認証件数を考える

16.02.18
半年前に書いた「未来の予想」の続きというか、同じテーマである。マンネリと言われると返す言葉もない。
実を言って審査員物語を書いていて、三木に私の思うところを語らせていて、これは一つまとめて書かないといけないなと感じたので改めて書いたというわけだ。

もう何年間もISO9001と14001の認証件数は減少傾向にある。今減りつつあるということは、過去は今より多かったということでもあり、そして認証件数が必要な数より多かったからその分が減ってきているということでもある。そしてまだ余分な分が減りきっていないからこれからも減っていくだろうと思われる。

登録件数推移

ちなみに開発途上国、例えば中国では今でも登録件数は増加傾向にある。しかしISO(だけでもないが)先進国である英国や日本では過去より減少している。その他の先進国では認証件数がまだ伸びている国もあるが中国など途上国のように増加してはいない。
私は嘘を言うかもしれないから元データで確認してほしい。
開発途上国ではISO認証が必要で、先進国になるほど認証が不要とまでは言わずとも重要性が低下するのだろうか? 先進国ではISO認証の価値が下がるのだろうか? あるいは認証のハードルが高くなるのか? 費用が国民所得以上に増加するのだろうか?
ちなみに審査員の賃金はその国の平均賃金にスライドするとかいう決まりがあったはずだが、あれは前世期のことだったから今はルールが変わったかもしれない。
そんなことを考えると興味は尽きない・・・私だけかもしれないが、

一般論として考えると、認証件数はどんな要因によって、どのように決定されるのだろうか? 植生の遷移とか製品のライフサイクルというような認証件数の変化の一般解というか標準パターンというものはあるのだろうか?
という愚問を考えるのが今日の課題である。
数学においては、与えられた問題を解くよりも問題を考える方ことが価値があるという。私の愚問もそれなりに価値があるかもしれない。ああ、もちろんないかもしれない。

森林の遷移
草草 矢印


草草草
草草灌木草灌木草 喬木喬木喬木喬木
裸地 →1年生草本多年生草本草地に木々が散在する森林

植生の遷移は気候その他の環境が一定なら落ち着くところに落ち着く。最終的に到達し変わらない状態を極相という。日本では人の手が入らなければ、南2/3は照葉樹林となり北1/3は針葉樹林になるらしい。極相は平衡状態であり環境条件が変わらなければ一定である。気候が変わり雨量が減れば、喬木から灌木になり草原になり砂漠になる。あるいは気温が変わればそれなりに。地球規模の地殻変動や気候変動があれば、よりドラステックな変化が楽しめる。高い緯度にあるイギリスの白い海岸は大昔サンゴ礁だったそうだし、南極でも恐竜の化石が発掘されているという。

認証制度は製品/サービスではないが提供するサービスである審査と認証は製品だから、プロダクトライフサイクルという発想ができるはずだ。となると植生のように極相を目指して進化していくのではなく、一般的な製品のライフサイクルのように、新製品(またはサービス)がでると、だんだんと伸びてピークに達したのちゆっくりと減少していくのだろうか?

プロダクトライフサイクル

現在までの日本のISO認証件数の推移をみると、急速に立ち上がりピークに達したのちは緩やかな減少カーブを描いているのを見ると、植生の遷移ではなく製品のライフサイクルのように見える。見えるが、そうなるのかそうでないのかは考えると面白い。プロダクトライフサイクルといってもそのカーブは多種あるらしい。認証ビジネスのサービスの結果である登録件数は果たしてどんなカーブを描くのか?
データ豊富なISO9001と14001を見ると、登録件数のカーブは似ているようにも見えるし、異なるようにも見える。登録件数も認証開始からの年数も異なるので、グラフの年の間隔を固定して縦方向を9001に合わせて拡大し左右のずれを調整すると、ISO14001を2年前にずらすとほぼぴたりと合う。

ISO9001とISO14001比較図

横方向の差は認証開始時点の違い、縦方向はまあ認証需要の差だろう。年次の変化は差がないということはほぼ同じ条件で認証件数が決定されるということに思える。
ちょっと疑問に思ったことだが、過去20年間に恐慌とまでは言えないが不景気が何度かあった。東アジア危機(1997)、ITバブル(2001)、リーマンショック(2008)、それに東日本大震災(2011)などなど、いずれも日本は大きく揺さぶられ、数多くの倒産企業も出た。しかしグラフにはその大変革の傷跡が見られない。これはISO認証のライフサイクルの決定要因は経済危機よりも大きな影響を持っている、別のものということになるのだろうか?
考えてもわからないから次に進む。

コトラーは、つぎのような指摘をしているそうだ。
「ライフサイクルはあまりに多様であり、かつ個別企業の活動自体がプロダクトライフサイクルに影響を与える」「あるブランドがうまくいかないと、企業は『衰退期に入った』と判断して広告を止める。その結果としてそのブランドは本当に衰退していく」。そして、なんと「プロダクトライフサイクルに基づいたマネジメント活動は、多くの場合有害である」と語っているそうだ。
このご宣託を受け入れるならば、ライフサイクルありきというスタンスでISO認証制度の先行きを考えるのは間違いかもしれない。
今現在の位置と様々な要因を考慮して今後の推移を考えるのが妥当かもしれない。
実を言って家電品とか車とかの過去の生産量、出荷台数などのデータと認証件数の推移を比較してみたのだが、ピタリというのはなく類似カーブから今後を占うのはアブナイと思って止めた。

車 ライフサイクルから離れてちょっとした思考実験をしよう。
なにものでも存在する数はどんなことによって決まるのか、そしてどのくらいの数字になるのかということを考えてみよう。
日本に自動車は何台あるかというと、2015年11月時点で81,221,957台だそうです。
この台数は事業用や個人用で必要だから保有されているわけです。必要というのは、実用もあるでしょうし、スティタスシンボルのこともあるだろし、クラッシックカーなどであれば思い入れがあってとか、将来値上がりするだろうという投機的な理由から保有することもあるかもしれない。実用ということに限ってもその台数はさまざまな要因が関わる。ネットをググると日本の保有台数変化のグラフが見つかる。過去長年増加してきたのは、人口増加や国民所得増加ということが大きいだろうが、その他にも核家族化、家族の年齢構成、家族数、所在地の環境、まあいろいろな条件が影響して今の台数となっていると思える。これから人口減特に若年層が減少し、ゆくゆくGNPが減少していけば登録台数は減るだろうし、あるいは高齢化が進めば歩けない人の移動手段として一層増加するかもしれない。いずれにしても今現在を考えれば人口13,000万で現状の豊かさであれば8,000万台というのは安定した数字であるように思える。いや安定した数字だからそうなっているのだろう。少なくてもここ数年は大きな変化がないのだから極相と言ってもいいのかもしれない。
歯ブラシの販売数だって人口、歯磨きする割合、そして一人あたりの年間消費量との積で決まるだろう。
注:実際は年齢構成の変化、電動歯ブラシの増加とか入れ歯人口の減少とか多種多様な要因があるだろうが、いずれにしてもそういう条件によって消費量が決定されるということは変わらない。

いかなるものの数字でも増加しているとか減少しているなら、ニーズと保有に差があって安定点への移動をしているわけで、最終的には平衡状態に落ち着く。ものごとはそうなっている。ペーハーの値であろうと、労働者の賃金であろうと、株価であろうと、偏差値であろうと、ひとつひとつの持つ特性と取り巻く環境の相互作用によって決まる。それが市場価格ということになる。
もちろん周囲の環境条件は常に変動していてゆらぎがあるだろうし、環境条件の一方向への変化があれば平衡点は移動する。平衡点に達する前に平衡点が移動して常にそれを追いかけるということもある。もちろんその条件が逆方向に変化すればオーバーシュートすることもある。その辺の条件が見つかれば単なる自動制御の方程式に還元される。そうかどうか今はまだわからない。

さてではISO認証件数はどんな要因によって決定されるのだろうか?
素直に考えれば認証のメリットは増加の圧力となりデメリットは減少方向の圧力となるだろう。では認証のメリットとデメリットにはどんなものがあるのだろうか?

メリット
全員が同じ手順で効率よく作業できるようになるため、時間や作業工程のムダが省けるようになる。
作業に対して確認をする習慣が出来る
新入社員、派遣社員などが入ったときや、アルバイト、パート社員が多い、あるいは入れ替わりの激しい職場でも、短期間で他の社員と同様の作業を行えるようになる。そのための教育を行う仕組みも、会社内に構築される。
規定書、標準書作りを通して、作業の見直しが行われ、組織の能力が上がる。
何かトラブルが生じても、「システム」の中で何が原因かわかるので対処がスムーズになる。
クレーム対応を含む、顧客からの問い合わせに対し素早く、正確に対処ができるようになる。
デメリット
お金がかかる
手間がかかる
コンサルに余計な仕事を追加される
審査で嫌な思いをする
審査でどんどん無駄が増えていく
効果がない(これがすべてか?)
注:正直言って、メリットは思いつかなかったので、ネットのコンサルのウェブサイトからみつくろった。


まあ、具体的にはともかく、概念としてはメリットとデメリットのバランスで認証する数が決まることになる。
そして法規制や世の中の関心、審査費用、審査の厳格さなどの条件は常に揺らぎもあるだろうし、時間的な変化もあるから、それによって平衡状態は変わり認証件数も増減するはずだ・・・と思ってよいだろう。

とすると増加時期においては上記要因でメリットの方が大きく、ある時期に、つまりISO9001は2006年に、ISO14001は2009年に、デメリットが大きくなって減少に入ったということになる。

ISO90011991〜20062007〜
ISO140011997〜20092010〜
メリット
デメリット

増加時はカーブがきついからメリットとデメリットの差が大きく、今は減少の傾きがなだらかだからメリットとデメリットの差は小さいと仮定した。

もちろんこれは概念図である。フィードバック機構はどうなっているかわからない。いつかメリットとデメリットがバランスしてISO登録件数が平衡状態になるのか、あるいはメリットの減少とデメリットの増加が継続して進み、登録件数がいつまでも減少するかもしれない。
減少に移ってから10年近く経過したわけだが、その間の変化を見ると減少傾向はほぼ一定で減少が止まるとも、減少が加速するとも見えない。だが予想するのは難しい。

ではブラックボックスであるフィードバック機構を考えてみよう。
先ほどいろいろと思い当たるものを上げた。いや正直言ってネットに載っていたコンサルの宣伝広告から抜き書きしただけなのだが・・
今現在、新たに認証しようとしている企業、認証を辞退している企業の本意はどんなところなのだろうか?
それを洗い出してみれば今後の動向も予測つくだろうし、認証制度としては認証件数大幅増加させるためのアクションも可能になる・・・かもしれない。

 第三社の認識認証ハードル改善効果本来の意図
条件が増えれば
登録件数増加
取引条件
流行
審査の質標準化の効果
費用削減
能率向上
事故防止
遵法
顧客満足
条件が減れば
登録件数増加
 認証費用
審査の負荷
コンサルの要否
  

この他にも要因が多々あるだろう。いずれにしても現在は上辺よりも下辺が増加しているようである。上記要因は思いつきであげたものであるが、上辺を見ると、①顧客や社会が評価以前に認識していないように思える、②認証は金がかかる、内部費用も掛かると認識する、③改善効果が見えない、④本来の意図?顧客満足が上がっているとは思えない、遵法の効果は出ていないとJABが言明している。
下辺を見ると、確かに認証費用は20年前より安くなっているが1990年代初めのwindows 3.1搭載パソコンと2016年windows10搭載パソコンの性能向上、価格低下と比べたら認証費用は実質変わっていないと言えるだろう。審査の負荷・・・どうでしょうねえ、審査員の個性、見解に合わせるという状況はいまだ・・・以下略、
考えると認証件数が増える方向に環境条件は変わっていないようだ。じゃあなぜ必要以上の、いや平衡状態以上の認証件数になっていたのかと言えば、流行というか向こう三軒両隣が認証したからにはウチもという隣百姓的国民性で必要でない企業が認証したということかと愚考する。
注:隣百姓(となりびゃくしょう)とは農作業が上手な人が田を耕したらうちも耕す、稲を植えたらうちも植えるという上手な人を真似て農作業をすることです。決して大きく間違えないけど革新的なことはできないことになります。
みんながヴィトンを買えば私も、スターウォーズを観れば私もってのはその伝統です。

単純に考えて増加に転じさせるには上辺を大きく、下辺を小さくしなければならない。
ちょっと考えただけでも無理みたい。
あるいはそもそもピークは認証開始の電源オン時のオーバーシュートだったのかもしれない。

過去、ISO関係者は認証件数は限りなく増加していくと考えていたようだ。
JABの元専務理事の井口氏は、2012年のJAB/ISO9001公開討論会だったと思うが、ISO9001認証を10万件、ISO14001を8万件にしようと語った。
同じ頃、寺田さんがなにかの講演会でISO14001を4万件まで伸ばそうなんて言ってたこともある。果たして何を根拠に井口さんは10万/8万件と言い、寺田さんは4万と言ったのだろうか? そこに非常に興味がある。彼らのように責任のある人たちは、私と違い相当な根拠がなければ数字をあげたりはしないと信じる。
いや、信じてないけど

行政サイドも、過去に何度か認証件数を伸ばそうという政策もとられた。
2002年頃、東京都がISO認証企業に対する優遇策を広報したこともある。国交省はISO認証していると入札条件で加算すると言った。そういうのは明らかな認証誘導政策だろう。そんなに露骨なことをしてよいのかって気がするが・・
しかしそれによって建設業界のISO認証は燎原の火のように広まりコンサルはウハウハだった時期もあるが、それはいっときの事であった。相当前から認証返上が相次いでいる。結局、外乱があってもそれが人為的で無理気味で必然性がなければ一時的な効果しかないのではないだろうか。
登録件数を増やすには商取引において考慮されること、それは強制ではなく自主的にそうなるようにしなければならないということに尽きるのだろう。
もちろん期待する効果がなければそうはならない。

改めて、適正な認証件数は何件なのだろうか?
本来は2000年前に減るはずだったという気もする。

うそ800 本日の〆
つらつらくだらないことを考えてきたが、今の登録件数変化が市場価格ならぬ市場が決定しているということだ。認証制度を取り巻く環境条件が変わらなければ、現在よりも相当少ない数字が落ち着くべき登録件数であることは間違いない。

うそ800 本日の更なる愚考
ISO認証件数が減るということは困ったことなのか?
考えてみると全然困ることはないだろう。
ISO認証件数は品質や環境の指標ではない。そもそもISO9001の意図は顧客満足であり、ISO14001は遵法と汚染の予防だった。しかし顧客満足や汚染の予防を実現するためにISO認証は十分条件でないのはもちろん必要条件でもない。またそのためには多様な方法があり、ほかの方法を採用してはいけないということも全くない。
そんなことは私の個人的意見ではなく、ISO規格序文に書いてある。
つまり元々ISO認証件数とは品質管理とか環境管理のレベルとか良し悪しを示すものでなく、その一方法を採用した企業の数にすぎない。だからそれは品質や環境を示すいかなる代用特性でもない。単に認証ビジネスの指標でしかない。となると登録件数が増えた減ったということは、世の中に影響しない数字である。もちろんそれで飯を食っている人を除いてだが、
認証件数を考えるよりも、顧客満足がいかほど上がったか、遵法レベルが向上しているかを考える方がはるかに直接的で意味のあることだろう。
いや今気が付いたが、顧客満足や遵法レベルを把握することは、組織自身のパフォーマンス評価でもあるが、ISO認証が有効か否かを測ることでもあった。



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