水の上で5年

2016.12.26

以前「水の上にも3年」という駄文を書いた。内容は全く泳げない私が63歳で退職してから水泳を習い、どうにか泳げるようになり、やがて毎日3キロ泳ぐようになるまでの3年間の物語である。
それから2年近く経った今、私はどうなったかという続編が本日のお話だ。
たぶん毎日4キロや5キロ泳いでいるのだろう。平泳ぎも背泳もひょっとするとバタフライもできるようになったのかもしれない、とお思いかもしれない。
だが世の中は甘くない、人生には挫折と後悔がつきものであるということを書く。
いや深刻な話ではない。私をせいぜいちゃかしてくれればよろしい。

前回は2015年4月頃まで書いた。
当時は連続で1000から1500を1本、500を2本から3本くらい、都合毎日合計3000ほど泳いでいた。人間は向上心と言えば聞こえがいいが、欲があるし競争意識もある。だから今日より明日、明日より明後日と泳ぐ距離を伸ばしていった。
8月頃には連続2000を1本、一日合計は3000以上となった。そのときはまだ問題はなかった。だが欲望には限りはない。2015年10月には最低3500くらい泳ぐようになった。

2016年のお正月、私は年頭の計画として年間累計 400キロ以上、平泳ぎ200m泳げることを目標にあげた。2014年に累計166キロ、2015年に355キロ泳いだことから2016年400キロは特段高い目標とは思えない。月に12回プールに行くとすれば1回2800mである。簡単じゃないか。
そして1月から連続2キロ、一日最低3500をノルマ決めた。前述したように2800泳げばいいのだからそんなに無理せずによかったのである。だが当時はランナーズハイ、スイマーズハイになっていたのだろう。
1月2月はなにも問題は起きなかった。だが2月末頃毎日4キロ泳ぐようになったとき、それは突然起きた。
初めはフィットネスクラブを出たとき肩に痛みを感じた。疲れかなという程度であった。泳いだ翌日も痛みは変わない。そのときはまだ泳ぎすぎと思っていた。
スイミング 実はマンションにはいくつかのクラブがあり、私はヨガクラブというのに入っていた。週に1回3時間ほど体を曲げたり伸ばしたりしている。あるとき手を伸ばそうとすると強烈な痛み。おかしいなあと思いつつなんとかごまかしていたが3月に入ってもう皆と同じ動きができなくなりヨガクラブを止めた。
ほどなく朝起きて顔を洗うにも右手が痛みで動かせず、左手だけで顔を洗い歯を磨くようなありさま。
だけどバカなものでスイミングは日々4キロ泳いだ。右肩の痛みはハンパではなく以前のように泳げるはずはなく、連続2000が、1500、1000、500となり、一日の合計が4000から2000程度に落ちた。
このときおかしいぞと医者に行けばまだよかったのだが、そうしなかったのだからあの時に戻って自分の頭を叩いてやりたい。そのうち元のように4キロ泳げるように戻るだろうと望みを持って頑張っていたのである。

痛みをガマンをして数カ月経ったある日、たまたま友人とお茶を飲みながらそんな話をしたら、お前それは大ごとだ、すぐに医者だと言う。整形外科といってもたくさんある。その友人は有名なスポーツ選手がかかっている船橋整形に行けという。そんなわけで整形外科に行ったのが7月22日であった。異常を感じてからなんと5か月後である。
そこは整形外科の専門病院で肩とか腰とかそれぞれに専門のお医者さんがいて診てくれる。さすが田中マー君がアメリカから来るほどのところだ。
レントゲンとかMRIとか調べた結果、肩の骨に突起ができている、それが神経とかに触って痛むのだという。さかのぼれば体の柔軟性がなく正しい泳ぎ方をせずに無理な泳ぎをしていて、だんだんと負担がかかった結果だという。つまりへたはへたなりに無理のない範囲で泳いでいれば良かったのだ。それを2キロ、3キロ、4キロとアホみたいに(いやアホなのだが)無理をしたのが良くなかった。
とりあえずスイミングの中止はもちろんだが筋トレも上半身は控えるように言われた。

ということでフィットネスクラブでは筋トレを止めて、理学療法士から指導されたストレッチを一生懸命にした。
まず言われたのが肩甲骨が動かない。肩甲骨が動かないとどんな泳ぎもできないと言われた。指示された方法は肘で腕立てをして、肩甲骨を反らせたり丸めたりすることでした。ところが正直言って自分で肩甲骨を動かすことができないのです。家に帰って家内にどうしたらいいのかと聞いたのですが、家内は簡単じゃないとやってみせるのです。しかし私にとっては簡単じゃないのです。あまりにも長年そういう動きをしていなかったから自分の体を動かせないのです。正直言いますが、自分の意思で肩甲骨を動かすことができるまでに3か月かかりました。自分で肩甲骨を動かせるようになって感動しました。それは全く新しい感覚でした。見えなかった色が見えるとか聞こえなかった音が聞こえたというような感じです。

筋トレ その他、今までしていた筋トレも無理やり負荷をあげてもしょうがないということです。レッグプレスもなんでも無負荷でいいからまず正しい動き、体の使い方を覚えることと言われました。無負荷状態で正しい姿勢、正しい動きを覚え、しっかり動けるようになったら負荷を上げていくのだという。見よう見まねで人と負荷を競ってもしょうがないと言われた。そもそもスイミング以前に、ストレッチとか体を動かすことをもっと練習しなければならなかったなと反省です。
それから弱いゴムひもをひたすら引っ張る運動をしました。どういう理屈かわかりませんが、これが一番効果があったような気がします。

まあそんなことを毎日ジムで行い、整形外科には半月に一度くらい通いました。泳いでもいいんじゃないかと言われたのが9月末でしょうか。でも精神的に泳げなくなっちゃったんですよ。泳げばまた肩が痛くなるのではないかという恐れが大きくて500も連続で泳ぐとそれ以上泳げないのです。それにだいぶブランクがあるので500泳ぐとものすごく泳いだなあ〜という気がする。そんな馬鹿なとおっしゃるかもしれませんが、心が折れちゃったんでしょうか。医者も理学療法士も大丈夫だと言いますが、なかなかそうはいかないのです。
とはいえ毎日500を3本くらい二月ほど泳いでいると、もう大丈夫じゃないかなという気がしてきました。なんとか連続1000mを泳いだのは11月になってからでした。ところがそうなると今度は新たな問題がありました。無理せずに泳ごうとすると1000mで22分くらいかかります。その22分間がまんすることができなくなったのです。周りを見ながらランニングするとか、隣の人と話しながら自転車をこぐならともかく、スイミングはおしゃべりもできず見えるものはプールの底のラインだけ、退屈なわけです。今までは1.5キロとか2キロを泳ぐ間がまんすることができたのですが、二月ほど長距離を泳がなかったためにその我慢ができなくなったのです。
11月に福島県いわきのハワイアンズというところに家内と行ってきました。大きな温水プールがあり昼はスイミング、夜は温泉という低廉な施設です。プールは縦50m横25mくらいあります。平日昼は泳いでいるのは老人ばかり、しかし皆フィットネスクラブで泳いでいるらしくパンツ、ゴーグル、キャップともそれなりで、速くはありませんが連続でプールをグルグルひたすら泳いでいます。私もそのイワシの群れにまざりプールに沿って何周も何周も泳ぎました。ゆっくりですが延々と泳ぎます。子供たちがボール遊びをしていたりカップルが抱き合っていたりするとその周りをまわったり年寄りも意地悪なのです。
そんなふうに泳げば退屈せず肩も痛くなりません。いやこういう泳ぐ楽しみのあるのだなと新しい発見でした。もっともコースの決まっているプールではできませんが、

ともかくいろいろありましたが12月になって一日2キロ以上は泳ぐようになりました。結局今年泳いだ累計は昨年をはるかに下回る270キロでした。目標の400キロははるかかなた・・・
来年はあまり無理をせずに、一日2キロ、週3回で月24キロ、年間300キロくらいを目標にします。

ところで体重はスイミング量に反比例して大幅増加しました。スイミングをしない代わりにランニング、ウォーキング、自転車をしたのですが、スイミングの運動量というのは同じ距離のランニングの3倍半から4倍と言われます。運動の絶対量が違うのでしょう。

体重の推移

私が引退したのが2012年4月、フィットネスクラブに通ったのは5月からです。順調に体重は減ってきましたが、肩を痛めてスイミングをしなかった期間、図の2016年4月頃から10月頃までは、とんでもなく体重が増加したのがわかります。2015年末の状態まで戻すのに1年かかるのではないかと思います。
ちなみに2015年10月は家内と1週間の四国旅行にいったためです。数日でも食べ放題飲み放題で運動をしないと体重は1キロくらい増えます。しかしこのような場合はすぐに元に戻るようです。

その他いろいろ気が付いたことがありました。
久しぶりにプールに入ると水が皮膚に密着するというかなじむという感じがする。プールから上がっても皮膚が濡れたままだ。毎日泳いでいたときは体が水をはじく感じでプールから上がると皮膚が乾いているのだ。
そんなことをたまたま家に来ていた娘に言うと、いつも水に入っていると皮膚表面の油が洗い流される。それで体がより多く油を出してカバーしようとするのだという。そして長らく泳いでいないと元に戻って油が減るのだとのこと
なるほど、何事にも理屈で説明ができるのだ。
もうひとつつまらないことだが、スイミングをしないとものすごく耳垢がたまる。スイミングをしていると耳に水が入って流されてしまう。

ぬれ落ち葉 5年目の開き直り
速く泳げるようになるつもりはないが、長い距離を泳げるのが願いだった。しかしよく考えると距離を泳げることもないのではないか。
だって、公園の池でボートが転覆したとする。50mしか泳げなければ陸までたどり着けないかもしれないが、1000m泳げれば十分たどり着けるだろう。
だけど太平洋まで行かなくて、東京湾フェリーが転覆したら50m泳げても1000m泳げてもあまり差はなくどちらもお陀仏になりそうだ。長い距離泳げるよりも少しでも長い時間浮いていた方が生き延びる可能性が高い。
速さより距離、距離より時間、これをモットーにしていこうと、老人は自分を慰めるのであった。


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