「戦術学入門」

2016.04.25
お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。
特に今回はこの本を読んで考えたことはISOマネジメントシステムについてですので、戦術とか戦闘とは全く関係ありません。それをまず初めにお断りしておきます。

タイトル著者出版社ISBN初版価格
戦術学入門木元 寛明光人社97847698293002016.02.18750円

先日、用件は忘れたが津田沼に行ったとき、時間をつぶすためにそう大きくない本屋に入った。小さな本屋だったので何も買わずに出るのも気がひけ、場所代代わりに文庫本を1冊買った。買う前に中身をチェックしたわけでなく、「戦術学入門」というタイトルが気になったという理由だ。
特段興味があるわけでもなかったので、本棚の未読の場所に放り込んであった。その後、用があって東京に出かけるときに電車の中で読み始めた。結構活字も小さくボリュームがあり、それから数日フィットネスクラブとか図書館に出かけるとき電車の中で読んだ。結果は面白かったというか、マネジメントの考えというか、ISOの発想に思い至ったのでここに書く。

まずこの本は自衛隊OBで定年退職後、現役のときから戦術を研究していたが適切なテキストがなく自分で書こうと思いたったという。なおこの著者木元さんは野中郁次郎たちが「失敗の本質」の元となる研究をした時のメンバーの一人だったという。木元さん、只者ではない!
兵士 この本は基本的に実際の戦闘において、いろいろな事態が起きたときどう対処すべきかという、現地指揮官(概ね大隊長から中隊長クラス)としての心構え、過去の戦闘事例と判断の基準などについて多面的に述べたものである。退却するときは一部を犠牲にしても本体を生き延びさせるべきとかかなり生々しいことも書いている。実際そんな事態に至れば命令する指揮官よりも命令に従うだけの兵士の方が気楽だと思う。

そもそも戦争とはマキャベリが語るように外交と一連のものである。まずは国家として何かを実現しようという目的があり、その方法として外交があり、戦争に至る前に戦略があり、実際の戦争になったときにうまく戦うための戦術があるという階層構造になる。
そしてマキャベリをはじめとする戦史家、将軍などにより戦争について研究されてきた。そういった大きな組織を動かし目的を達成するという研究とその結果としての手法は、戦争だけでなく企業においても応用が利き、経営学や企業の管理において戦略、戦術というものが転用されるようになってきた。
ところで軍事においてだけでなく、政治や企業経営においても下層にある戦術よりも上層の戦略が重要だという認識があると思う。一例として、アマゾンの書籍検索で「経営戦略」をキーワードにすると3154件みつかり、「経営戦術」では247件であった(2016.04.20時点)。
もちろん考えれば、戦争になる前に政治、外交で決着をつけることがベストであり、それで決着がつかなければ戦略レベルで対処するのがベターではあるが、どうしようもなくなったときドンパチすることになり、その時必要になるのが戦術です。
将軍だけでは戦争ができないし、より正確に言えば戦争ができる体制でなければ戦略もないし、外交もできないのだ。兵力の最高の使い方はプレゼンスだという言い方もある。ともかく外交官や将軍だけでなく、小隊長も必要だし、兵卒も必要だ。誰が一番重要とかいうことはない。
だからみながみな戦略を語り研究してもそれは片面的であり、あらゆる階層、あらゆる事態について研究しなければならないのは当然である。軍隊で師団をいかに動かすかという研究や新しいビジネスモデルを開発していても、50人の小隊をどう指揮すべきかとか、与えられた環境下で物を売るにはどうするのかということは戦略だけではどうしようもない。そしてどのようなカテゴリーにおいても、最終的にオペレーションを行うときには最前線の指揮官も必要だし、コンバットの戦術も必要になる。

前述したようにこの本は現場指揮官のためのテキストあるいは目次というべきものであるが、解説の中で経営とか管理ということへの適用例とか対比を取り入れていて、それが面白い。
お断りしておくが、本を読んで面白いと感じるかどうかは読者の過去の経歴、関心事、将来の目標などによるわけで、私が面白いと感じても他人が面白いと感じるかどうかは定かではない。いや、面白いとは感じないだろうと述べておく。特にこの本は小説や喜劇ではないのだからそれは当然だ。

ともかく次に進もう。
この本を読んで私が驚いたことがたくさんある。マネジメントに関するツール、考え方、用語などで軍隊から来た言葉が多いことは知っていた。事業部の英語はデビジョンであるが、これは師団を意味する言葉だ。師団とは司令部を持つ軍の単位であり、企業において独自に経営判断する組織単位を事業部と呼ぶのと同義である。まあその程度は知っていたが、類似というか軍隊から来た用語はザクザクあるのだ。
ナリッジマネジメントなんてのが流行ったのは20世紀末だったが、それはアメリカ軍の情報管理の手法として何十年も前からあったという。

そしてもっと驚いたのが、プロセスという言葉だ。ISO9001がプロセスを言い出したのは2000年だったろうか。当時は営業プロセス、資材調達プロセスなどを考えてーなんて解説があったように思う。そのとき私はISO14001専任だったが、近くの席でISO9001担当が2000年対応をコンサルに教えてもらっていた。コンサルは2000年対応には、いくつかのプロセス、つまり購買とか営業をとりあげて、その仕事の流れを説明すればいいんですなんて語っていたのを耳にしていた。当時の私はそんなことに関心もなく聞き流していた。
ところがところが、アメリカ軍におけるプロセスとは「一般語のプロセスとか漠然としたものではなくて、具体的な行動の手順を意味する」という。(本書p.33)
男
今まで私はISO規格2000年版でプロセスを言い出したのは、それまでのISO9001があまりにも機能別要求事項だったから、それを反省して機能ごとに手順を考えるだけでなく、業務フローに沿って手順を考えろということと思っていた。しかし、この文章を読むと個々の業務の手順を考えるのではなく、全体のプロセスを通した手順を決めろという意味だったのではないかと思った。実を言って私の体験であるが、1990年代前半のことISO認証するぞと頑張っていた会社で、ISOの項番に対応する手順書はあるが、それ以外の事項については手順書を作っていない会社があった。まあ、驚くことはないか、というのは手順書を作らずすべてをマニュアルに書き込めなんて騙っていたコンサルは掃いて捨てるほどいたのだから、(今でもいるようだ)

思い出したのだが・・ 私が初めてISO9001に取り組んでいた時、私より20歳くらい上で嘱託だった方が言った。
「ISO9001というのは必要条件をすべて網羅していないように見える。これは規格が不備とか未熟なのではなく、規格そのものが抜き取り的な発想で作られているからではないのだろうか。つまり企業に要求することはたくさんあるが、そのすべてを監査なりで見るのは大変だ。だからたくさんの要求事項から抜き取って文書にしたということではないのだろうか?」
私は真偽は分からない。ただ当時のISO9001の要求事項をすべてしたところで客の求めるものができるとは思えない。あるいは規格要求事項は山頂のようなもので、その山には広い広いすそ野があり、山頂を実現するには裾野から作り上げなければならないのかもしれない。
いずれにしても規格要求事項を満たす方法をマニュアルに書いたとして、それだけで企業が動いて、その結果規格要求事項を満たすとは思えない。生涯サラリーマンを勤めあげた者としてそう思う。
マニュアルにすべてを書き込んでしまえば手順書を作らないで済むと騙るコンサルは、実際の仕事をしたことがないか、よほど単純な業務経験しかないのは間違いない。

どちらにしてもISO規格なんて即物的なものであって、漠然とした哲学的な意味深なものであるはずがない。

では過去ISO規格ではプロセスをどのように語っていたのか?
気になったので過去の版から読み直して比較してみた。

ISO9001 版によるプロセスの定義の変遷
内容
1987年版プロセスの定義なし。
1994年版入力を出力に変換する、相互に関連する経営資源及び活動のまとまり
参考 経営資源には、要員、財源、施設、設備、技法及び方法が含まれる。
2000年版インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動
参考1プロセスのインプットは、通常、他のプロセスのアウトプットである。
参考2組織内のプロセスは、価値を付加するために、通常管理された条件のもとで計画され、実行される。
参考3
2008年版インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動
参考1〜32000年版に同じ
2015年版インプットを利用して意図した結果を生み出す、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動
注記1〜5

これをサラリと読めばインプットされた情報なりマテリアルがいろいろと加工や処理(プロセス)されていくイメージが浮かぶ。
しかし1994年版では「経営資源には、要員、財源、施設、設備、技法及び方法が含まれる」とある。これを文字通り理解すると、プロセスとは処理していくイメージではなく、処理する手順ではないのだろうか?
ちょっと待てよ。2000年以降は1994年版ISO9001にあった「経営資源」がなくなっている。2000年以降は経営資源はいらなくなったのだろうか? 1994年版では「プロセスとは手順である」と言ったものの、2000年以降は気が変わったのか?

我が愛しきISO14001:2015ではプロセスは「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」と定義されている。そして注記がある。注記を見ると「プロセスは、文書化することも、しないこともある」とある。
ISO14001:2015のプロセスはISO9001:1994の意味を継承しているように思える。文書化しようとしまいと、プロセスは一般語のプロセスではなくプロシージャではないのか?

そういうと、手順(プロシージャ)があって、プロセスも手順だというのは言葉がダブるからオカシイというご意見があるだろう。私もそう思う。

英英辞典を引くと
・procedure:a way of doing something, especially the correct or usual way
何かを成すための適正あるいは一般的な行動
・process:a series of actions that are done in order to achieve a particular result
特定の結果を出すために行う一連の行動

上記ばかりではなく、この二語が同じ個所で使われている文章をいくつか検索したが、いずれも「全体の手順がプロセスで、一部分の手順がプロシージャ」というニュアンスのようだ。もちろんその手順を文書化するか否かはまた別問題である。
ともかくプロセスとは漠然としたものではなく、具体的な管理(control)の基準となるものなのだ。個々の業務ならプロシージャに従って管理し、全体の業務はプロセスに従って管理する、そう考えるとISOでいう「プロセスコントロール」というものが分かるような気がする。プロセスコントロールとはただ漫然と管理することではなく、流れを定められた手順(プロセス)を基にして管理することだろう。
そう考えるとプロセスコントロールとは「適当にいくつかのプロセスを考えてー」なんていうような漠然としたものじゃなかったのだ。

言葉はすべてユニークな意味を持ち、正確に意図を伝えるために言葉を選ぶだろう。特に教科書や公文書においては定義を決めて、誤解のないように厳密に文章を書くに違いない。
ISOMS規格で使っている言葉は、一般の辞書の意味ではなく、経営学でどうなのか、軍事用語にさかのぼってどのような意味に使われているのかを確認しないと本来の意図をつかめないのではないのかと気が付いたということだ。
もちろんプロセスばかりじゃない。ナリッジマネジメント、オぺレーション、アスペクト、オブジェクト、インプレメンテーション、デベロップメント、システムその他の単語について、すべて軍隊ではどんな意味で使われているのか、その応用として経営学ではどんな意味で使われているのかと勘繰らないと、ISOMS規格など理解できないのだろう。それを考えずにしかも英文でなく日本語訳したものを読んで規格を論じるなんて馬鹿丸出しということになる。いや、それは私の反省(半生?)である。

その他、三面等価というのは経済学の用語かと思っていたら、元々は軍隊の考えらしい。しかも三面とはお金ではなく権限・責任についてなのだ。
三面等価の原則

小さくても大きくても、分割しても
この三角形の関係は変わらない。
聞いてみなくちゃわからないものだ。しかしこの三面等価を理解すれば、多くの品質マニュアルや環境マニュアルに書いてある責任、権限の使い方が変わったのではないだろうか?
責任と権限を有するというフレーズはいたるところで見かけるが、責任を有して権限を有さないということはるのかどうか?
もっとも決裁権限がなくても実施責任を負うのは、これまた当然である。
そして軍隊が追い求めるものはスキルからテクノロジーにすることだという。経験知(暗黙知)を形式知(言語知)にするという必要性、発想というものも軍隊からという。
そして面白いと思ったのは、時とともに変わる流動的なものを「Operation」とし、変わらないものを「Tactics」としているということだ。この辺の考えはいまだにISOMS規格に取り入れられていないように思う。

しかし・・・冒頭にこの本は目次のようなものと書いたが、まさしく著者の語ることを理解しようとすると、おびただしい引用文献、参考文献を読まないと理解できないことが多い。引用文献にアメリカ陸軍の戦闘マニュアル「TACTICS」もあるが、これはなんと600ページもある。私の英語の力では目次を斜め読みしただけだ。ところがこの「TACTICS」を読む前に軍事全般の基礎知識が必要であるという。ヤレヤレ

零戦本日悲しいと思ったこと
「将来も依然予想される日本陸軍の物力不足に応ずるため、特に軍隊の精錬が必要である」
(「戦法訓練の基本」明治41年日露戦争の経験から作成された)
元々旧日本軍が大和魂を語ったのは、精神力があれば勝てると考えたのではなく、物資がないならせめて頑張ろうということだったのだ。
ガンバロー 労働組合が「ガンバロー」を叫びこぶしを振り上げるのは虚しくありませんか? あなた方はリソースがあって頭がいいのだから、スローガンを叫ぶのではなく、理論とそれに基づく行動をしましょうや
勘違いなさらないように・・・私が悲しいと思ったのは、リソースの絶対的不足を精神力で頑張ろうとした日本陸軍ではなく、リソースがあふれているのに頭脳が不足している連合のことです。


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