*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。
審査員物語とは
ダビンチの最後の晩餐に合わせて、13人並べようか とも考えたのですが、普通の会社で退職者との昼食 会にそんなに人を集めるはずありません。 |
「お待たせしてすみません。ウチでは社員が定年退職するとき昼食会をもつことにしているのですよ」
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「ほう、それはそれは、送られる身にしては光栄です。でも送る方としてはお忙しい方々ですから大変でしょう。」
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「まあ社員は100人もいないからね。平均6・7年勤務するとして毎年退職される方は約10人で月に一回くらい。それに同じ月に複数の方が退職されるときは合わせて行っているんだ。だから多くても年に12回だ」
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「送別の昼食会とは退職者の慰労なのでしょうが、私の場合はいろいろとご迷惑をかけましたので私がみなさんを慰労しなければなりませんね」
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「何をご冗談を」
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「まあまあ食べながら話しましょうや」
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三人は弁当を開けて食べ始める。結構いい弁当だ。「京料理げん」と書いてある。4,000円くらいするのではないかなと三木は思う。 すぐに肥田は話し始めた。 | ||||
「三木さんがここにこられて10年と聞きましたが」
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「はい、ちょうど10年になります」
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「この仕事は10年でやっと一人前になるくらいじゃないですか。今脂がのりきったところでしょう。引退するなどもったいない」
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「一人前というのがどういうレベルなのか、大学を出て10年たって1人前では悲しいでしょう。それにそれほど育成に時間がかかっては企業が費用を回収できません。どんな仕事でも3年や5年で一人前にならないと」
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「社長がおっしゃったのは話のあやでしょうけど、普通どんな仕事でも一人前までの猶予期間は3年が限度でしょうね。先ほど社長はここは平均勤続6・7年とおっしゃったでしょう。普通の会社に比べて非常に短い、それしか勤務しないのに育成に時間をかけては元が取れません。せいぜいのところ2年で一人前になってもらわないと」
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「なるほど、そういう風に考えると確かにそうだね。 ところでこの仕事ではどういう基準を満たせば一人前とみなされるんだろう?」 | ||||
「うーん、そう言われると・・・」
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「いろいろな考え方があるでしょうけど、一番単純明快なのは最低でも審査員に登録することでしょう。審査員補では審査の際に頭数に入れられませんから」
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「いや今のISO17021のルールでは認証機関が審査員として認めればいいわけだが」
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「確かにそうではありますが、企業に疑問というか不安を抱かせないには審査員登録していた方が間違いありません」
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「まあ確かに・・・となると審査員になるには普通8か月くらいか?」
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「ウチに来たときはみなさん審査員補には登録しています。社内研修でふた月くらい、それから書類審査を練習させて、実際の審査に4回参加させて、審査員登録機関での処理にひと月かかりますから、まあ最低半年、長くて10か月くらいですか」
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「8か月研修させて、6・7年で退職では研修期間が1割を占める。そりゃ効率が悪い。研修期間の割合ってどのくらいが最適なんだろう? そりゃゼロが好ましいが、そうもいかないから」
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「なるほど、ええっと大卒入社で60歳定年まで働く場合、先ほど話があったように3年で一人前になるとして研修期間の3年を勤続年数の38年で割ると・・・8%? この場合でも1割近くかかっているのか」
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「即戦力になる審査員経験者とか有資格者を採用すれば研修期間はゼロになるだろう」
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「いやいや、資格を持っていても当社の仕組みや統一見解なるものを教えたりしなければなりませんから。それに細かいことですが、事務手続き例えばホテルの手配とか旅費精算なんて会社によって異なりますからそういうことも教えないと。そうですねえ〜最低10日や2週間はかかるでしょう」
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「なるほどな・・・しかし見方を変えると排除できる無駄はまだまだ大きいわけだ。今までは審査員の稼働率を上げることばかり考えていたが、審査員になるまでの期間短縮もあるんじゃないか」
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「しかし審査員に登録すれば一人前というわけでもありません」
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「というと?」
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「実際に仕事ができること、それもいろいろな見方考え方があるでしょうけど、規格解釈とか社内外のコミュニケーションだけでなく、登録している産業分野が需要にあっていなければなりませんし。おっとその前に14000だけでなく9000やその他複合審査対応が多くなってきた現在、複数の審査員資格を持っていることも必要でしょうし」
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「なるほど、そう考えると一人前になるというのは半年や1年では無理だな」
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「まあ費用回収というか実際に使えるというのは突然ある日からじゃなくて、審査能力は継続的に向上していきますから、ある程度のスパンで回収できれば良いのではないですか。1種類しか審査員資格がなくても複合以外の審査も多いわけですから。 一般企業でも1年生社員はそれなりに仕事しているわけですし」 | ||||
「なるほど」
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「とはいえ、一人前の定義としては審査員資格というのは最低限でしょう。審査を一人で実施できるには主任審査員資格が必要です」
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「おお、確かにそうだ。一人で審査するには主任でないと。主任になるには審査員登録してから1年くらいあれば間に合うのか?」
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「いやいや、物理的にはそうでしょうけど、実際にはリーダーを務める機会があまりなく、申請できる経験を積むまで2年くらいかかっているのが現状です」
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「あれ、今はリーダーの経験条件はかなり緩和されたのではないか?」
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「そうではありますが、ウチではできるかぎり実際の経験を積ませるようにしています」
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「ということは3年かかるのか。ここで7年働くとすると在籍期間の4割が研修というか一人前でないということになるのか、イヤハヤ効率の悪いことだ」
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「そういうことを改善することは必要でしょうね。それこそ教育のシステム改善が必要です」
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「紺屋の白袴というところだな」
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「考えてみれが当たり前のことですが、今まではそれが当然という認識で疑問を感じなかったのでしょう。過去なんどか損益改善のプロジェクトを立ち上げましたが、そういうことはテーマに上がりませんでした」
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「これは重要だ、今後検討しなければ」
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肥田は割り箸の袋にメモをする。 | ||||
「もちろんそういう考えが行き過ぎて、あまりにも管理がガチガチになっては社員もくつろげませんけど・・・ ただ私の経験からですが、私がここに来た当時は須々木さんとか柴田さんのような陰で天皇と呼ばれたような人たちの思い込みが審査の方法や基準を決めていました。そういうことは良くないと思います。やはり当社としての統一的な規格の理解とか考え方をしっかりとそれこそ文書化しておいて、それを社員に周知徹底するという仕組みが必要ですね。社員が仕事上の判断を職制でなく、非公式に重鎮のご意向をうかがうようではまずいでしょう」 | ||||
「そうすることによってトラブルも減り、審査員が無用に悩むこともないか・・・」
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「そう思います。 環境側面の決め方についての判断とか、方針に規格の文言が入っていないことは不適合ではないとか、バカバカしいことと言われるとその通りですが、そういうトラブルが多かったのは事実ですし、当社の評判にも響きます」 | ||||
「今はそんな解釈の相違なんてことはないんだろう?」
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「いえいえ、いつの時代でも同じです。現在は・・・例えば有益な側面の必要性、有益な側面がないという不適合が最近多いでしょう。そのような判断は正しいのかを社内的にはっきりさせなければいけません。 それから経営に寄与する審査をすると当社のウェブサイトや社長の挨拶でも書いてましたが、具体的には経営に寄与するとはどういうことなのか、どのような効用があるのかというようなことを明示すべきでしょうね」 | ||||
三木の発言は肥田に思い当たることがあったようで、肥田は口をへの字に結んで斜め上を見上げた。三木はその様子を見ても気にせず話を続けた。 | ||||
「実を言いましてパントリーでコーヒーを飲んでますと、経営に寄与するとはいったいどういうことなのか、審査の場で経営者から具体的に何を提供してもらえるのか、あっ提供といっても審査ルールに抵触するような具体的・個別的なことではなく、一般的なアイデアとか情報でしょうけど、そういう質問を受けて進退きわまったなんて雑談が聞こえてきます」
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「確かに・・・軽々しくキャッチフレーズとかリップサービス的意味合いでは使えませんね」
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「話は変わりますが、というかそこからの展開ですが、認証機関のトップの考えを明確にすべきですね。まさに方針ですが」
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「方針ならちゃんと出していると思うが・・・」
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「ISO規格でいう方針は、品質奉仕とか顧客第一というような高度な理念とかあいまいな目標とかじゃないですよね。いつまでに何をどこまで達成するかということを示すものです。 ウチの場合なら、認証件数を1年後に何件にするとか、審査のトラブルを何件以下にするとか、あるいは統一見解を明確にするとか、とにかくそういう形で示して、社員にそれに向かって行動させなければなりません」 | ||||
「おいおい、ISO17021で認証機関にそこまでは要求していないんじゃないか。認証機関は一般営利企業とは存在目的が違うから改善というのもピンとこないし」
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「いえ組織運営機構に関する要求事項で項目だけですが、方針の策定やマネジメントシステムの開発などを挙げているはずですが」 (cf. ISO17021:2011 6.1.2) | ||||
「要求事項にあるなしに関わらず我々自身が改革を進めなくて、人様に改革を要求したり、あげくに改善に寄与するなどとはおこがましい話だな」
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「普通の会社では毎年事業計画を考えます。中期計画とは3年とか5年でしょうけど、その間見直さないわけじゃなくて、毎年実績を反映して中期計画を見直しローリングしていくと思います。 認証機関も自分たちがどうあるのか、どうするのかということを幹部が考えるだけでなく全社員に意識を持たせ行動させなければ前進はありません。審査が基準に定められたある意味定型化された仕事であるにしても、いつも同じ審査をするだけなら進歩がないということです」 | ||||
「三木さんの考えることは具体的に言えば?」
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「私も話しながら考えているわけで詳細まで詰めているわけではありませんが、日々の業務から改善や新事業のアイデアを抽出し目標を決め実施計画をたててそれをブレークダウンして全社員、契約審査員を含めて割り当て、その実現に向かって改善に務めさせることでしょうか。ISO規格で言っていることと同じですね」
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「実務を担当している人にも改善活動をさせるのですか?」
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「そうです」
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「本来業務以外をさせるのは・・・」
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「それが当然という理由は二点あります。 ひとつは改善と言っても業務と無関係なものではありません。いや業務そのものの改善と言いましょうか・・・審査員なら礼儀作法や言葉使い、コミュニケーションの向上を取り上げたとすれば、各員にそのための基準や手段を指示して実行させることです。そして管理指標はトラブル件数であってもアンケートの回答状況でも・・あのこれは例えばの話ですよ。 ええともう一点ですが、普通の会社といっても私は自分が勤めていた会社と付き合いのあった会社しか知りませんが、どこでも全社員が改善が義務でした。営業なら売り上げを伸ばせとか苦情の迅速な処理、資材なら安く買うとか調達期間の短縮、管理部門の社員だって個人でできる会社製品の販売活動とか、費用の削減とか、要するに改善が義務であり当然ノルマがあるのです。 肥田社長も経営を考えることだけでなく、戦略価格を懐にして大手企業に営業活動しているじゃないですか。審査員は審査をしっかりすればよいというものではありません」 | ||||
「いや三木さんのおっしゃる通りだ」
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「しかしそうなると審査員の抵抗、審査員ばかりでなく事務職などの抵抗も大きいんじゃないかなあ〜」
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「昔、小集団活動なんてありましたね。今でも『QCサークル』なんて雑誌があるようでまだ火が消えたわけでもないようですが・・・現場ではQCDを改善しようと、身を削って改善しているわけです。目標を達成したら人が半減してしまう、自分がいらなくなるんじゃないかという改善をですよ。 審査の効率が良くなったら審査員を減らすことになるから改善しない方が良いなんて考える審査員がいたら、日本の製造現場に笑われますよ」 | ||||
「イヤハヤ」
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「ものつくりの現場ではそれが当たり前です。オフィスワークであっても同じことです。 そういう改善する意欲と己に対する厳しさがなければ自由主義世界では敗者になるしかありません」 | ||||
「しかし・・・今の審査員はそのような考えにはとても付いてこないでしょうね」
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「それを動かすのが経営者です。織田信長が少数の兵を連れて熱田神宮に駆けたような信念と勢いがなければならんでしょう。目標を掲げて身を捨てて行動したから多くの将士が着いてきたのです。勇将の下に弱卒無し。さもなければ桶狭間の戦いはなく織田信長は歴史から消えていました」
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「いやいや、三木さんのお気持ちはわかりますが・・・ここを老人ホームと思っている審査員が多いんですよ」
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「三木さんが認証機関の経営者ならぜひともしたいことってなんですかね?」
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「まず審査の品質管理ですね。製品でもサービスでも品質は重要です」
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「確かに審査はサービスで、サービスは提供する人に多くを負うという特有の性格を持っている。今は品質のばらつきが大きいからねえ〜。上はともかく下の2σはずれはなくしたいね」
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「いや水準以下を切り捨てればよいわけじゃありません。目標値を上方にはずれているのも問題です。実際に検討を進めるには品質というものも定義しなければなりませんが・・・人のあしらいとか話の面白さとかかもしれませんが、そういうことが平均よりも良いというのも問題です。というのは平均より良い人がいると客は平均の人に対して不満を持つことになります。ですから上は良いということではなく、とにかく提供するサービスのバラツキを少なくする必要があるのです」
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「うへえ、そうなるのかね?」
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「カリスマ審査員なんて呼ばれる人がいますね。そういう人の中には認証機関の定年になると自分で認証機関を作る人もいます。 しかしおかしいと思いませんか。ISOとは標準化です。名前そのものが国際標準化機構ですからね。標準化とは仕事の方法だけでなく仕事をする人の力量を一定水準にすることでもあります。 いつまでたってもカリスマ審査員が少数であるということは、その認証機関は審査員の力量を分析していないのか、教育訓練システムが有効でないのか、そもそも力量のある人を作るのは標準化できないのかということになり、カリスマ審査員がいるということ自体おかしなことです」 | ||||
「確かにカリスマ審査員と呼ばれる人がいるね。そういった有名人は本を書いたりインタビューを受けたり露出が多いけど、カリスマ審査員を再生産しているというのは聞いたことがない。考えてみるとまったくおかしなことだ。カリスマ審査員が優秀な人を育成できないとはカリスマじゃないってことか?」
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「イギリス海軍では、多くの艦長を育てた艦長が評価されると聞いたことがあります。ウチも優秀な審査員を育てた審査員のノウハウを吸収して、短期間に審査員を育成するシステムを考えなければいけません。良い審査員になるには素質が必要なんて言うようでは認証機関として恥ずかしい。 提供するサービスの品質の平均をあげそのバラツキを少なくしていく、これが当社の生き残りのためにやらなければならないことですね。社員だけでなく契約審査員も含めて」 | ||||
肥田は割り箸の袋にメモをしている。 もう書くところがなくなってきたようだ。 | ||||
「もちろん簡単にはいきません。それを推進しようとすると抵抗があるでしょう。人間は基本的に保守的ですからね。そして社長も何もしないことが一番楽だと気付いて改善を放棄してしまいたくなるでしょう。 革命家はまず自分を改革しなければならないという言葉があります。経営者が絶対必要なもの、それはビジョンでしょう。こうありたい、こうあるべきだというものがなければ人の上にはたてません。そしてみんなを引っ張るリーダーシップが必要です。それはまさしくISO規格でいう経営者の責任です。青臭いかもしれませんが、私はそう考えています」 | ||||
「三木さん、三木さん、そうおっしゃるな。私は取締役といっても出資会社の代表というだけでISO審査というビジネスにおけるあるべき姿など見極めていませんよ」
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「三木さんはご自分でも青臭いとおっしゃたが、私も青臭いと思う。だけどさ、青臭いことが悪いわけってことではありません。 私は社長になりたいと思っていました。それは社長の名刺を持ちたかったということじゃないと自分では思っているのです。この会社を自分の代で立ち直らせようとか少しでも大きくしようとか、ある意味自己顕示欲かもしれませんが、そういう気持ちでしたね。 今三木さんのお話を聞いて、社長になって1年が過ぎその初心を忘れていたのに気がつきました。 潮田さん、前任者、前々任者のように、単に仕事を引き継いでことなかれで任期を過ごすのでなく、ここで踏ん張ってみませんか」 | ||||
「いや・・・・それはもちろんです。 三木さんのお話にはまったく同意です。いささかてらいは感じますが」 | ||||
「いや、私ごときが余計なことを述べてしまい失礼してしまいました。ともかく物事は一人では成しえない。リーダーが考え、みなを動かさなくてはならないということです」
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「やりますよ。10年もしたらあのとき肥田社長と潮田取締役がいたから今があると言われるようにしましょう」
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「期待しています」
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「それにしてもこのようなときに三木さんが引退するとは残念至極」
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「三木さんは引退したら何をするの? ゴルフとか旅行と言っても、そればかりを毎日するわけにはいかないからねえ」
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「とりあえずは習い事の教室、フィットネスクラブ、地域のNPOなどを見て歩くことを考えています。その中から気に入ったことを始めてみようかと・・・ 笑わないでほしいのですが、実は一つだけ決めたのがあるのです」 | ||||
「ほう、それはなんですか? ぜひともお聞きしたですね」
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「本を書こうかと考えています。いつの時代でも誰でも本を書いて残したいってのは願望でしょう」
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「出版社が出してくれればいいけど、自費出版となると金がかかるでしょうねえ」
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「確かにそうです。今の時代はブログとかウェブサイトとかネット小説とか、自分の主張を発信する方法は多々あります。でもやはり形ある本にしたいという気持ちはお分かりいただけると思います」
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「分かります。どんなテーマでしょう?」
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「自分史ですか? 自分史は定年退職者の定番らしいですね」
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「自分史というとそうかもしれません。正直言ってタイトルは『審査員物語』としようかと考えています。ストーリーはISOも環境も何も知らない人間が、ISO審査員になれと言われて右往左往しながら審査員になっていく物語を自分の経験をもとに書こうかと」
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「メインテーマは何ですか? 単なる体験談ではないのでしょう。ISO認証制度の問題提起とかですか?」
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「審査とか認証というのは単なる舞台というか背景です。テーマはそんなニッチというか特化したものじゃないんです。いやむしろ古典的、普遍的なことで、人はいかなる状況でも誠実であり努力しなければならないということを書きたいですね。 平凡で並みの人間が逆境とまではいきませんがまったく未知の分野にチャレンジを求められたとき、どうあるべきか、どう生きるべきかというのを描きたい。人生において出自やハンディキャップや運不運なんて自分が選べるわけではありません。人生の価値とはどのレベルに達したのかではなく、本人がどれだけ努力したかであるはずです」 | ||||
「クーベルタンだね、成功することではなく努力することだ」
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「成長物語ですね」
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「いやいや教養小説のような高尚なものじゃなくて窓際の中高年への応援歌ですよ」
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「それは面白そうだ。私も登場するなら半沢直樹みたいな役にしてほしいな。悪役はいやだよ」
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「もちろん審査員になるお話の中には、ISO認証制度や規格解釈などに辛口批評も盛り込むのでしょうね」
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「そのへんはご想像にお任せしますよ」
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「人物や会社名はそのまんまってことはないんでしょう? トラブルが起きると困るし」
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「そこは考えてます。ご芳名は例えば須々木取締役なら須崎取締役にするとか木村審査員なら北村審査員とか、ひとつだけ決めたのは認証機関の社名はナガスネ環境認証機構にするつもりです」
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「ナガスネってなんですか?」
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「最近古事記を読み始めましてね、引退後は古事記を勉強しようと考えているのですが、それはともかく、たくさんの固有名詞を考えるのがめんどうなので古事記に出てくる人名や地名を借用しようかと」
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「古事記でナガスネというと、ええっと、ナガスネヒコってのは神武天皇が東征、つまり九州から近畿地方にやって来たとき神武天皇に刃向った近畿の豪族だったはず」
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「その通りです。良くご存じで」
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「つまり正義に逆らう悪逆な認証機関というわけですか?」
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「いえいえ、歴史に善も悪もありません。ただ時代に遅れていたのは間違いなく、それにちなんで名付けようかと」
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「聞けば聞くほど面白そうだ、期待してますよ。出版されたら教えてください。何部か買って社員に読ませよう」
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「いえそれには及びません。お世話になった方々には贈呈いたします」
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「うまくいけばベストセラーになって映画化されるかもしれないね」
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肥田社長が以前のチャラ男でなくまともになっていて、あれっと思われた方がいらっしゃるかもしれません。地位は人をつくるといいます。普通の人なら重要な地位、職位に就けばそれなりに努力しますし、その立場でものを考えます。肥田さんも社長に就任してはや1年、それなりになって当然です。 ひょっとしてナガスネ環境認証機構は大化けするかもしれません。もちろんこのままポシャル可能性も大ではありますが・・ |
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マーキーは現在は使っちゃいけないTAGなので、うまく表示しないブラウザもあります。
まあ、表示が多少おかしくても目をつぶってください。
アンコール もちろん審査員物語です。 せっかく14001も改訂され間もないですし続けてほしいです。 隠居しのんびりするはずが未だにISOに振り回されている。 そんな人がいませんか? ^^ せっかくのためになりつつ楽しいお話。 時折でもいいので続けてほしいです。 よろしくお願いします。 追記 エンドロールに載せていただけるのなら 料理が好きなので(美味しいとは絶対に言わない)キッチンスタッフとか消え物係とかお弁当係で載せてほしいです。 |
神部お嬢様 毎度ありがとうございます。 あなたは大いに誤解しています。ひょっとしてマンションの5階にお住まいかな? こんなオハナシ、ためになるわけありません キリッ とはいえ元がヒマなので暇つぶしに書いていたもの・・・・次は何をしようかと考え中です。 ご依頼の件、 Food adviserとしてMs.Kambeを追記しました。ご不満な場合、ご尊称のご希望を明記ください。 |
審査員物語、ご苦労さまでした。 最後を自分の意思で〆るのは意外と難しいものです。かの源氏物語も読者の反響が大きすぎたために終われなくなり、あそこまでの長編になったと云いますし。 おっと、この後には当然、エピローグがあるでしょうね? |
名古屋鶏さん ご感想、ありがとうございます。 エピローグ? ご冗談を、私は常に前を向いている男、次に何をしたらよいでしょうか? |
ISOの勉強に利用させて頂いております 初めまして、タカヒロと申します。 弊社でISO14001を新規取得するにあたり、立ち上げメンバー及び事務局に任命されました。立ち上げ業務のなかでISO関係の不明点があれば、こちらのサイトを拝見させて頂いております。 特に助かったのが環境目的の項目です。環境方針と環境目標は理解できましたが、環境目的だけがどうしても意味が分からず困っておりました。 環境目的という項目自体に違和感があると分かっただけでもすっきりしました。 取得審査の事務局インタビューが怖いですが、何とか頑張ってみます。 このサイトの説明がとても読みやすく大きな助けになっております。 お忙しいとは思いますが、日々の更新を楽しみにしております。 ありがとうございました。 |
タカヒロ様 お便りありがとうございます。 最近は規格解釈を書くのがネタ切れで、もっぱら小説もどきを書いておりました。これって考えなくてもよくてラクチンなんです。 2015年版もいよいよ本番になってきましたので、これからは2015年版について書いていこうかと考えております。 タカヒロ様からお題を頂ければそれについて書きましょう。なにせトリガがないとなかなか書きはじまりませんし、テーマが与えられたなら、書くのは簡単ですから。 おっと、審査員には「うそ800」を読んでいるなんて言っちゃいけません。私は蛇蝎のごとく嫌われていますから 気が向いたらまたお便りをくださいね♥ |
おばQさま 長年にわたる力作でも終わりがあり、終わってしまうととても寂しいです。 とは言え、お疲れさまでした、とても参考になる連載を書き続けられた事に感謝いたします。 このシリーズへの感想もとりあえず、最期になりますが 環境マネジメントシステムと経営の乖離 まさかISOのために文書管理や教育を始めたという会社はないだろう? それともそんな会社が存在するのだろうか? これが実際にあるのです。お役所や、大手の調達部門は、オープンに行う事を建前上では求められますので、全く知らない会社、つい最近できた会社も募集してくるのです。 中には、補助金目当てで、貰ったら潰そうと思っている会社もあります。 そんな会社などを、とりあえず選別するには、文書を出させるよりもISO認証の有無が、一番簡単なのですよね。 起業して、今は小さくても、社内の整備をするならば、とりあえずISOに基づいて整備した方が購買面では良いかもしれません。 いづれにせよ、おばQさまがおっしゃっていた事と全く矛盾せず、認証の需要とは、この程度なのです。 歴史もある規模の大きい会社が、毎年 認証を取る必要などはありませんし、昨今の経済状況では退職者の仕事に充てる余裕もなくなってきたのです。わざわざ会社を作ってお金を出すくらいならば、当人に退職金として渡す方が、税金面でも望ましいのだと思います。 「最期のレストラン」 これは全く知りませんでした、いかにおばQさまが、新しい事に興味をもっているかの証拠ですね。 面白そうなので、今度 Book*ff辺りで探してみます。 「大儀」は、目上から目下に使う言葉ですから、安徳天皇が仰るは正しいのでしょうけれど、 「大変な事」という意味の用例としては明治くらいまでしかないのでは? 鎌倉期の用例では、「朝廷の大きな儀式」という意味なので、少し違うので違和感を覚えました。 マンガに突っ込む奴の方が、おかしいのですが(笑) もちろん、大和特攻は、国家の大儀だと言えば、その通りなのかもしれないのです。 「悠久の大儀」は、あの頃の流行語ですから。 最終回: まさかスタッフロールまでおつくりになるとは思いませんでした。 感慨深く拝見しました。 重ねて、今までのご苦労に御礼申し上げます。 外資社員 |
外資社員様 いつも多方面にわたりご指導いただきましてありがとうございます。 エンディングロールには外資社員様を・Organization theory instruction:Mr. Gaishi Shainと組織論指導として掲載しておりましたが、それだけでなく、セリフ監修、敬語指導、古典文学、古典芸能、ビジネスマナー指導、その他もろもろ付け加えなければなりませんね。ご希望がありましたら掲載項目をご連絡ください。 おっと「外資」はファーストネームじゃない、「社員」はファミリーネームじゃないなんて真面目なことを言っちゃいけません。ダジャレですよ、ダジャレ 「最後のレストラン」の引用についてはお許しください。 おっと本題に戻りますが、2015年版では文書化は必要最低限でよい(そうあるべきという意味と私は理解しています)と力説していますから、必要なければなくてよいはずです。もっとも文書化の程度は構成員のレベルによるともありますので、全員が共通認識を持っていればよいのですが、人によって言うことが違えばだめですね。どんな組織でも人によって考え方や認識が違うから規則を決めてそれに従わせるわけで・・・やはりルールは文書化しないと動かないでしょう。 我が家でも家内と私の認識がずれていつももめております。熟年離婚も間近か? |