方針て何なのよ

2013.06.09
品質方針でも環境方針でも方針というものは、なにかおごそかで権威のある大層なものと考えている人が多いだろう。かくいう私もそう考えていた。つまり品質方針はその会社の品質理念を示すものであると思っていたし、環境方針はトップが環境について進む方向を示したものと思っていた。
だが、それは正しいのだろうか?
おばQの遺影
チーン
実を言って今までそんな不遜なことを考えたこともなかったのだが、つい最近、人と会うことがあり・・・既に引退した私であるから会社や業界の会合ではなく、冠婚葬祭、より正確に言えば葬祭でのことである。
お葬式といっても、亡くなった当事者も参列者もみないい年だから、亡くなった方を悲しんで泣いたり、生前の業績をほめたたえたりということはない。
「いい年」とはなにかというと「死んでもいい歳」のことらしい。
顔見知り同志とも初対面の方とも、亡くなった方などそっちのけで、お互いの老後の過ごし方とか世の中の動きなど差し障りのない話をして酒を飲むというのがパターンである。どうせ自分自身も、まもなく酒の肴になる身の上だ。

そんなときのこと、たまたま隣に座った見知らぬ方と現役時代の仕事の話となり、私がしていた環境管理のことになり、やがてISOとなり環境方針の話になり、方針とはなんぞやということになったのだ。
今となると、どういう流れで方針の話になったのか記憶にない。
覚えていないのは、酒のせいなのか、歳のせいなのか・・・
ともかくその話題はお互いに利害関係はなく結論がどうなっても構わないというお気楽なことというオヤクソクを満たしているから話がはずんだのだ。あるいは話がはずんだのではなく、お別れまでの間を持たせただけかもしれない。
しかしそのとき、相手からガツーンと頭を叩かれたようなことを言われた。本日はその話を書く。
何しろ酒も入っていたので話の細かいことは忘れてしまい詳細は定かではないが、だいたい次のようなことを話したように記憶している。

ちょっと前に書いた中で、私は方針とは元々は磁石の針の指し示す方向であり、あの道を通れとかいつまでに着けという具体的とか細かいことではない。こうあるべきだとか、こうなろうという目指すところを示す言葉だという風なことを書いた。それが頭にあったものだから「ポリシーとは一般方向を示すようなニュアンスですよね」と言ったのだ。
すると師のたまわく
「方針というと、普通の人はなにかものすごい大所高所の考えを示したものというふうにとらえると思います。しかしポリシーというとそんな御大層なことではなく、そうですねえ、決まりとか約束事を示したものというニュアンスじゃないのでしょうか」という。

「決まりを示したものというと、方針というニュアンスと違いますね」

車 「私には、方針とポリシーとは階層が異なるというか、別物のように思えるのですよ。
えーと例えばですね、アメリカで車を停めようと駐車場に入ると『parking policy』という表示を見かけます。『parking policy』ってなんだと思います?」

「はあ、パーキングポリシーですか? 直訳すると駐車方針ですね〜、駐車の際には環境に配慮するとか、都市における駐車難対策とかでしょうか?」

「アハハハハ、いや失礼。あなたもまじめな日本人ですねえ」
え、私はまじめな日本人だったのか? いやもちろん韓国人や中国人ではないが、不真面目な日本人だとばかり思っていたのだが・・・
「ホテルなどの駐車場には『parking policy』という看板が立っていることが多いのですが、そこに書いてあることは、そうですねえ、身障者用のスペースに健常者は駐車するなとか、指定されたところ以外に駐車するとレッカーで移動するとか・・まあそんなことが書いてあるのですよ」

ご確認ください: google検索で「parking policy」と入れて、画像検索してみてください。
そこに出てくるのはなんでしょうか!?
駐車場の表示、車いすの人のスペースの絵、どこに駐車しろという案内、駐車料金の一覧、もちろん紙に書かれたparking policyもありますがその内容は方針じゃありません。

「はあ?? それが駐車方針ですか?」

「いやいや駐車方針じゃありません。『parking policy』です。うーん、私も確信はないのですが、日本語の『方針』と英語の『ポリシー』とは全く別物かどうかはともかく、ニュアンスは相当に異なるのではないのでしょうか?」
方針 ≠ ポリシー

「ほう、『方針』と『ポリシー』は別物ですか?」

「日本語で方針という言葉を使った場合、偉い人が部下に対してこういう考えで仕事をしろとかこういう方向にすすめという、いわゆる指針を意味するように思います。それはあまりクドクド言わないで要点だけだと思います。あなたが先ほどおっしゃった方針そのものですよね。
しかしポリシーという言葉で示しているものの多くは、具体的な禁止事項とか指示事項であることが多いように思えます」

「するとISO規格でquality policyを品質方針とか、environment policyを環境方針としたのは間違いということですね」

「いやいや、私はISOなんて知りませんよ。ただ外国の町で見かけるpolicyは、日本語の方針とはニュアンスが違うなあと思ったというだけです」

「そうしますとあなたがquality policyを日本語に訳されると、どんなふうになりますか?」

「内容次第ですから一概に言えません。もちろん内容によっては『品質方針』とすべき場合もあると思います。ただトップ経営層が所信を述べたものでも、いわゆる日本の方針のようにキャッチフレーズとかスローガンではなく、何ページにもなるのではないかなあ。そういった膨大なものを方針と呼ぶのは日本語の語義からいってちょっと変に思いますね。
ただ私の経験からの想像ですが、quality policyといってもそんな大所高所のことが書いてあるように思えません。機械操作の注意事項が書いてあるならば、『品質方針』とは訳さず『品質維持のルール』などにするでしょう」

実を言って精進落しでの雑談であり、メモをとっていたわけではなく、このあたりは記憶があいまいで半分想像だ。
そして会議のように結論があるわけでもなく、その方が私に教える義務があるわけでもなく、やがて閉会となりお別れした。

カラム (2013.06.20追加)
土光敏夫の「信念の言葉」に方針展開として次の順序が書いてあった。
 「目的」→「目標」→「方針」→「手順」
これは日本語の語義からいって適切なのだろうか?
私にはイマイチわからない。いや、本音を言えばおかしいのではないかと思う。
「土光敏夫 信念の言葉」(2009)、PHP研究所、ISBN978-4-569-77176-2、p.143

自宅に帰った私はさっそく『parking policy』でググった。たくさん見つかった。グーグルで検索した結果、上位にきたのは大学が多かった。そして長文の『parking policy』もあったし、短い『parking policy』もあった。長いものはA4で何ページもある。


ここまでくると、じゃあ他にはどんなものがあるのだろうかと思うのは人情でございます。
まず頭に浮かんだsmoking policyはどうだろうか? とググってみました。これはあまりありません。アメリカなどではもはや禁煙、分煙が法律で定められていて、個々の企業やホテルが決めることがないからでしょうか。とはいえ、いくつかはありました。


ではtraining policy なんてのはどうだろうか?

いやいや考えればきりも限りもない。中学英語で習う動詞とくれば食べる、歌う、読む、書く、走る、歩く、ちょっとトライしてみよう。
まず食べるで行ってみよう。
他の動詞についても確認したい方はご自分でどうぞ!
そしてもちろんquality policyについても見た。
だいぶ以前、managementのニュアンスについて書いたことがあった。あのときも英語の語の持つニュアンスと日本語訳されたニュアンスは、相当というか全然違うということであった。
ISO原文を日本語JISに訳したときに、「方針」の項目だけじゃなくて、ひょっとして他の項目でも意味やニュアンスが異なるところはあるかもしれません。ひょっではなく大有りかもしれません。いやいやもしかするとJIS規格全体が、ISO規格原文とまったく異なっているってことも大有りかもしれませんね。
実際にとんでもないものとしては、ISO規格ではひとつの文章が、日本語訳では二つの文章になっている箇所もあるのです。
動詞はどこから見繕ってきたのでしょう?
減数分裂なのでしょうか?
なぜ英語と日本語の文章が違うのか、私にその理由がわかるはずがありません。理由を知りたい方は、日本規格協会に問い合わせてください。それとも日本工業標準調査会なのでしょうか?
私は面倒だからやめときます。本音は問い合わせてもしょうがないからです。
JIS規格票の末尾のページに「JIS規格票及びJIS規格票解説についてのお問い合わせは、規格開発部標準課まで、できる限り電子メール又はFAX、TELでお願いいたします。」と書いてある。
それで数年前ですがおかしなこととか疑問を持ったことについて何度か問い合わせをしたことがあります。でも納得できる回答が得られたことは一度もなく、たらいまわしされておしまいでした。そんなことがあってから、電話したことはありません。

どうもISO規格では大したことを言っていないのに、日本語訳されたとたんに大変重大、膨大なものになるということが多いような気がします。
マニュアルなんてそもそも規格項番と社内文書や記録との対照表なのに、すべてのshallについての対応が書いてないと不適合なんておかしなことが世にはばかっている。そんな不適合は過去20年間に2万件は出されたことだろう。
過去20年間のQMS認証件数の平均を25,000件として、毎年その4%の企業で出されたとすると年1,000件になる。だから20年で20,000件というのは大げさではない。
あるいは記録と文書の違いが生き死にに関わるとは思えないが、記録と文書が識別されていないなんてのもポピュラーな不適合だった。私はポピュラーソングは好きだが、ポピュラーノンコンフォミティは嫌いだ。
更におかしなことだが、JIS規格にしたときに誤訳は過去より一切発生していないというのも面白い。JIS9001:1998改定の時は改定理由を読み間違い防止のためといっていた。本当は誤訳をごまかしたのと違いますか?
そういえばISO14001の2004年改定のとき、英語原文が変更になっていない個所も日本語訳が変更になったところもある。
そんなことは、まあ、どうでもいいか・・

うそ800 本日の教訓
JIS規格を読むのは止めて、英語のISO規格を読みましょう。
ISO規格 ≠ JIS規格
おっとJIS規格がおかしいとか疑義があったときにISO規格を読むのではなく、はじめからISO原文を読んで仕事をしちゃいけないってことです。
そしてポリシーはポリシーと読んで方針とは読まないこと。オブジェクティブもオブジェクティブと読んで目的なんて読まないこと。そうすればパーパスとの間違いを防げます。JIS規格だけにある「注記」なんて初めから無視しましょう。
ISO規格JIS規格
じゃあ、JIS規格は何のためにあるのか?
そういうISOの深淵は私には分りませんので、これも知りたい方は日本規格協会に問い合わせてください。
もしかすると日本規格協会の売上増進のためかもしれません。

うそ800 本日の妄想
ISO審査に来た審査員が方針にイチャモンをつけてきたら、真っ向勝負もメンドくさいからこんな話をして煙に巻く・・いやいや教えさとせば喜ばれるかと

うそ800 本日の言い訳
「今日はだいぶ短いじゃないか!」とか「引用が多いぞ!」なんてお叱りの声が飛んでくるのではないかと懸念します。
いやいや書こうとしているアイデアはたくさんあるのですが、起承転結を考えてキーを叩くのはやはり時間がいります。このところだいぶお休みしましたので、本日はとにかくとりあえず1件アップしてお茶を濁そうかと
・・おお、石を投げちゃいけません。ご容赦のほどを


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/6/9)
いま、夜勤明けで起きました。このトシで夜勤は中々と大変ですw
以前に鶏が書いた記事ですが、こういう話でしょうか?
http://submarin707jp.blog76.fc2.com/blog-entry-234.html

名護屋鶏様
へへへ・・
翻訳というか言葉の理解のずれってところは似ているかな(笑ってごまかす)

Yosh様からお便りを頂きました(2013/6/9)
とうた様、
Insurance Policyは日本語で保険”方針”とでも言ふのですか?
 *Insurance Policyとは保険証書のことです。

Yosh師匠
いやあ・・・・・ _| ̄|○ ・・・参りました
そこまでは思いつきませんでした
師匠の厳しい叱責を受けて今後一層の研鑽に励み、ダジャレ力の向上に努めます。

真面目モードですが、そもそもpolicyって日本語の方針とは違うようですね。英和辞典を引くと、まっさきに政策とか施策がでてきます。つまり方針じゃなかったんですね!
なお、英英辞典によると
  1. a way of doing something that has been officially agreed and chosen by a political party, business, or other organization
  2. a contract with an insurance company, or an official written statement giving all the details of such a contract
  3. a particular principle that you believe in and that influences the way you behave
となっていて、やはり日本語の方針というよりはもっと具体的なものに思えます。


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