審査員物語 番外編23 認証活動(その6)

16.07.21

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

大学のISO審査は滞りなく終わった。もちろん不適合はない。
オープニングでの「目的っておかしな訳だよね。いったいどうしてobjectiveを目的なんてしたんだろう。きっと英語がわからなかったんだよね。今回の審査員はオールスターと聞いてますので、おかしなJIS訳でなくISO規格で審査していただけると期待してます」という三葉教授の先制攻撃、審査に入ってからは中村リーダーと高久審査員がなにを言っても「それがなにか」「神田先生に確認しています」という増田准教授の反応になんの反発もなくシャンシャンと進んだ。環境目的が2年であっても、環境側面が点数でなくても、有益な側面がなくても、方針に枠組みという言葉がなくても、何も異議はなかった。もっとも考えてみるとそんなこと元々不適合になるはずはないのだが。
それでも審査員は三葉教授の名刺を頂いて嬉しそうだったし、管理責任者の審査でも三葉教授に対しては当たり障りのない質問をして「さすが三葉先生」という言葉で締めくくった。三葉教授は大満足だ。

審査は水木金だったので、土日の休日が明けて学生ISO委員会の部屋に、三葉教授が関係者を招集した。増田准教授、今猿、陽子、井沢、宇佐美、永井などが集まった。

三葉教授
「いやあ、今までよく頑張ってくれた。ありがとう。審査では全く問題がなく私もやったぞとこぶしを握って両手をあげたよ。とりあえず仕事は一段落だな」
増田准教授
「三葉教授をはじめみなさんのおかげです。これからすることと言えば費用の支払い、登録証が来たら大学のウェブサイトへのアップとか学内の要所への掲示など、そんなところでしょうか」
三葉教授
「広報は総務のほうに頼んでおくわ、金かけたんだから黙っているわけにはいかない。
それから、増田君が書いた大学のISO認証のアプローチについての論文というか報告書だが・・・」
増田准教授
「ハイ? 何か具合が悪かったですか?」
三葉教授
「いやいや、正直言ってさ、おれも自信がなかったんで俺のところに止めてあるんだ。あるべき姿を唱えても、審査で問題があったらまずいだろう。もう審査をパスしたから安心したというか自信をもったよ。原稿を俺の古巣に渡しておくわ。来月は無理として再来月には雑誌に掲載されるだろう」
増田准教授
「ありがとうございます。雑誌に載せてもらえるとありがたいです」
三葉教授
「しかしさ、もう去年になるが、経産省がISO認証の信頼性がないなんて報告書を出したのを知っているか?」
増田准教授
「ええっと?」
今猿さん
「あれでしたよね、経産省がだした『マネジメントシステム規格認証制度の信頼性のためのガイドライン』でしたっけ?」
三葉教授
「そうだそうだ。ISO認証している企業で不祥事が続出しているので認証の信頼性をあげなければならないという趣旨だったと思う」
増田准教授
「すみません。浅学にして知りませんでした。その問題について今猿さんは詳しいのですか?」
今猿さん
「いえ、私も新聞報道とかJABの広報の情報しか知りません」
三葉教授
「我々は増田君の指揮の基、本来のというかあるべき姿のISO認証をしたと考えている。だからそういった方法で認証したISOならば信頼性があるということを次号に書いてもらいたいなと思っている」
増田准教授
「すみません。今後勉強いたします」
今猿さん
「三葉先生、私はISO認証の信頼性が低下していると言われていますが、私はそもそもそれが事実なのかいささか疑っているのです」
三葉教授
「今猿さん、だってさISO認証企業で不祥事が続出しているよね。某水処理の専門メーカーの工場からダイオキシンが流出していたとか、製鉄会社が排水の測定データを改ざんしていたとか・・・だから認証しても遵法レベルが上がるとは言えない状況ではないかね」
今猿さん
「確かに不祥事と言いますか事故や違反が複数見つかっています。しかし過去に比べて増加しているのか、あるいは認証企業と認証していない企業の差はどうなのかというデータは見たことがありません。経産省もマスコミも違反があったぞ、事故があったぞとはいっています。それは間違いない事実でしょうけど、定量的にどうなのかということはわかりません」
三葉教授
「そういうデータはでていないのか? 確かにそう定性的な情報だけで浮足立ってはいかんな。そういうことであればぜひとも増田君にISO認証の信頼性というものを調べてほしいなあ」
増田准教授
「承知しました。少し調査いたしまして方向とスケジュールを考えましたら三葉先生にご相談いたします」
三葉教授
「そうしてくれ。実を言ってな、環境という分野はもう長く続くとは思えないんだ」
増田准教授
「そうなんですか?」
三葉教授
「今猿さんは詳しいだろうがISO認証件数は今年がピークでこれからは減少していくと思う。大学の認証件数ももう放物線の頂点を過ぎたようだし・・・
これからは大学でも環境関連の学部や研究科の縮小を計っていくんじゃないか。俺は短期の契約だが、増田君の場合は環境の部門で教授の椅子を確保するには従来の環境へのスタンスでは難しいと思う」
増田准教授
「大学院の研究科の見直しの噂は聞いております」
三葉教授
「今まではISO認証すれば環境が良くなるとか会社の評価が上がるなんてヨイショの話ばかりだったからな。その揺れ戻し的な意味で、ISO認証は意味がないという主張があるのかもしれない。あるいは時間が経ってメッキが剥げてきたのかもしれない。
ええっと、本題はだ、増田君もこれからのことを考えると環境ISOを進めましょうというスタンスではなく、客観的にISOとか認証の評価をするような論文を出しておかないとまずいなって思う。今までと違って環境を客観視したスタンスというかな」
増田准教授
「おっしゃることわかります」
三葉教授
「ええっと、現実に戻ると認証体制の縮小をはからんとならん。イケイケドンドンからシステムの維持体制に切り替え、人員体制も見直さなければならん」
増田准教授
「承知しております。目的目標の推進、標準化の維持、一般啓蒙その他体制の見直しを計ります」
今猿さん
「私のほうも認証しましたので、予定より早いですが任務完了ということでよろしいですか?」
増田准教授
「井沢君たちが引退し2年生と入れ替わるので、その教育など、契約通りあと半年コンサルしていただくよう考えているのです」
今猿さん
「それはありがたいことです」
三木の家内です
「増田先生、今猿さんはあと半年契約とのことでしたが、私はどうなりますかね?」
増田准教授
「どうなるといいますと?」
三木の家内です
「客観的に見て事務局の仕事は今後一人分はないようです。といって学食のほうは私が抜けた後一人採用したようですから戻れそうありません。いえ、困ったわということではありません。個人的な計画もありますので、用済みならここを辞めようと考えておりまして」
増田准教授
「正直言ってどうなんだろう。文書の維持管理とか内部監査の進捗管理、目的目標の・・」
今猿さん
「増田先生、そういったことはISO事務局の仕事ではなく本来の職制が行う仕事ですよね。もちろん学生が支援する仕事でもありません。目的目標はそれぞれ担当する部門がありますから、そこがすればよいわけですし、文書も関係する部門が改定したり発行すればいいわけです。井沢さんたちがしていた文書作成や改定は緊急避難的な措置だと思います」
三葉教授
「なるほどなあ〜、本来のISOの仕組みとはそういうことなのか」
今猿さん
「当たり前と言えば当たり前ですが、会社でも大学でも事業を推進する組織というものは元からあるわけです。ISOのための仕事というのはあるはずがありません。ならばISOのための部門も人も必要ないはずです」
増田准教授
「今猿さんのおっしゃるのはまことらしく聞こえますが、そう言い切れるんでしょうか?」
今猿さん
「確かに一般的ではありませんね。でもそういう考えの、いや考えだけでなく特別な部門もなくISO担当者もいない会社はたくさんあります。私も存じております。ISOの仕事が内部化され、そのための組織も人もいないというのがあるべき姿だろうと思います」
増田准教授
「可能ならそういった会社のインタビューなどもしてみたいですね」
三葉教授
「なるほど、あるべき姿を実現したのはうちだけではないだろう。そういう事例を調査して分析したら面白いものになるかもしれんな。さっきの信頼性との関係なども知りたい」
増田准教授
「なるほど、信頼性の研究はそうとう幅も奥行きもありそうです。検討いたします」
三葉教授
「そいでさ増田君、そういった仕事の話だけでなく、とりあえず今まで協力してくれた関係部門とか学生とかの打ち上げを計画してくれよ。今週くらいがいいな、頼むぞ」
増田准教授
「承知しました。早急に・・」


コーヒーカップコーヒージャグ
解散した後、増田、今猿、陽子だけが部屋に残った。
陽子はコーヒーを沸かして持ってきた。
増田准教授がコーヒーを飲みながら話を始めた。

増田准教授
「今猿さん、さきほど三葉先生の言ったISO認証の信頼性ですが、今までの状況とかデータとか分かる範囲で教えてもらえませんか」
今猿さん
「承知しました。といっても私は学問的な論文は見たことがなく、せいぜいそうですねえ〜マスコミ報道、官公庁の公報程度しかなかったように思います。そして信頼性がないという主張はよく見かけますが、個々の事例を取り上げて大騒ぎしているだけでして、数値データなどないようです。少なくても私は見たことがありません」
増田准教授
「残念ながら私は右も左もわからない状況です。今までのいきさつなどを教えていただけませんか」
今猿さん
「わかりました。ちょっと時間をください。報道や広報されたものをまとめてみましょう。
でもねえ〜、信頼性がないという主張は、今までのISOに対する認識がおかしかったということも言えますね」
増田准教授
「といいますと?」
今猿さん
「今まで大学の先生や評論家の書いたISOの論文とか紹介文は、ISOはすばらしいとかISOが地球を救うなんて、コンサルの私から見たら恥ずかしくなるような世迷いごととかおべっかばかりです。新聞記事だって品質管理の規格を取得したとか、環境にやさしい企業の印であるISO14001を認証したとかわけのわからないことしか書いていません。環境にやさしい印ってなんですかねえ? ISOは素晴らしい、認証することはプライズだといっておいて、不祥事が起きると今度は認証企業が嘘をついていたといわれると困ってしまいます」
増田准教授
「困るというのは誰が困るのでしょう」
今猿さん
「誰なんでしょうねえ〜、今までISOは素晴らしいと言っていた人たちでしょうか、それとも私たちISOに関わっている人でしょうか」
三木の家内です
「脇から口をはさんで恐縮ですが・・」
増田准教授
「どうぞ、どうぞ」
三木の家内です
「そもそもISO認証とは何かということが社会に知られていないと思いますわ」
増田准教授
「いやISOとか認証とか十分認知されていると思いますよ。この大学の環境概論という科目では環境経営とかISOとか一応のことは説明しています。今どきの大学はどこでもそうだと思います」
三木の家内です
「増田先生、質問です。認証って何でしょうか?」
増田准教授
「認証ですか、そういわれると・・・」
今猿さん
「ご存じかもしれませんが、増田先生、今年(2009)の7月ですか、ISOとIAFが俗にISO/IAF共同コミュニケと呼ばれていますが、『認定されたISO14001認証に対して期待される成果』という文書を出しています」
増田准教授
「なんですか、それは?」
今猿さん
「ISO認証とは何であるかを解説したものです」
増田准教授
「ほう、知りませんでした。認証とはいかなるものかってことはまず初めに知っておくべきことですね。先ほど言いましたように私は理解していません」
今猿さん
「正直言って多くのISO審査員もコンサルも、認証とは何かを知らずに仕事しているように思います」
三木の家内です
「今猿さん、そのなんとかコミュニケでは、認証とはどういうものだと言っているのですか?」
今猿さん
「その共同コミュニケでは・・・ええとうろ覚えですが『組織が適切な環境マネジメントシステムをもっていて、そのマネジメントシステムがISO14001の要求事項に適合していることの証明』だったと思います」
三木の家内です
「規格適合していることということはどういう意味があるのですか?」
今猿さん
「ただ単にそれだけのことですよ。規格適合しているから遵法がしっかりしていると言っているわけでもない、ISO認証していると信頼性があると言っているわけでもない」
増田准教授
「うーん、規格適合というものの価値もわかりませんが、その規格適合であることを証明するISO認証にどういう価値があるのでしょうか?」
今猿さん
「認証していないより認証しているメリットというとなんでしょうか?
アハハハハ、私はわかりません」
三木の家内です
「そんなあ〜、今猿さんまじめに教えてくださいな」
今猿さん
ISO対訳本 「ISO規格の序文にありますが『この規格の採用そのものが最適な環境上の成果を保証するわけではない(2004年版)』とあります。つまりISO14001規格とはマネジメントシステムが具備すべきことのうち客観的に評価できる項目を羅列したものであるようです。
実を言ってオリジナルの1996年版の序文ではもっと控えめで『要求事項の多くは、同時に着手されてもよいし、いつ再検討されてもよい』とありました。要求事項といいながら義務でもないようです。
要するに環境マネジメントシステム、そう言っちゃうとまだあいまいになりますが、組織が環境管理をどのような体制、計画、責任、手順で行っていく仕組みは多種あって、ISO14001の要求事項が示すものはその一例であるにすぎないということですよ。そしてISO14001で定める仕組みが最善とも言っていないし必要十分だとも言っていない。あくまでも一例なんです」
増田准教授
「一例であるというなら、それに適合していると保証されてもあまりありがたみはなさそうですね」
今猿さん
「私もそう思います。環境管理の方法にいろいろあって優良可をつけるとして、ISO14001は優でなく可の方法かもしれません。なにせ『この規格の採用そのものが最適な環境上の成果を保証するわけではない(2004年版)』のですからね」

2016/07/22追加: ISOが可とはなんだ!というご疑義、ご苦情があるかもしれないので言い訳を追加する。
欧州にはEMASという環境マネジメントシステムの認証制度がある。これは審査員の資格要件もISOとはレベルが違うし、具体的パフォーマンス向上も、情報公開も要求している。まさかISO14001が優でEMASが良あるいは可ということはないだろう。EMASが優ならISO14001は可と言って反論はないだろうと思う。
ISO14001だけをとらえても、何度も改定されているわけで、その都度一層の改善を図ったと理由をつけている。数学的帰納法の考えをすれば現状も不十分であり、そのうちまた改善のために改定があると推定され、よって優であるはずはない。

三木の家内です
「先ほどの今猿さんが要求事項といいながら義務でもないようだと言いましたよね、それじゃ規格をすべて満たしていなくても良いってことになりません?」
今猿さん
「確かにISO規格の意図である『遵法と汚染の予防』のためならそれでも良いかもしれません。しかしISO審査ではだめです。ISO審査とは組織がISO規格を満たしているか否かを確認することですから、規格を満たしていなければ仮にその組織が規格よりも優れていても適合ではありません。
監査手法を考えた有名な人が『Rightness means nothing, only difference』」と語っています。正しいことではなく違いがあるかだけだとでも訳すんでしょうかねえ」
三木の家内です
「はあ?」
今猿さん
「監査とか審査とは基準に適合しているか否かを見るだけであって、基準が適正か否かは審査の外なのです」
増田准教授
「なるほど、裁判と同じですね。法律を基準としてどうであるかというだけですか」
今猿さん
「そうそう、そして裁判と違って法律がおかしいとか憲法違反という裁定はないということです」
増田准教授
「現実的にはどうかわかりませんが、規格本文の要求事項が序文の意図に反していることもありそうな気がします。その場合アナロジー的に言えば憲法違反ということになりそうですね」
今猿さん
「ともかく審査では規格を否定する判定はありません。杓子定規に本文のshallを満たしているか否かだけです。ISO審査においてはISO規格は絶対で例外はありません」
増田准教授
「しかも英文中のshallではなく日本語訳で、更にはそれを読んだ審査員の解釈で審査されるのではエラーが積み重なって発振してしまいそうですね」
三木の家内です
「発振てなんですか?」
増田准教授
「カラオケに行ってマイクの向きが悪いとピーってなることがあるでしょう。あれですよ、あれ」
三木の家内です
「わかりました。雑音でわけがわからなくなることですか」
今猿さん
「そうそう、まあ誤解釈はともかくとして、正しいのか必要十分であるかもわからない規格を満たしていることを保証されても何がありがたいのかわかりませんね。共同コミュニケがいっていることを一言で言えば、認証の価値はないということかもしれません」
増田准教授
「まあ善意で考えれば、当社の環境管理はすばらしいと自分が言うよりも、他人が言ったほうが少しは信頼できるということですか」
今猿さん
「そう言えるかどうかも分かりませんよ」
増田准教授
「えっ」
今猿さん
「保証人という制度があります。会社で人を採用するとき、家を借りるとき、お金を借りるとき、そんなとき保証人を立てるなんて言いますね」
増田准教授
「はあ? ISOから今後は保証人ですか」
今猿さん
「保証人とは人や借金を大丈夫というだけじゃありません。その人が悪いことをしたり借金を返せない時、契約した本人に代わって賠償や弁済する義務があります」
増田准教授
「はあ?」
今猿さん
「ISO認証とは借金の保証と同じように、認証を受けた企業が悪さをしたときに認証を与えた認証機関が被害を受けた組織に弁償するのかっていうと、そんなことは全くありません」
増田准教授
「ああ、今猿さんの言わんとすることがわかったような気がします」
今猿さん
「分かっていただけましたか。さっき増田先生は『自分が言うよりも、他人が言ったほうが少しは信頼できる』とおっしゃいました。でもそれは発言者がなんらかの責任を負うから信頼するのです。名も知らない通りすがりのやじ馬が言うことは信頼できません」
増田准教授
「ちょっと待ってください。マスコミ報道が間違っているってことも多々ありますよね。それに対して彼らは何ら責任を負いません。だけど視聴者は信用していますね」
今猿さん
「信用するか否かはその情報を受けた人々が判断しているでしょう。誤報があってからもそのチャンネルを見たり新聞を読んでいても、信用しているかどうかわかりません。
元々、週刊誌やタブロイド新聞の記事が信頼されているとは思えません。そうそう、競馬新聞などは予想が当たらなければ売れなくなります。フィードバックはあるわけですね」
増田准教授
「なるほど、となるとISO認証企業に不祥事が起きたとなると、信頼されなくなるのは認証を受けた企業ではなく、認証を与えた認証機関ということになる」
三木の家内です
「確かにそう思えますね。株が上がると言われて買って結果的に損を出したとき、責任を追及されるのはその企業ではなく予想した新聞とか証券会社でしょう」
増田准教授
「うーん、そのときの信頼性とは株を買う企業に対するものではなく、評論家に対するものになりますか・・・となると信頼性云々言うなら、信頼性とはいかなるものなのか、誰が誰に対するものなのか、何を尺度にするのか、検討しなければならないことはたくさんあるのですね」
今猿さん
「株の予想とISO認証と単純なアナロジーで論じることができるのかどうかはわかりません。ただ考えなければならないことがたくさんありますね。
現物の株売買というのは理解しやすい。ところが先物になると理解が困難になり、日経平均先物となると私にはもう理解できません。
ISO認証というのは名前の通り二者間ではなく、第三者認証というように部外者が保証するわけです。そういう仕組みが保証になり得るのかどうか、私は出発点そのものに疑問があります」
増田准教授
「今猿さんは第三者認証そのものが、先物相場のようにおかしな存在とおっしゃいますか?」
今猿さん
「ISO認証というものが発祥したのは、ISO9000sが現れたとき、本来の二者監査の代わりに監査を代行する人が現れて、次に二者取引する前に規格適合であるとお墨付きがあれば応札に有利だと考えたからですかね?
しかしそのお墨付きが有効か否かということでしょうか?」
三木の家内です
落し胤おとしだねでもお墨付きを持っているなら将軍になれますわ」
今猿さん
「偽者なら打ち首獄門、天一坊ですよ。ISOの世界では、不祥事が出たら企業が嘘をついて認証を得た、だから認証は日時をさかのぼって取り消すってのは珍しくありません」
三木の家内です
「まっひどい話」
今猿さん
「それどころか、某社で品質問題が起きてISO9001が取り消しになったら、別の認証機関が認証していたISO14001を取り消した事例があります。ISO14001については不祥事の話はありませんでしたけど、どうしてなんでしょうねえ(棒)」
増田准教授
「なるほど、これは研究の必要がありますね。興味がわいてきました。
とはいっても、純粋な技術的な問題ではなく組織の保身とか制度の安泰を計るという企業の倫理とか組織の力学の問題かもしれません」
今猿さん
「あるいはそんな深く考えるようなことじゃなく、お金儲けのために認証制度というものを考えたのだけど、細かなとこまで検討していなかったので時がたちボロが出ただけなのかもしれません」
増田准教授
「三木さん、先ほどの話ですが、三葉先生から指示された信頼性についての調査ですが、ちょっと大仕事になりそうです。もし個人的計画というのに猶予があるなら、もう少しお仕事してくれませんか。もちろんゼミの学生も巻き込んで研究したいです」
三木の家内です
「面白そうですね。でも私がここにいるのはただってわけにはいきませんよ。学生や院生を使うならただですよ」
増田准教授
「ISO認証の処理ということであと半年とか10か月の期間限定で話を付けますよ。
今猿さん、先ほどおっしゃったあるべき姿で認証したという会社を訪問することってできますかね?
今猿さんと三木さんがいるうちにあらかた方向を決めておかないと・・・」

うそ800 本日の希望
どなたかISOの信頼性の評価とか不祥事とISOの関わりについて研究してほしいと願います。
もっともそんな奇特な方が現れる前に制度そのものが消滅するほうが早いかもしれません。


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