捨てがたい本

2017.05.11
私は結婚してから、いやいや生まれてから何度も何度も引っ越しをしてきた。それも借家ばかりだったから、あまりものを持たない主義というか物を持てなかった。いくら大事なもの必要な物があっても引っ越し先をそれに合わせるわけにはいかず、引っ越し先に持ち物を合わせなければならない。だから不要なものどころではなく、置けないものは捨ててきた。
ところで家内は結婚したとき箪笥を洋服ダンス、整理ダンス、和ダンスと三棹(さお)持って来たが、今はどこでもクローゼットが付いているので何度か引っ越すうちにいらないと洋服ダンスと整理ダンスは捨てた。和ダンスは実は持ってこず、結婚以来40有余年家内の実家に置いたままだ。何年か前、家内の弟の嫁さんが「お義姉さん捨てるよ」と言ってきたがどうなったのだろう?

私の持ち物の大きなものとしては本である。狭いところにばかり住んでいたから、引越ししなくても毎年棚卸しをして必要ない本は捨てた。だから持っている本がスチール本棚2つを超えたことはなかった。
今のマンションに住んで10年目である。はじめてちゃんとした本棚を3つ買って、持っていた本を並べた。それまでは捨てないでいた本も段ボールに入れたままというものも多かった。実を言っていまだ開けてない段ボール箱があるのだが。
とはいえ本棚一杯の本があればいいと思っているわけではさらさらない。引退してからもときどき本棚を見て不要だと考えたものは躊躇なく捨ててきた。専門書などは私の仕事が変わるたびに新しい仕事に関連するものを買ったし、それまでの仕事の本は捨てた。塗装を担当したのは40年前、電子回路を一生懸命勉強したのは30年前のこと、計測器管理も刃物研磨もした。ISOは25年前、その後は組織論とか管理とか勉強した。残念ながら経営を勉強しなければならないという事態になったことはない。今は塗装も電子回路も計測器管理も刃物研磨も完璧に忘れた。今仕事関係の本で残っているのは、会社人生最後の20年間に関わったISO関係だけだ。
この10年で本棚の升目8個捨てた。なぜ8枡だとわかるかというと、当初は本棚に空きスペースはなかったが、今は模型とか碁石とか写真を置いているところが8枡もある。

連休といっても私は毎日が休みではあるが、連休はフィットネスクラブも英会話教室も休みなので本棚の整理をした。1冊ずつ本を取り出してパラパラめくり、捨てるか残すか考えてごみ袋に入れるか本棚に戻すかするのだが、いつも古い本ほど捨てられず残す確率が高い。
このゴールデンウィークでもそんなことをしていて、私の持っている本で一番古いものはなんだろう? そんなことを考えた。

聖書
書名著者出版社ISBN初版価格
旧約聖書不明日本聖書協会なし不明不明
新約聖書不明日本聖書協会4820200259不明不明

旧約聖書は発行年が書いてないが、裏表紙に私のへたくそな字で1969年4月13日購入と書いてあった。今まで何度読んだかわからない。最低10回は創世記からマラキ書まで読んだと思う。その他、小説などを読んでいて聖書の文句を引用していれば、都度引っ張り出してその個所を読む。
新約聖書は今持っているのは1987年購入と書いてあるが、これは記憶にある限り3代目だったはずだ。つまり初代と2代目は読んで読んでボロボロになってしまったわけだ。旧約を買いなおさないのは新約ほど読んでないからだ。
ところで私が高校生の頃は街角で聖書を無料で配っていた人がいたが、今でもいるのだろうか?

ザ・ジャパニーズ

書名著者出版社ISBN初版価格
ザ・ジャパニーズエドウィン・ライシャワー文藝春秋なし1979.6.101600円

発行が1979年6月10日、購入日は1980年1月8日である。日本についての概論となるとこの本が最高だろう。元々はライシャワーが日本以外の人のために書いたのだろうけど、この本に書いてあることを知っている日本人はそうはいないだろう。70近くなった今でもこの本を読むと新しい知識が付く。

道は開ける
今持っているのはつい最近2016年に買ったものだが、初代は1969年、高校を出てすぐに買った。50年もたつと紙が黄変しインクが薄れ年寄りの目にはつらい。それで新しく買い替えた。
この本はいい。悩んだ時の特効薬である。どこでも良いから開いて数ページも読むと元気がもらえる。

あたりまえの研究
書名著者出版社ISBN初版価格
あたりまえの研究山本七平ダイヤモンド社なし1980.10.91200円

「ユダヤ人と日本人」という本を書いたらしい(らしいというのは著者が公表されていない)山本七平の著である。
出版された当時は結構売れた本である。続、続々と何冊も出たはずだ。まあ一番面白いのは最初ってのは推理小説でも映画でもなんでも共通だね。読むと面白いけど内容は段々と時代遅れになって来た。これは次回の棚卸でごみ箱かな?

広辞苑(第二版)

書名著者出版社ISBN初版価格
広辞苑(第二版) 岩波書店なし1969.5.164000円

1975年、結婚記念にこれと「字源」を買った。当時、私の周りの人は結婚したらまともな辞書を持つというのが当たり前だった。そして「字源」と「広辞苑」を買う先輩が多かった。私もまあそんな風潮に合わせたというか染まっていたということだ。
広辞苑 広辞苑はよく使ったが字源はあまり使わず、何度かめの引っ越のとき重いから捨てた。
今どきハードコピーの広辞苑などとおっしゃる方も多いでしょう。おっしゃるとおりです。でもこれけっこう役に立ちます。というのは1975年当時の意味とか用例を知るには当時の広辞苑が必要です。たとえばこの本でレタスと引くと「ちしゃを引け」とあり、今の広辞苑で萵苣(ちしゃ)を引くと「レタスを引け」とあります。40年とはそれくらい変化があるのです。
もっと以前の意味とか解釈を知るには第一版が必要でしょうけど残念ながらありません。
まあ、ということでこれは死ぬまで使うでしょう。

地球日本史

書名著者出版社ISBN初版価格
地球日本史西尾幹二扶桑社45940257061998.9.301714円

高校では日本史とか世界史というのが存在する。昔は東洋史というのもあったそうだ。でもそれっておかしいと思う。遠く離れて貿易も文化的にもまったく交流がないならともかく、過去より他の社会と隔離されていた国家とか社会はない。いやまったく交流がなかったとしても、ヨーロッパでペストが流行したのは地球が寒冷化したときで、そのとき日本ではペストが流行しなかったけど飢饉が起きたというような、地球規模のダイナミックな変動や地域間の関連を知るには日本史と世界史が分離していてはわからない。だから地球史というかそういうものを学ばなければならない。
正直言いまして、そんなことをこの本を読んで知ったのです。著者は偉大なる西尾幹二
この本は出来事というよりも思想史に重点を置いている。読む価値ありで座右に置いて常に読むべきです。

歯車の技術史

書名著者出版社ISBN初版価格
歯車の技術史会田俊夫開発社なし1970.7.20900円

歯車の始まりは、水車などで回転方向を変えたり速さを変えたりする歯車もどきだったと思う。あんなものをみると歯車なんて簡単だと思ってしまう。しかし単なる突起とかで回転を伝えると、確かに従動側に回転は伝わるけれどその回転速度はがったんごっとんとなって元の回転が定速であっても従動側の速さはサインカーブとかパルスのようになってしまう。従動側の回転速度を定速にしようとするとお手上げだ。少なくても私にはアイデアがない。
更に伝達効率を最大にしようとか歯車の歯の寿命を延ばそうとかいろいろと考えるとこれは一つの学問である。
この本は歯車をいかに改善し目的に沿うように開発、発明してきたかという歴史が書いてある。まさに歯車の技術史である。
実を言って私は歯車というものを設計したことはない。それがかえすがえすも・・・

製図の歴史

書名著者出版社ISBN初版価格
製図の歴史ブッカーみすず書房なし1967.11.301500円

今でも覚えているが、私が高校を出てすぐの頃、何かの講習会で仙台に数泊したことがあった。当時はまだ出張したら酒を飲むなんて頭に浮かぶこともなく、夕飯を食べてからせっかく大きな町に来たのだからと本屋に行った。仙台には東北大学の他にもいくつか大学があるので大きな本屋があった。そこで専門書の棚をみていてこれを見つけた。当時の月給が2万数千円、手取り1万数千円だったので買うか買うまいか悩んだ。今なら1万円近い感覚だ。結局買わなかった。しかし出張から帰って来てからも頭からこの本が離れず、その数か月後再び仙台に出張したときに思い切って買った。
今読んでも素晴らしい本だ。しかし最終章「今日と未来」は完全に現実に抜かされその予想は覆された。まあそれはしかたがない。原本が1963年発行だから当時はCADもCAMも考えられず、ましてや誰でもコンピューターを使えることは想像できなかっただろう。

聖書の常識

書名著者出版社ISBN初版価格
聖書の常識山本七平講談社21629464522531980.10.1720円

これは勉強になった。今でもなにかあったとき引っ張り出して読んでいる。ただ最近は聖書についての本も多いし常識レベルが上がってきているからわざわざ読むまでもないかもしれない。
ともかく人間生きていく上ではこの程度の知識をもっていなければならないと思う。街でしつっこく聖書の勧誘を受けたとき撃退するためにも、クリスマスはイエスの誕生日ではないなんてことくらいは知っておかないとね。

人間の歴史(1・2・3)

書名著者出版社ISBN初版価格
人間の歴史J.A.ミッチナー河出書房なし1967,6,25各巻490円

私が中学の頃までお小遣いというものはなかった。お正月にお年玉、お盆にお小遣いをもらうというのが関の山である。高校に行ったときさすがに小遣いがないとまずいだろうとなって月500円くらいもらえるようになった。今の購買力なら3000円くらいだろうか。少なくはない。もちろん鉄道の定期は買ってもらえたが、当時の汽車は1時間半に1本しかなく、万が一の時に備えてのバス賃も必要だから。
当時、東北本線は電化されておらず蒸気機関車が木造の客車を引っ張っていた。客室には裸電球が数個ぶら下がっていて夜本など読めるほど明るくなかった。今の人には想像もつかないだろう。
ともかく小遣いの使い道は自由であり、本屋でこれを見つけて買った。
ただ今となってはこの本も現実に追い越され、イスラエルもパレスティナも相当変質した。この本を書いた著者に思い入れをすることはできない。
問題は小さなときに手を打っておかないと大きくなるとどうしようもなくなる。火事もけんかも北朝鮮もパレスティナも同じだ。

管理と組織

書名著者出版社ISBN初版価格
管理と組織ルイスAアレンダイヤモンド社なし1960.10.141200円

社会人になってから講習会とか講演会とか話を聞けば行けるところは行った。なにせ田舎だったから勉強する機会がない。本を読むと言ってもいまほど自己啓発的なものはなかったし、講演会もめったにない。ともあれ聴講したひとつで講師がこの本について大変ためになるということを語った。というわけで本屋で探した。当然田舎町の本屋にはなく取り寄せてもらった。裏表紙に1971年の日付と名前が書いてある。
以降、何度も読んだ。単なる学問ではなく、命令とか決裁とかという責任権限について非常にためになった。はるか20年後ISOマネジメントシステムに関わったとき、この本を引っ張り出して改めて読みなおした。
今書店に並ぶ組織論とか権限などについて書いてある本の大半はこの本を参考にしていると思う。もちろんこの本が一番だとは言わない。今となってはこの本を読むよりも安くてわかりやすい組織論の本はたくさんあるだろう。
世のISO担当者よ!「責任権限」なんてお経のように唱えている人は、こういった本を読んで組織論を学ばねばならぬよ。そうすればいかに恥ずかしいことを語っていたかと自覚するであろう。

おはなし社内標準化

書名著者出版社ISBN初版価格
おはなし社内標準化緒方健二日本規格協会なし1979.10.8980円

1980年頃だろう、自分が手足を動かす立場から、口で人を動かす立場になった。でも口を使えばいいというものではない。言葉はすぐに消えて伝えたつもりは伝わっていない。当時の職場ではまだ仕事の手順が文書化されていなかった。それで仕事を伝えるために必要最低限の文書はいかにあるべきかということを悩みつつ作り上げてきた。ISOなんぞ現れるはるか10数年前に、私は試行錯誤を繰り返してマネジメントシステムを見直しし改善してきたのである。エッヘン!
そのとき本屋でこれを見つけた。もちろん設計とか業務の基本は当時だって会社規則とか基準総覧といったものに標準化されていた。ただ今日はこれをいくつ作れとか、品物によって仕向け先によって一部違うというものもあり、そういうことを間違えなく伝えるにはどうあるべきかという現場レベルの指示方法はまだ混とんとしていたのである。
これはそもそもはもっとレベルの低い会社においての標準化手法というか基本のキを書いている本である。とはいえ他になにも参考情報がないのだから手に入ったこれを読んで考えた。私が目的を達成したかという観点では達成した。そのためにこの本が役立ったかと言えば、直接的ではなかったが参考にはなった。
ISO審査員であろうと企業担当者であろうと、私のように泥臭く標準化に関わって来た人はあまりいないだろう。苦労すれば身につくこともある。そういう経験から見るとISO規格がベストであるなんて思うはずがない。ISO規格要求事項は単なる妥協の産物であり、参考程度のものなのである。
しかし日本規格協会の本の値段が高いのは昔からだ。1979年時点980円というのは物価指数から推定すると今なら1400円くらいに相当する。新初版196ページの本にしてはちょっと高いだろう。といいつつ日本規格協会のウェブストアをながめると、現時点(2017)のお話シリーズは税別で1460円〜1800円の値付けになっている。イヤハヤ

ねじ締結の理論と計算

書名著者出版社ISBN初版価格
ねじ締結の理論と計算山本 晃養賢堂なし1966.3.1880円

木ネジは木材にねじ込むのが普通だ。私が入社して間もない頃、担当していた仕事ではプラスチックに部品を止めるのに木ネジを使っていた。考えればおかしな使い方であるが、なにせ50年も前のことだ。そしてねじを締める相手がASだったのでなんとかなったのである。もちろんなんとかなったのではあるが、あまり使い勝手は良くなかった。木ネジはプラスチックに喰いつきも食い込みも悪かった。
現場の仲間から、木ネジじゃなくてタッピングネジを使えばよいんじゃないかというアイデアが出た。私が設計担当者に相談に行った。タッピングネジといってもいろいろ種類があること、1種タッピングねじなら代替に使えるかもという話になって試験をした。結果はだめだった。ねじこむにつれ抵抗が大きくなってタッピングネジの首下でねじ切れてしまうのだ。木ネジは根元が太いので締め付けトルクが大きくなっても首下がねじ切れることがない。もちろん設計担当者はそんなことを知っていて木ネジを使っていたわけだ。
疑問を持たれるかもしれないので状況を説明すると、下穴がないプラスチック面にねじ込んでいた。プラスチックに下穴をあけておけばよいじゃないかと言えばそれまでであるが、成型時の抜き方向面だからスライドコアにはしたくなく、成型後にわざわざキリ穴で一工程入れるのは高くつくということだった。それでなにもない面にねじ止めしていた。
まあいろいろ検討したけれど結論としてうまくいかなかった。
そのとき問題解決のためにこの本を買って読んだ。それから数年経ってやはりプラスチックにねじとめするときの下穴径に問題が起きたときはこの本で学んだ破壊モードを参考にして解決できた。知識は力である。勉強はためになる。

ハインラインのもの

書名著者出版社ISBN初版価格
夏への扉R・A・ハインライン早川書房なし1969.4.25520円
宇宙の戦士R・A・ハインライン早川書房なし1967.2.20390円
月は無慈悲な夜の女王R・A・ハインライン早川書房なし1966.7.25270円
愛に時間をR・A・ハインライン早川書房なし1978.2.282500円

私はSFが大好きだ。アジモフやハインラインのものはほとんど読んだ。しかし現実が小説の設定とかアイデアを超えるようになると興味を失った。なぜならSFとはそもそも文学なのだ。単なる科学のアイデアとかスペクタクルだけでは所詮子供だましに過ぎない。設定やアイデアが陳腐化しても面白いと思われるだけの文学性がなければ存在意義はないと考えている。ということで1990年頃からSFと称するカテゴリーは読んでいない。
そういえばアイザックアジモフが「なぜ普通の電子頭脳でなく陽電子頭脳なのかと言われたら私はわかりません。私は技術を書いているのではなく、物語を書いているのです」と言ったとか、同感だ。
ちなみに夏への扉はラブロマンスであり、宇宙の戦士は国民の義務であり、月は無慈悲な夜の女王は組織論である。タイムトラベルやロボットや宇宙旅行の設定がアウトオブデートになってもものごとの真理は変わらず面白さは色あせないのだ。

私にとって1988年発行1992年入手のオリジナルISO9001本「品質保証の国際規格」などはまだまだ新参者なのである。当然、それ以降のあまたのISO本は捨てられない本ではないけれど新しすぎて捨てていない。
私も中学以前の本はもうすべて捨ててしまったようだ。高校の教科書は結婚してからも仕事で微積とか使うので持っていたが、品質保証を担当するようになって捨てた。品質保証は品質管理と違い算数は使わないので楽だ。せいぜい英語の規格を読むくらいだ。あのときは高校のときの英和辞典だけで頑張った記憶がある。
本

こう見てくると今持っている本はこれからも読まないかもしれないが、捨てがたい本ばかり。とはいえ私が死んだら家内はすべてゴミに出すよと言っている。それもまたよかろう。


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