3.2.1 環境

16.11.28

「環境が悪い」そんな言葉を発するのはどんなときだろう。
いろいろなケースが考えられる。

幼児や入学前の子供がいるなら、車道と歩道が分離されていなければ危ないとか、子供をのびのび遊べる公園がないとか、放置子や悪童(悪ガキ)がいるようなところなら環境が悪い。 かわいい子は良い環境で育てたい あるいは近くに託児する母親がいて奥さんお困りならそれは環境が悪い。
小学校高学年になれば近隣にパチンコ屋、ラブホがあるとか、周りが底辺でドロップアウト(中退)が多いとなれば子育てに良い環境とは言えません。
学校に行けば、いじめがある、カツアゲがある、盗まれる、先生は見て見ぬ振り、授業のレベルが低いなど、そんなに環境が悪くては・・
大学なら、男はみんなチャライ、女はみんなお嬢のようで、講義はガヤガヤ、交友は不純と・・そんな環境が悪いFランにしか行けないならそれまでの子育てが失敗です。
家族を見れば、お父さんパチンカス、お母さん不倫しているみたい、お兄さんはこんな家に愛想をつかして彼女と同棲中、お姉さんが赤ちゃんを連れて出戻り、それも不倫でお父さんが代わりに慰謝料を払ったために余裕がなく家庭内でイザコザが絶えないとなると、環境が悪いどころか環境がトンデモなく悪いという最上級でしょう。

恥ずかしいことですが: 先日、英会話教室で「goodest」なる言葉を発して先生に笑われたのは私です。baddestとは言いませんでしたが、

職場なら、喫煙者が多くて喫煙室が分離されていても服や体に付いたタバコの臭いに我慢できないとか、上司がセクハラ気味とか、同僚のマルチとか宗教の勧誘がひどい、同僚が不倫をしていて自分も誘われる、営業成績が右下がりで社内の雰囲気が最悪とか、もう環境悪くて転職したいわ
まあ、環境が悪いと言ってもいろいろでございます。
わが愛しきISOなら、「今日日きょうび、ISOビジネスなんて逆風どころか暴風で環境最悪だよ」とでもいうのでしょうか。

ッ、環境と言っても環境違いじゃないかという声が聞こえましたね!?
ISO14001の環境とは、工場の煙突からでる黒煙とか、会社が販売する商品の消費電力とか廃棄物の問題とかじゃないのかって?
ところがそうじゃないようなのです。今述べたこと全部がISO14001の対象なんですねえ〜
だってISO14001の定義では
3.2.1 環境
大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの

注記1:
"とりまくもの"は、組織内から、近隣地域、地方及び地球規模のシステムまで広がり得る。
注記2:
"とりまくもの"は、生物多様性、生態系、気候又はその他の特性の観点から表されることもある。
(ISO14001:2015より)

実はこの定義は過去から変わっていません。
2004のとき
3.5環境
大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織(3.16)の活動をとりまくもの。

参考 ここでいうとりまくものとは、組織(3.16)内から地球規模のシステムにまで及ぶ。
1996年版では
3.2環境
大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互作用を含む、組織の活動をとりまくもの。

いずれの版の定義でも、「環境」の範囲は工場の煙突のばい煙とか廃棄物に限らない。
オフィスで新人をいびるお局様の言動も、作業服で通勤する従業員が気に喰わない地域住民も、鼻の下を長くしたオヤジがヌードカレンダーを壁に吊るすのも、子供が欲しいけど産めない方の同僚が奥様と我が子の写真を机の上に飾るのも、すべて「環境問題」なのです。
もちろん営業担当がお取引先に暴言を吐いてトラブルが起きればまさに環境問題、公害とか廃棄物の不法投棄と同じカテゴリーであります。

えっ、それは大袈裟とか勘違いとおっしゃいますか?
おかしいなあ〜、定義では「人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの」です。
隣の同僚が奥様とお子さんとのスリーショットを飾っていることが精神的に苦しいとなれば、まさに「人及びそれらの相互関係」でありますし、それを上司あるいはコンプライアンス部門に会社の管理監督の問題だともちこめば、これは「組織の活動」をとりまくどころか組織に直接かかわる重大問題であります。要するに環境問題なのです。ISO14001の定義によるとね、

この定義を正しく読めば審査員は「環境とは組織を取り巻くものです。認証機関と審査員を環境に含めていないのは不適合です」と言わねばならないのではないか?
当然、認証審査において、審査員は「環境側面のリストに営業担当者の言動とか態度がないのはおかしいですね」と言わねば、審査における重大なミスでしょう。
だが私は過去20年間にそう語った審査員には会ったことがない。

もちろん審査員だけの責任ではなく、組織も重大な過誤があったわけだ。
それも従業員の通勤時の服装、態度も、組織は管理できなくても影響を及ぼせるから環境側面に取り上げないといけないという程度のことだけではない。組織の存在そのものに関わる重大なレベルのこともある。
ISO14001がかような人間関係とか雰囲気ということも守備範囲にしているなら、次のような問題をどうするのか?

タバコは嫌いです タバコ会社は製品による健康被害、臭気による環境問題を重大な環境影響と認識してEMSを構築しなければならない。またパチンコ屋はけたたましい音楽による騒音はもちろんだが、パチンコ屋の存在による風紀の悪化、近隣地域のブランド低下とそれに伴い周辺地価を押し下げるという反射的不利益の押し付け、パチンカスを生み出すという反社会的影響に対する罪、そういったものを認識すれば己の存在を否定するしかない。その組織の環境に配慮する行動は必然的に廃業を目指すはずだ。
おっとタバコ会社も同様であり、廃業あるいは転業を必須とする。
JABのISO適合組織検索をすれば「たばこ」で13組織、「パチンコ」で3組織登録されている。(2016/11/27時点)
果たしてそれらの組織は自組織の環境影響をどのように把握しているのだろうか?
上記組織を認証している認証機関は、JQA、JMA、DNV、LRQA、JCQAなどいろいろであるが、認証機関はそれらの組織の環境側面をどう確認したのだろうか。そしてその環境目標は適切だったのか、非常に関心がある。残念ながら現行のISO14001では環境方針の公開を定めているが、認識している環境側面や環境目標の公開を義務つけていないのでわからない。

実を言えば、認証機関の認定分野にタバコという区分がある。ということはそもそもISO認証制度においてはタバコの存在を適正であると認識してその仕組みを構築していることである。とするとISO14001の定義及びそこから演繹される環境影響&側面とに倫理的矛盾はないのだろうか(棒)
参考:
「マネジメントシステム認証機関の認定の手順」(JAB MS200:2016)
 付表 2-4 認定分野・グループ

蛇足である: environmentを英英辞典で引くと
  1. the people and things that are around you in your life, for example the buildings you use, the people you live or work with, and the general situation you are in
  2. the natural features of a place, for example its weather, the type of land it has, and the type of plants that grow in it → habitat
いずれにしても自然環境だけでなく、人間関係や雰囲気までも含む。

次のような解説もあった。
  1. environment
    地理的な環境、人の考えや感情など精神的に影響を及ぼす環境を表す時に使う。
    環境問題等、もっとも一般的な語
  2. circumstances
    周囲の事情や状況を表す語で特に人の経済的状態や境遇を表すときに使われる。
  3. surroundings
    おもに人を取り巻く地理的な環境を表すときに使う。「美しい環境で暮らす」というときなど。

atmosphereとは
(地球を取り巻く)大気、(特定の場所の物理的な)空気、(物理的な)雰囲気、環境、(雰囲気としての)空気、(芸術品などがかもし出す)雰囲気、気分、ムードとある。
今風に言えば、「空気嫁」なんてニュアンスなんだろうか?

ともかく、一般語としてのenvironmentとは物理的な環境だけではない
おっとISO14001の定義でもそうなんだけど・・・・

うそ800 本日の改善提言
どう考えてもISO14001の「環境」の定義は欠陥というか、そこまでいかなくても不適切のような気がする。定義を見直してEMSの対象とする環境の範囲を限定すべきだ。
「人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの」なんて大言壮語というか大盤振る舞いを止めて、現実的な範囲にすべきだ。
次のようにしたらよいだろう。
「人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもので、精神的な影響を除く物質的な関わりをもつもの」
それともISO14001規格制定者は己が包括的マネジメントシステム規格を作らんとしたのだろうか?
そして、ISO26000を超えようとしたのだろうか?
とすると幼児性が抜けないのか、中二病かと・・
P.S:
実はこれ2015年版になってのことではなく、以前からおかしいと考えていて、私は2004年版でも問題としていた。


ジャッカル様からお便りを頂きました(2016.11.28)
今回の環境の定義、取り上げて頂いて納得いたしました。
現役で審査員の対応にあたっていた際にこの捉えようのない定義を持ち出され、「顧客も環境の一部だから対象にするべきだ」と観察事項にされ、ほとほと嫌気が差したのはなつかしい思い出です(笑)。
定義から見直すべきと言うおばQ様の意見に全面的に賛同致します。
私が退職した後、品質も環境もまだ返上せずに頑張っているようですが。。。

ジャッカル様 お便りありがとうございます。
ISO14001そのものがISO9001ほど洗練されていないように思うのです。そんなことをISOTC委員に言ったことがありますが、彼はISO14001は大人の規格だからなんて言い訳(?)していました。単なる未熟なだけと思います。いえISOTC委員じゃなくて規格がですが

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2016.11.28)
「環境」の定義が曖昧過ぎる、というのは同意です。もっと絞らないと逆に逃げ道を作られる危険もあるかも知れませんし。
審査で、アレも環境コレも環境と言われて毎年のようにケンカになってますし・・・

名古屋鶏さん 毎度ありがとうございます。
環境とは何ぞやとはっきりしないと議論になりませんよね。
私も審査で道路交通法、肥料取締法、食品衛生法なんて持ち出され、議論した経験があります。
不毛の議論でしたね アハハハハ

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