしようもないこと、なすべき方法がない、術(すべ)がない、効き目がないといった意味です。
つまり広辞苑を引いても意味のないことです。
なぜかって?
理由は明白じゃないですか、方針というのは単にポリシーを訳した言葉、それならポリシーの意味を調べた方がよろしいじゃありまえんか。

ではpolicyを英英辞典で調べると
    longman(http://www.ldoceonline.com/)
  1. a way of doing something that has been officially agreed and chosen by a political party, business, or other organization
    政党や企業あるいはその他の組織が公式に定めた何かをする方法
  2. a contract with an insurance company, or an official written statement giving all the details of such a contract:
    保険会社との契約など、契約したことの詳細を記述した正式な書面
  3. a particular principle that you believe in and that influences the way you behave
    人がその行動ふるまいに関して、確信する方法や主義

ここで英英辞典が示す意味あるいは語義をみて、一つの単語に多様なものがあると考えるのは少し違う。元々英語であろうと日本語であろうと、言葉の意味を書き表すことは困難だ。だから辞書でひとつの単語が持つニュアンスを言い表そうとするとき、元の語の持つ意味あるいはニュアンスを伝えるためにいろいろな表現をしていると読むべきだろう。
つまり英語で「ポリシー」とは公式な声明や契約書や主義などを表すのであるが、本来の意味はそのいずれでもありいずれでもないということだ。
そういう風に考えるとポリシーとは、一人の場合は自分が覚えていればよく、ある集団内であれば周知徹底すれば間に合い、利害関係が拮抗するなら書面にしなければならないようななにものかであるが、いずれにしてもなにごとかを行うにあたっての基本原則であって、確固たる考え方・基準・手順であるものと言えるだろう。つまりポリシーなるものは、関係者すべてが理解して、日々それに基づいて職務遂行しなければならない。もしそうでなくても良いなら、それはポリシーではない。
もっとも旅行約款とかクレジットカードの契約書、あるいは保険証書などは、契約者に読んでほしくないようで非常に小さなフォントで印刷している。きっとそれが旅行会社や保険会社のポリシーなのだろう。

前段からの続きですが、方針が「なにごとかを行うにあたっての確固たる考え方・基準・手順」であるとすると、それは「品質第一」とか「品質奉仕」というようなワンフレーズとか、名刺サイズの紙に書ききれるような簡単なものとも思えない。具体的な対応というか基準や手順はないとしても、行動や態度の基本、考え方・判断の基本・意識づけなどを盛り込む必要があるだろう。
そして大事なことというか当たり前ですが、個人であろうと団体であろうと、具体的実行手順や判断基準はそのポリシーを展開したものとなるはずです。つまりポリシーと手順書(規定)は上下関係にあり、それらは整合していなければならないことになる。
もし会社規則を作成した人なら、もうイメージが浮かんでくるはずだ。もっともISO対応の手順書だけを作った人なら無理かもしれない・・・いや無理だろう 
私は品質保証屋として腐るほど会社規則(手順書)を作った。会社規則は当然であるが階層化される。
いや、分らない人がいるかもしれないから初歩の初歩から語ろう。
あなたは会社でも学校でも図書館でもいいが、そういったところの事務員だとしよう。従業員や来客が自転車をあたりかまわず停めているとする。これではみんなが迷惑するから、上司と相談して従業員や来客が自転車をどこに駐輪してもらうかを決めたとして、それをどう周知するだろうか? まあ、看板を立てることにしようか。出入り口に「自転車は自転車置き場に停めてください」という看板を立て、自転車置き場にどのように置くのか、用のない方は停めてはいけないとか、時間になったら鍵を閉めるとかということを表示することになる。
やがて自転車ではなく車で来る人が多くなると、駐車の仕方とか禁止事項とかを決めることになる。雨が降ると傘をさしてくるから傘をどこに置けとかいうことも決める必要がある。
決めなければならないことは、構内での喫煙、喫食、話すこと、携帯電話使用の可否などなど多岐に渡る。もちろん外来者対策だけでなく必要な基準や手順は業務全般、金銭の出納、職務分担などすべてにわたることになる。
はじめは会社の規則はそれぞれ個々の島々のように独立した存在だろうが、規則を管理するためにはたくさんの規則を体系化することが必要となる。そうでなければ規則間の干渉・とりあいなどを整理することができない。
私なら会社の業務をいくつかに分けて、それぞれの業務についての基本を決めた上位規則を作り、それを基に展開することにする。もちろん会社の創立以来下位の規則がバラバラに作られているのが通常であるから、そういったときは具体的な手順や基準を決めた規則を全部集めて、カテゴリーごとにまとめて親子関係を付けるという手順になるだろう。
カテゴリー分けはいろいろな種類があるだろうが、ここではISOを論じているので、品質、環境、情報管理、労働安全などとしよう。エネルギーは独立するのか、あるいは工場管理とか環境の下位に位置づけられるのか、まあそれも好き好きである。
ところで会社の規則というのは階層によって名称を変えるのが通例である。ISOに関する本では「規定」という名称が使われることが多いが、規則、規定、細則などと階層によって名称が異なるのが一般的だ。会社によっては更に規定と規程という階層を設けるところもある。手順書Aと手順書Bという階層も見たことがある。

とりあえず品質について考える一例をあげると

文書体系図

というようなものが考えられる。
もちろん環境規則とか情報管理をトップにした階層化された文書体系もピラミッドに展開される。
とりあえず文書が展開されるというイメージを持っていただけたはずだ。
さてこのとき、受入検査でも中間検査でも、計器管理でも、あるいは抜取方法においても、もし手順不足があれば、上位規則を基に詳細が決められることになる。
注:
手順不足とは処理すべきことに対して、実施手順が定めていないことをいう。

あるいは詳細手順を定めずとも「上位規則」によってあるべき姿をイメージすることにより処理できるなら、新たな下位手順書を要さないかもしれない。
いや、上位規則を読めば業務上の細かい取り決めを除けば仕事に対するスタンス、対外的コミュニケーション、問題が起きた時の対応などが演繹されるはずだしそういうものが上位規則だろう。
となると、カテゴリーごとの上位規則がそのカテゴリーの方針ではないだろうか?
そうであれば、それが具備すべき要件はある程度定型的であることが見当つく。
例えば、その組織の業務に見合ったものであるだろう。つまり大企業あるいは本社であれば傘下の組織に対することが描かれるだろうし、小組織であるならあまり大げさなことは書かないだろう。
現状のルールを守り仕組みや運用が劣化しないことを要求するのは当然だが、同時に業務における改善を求めるものでもあるだろう。
いかなる仕事でも法を守るだけでなく、しっかりとした倫理観をもって公明正大な運用を求めるだろう。
アレ!? これはISO14001や9001で求める方針と同じことだ。
すると方針とは各業務における最上位の規則となるのだろうか?
私にはどうもそう思えてきた。
文書体系図

こう考えると、方針がたくさんあってもおかしくはないし、相互に矛盾が起きる可能性もなさそうだ。
このとき、それは一つの規則(手順書というよりも方向を示すものだろう)であるから、ボリュームとしてはA4にして1枚から数ページになるかもしれない。いずれにしてもワンフレーズのスローガンとか名刺サイズの紙に箇条書きすれば済むようなものではないだろうとは思う。

この話を聞いてアレっと思われた方がいるに違いない。
今言った性質の文書といえば法律なら「基本法」ではないだろうか?

 会社規則の例法律の例
第一階層規則○○基本法
 
第二階層規定○○法
 
第三階層細則○○法

会社の項目ごとの最上位の規則と基本法というのは、通常は細かい手順や罰則などを規定せず、一般方向、つまり当社の考えはこうこうである、具体的な手順は下位文書においてこれを展開する、社員はこれを拳拳服膺して業務に励めよといったことを書くのが通例である。
もし、そうでなければその会社のレベルが低いと言える。
ということはpolicyとは会社規則や基本法あるいはその同等のもの(イクイバレント)ではないのか?

とここまで考えて・・・そもそもISOの原語で書かれたpolicyの訳語である方針は、日本語の方針とは違うのではないでしょうか。いや、言い方が悪い。ISO規格の「policy」を「方針」を充てたのは間違い、誤訳ではなかったのかということです。
確認のためにISO規格で方針の定義をみると、
環境方針
環境パフォーマンスに関して、トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け
(ISO14001:2015DISより)

この定義からは読む人によってさまざまなイメージが持たれるでしょうけど、私が考えたものであってもこの定義を満たさないわけではありません。

ええと、そんなことを考えると上位規則(方針)とはどうあるべきかとなりますが、とりあえず一案を考えました。

うそ800社環境管理規則

第1条(目的)
うそ800社はウェブサイトにおいてISO14001に関して情報提供を行っている。この業務推進にあたり環境に関して以下の基準で行動する。各項目についての詳細事項はこの規則の下位文書で規定する。

第2条(法令の順守)
我々は、適用されるすべての公害防止、環境、エネルギー、安全に関する法律の遵守を約束する。
このために、該当する法規制順守と事故防止・安全維持のための手順を整備する。

第3条(組織体制)
目的実現のために環境に関する責任と権限を定め、それを社内に周知する。組織の構成員はこの責任と権限に基づいて業務を遂行する。
効果的な環境保護のために、組織全般に良好なコミュニケーションを行う。

第4条(情報と資源の入手可能性)
うそ800社は、業務推進のために必要な人員や設備を含むハード及びソフトに関するリソースを確保する。

第5条(持続可能性の確保)
うそ800社は現状の規制や社会的要求に応えるだけでなく、今後顕在化すると思われる事項そして将来の世代に対する責任も考慮して、製品及びサービス並びに事業推進にあたり考慮する。
基本原則として、可能な限りの環境汚染の回避または最小化を最優先とする。

第6条(外部機関との協力)
うそ800社は、行政・地域社会・サプライヤー・顧客などすべての利害関係者とコミュニケーションを図り、環境安全基準の整合化を図る。また非常事態そのた問題が発生したときは、相互協力して行動する。

第7条(連続モニタリングと効果の統制)
うそ800社は、製品及びサービス並びに事業上のパフォーマンスを常に把握し、異常の防止とパフォーマンスの継続的改善を推進する。この結果は当社の定める基準で公表し、また行政に報告する。

第8条(コミットメント)
経営者はこの定めを確実にし、構成員はこの定めを確実に実行することを約束する。

第9条(制定権限)
各方針の設定は・・・・

規則番号 XXXX 改定B

ええっと、上の方針案は私が思い付きでキーボードを叩き数分で書いたのですが(本当です)、ISO14001の要求を満たしているでしょうか?
実際の審査の場では「組織の目的に見合っているか?」、「組織の活動、製品及びサービスの性質、規模及び環境影響を含む、組織の状況」にみあっているか? もめそうですね。でもこれは2004年版改定のときも、寺田さんが判定不可能であると述べている(参照:「ISO14001:2004要求事項の解説」、p.71)。
形而上の問題ならどうでもいいことにしよう。私は「文言があればよい」というような審査のためなら死んでも書かない。

注意することがあります。
上位規則になんでもかんでも盛り込もうとすると、それは環境マニュアルになってしまいます。まあ、それが使いやすいなら環境マニュアルが環境方針だといっても間違い(不適合)ではないでしょうけど、あるべき姿ではありません。そして実際にしてみればわかりますが、そういった文書体系なら運用上にっちもさっちもいきません。
そんなことを知らずして、下位文書を作らずすべてをマニュアルに書き込んでしまうことが良いとバカ話を騙るコンサルも大勢いますが、淘汰されることを期待します。
それともう一点、「詳細は別途定める」はいいのですが、骨さえも「別途定める」とあるようでは行動指針を示すものにはなりません。環境マニュアルであれば関係する文書を引用(参照)するだけで適合ですけれど・・
そもそも上位文書に基づき下位文書を作るのですから、骨を下位規則に丸投げしたら上位規則としての値打ちがありません。

うそ800 本日の報告
書こうとするアイデアは簡単なんですが、本日は細かい絵を描いたので時間がかかりました。
こんな絵はいらないと言われると・・・トホホ

うそ800 本日のまとめ
方針とは前述したようなものだと考えると、品質方針、環境方針、エネルギー管理方針、情報管理方針などなどがあってもよく、いやあるのが当然という気がしますね。
なんか結論は冒頭に書いたのと真逆だな 

*こちらもお読みください「方針て何なのよ」



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