*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。
審査員物語とは![]() |
「三木さん、先日内部監査がありましたよね」
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「はい?」
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「なぜかあの先生は三木さんを非常に気に入ったようで・・・・これから三木さんにも内部監査に参加してほしいというのです」
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「はあ?」
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「ISO認証までたくさんの部門の内部監査をしなければならず、そのためには学生や先生方だけでなく、ここに入っている業者からも内部監査員を選出して参加してもらうというのです。もちろんやはり普通の人では務まらないので・・・先日の内部監査の対応で三木さんが素晴らしいとおっしゃってましたよ」
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![]() ![]() ![]() 陽子は店長の言葉通りには受け取らなかった。多分だが、あの井沢とかいう女の子が私に敵愾心を燃やして監査責任者の先生に推薦したのではないだろうか。そして私が失敗するのを楽しみにしているのではないかという気がした。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「店長、冗談は顔だけにしてくださいよ。私は単なるパートで、仕事が終わったら家事をしなくてはなりませんので辞退させていただきますよ」
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「いやあ、それは困るよ。実は俺は了承しちまったんだ。こちらの店の仕事はシフトを調整するから向こうの内部監査を手伝ってくれないか」
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「それは仕事扱いなのですか?」
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「先日の内部監査は時間外を付けなかったけど、これから向こうのお手伝いは基本的にシフト内にするし、当然勤務扱いとするよ」
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「遅くまでかかるということはないんでしょうか?」
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「はっきりはわからないけど、夕方以降もということはないんじゃないかな。もちろんそういうことがあれば時間外はつけるよ。何とか頼むよ」
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「内部監査のお仕事というのが私に務まるんでしょうかねえ〜」
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「大丈夫。新たに我々業者から数名を監査員にするので、その人たちに教育するそうだ。それで今日の14時から打ち合わせがある」
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「14時? じゃあ今からじゃないですか」
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「そうだねえ、そういうことで頼むよ」
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![]() そんなわけで陽子はISO学生委員会と看板が付いた部屋を訪ねた。学生の一人から衝立で仕切られた打ち合わせ場のようなところに案内された。学生はすぐ消えた。 仕切られた区域には折りたたみ机が二つとその周りにパイプ椅子が10個くらいある。既に二人の男性が座っていた。二人とも面識はないが見たことがある。一人は多分学園のゴミとか電気の管理をしていたはずで、もうひとりは大学生協の人だったような気がする。いや違ったかな?
陽子は気兼ねなく二人の脇に座って挨拶する。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「始めまして、学食でパートしている三木と申します。みなさんも内部監査のお話でみえられたのでしょう」
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「そうなんですよ、突然のことでいったい何をするのかと・・ あっ私、永井と申します。施設管理をしています。今週、学食で食べたときお会いしましたね」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「私は成田と申します。生協で事務をしています。私も内部監査をしろと言われたものの何が何だか・・・」
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![]() 三人がそんな話をしていると例の増田准教授と宇佐美と井沢が現れた。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「いやあ、お集まりいただきありがとうございます。みなさんもう自己紹介されたようですね。そいじゃ話を進めさせていただきます。 ええとただいま当大学ではISO認証のために活動を進めているところでありますが、実際に活動を始めてみますと、予想していた以上の負荷というか仕事があることが分かってきました。 ISOのためには内部監査というものをしなければならないのですが、私たちは大学を65に区分して活動することにしました。内部監査はそれぞれの活動単位に行わなければならず、内部監査を65回しなければならないことになります」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「先生、各部門1回では済みそうありません。最低2回としますとその倍、130回になります」
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「そうなんですよ、先日いくつかの部門で内部監査をしてみましたが、いずれも報告書をまとめるようなところまでいかず、もう少し活動が進んでから再度内部監査をしなければならないということが分かりました。 そんなわけで、当初は内部監査員を10名養成すれば間に合うと考えていたのですが、とてもそんなものではないということが分かりまして、あと10名程度必要かと考えています。 それでも1チーム2名で監査を行うとすると、130回÷20名×2名で、一人当たり13回くらい内部監査をする計算になります。そんなわけでこれからは学生だけでなく、学園内で事業をしているみなさんのご協力も得て実施したいと考えたわけです」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「内部監査と言われましても、なにがなんだかわかりません。私にできるものなんでしょうか?」
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「まあ簡単ではないでしょうけど、この二人を含めて10名がJ△○○の内部監査員研修を受けていますので、そううった人たちが教育をします。とりあえず本日はこの二人がみなさんに第1回めの内部監査の教育を行います」
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「ええ、そんな・・・一時間や二時間聞いただけでできるんですか?」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「二順目の内部監査は来週から始めたいと考えています。もちろん責任者である私と研修を受けた内部監査員が1名ないし2名ついて、それから見習いということでみなさんが1名ついて行う予定です。監査に数回参加していただければ、それ以降は皆さん一人あるいは二人で行えるかなと考えています」
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「私は内部監査というものをみたことがないのですが、大丈夫なんですかねえ〜」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「こちらの二人は優秀な内部監査員ですからご安心ください」
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「それでは本日はこれからの予定の説明と、第一回内部監査員教育を行います。じゃあ、二人とも頼んだよ」
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![]() 増田准教授はそう言うと姿を消した。 宇佐美が内部監査の日程を説明し、その内容を簡単に説明する。聞いただけではさっぱりわからない。そのあといよいよ井沢による教育である。 井沢は受講者3名にISO規格のコピー、大学の環境マニュアルそして内部監査チェックリストを配る。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「えーここで細かいことまで話すと時間がかかって大変です。それで説明は次回にしたいと思います。本日お配りした三種類ですね、それを今週末によく読んできてください。いろいろ疑問点があると思いますのでメモしてきていただけると議論ができると思います」
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「ちょっとちょっと、今パラパラ見ましたが、著しい環境側面はなんちゃらと書いてありますが、私は環境側面なんて知りませんよ」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「私もです。環境目的とか緊急事態なんて聞いたこともありません」
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「まあそういうことも含めてですね、週末にでも読んでいただいて分からないところにアンダーラインを引くとかしておいていただければ理解が進むと思います」
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「えー、そんな」
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「まあまあ、そいじゃ次回細かい説明があると理解していよろしいんですね」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「その予定です。あのう話をするにしても最低限の知識がないと話にならないんですよ。それで分かっても分からなくても、本日お配りした資料を読んでいただいてからということにしたいのです」
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![]() とりとめがないが最初の集まりはそれでおしまいだ。 ●
陽子は帰宅してから、井沢が配ったISO規格、大学の環境マニュアル、監査チェックリストの3点を何度も何度も読み返した。そして納得できないことが多々あった。● ● いくら考えても自分では解決できそうにない。夫は金曜日には帰ってくるはずだ。ここはひとつ夫に教えを乞うしかない。 ただ先週末に夫が話した「内部監査とは事前点検である」という趣旨からすると、配られた監査チェックリストの内容があまりにも粗く事前点検にならないように思えた。 そしてマネジメントシステムというものが出来上がったときなら内部監査で確認することは規格との照合でもよいと思うが、活動途上であれば構築段階によって質問することが異なるのではないかという気がする。 陽子は疑問点、質問事項、マニュアルの変な点、などなどにアンダーラインを引き、夫に聞くことをメモする。いつのまにかメモは10ページにもなった。 ●
金曜日の夜、三木が出張から帰ってきた。二人で夕食を囲む。● ● 結婚してから長い年月が過ぎたが、三木は帰宅してから会社の愚痴をこぼしたことはなかった。少なくとも陽子の記憶にはない。それはありがたいというか、夫ができた人間だと尊敬するところだ。だから晩餐が苦痛だということは過去一度もない。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「おとうさん、お願いがあるのよ」
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「なんだ? 指輪とかネックレスが欲しいとか」
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「バカなこと言ってんじゃないの。勤め先の大学の内部監査員を仰せつかったのよ」
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「アハハハ、俺の予言通りじゃないか」
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「笑い話じゃないですよ。ところが説明を聞くとまともな教育もせずに内部監査をさせようとしているみたい。私も乗りかかった船だから、いい加減なこととか途中で逃げるってこともしたくない。それでいろいろと教えてほしいの」
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「来週月曜日は審査の予定はないから、土日はじっくり陽子の相手ができるよ」
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「それは嬉しいわ。じゃあ今夜は前祝ということで」
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「お祝いになるのか、お通夜になるのか」
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翌日洗濯、お掃除を終えると陽子が三木を居間に呼んだ。● ● ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「わがままかもしれないけど、一般論はいいの。まず私がISO規格、環境マニュアル、監査チェックリストを読んで気が付いたことや、疑問に思ったことを聞きたいの」
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「いいよ。陽子の質問の内容から陽子のレベルが分かるだろうから、陽子のレベルに合わせて考えよう。必要なら規格解説とかしよう。質問に答えるだけで済むならそれはそれでいい」
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「ありがとうね、 ではまず、今までしたことからですけど、ISO規格、マニュアル、チェックリストの対照表を作ってみたの」 | ||||||||||||||||||||||||||||
![]() 三木は陽子が作ったという横方向にISO規格、マニュアル、チェックリストの文言が並び、縦方向に4.1から4.6まで並んだとてつもなく大きな表を見て驚いた。陽子が拡げた紙は項番ごとになっていたが、それでも一枚一枚が畳半分くらいはあった。見るとプリントしたものを必要な個所をはさみで切り取り、模造紙に並べて貼っている。しかも模造紙1枚で足りないものは何枚もつなぎ合わせている。そして同じことを書いたことには同じ色のアンダーラインが引いてある。 陽子の目的は良くわかる。そしてその方法もまともだ。三木は陽子のアプローチに舌を巻いた。 実は陽子は井沢から資料を渡された翌日、ISO学生委員会室のコピー機ですべてを2部コピーして、それから数晩かけて糊とはさみで切り貼りしたのだ。 ![]()
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「オイオイ、やるじゃないか」
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「あら、なにかしら?」
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「規格、マニュアル、チェックリストを並べて『すること』が『○○する』になっているか『○○しているか』となっているか比較したんだろう。自分が考えてここまでしたのはすごいと思うよ」
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「あらあら、お父さんに褒めてもらうなんて結婚してから初めてじゃないかしら」
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「そんなことないさ。一緒に暮らすとき電気やガスその他、暮らしていくための道具をそろえてくれって銀行の通帳を渡したら、1日で全部やってくれたじゃないか。あのときは正直おまえのすごさを思い知ったよ」
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「お世辞はいいから、では始めますよ まず規格の『する』に対応することが、マニュアルに『○○する』と書いてあるかを横通しで確認しました」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「けっこう、で結論は?」
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「文言はありました。欠落はありません。というよりもISO規格の文章そのまんまという感じですね」
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「確かにどこにでもあるようなマニュアルのようだ」
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「次にマニュアルにある『○○する』ということを監査チェックリストで点検しているかとなるとですね・・」
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「ふむふむ」
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「これがまったくありません」
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「ほう?」
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「どうもこのチェックリストは大学の環境マニュアルに合わせたものではなく、ISO規格に合わせたもので、規格の『する』があるかを点検するもののようです」
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「なるほど、そのチェックリストは間違いではないけれど用途が違うな」
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「間違いではないとおっしゃると? 実際に使えないんじゃありません?」
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「我々審査員が使うチェックリストというものはISO規格の『する』があるかを点検するものだ。会社によって規格の『する』に対応して何をするのかは異なる。だから規格対応のチェックリストで点検することになる。 だけど内部監査では自分の大学や会社がどのようなことをしているのかが明白だから、その決まっていることをちゃんとしているかということを確認しないとならない。つまり一般論でなくユニークなものとなる。陽子の言うように内部監査用としては使えないね」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「それともうひとつはメッシュが粗いのです。なんというか例えば規格のひとつの項目に『する』が5個あっても、チェックリストではその5個全部を点検せずに抜き取りしているようなのです」
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「それも同じ問題だな。我々審査員がISO審査するときは全部を調べることはできないから、抜き取りで調べることになる。それはISO17021でもそうしてよいとなっている。 ああ、ISO17021というのはISO14001などの審査をするときの規格だ。 だけど内部監査ではISO審査でボロが出ないように徹底的に点検しなければならない。だが陽子の言うように規格に『する』が5個あれば5個点検をすれば良いというわけではない」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「えっ、それじゃダメなんですか?」
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「つまりだ、ISO規格にある『する』について、大学や企業がただ一つのことだけで対応しているならいいだろう。しかし一般的に規格に『する』が一つあっても、マニュアルの『○○する』はいくつもあるのではないか。『○○する』を全部調べなくちゃならない」
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「ああ、なるほど。私もマニュアルを読んでそういう関係になっていると思いました。例えば環境側面を特定しろ、著しい環境側面を決定しろとありますが、大学では各部門には使用している材料や廃棄物、エネルギーその他の調査をさせてそれを取りまとめコンピューターで計算してとたくさんの『すること』を書いています。ですから当然そこでできる書類は一つじゃありません。ひとつの『すること』に対して大学の中では100あるいはそれ以上のことをしているわけで書類もたくさんできます。だから内部監査ではそれらを全部チェックしなくちゃいけないと思うのよ」
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「その通りだ。だがそれとは別のことだが、内部監査というものは時間とともに進歩というか成長していかなくてはならない」
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「進歩? 成長?」
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「この前、内部監査とはISO審査前の露払いということを言ったね。あれは方便というか、いや嘘ではないけれどすべてを説明したわけではない。だって考えて御覧、ISO審査前に毎回露払いをするってみじめというか面白くないよね。 内部監査の本当の目的とは審査で問題が出ないようにすることではなく、学校や会社で、ルールはしっかりと守られているか、ルールに問題がないか、改善すべきことはないかということを探すことだ」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「おっしゃること分かります。というとですよ、内部監査は当然1回ということではなく、審査前に数回するのでしょうけど、最初はしらみつぶしに点検し、次には全体的に無駄無理がないかということを点検し、最終的には改善案などを見つけるということになるわけですね」
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「そうだと言いたいけれど、実際にはISO審査前までの内部監査は何度かするだろうけど、そうしたところでしらみつぶしが完了する程度だろうね」
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「そうすると無駄無理の点検とか改善は翌年以降ということですか」
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「それでさえ理想だろうなあ、現実はしらみつぶしの段階を卒業できない会社が多いんだよ。いや、しらみつぶしの段階まで至らない会社もある。陽子の大学のチェックリストを見ても、しらみつぶし以前だからね。 はっきり言って、多くの企業がしている内部監査なんて時間の無駄だよね」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「ちょっと待ってください。ISO審査というのはISO規格と会社の実態との比較検証といいましたよね」
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「そうだよ」
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「とすると内部監査が成長しなくても悪いということはないことになります」
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「そうだ。だから今言ったようなレベルの低い内部監査も不適合にはならない。でもさ、会社の社長とかあるいは一社員としてだって、役に立たない仕事をすることは嬉しくないだろう。そりゃISO審査で問題が出ないことは良いことだが、そんなこと別に内部監査をしなくてもみながルールを守っていれば問題があるわけがないのだから」
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「なるほど・・・ ええと、今まで教えてもらったことから考えると、内部監査のチェックリストというものは毎回、そして職場ごとに作らないとならないことになりますね」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「当然そうなる」
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「とすると私が内部監査をするときはこのチェックリストではなく自分が作らなければならないことになりますね」
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「おいおい、それは理屈としては正しいが、陽子にそこまでする責任があるのかどうかというと・・・」
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「そのときチェックリストには点検すべき書類、書類ではなく文書と記録というのですか、まあそういうものの固有名詞の一覧表を用意しておく必要がありますね。 それから行為というのか、現場で確認する必要がある人の動作とか物の状態なども点検する必要があり、当然それもチェックリストに盛り込まなくてはならない」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「そうだ。そうすることが完璧を得る唯一の途だね。 ただし、チェックリストにあるものすべてを質問することはない」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「はあ?」
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「チェックリストにあることはすべて点検しなければならないが、質問する前に目で見て分かったなら質問することはないだろう。その状況と判断結果を記録することで終わりだ」
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「なるほど、監査とは知りたいことを知ることで聞くことじゃないんですね」
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「とはいえ、最初の段階の内部監査ではすべてを質問するのが良いと思う。なぜなら内部監査は準備ができたかを点検するだけでなく、内部監査を受ける人にとんな質問がされるのか、なぜ質問されるのかを気づかせるという意味もある」
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![]() 陽子は三木の言葉をメモする。 ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||
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「それと余計なことかもしれないが・・・陽子がこれから監査をすると、うまい下手という評価が気になるかもしれない。しかし監査がうまい下手というのは話し方とか相手を持ち上げることではない。点検すべきことをしっかりと調べたかどうかということだ。内部監査でもISO審査でも、偉い人におべっか使うってわけでもないが、変なところを突っ込まないとかして監査を受ける方の気分を良くして自分の評価を良くしようって人もいる。だけど監査の成果は人の評価ではなく、監査結果でしかない。 内部監査員は、いやISO審査員も同じだが、監査の質について自分なりの基準を持って、それに従って行動すべきだろう。結局どんな仕事でも評価するのは自分と神様しかいない」 | ||||||||||||||||||||||||||||
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「なるほど、他人の尺度に惑わされないようにしなければいけませんね」
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「まあ本当の内部監査、本当というのは経理とか業務の内部監査に比べたら、ISOの内部監査なんてピクニックのようなもので、責任を負うこともなく、結果がどうあれどってこともない。気楽なもんだよ」
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「うーん、そういう風潮があるのですね」
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「まあ、そうだね。ISOの内部監査が実際に会社に役に立つなんてことがあるのかどうか? 役に立つ内部監査というなら、そのときのチェック項目はISO規格とは無縁のものになるだろうね」 ![]() ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||
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「おとうさん、お話がとてもためになりました。私少し考えてみますね。来週おとうさんがお暇なときまたお話させてください」
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「初めに陽子の質問の内容から陽子のレベルをみてからアドバイスしようと言ったが、この調子なら余計なことを言う必要はないだろう。なにか分からないことがあれば俺にメールしてくれたら返事をするよ。さあて、陽子のお手並み拝見と行くか」
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「アハハハハ、まあだてに歳はくってませんからね、 ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||
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「陽子よ、何か知らんけど、そのヒヨッコとやらに対抗意識バリバリなんじゃない? さっき言ったように、周りの人の反応に自分の態度や方法が左右されないように注意しないといけないよ。ライバルがかっこいい話し方とか進め方をするのを見ても気にしないことだ。そのとき喝采を浴びても監査の内容がミスったらなんにもならないからね」 |