大学における環境マネジメントに関する考察

16.09.01
論文名:大学における環境マネジメントに関する考察
掲載誌:埼玉学園大学紀要 経済経営学部篇(2015/12/01)
著 者 :赤林 隆仁(アカバヤシ タカヒト) 埼玉学園大学 講師

番外編の大学における認証や信頼性のお話を書くとき、大学の先生の持つISOに関する知識というか理解レベルを知るために、CINIIで大学の先生が書いたISOに関する論文を調べた。2010年以降はCINIIに収録されているISOに関する論文は非常に少なくなったが、それでも毎年数件はある。見つけたものは可能な限り読み、参考にしている。可能な限りとは掲載されているものを読むことができないことも多いからだ。
この論文は2015年12月の大学の紀要に掲載されていたものであるが、CINII収録は今年(2016)である。内容を簡単に言えば、大学の環境負荷は小さいので環境負荷から選択した環境側面ではなく、改善に寄与する「正の環境側面」を取り上げて活動しなければならないということを語っている。
まず出発点において、著者が環境マネジメント、環境マネジメントシステム、ISO14001規格などの意味や関係を理解しているのか否か定かではない。いや、正直言うと理解していないのではないかと思われる。
あきらかな間違いも多くISO規格との矛盾もあり、発想もおかしい。そんなわけでこの論文についての批判を書かねばと思った。このような考えが世間に広まっては困るのである。この先生の誤理解(誤字ではない)が、大学の先生の平均レベルでないことを祈るばかりである。

では、始まり始まり
この文章を読まれる方は対象の論文のPDFを別のウインドウに開いて参照いただきたい。

以下疑問個所を個々に取り上げて論評する。この論文に限らず他の論文や規格からの引用文は紫色の文字で示す。
( )内のページは紀要のページと項番を示す。

大学の認証数のピークは2009年であり、総認証件数のピークの時期が同じである(上記グラフの注3参照)。上記グラフから「大学の認証数は総認証件数の増加と逆の方向である(p.40 6.)」とは正しくないだろう。総認証件数は2003年より2015年多いから増加で、大学の認証件数は2003年より2015年が少ないから減少で逆の方向であるという結論を導き出す人がいるだろうか?(反語である)
事実はどちらも2009年までは増加、それ以降減少しているのであって、違いは大学の認証件数の減少が総認証件数の減少よりも激しいということである。双方とも2009年をピークに達した以降は7年間も単調減少しているという事実を認識しなければならない。
注:
総認証件数が2009年以降減少しているとはいえないとおっしゃる方がいるなら、平均値の差の検定をしてほしい。厳しめで有意水準1%でもよい。エクセルでちょちょっとクリックすれば済む。
なぜ減少率が違うのかというのは今後の研究課題である。とはいえ一般企業と違い大学の場合は、認証によるビジネス上の効果がほとんど見えず、認証を止めることに組織外部・内部からの抵抗がないためと推測する。

ここでまだ4ページ、10ページの論文の中ほどあるが、もう十分だろうと思うのでここで終わる。

うそ800 とりあえずのまとめ
ISOに携わっている人ならこの論文を読んでも過誤に気付き問題は起きないと思う。しかしISOや環境マネジメントシステムに関わりのない人が読めばこの論文を事実と受け取る恐れが多々ある。
まず有益な環境側面を伸ばそうと語る前に、環境側面とは何か、有益な環境側面が存在するのかということを考えてほしい。またデータの読み方は自分が得たい結論になるようにではなく、素直にデータが物語ることを読み取ってほしいと願う。
参考資料をリストしているが本文中で出典を示していない。出典を明示することが作法だ。



Y様からお便りを頂きました(2016.09.01)
大学における環境マネジメントに関する考察について
いつも、USO800のサイトを拝見し参考にさせて頂いておりますISO14001事務局のような業務をやっている者です。異動となり1年余りが経過いたしました。
本日の内容についても非常に参考になったと同時にいまだにこのような論(信仰?)が大学という場でまかり通っている事に驚きを禁じえず、初めてご連絡差し上げました。
僕の感想は、この論文の参考資料にISO14001の規格書などが記載されていないという事は規格を直接は読んでおらず他者の著作を読み間接的に理解している気分になっているだけの人かと思いました。
このような問題提起をして頂けると僕個人のISO規格への理解が深化し非常に勉強になります。弊社内でもいまだに有益側面なる造語を用いている者もおり色々と苦労があります。そのような者に説明するための理論武装の一環として今だ勉強している日々です。
今後も更新を楽しみにしております。ありがとうございました。

Y様 お便りありがとうございます。
サラリーマンは上司・同僚・部下がいて、軋轢を起こさず仕事は遂行しなくちゃならず、思ったことも本音も言えません。ですからおかしなことを語っている人がいるとストレスが大変ですね。
私は幸い(?)サラリーマンを卒業して定年後を楽しんでおります。実は私も現役時代に付き合いのあった某大学教授(この論文の著者とは違います)が有益な環境側面大好き人間だったので苦労しました。喧嘩もできず、相手の方が目上ですから説得もできず・・
さて、この著者はY様のおっしゃるようにISO規格を読み込んでいないようにみえますね。それと有益な環境側面という語に対しての反論や批判ということなど調べていないようですね。
環境側面などはISOに携わっていないとわかりにくいとは思いますが、認証件数の増加、減少についてはこの先生はいささか感受性が違うのか、それとも自分の意見を主張したいのか、ちょっと変です。
ともあれいろいろな人がいるなという観点で非常にこの論文は参考になりました。
また気分がのったときはお便りください。

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2016.09.01)
大学における環境マネジメントに関する考察

これは考察者の「頭の中にしかない世界」の考察ですね。異世界の話ですわ。
死ぬまでの間に「あれは黒歴史だった」と自分で気づかなければ良いのですが。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
最近は「異世界居酒屋のぶ」なんて小説・コミックも流行っていますので(実はトリコになりました)、「異世界環境マネジメントシステム」なんてのもあってよいのかもしれません。
おっと、もちろん学問ではなく小説の世界でお願いします。


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