16.04.14
*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。
審査員物語とは
審査員物語とは
私の髪の毛も、もう
白くなってしまったよ
歳をとったもんだ
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審査員物語とは大手機械部品メーカーの営業部長だった三木は役職定年になり、出向を命じられます。今まで引退した営業部長が出向する先は関連会社とか業界団体というのが普通でしたが、三木が命じられたのは認証機関でISO審査員になれということでした。
ISOなど知らず環境とも縁のなかった三木は一生懸命勉強して、なんとか審査員になりました。
実際に審査を仕事にしていると、現実の審査がISO規格とはずれた考え、間違った解釈で判断されていることに気が付いてきました。そういう考え方をしてきた先輩たちとケンケンガクガクの戦いを続け、今では三木はベテラン審査員になり、認証機関の定年になりめでたく退職しました。
ということで物語は終わったのですが、その間のエピソードをもっと書こうかと番外編というものを始めました。
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三木が出張先のホテルで夜、メールチェックしていると福田 愛からのメールがあった。
最初は「愛」という名前を見て?となり、出会い系の広告メールかと思った。過去にそのメールアドレスから着信があるのかと受信ボックスを発信者順に並べてみると、過去数回受信していた。恐る恐る過去のメールを見て、だいぶ前に娘と一緒に会ったことがある女の子であることを思い出した。三木が愛に会ってから既に数か月経っていて愛のことなど忘れていた。
とりあえず怪しい人ではないと安心したのでメールを開いた。どうせ今晩はもう仕事は終わり、寝るだけだ。
三木は愛のメールを読んで正直驚いた。まだ学部の学生が審査員になりたいというのは初めて聞いた。いや、それとも環境を冠した学部が増えている現在、ISO審査員になりたいという学生は珍しくないのだろうか。
三木はナガスネ環境認証機構が以前、新卒の女性を採用していたというのを知っていた。三木が出向して来たときは既に新卒採用は止めていたが、それまでに入社した若い女性審査員が10名くらいいた。その後、結婚や転職してしまい今現在社員で残っている人はなく契約審査員として二三名いるだけだ。なぜ新卒採用を止めたのかというと、これは潮田取締役から聞いた話なのだが、結局ナガスネの存在意義そのものに関することという。つまり業界設立の認証機関だから、会社の目的そのものが業界加盟の会社から出向者を受け入れるのが目的だ。当時の社長が新卒の賃金が安いから高賃金の審査員がいるからそれを薄めるのだ、そしてこれからは女性の審査員がいるというのがウリになるという発想で始めたと聞く。しかしちょっと考えれば、出向者を受け入れれば給与の半額を出向元から補てんされること、福利厚生などの人件副費は出向元が負担することを考えれば、新卒というか認証機関がプロパーを採用するよりも、傘下企業からの出向者を受け入れた方が費用がかからないのは明白だ。そして女性審査員というのもあまりウリにはならなかったと聞く。だから数年間女性の新卒を採用したものの、社長が代わると止めたのだという。まあ、それは妥当だろう。
他の認証機関はどうなんだろう。三木が知っている他社の審査員の7割は出向者で、残りは技術士など街のコンサルを兼業しているようだ。もっともそういう人は社員ではなく契約審査員がほとんどだ。新卒で審査員をしているというのはめったにいないだろう。少なくても三木は知らない。もっとも最大手のJ○△社ではプロパーで検定業務などに従事している人に審査員もさせているようだとは聞いている。
へたなことを言うと後が怖い、愛には無難に応えておくべきだろうと思う。
三木は福田 愛にメールを送った後、娘の裕子はどんなことを考えているのだろうと思った。既に就活を終えたような話を妻の陽子から聞いているが、具体的にどんな会社なのか職種はどうとか三木は聞いていない。元の会社の同僚には自分の勤め先に入れようと人事にお願いしたり、あるいは関連会社に採用してくれと知り合いの役員に頼んだりしているのも知っていた。三木は元々自分が好きでというか偶然が大きいが、今の勤め先に就職したわけで、子供たちも自分の好きにすればいいと考えている。親が子供の道に口をはさむのはいかんだろう。子供が親を頼ってきたらどうするかということもあるが、そんな子供に育てたつもりもなく、好きにしろというのが正直なところだ。
三木はすぐに愛が相談してきたこと、子供たちの就職のことを頭から振り切って風呂に入った。気持ちや考えの切り替えが早いのは三木の特技である。
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翌日の夜、三木は福田 愛からメールが来たのを見つけた。
今回は気楽だからすぐに三木は返信した。
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週末、自宅に帰ると三木を迎えに玄関に出てきた陽子がにこにこしている。
なにがあったのだろう?
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「あなた、裕子が帰って来ているの。今お風呂に入っているわ。あなたが入ったらみんなでお酒を飲みましょう」
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「へえ、珍しいこともあるもんだ。でも遊びとか顔を見に来たってわけじゃないんだろう?」
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「いくつか内定をもらっているそうだけど、最終的にどうするかお父さんに相談したいんですって」
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「ほう、どこかで聞いたような話だな」
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「なんだかお友達とお話していて、おとうさんに相談したくなったって言ってたわよ」
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三木はにやっとした。
ところで私の娘の場合であるが、私に一言もなく就職先を決めたし、その後自分の気まぐれで何度も転職した。あるときこの人と結婚すると婿さんを挨拶に連れてきた。面倒がなくてよろしい。
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もう4年くらい前になるが、私の知り合いがISO14001の審査員研修を受けた。いまどき審査員研修を受けてどうするのかと思ったが、もちろんそんなことは口にしなかった。
研修後すぐに審査員補に登録をしたら、私にどこかの認証機関に就職できないかと言う。正確に言えば紹介してくれと言ってきたのだ。
おいおい、そんなに世の中甘くないよと認証件数の推移とか審査員の需給を説明すると、
えぇ
!と声を上げた。
審査員補になったらすぐに審査員として就職できると思っていたそうだ。

スイーツな奴だ。そいつは女だった。

本日の納得
私は50代前半のときは審査員になりたかった。しかし当時の上長がISO認証制度は長続きしない、このまま働いて定年になったら嘱託をした方がいいとアドバイスしてくれた。振り返るとそれが正解だったようだ。
同僚で審査員になった人が何人もいるが、もちろん彼らは彼らなりにその生き方に納得しているだろう。要するに人はいろいろな生き方があるし、どれを選んでもそれなりに幸せになれるのだと思う。どちらに転んでもたいした違いはなかったと今は思う。
N様からお便りを頂きました(2016.04.14)
審査員物語 番外編8 認識(その4)
読みました。
うーーーーーーーーーん
最初の三木のメール
自分の学生時代を思い出してみても、こんな高尚なことわかるかなぁ
というのが素直な感想です。
子供の就活に口を出さない。同意です。
単なる感想なので気にしないでくださいね。
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N様 毎度ありがとうございます。
えっえっえっ、設定が甘かったですか!?
大学生の認識が甘かったというお話にしたかったのですが、その設定が甘かったのではいけません。
最近不肖おばQはISO評論家からネット小説家に脱皮しようかと画策していたのですが、才能なしのもようです。いけませんねえ〜
次回は捲土重来・・・乞うご期待
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