異世界審査員36.自動小銃その1

17.11.09

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

私は自衛隊に入ったこともなくミリタリーオタクでもなく、軍事については全くの素人である。ここでは戦争や戦闘についての蘊蓄(うんちく)を語ることが目的ではなく、異世界での第三者認証制度を作り上げるまでの物語の背景を描いているにすぎない。ということでツッコミはしないでください。

異世界では1912年の正月を迎えた。伊丹がこの世界に来て1年半になる。仕事も暮らしも何とか落ち着いたところだ。 凧あげ 伊丹夫妻はこちらの東京大神宮と靖国神社を参拝して、あとはのんびりと寝正月を決め込む。こちらのお正月は本当に静かだ。お店は休み、特に三が日は神社仏閣しか営業()しているところはない。伊丹が子供の頃はこんなふうだったのだが、いつしか皆忙しくなってしまった。お正月から買い物しなくても良いだろうと思うのだが。
元の世界に年始回りに行く気はさらさらない。同棲している息子たちに藤原が会いに行くというので、妻の幸子は藤原に子供たちへのお年玉を頼んだ。伊丹は二十歳過ぎてお年玉もないだろうと思ったが、余計なことは言わないのが家庭円満の秘訣だ。

年が明けてすぐに伊丹に砲兵工廠に来いと言う指示があった。工藤が何事かと心配して同行する。もしかして伊丹と藤原の正体がばれてスパイ容疑とかではないだろうか? もっともそれなら悠長に砲兵工廠に来いとか言わず、既に警察とか憲兵隊がやってきているだろう。
待っていたのは、木越少佐と南武少佐である。

木越少佐
「南武少佐が新しい歩兵銃を開発することになった。伊丹さんにそれへの協力を要請したい」
伊丹
「是非はありません、承知いたしました」
南武少佐
「今、欧州では戦争勃発の気配が濃厚となっており、ある国から我が国が装備している38式歩兵銃を大量に購入したいという話が来ている。納期などから新たに製造するのではなく、現有のものを売却して、我が国は新しい歩兵銃を開発しようということになった」
伊丹
「お話は分かりました。しかし私は歩兵銃だけでなく兵器には全くの素人です。お役に立つのかどうか」
木越少佐
「いやいや、伊丹さんの力はよく存じている。練兵場建設でもシルク印刷でも、伊丹さんは経験したことのないことに挑戦し実績を出してきた」
南武少佐
「今日は顔合わせだけでお正月ということでもあるし、夢のある話をしたい。もちろん歩兵銃に関してだが、」
工藤社長
「38式と言いますとまだ旧式じゃありませんよね。それどころか制式化されて10年も経っていないと思います」
南武少佐
「確かにそうだ。しかし武器というのは技術や戦術の進歩があれば更新しなければならない。とはいえ歩兵銃の更新というのはとても金がかかる。なにしろ数が多いからな。買いたいという声がかかったこの機会に、一新しようと考えるのはおかしくない。どうせ作るなら、現状品ではなくいろいろと考えていたことを反映したい」
工藤社長
「欧州の方はきな臭くなっているのですか?」
木越少佐
「もうはっきりと連合国と同盟国のふたつに分かれている。東アジアにも連合国側と同盟国側の植民地が多数あるから、そこでも戦いは起きるだろう。そうなれば我々は連合国側として参戦することになるだろうな」
南武少佐
「新しい歩兵銃となると、やはり装弾数とか射程とか命中精度かな」
伊丹
「これから作るならボルトアクションではなく、装填・排莢は自動になるのでしょう?」
南武少佐
「ほう、伊丹さんは素人と言いながら詳しいじゃないか。確かに拳銃などはもうみな自動拳銃になっている。歩兵銃もゆくゆくはそうなるだろう。
とはいえ、今回はそこまでは考えておらず従来通りボルトアクションで考えている。そして性能向上、取り扱い性の向上を図るつもりだ」

伊丹は何か言いたそうな顔をしたが黙っていた。

木越少佐
「伊丹さん、言いたいことがあるなら言いなさいよ。どうせここは内輪の場だ」
伊丹
「そいじゃ、お気を悪くしないでほしいのですが、技術が進んで戦場の戦いが変わり歩兵銃に対する要求は変わってきていると思います」
南武少佐
「ほう、変わってきていると・・・どのように変わってきているのかな?」
伊丹
「戦場で歩兵銃を撃ち合うとき、敵味方の距離はいかほどでしょうか?」
南武少佐
「うーん、そりゃ遠近いろいろだろう。38式の有効射程は460mだから、一般的な戦闘では十分な射程だ」
伊丹
「聞くところによると実際の戦闘は300m以内らしいですね」
南武少佐
「そういうこともあるだろうな」
伊丹
「となると今以上に射程を長くすることもなさそうです。
それから命中精度ですが我が国の歩兵銃の命中精度は外国の歩兵銃に比べて優れていると聞きます。今回引き合いがあったのも評価されているからでしょう」
南武少佐
「というと君は改善の必要がないということかな?」
伊丹
「ちっと違うのです。大砲とか機関銃が進歩してきましたから、歩兵銃の役割が変わってきていると思います。これからの戦争では歩兵銃は主兵器ではなく脇役でしょう。また歩兵銃での戦い方も相手兵士を狙って撃つのではなく、弾幕を張って敵勢力を押していくという戦いになるでしょう」
南武少佐
「弾幕を張るとは?」
伊丹
「個々の的を狙って撃つのではなく、ある範囲に対して高い密度で弾と撃ちこむことです」
南武少佐
「弾丸のムダだな」
伊丹
「ムダかもしれません。しかし一方が個々の兵士が目についた敵兵を狙って雨だれのように撃ち、他方は相手が潜んでいる範囲に切れ目のない射撃をすると考えたらどうでしょう。弾数が多い方が相手を押していくのではないですか」
南武少佐
「そういう戦いになると伊丹さんは考えているのか?」
伊丹
「そうですね。ただこれからの戦争では歩兵同士の撃ち合いはあっても、それが戦争の帰趨を決めることはないでしょう」
南武少佐
「ほう、それじゃ戦争の勝敗は何で決まるのか?」
伊丹
「ズバリ大砲や機関銃の数です。そして新兵器もあります。イギリス帝国もドイツ帝国もいろいろな新兵器を考えていますよね。そういう新兵器が勝敗を決するでしょう」
南武少佐
「確かにいろいろ新兵器が伝えられているが、怪しげなもの、うさん臭いものが多い。伊丹さんは具体的に何が重要になるとお考えかな?」
伊丹
「次の戦争で主役に躍り出るのは、陸では飛行機、戦車、そして毒ガス、海では潜水艦です。そして従来からのもので重要性が高まるものは機関銃です。」
南武少佐
「飛行機は既に昨年わが国でも購入して飛行試験をしている(注1)偵察とか着弾観測などに有効と聞いている」
木越少佐
「毒ガスは過去からあったが戦場ではあまり使われなかったようだ。扶呂戦争では敵が使ったとか言われたがはっきりしない。毒ガスの威力は恐ろしいが、風向きが変われば自分たちに被害が出る扱いにくいものだ」
南武少佐
「戦車とは何かな?」
伊丹
「車輪の代わりキャタピラで走ります。キャタピラはデコボコでも泥濘でも走れます。日本でも研究されています(注2)
そして車体を装甲して大砲や機関銃を装備して侵攻するものです」
南武少佐
「ほう!見てきたような話だね。そんなものが現れたら相手の兵士は恐怖だろうなあ。
ただ今の話を聞いただけでも動力をどうするのか、本当に斜面や泥濘地で運用できるのか、有効な装甲を施せばとんでもない重さになるだろうとか、問題山積に思える」
伊丹
「信用されないかもしれませんが、私の予言は当たります」
南武少佐
「要するに伊丹さんの主張は、これからの戦争はそういった新兵器が現れて帰趨を決めるから、歩兵銃などは軽視しても良いということかな?」
伊丹
「そうではありません。旗を揚げるのは歩兵という言葉がありますが、それは時代が変わっても絶対に変わりません。
歩兵銃に求められることが変わってきているということです。具体的には射程距離とか命中精度などは以前ほど要求されない代わりに、近接戦闘重視となります。つまり連射できて小型軽量、整備が簡単、訓練を受けていない兵士でもすぐに扱えるものになるでしょう」
南武少佐
「なるほど、遠い兵士を狙うのは機関銃に任せ、歩兵銃は近接戦闘、それも機関銃的な使い方をされるわけか。連射するなら携帯弾数も今の2倍3倍は必要になる」
木越少佐
「現在の歩兵の携帯弾数は120発、クリップ(注3)を除いても2.5キロだ。仮に3倍とすると7.5キロにもなる。携帯できるものかな?」
伊丹
「おっしゃるようにこれからの歩兵は300発くらい携帯するでしょう。
但し口径が現在の6.5ミリから5.5ミリが主流になります。ですから重量は現在の半分(注4)くらいになります。だから300発といっても今の6.5ミリの150発分くらいの重さです」
南武少佐
「歩兵で変わることは他には?」
伊丹
「負傷を防ぐために軍帽の代わりに鉄兜を着用します」
南武少佐
「それは我々も検討中だ。扶呂戦争では頭部の負傷で死亡したのが多かった」
木越少佐
「試作した鉄兜を見たが、クロムモリブデン鋼といってもあんな厚みでは小銃弾を止めることなんてできないぞ」
南武少佐
「頭部に銃弾の直撃を受けたというのはごく少数だ。ほとんどは砲弾や建物の破片などによるものだ。だから銃弾を止めるということではなく、そういった破片を防ぐだけで死者は9割方減る」
木越少佐
「ほう、そうなのか」
伊丹
「それから防弾チョッキを着用するようになります」
南武少佐
「それも検討中だ。これも銃弾を止めるなんてことはとても無理だが、破片を防ぐことは十分可能だ。銃剣に対しても効果があると考えている」
伊丹
「兵士の服装は迷彩、つまり周辺の色に合わせて目立たない色と柄になります」
南武少佐
「扶呂戦争では陸軍兵が目立つだけで防護に役立たない軍服と軍帽で戦ったと思うと恐ろしいよ。昔の軍服は目立つことが目的だったのかなあ?」
木越少佐
「南武よ、鉄兜、防弾チョッキを着用すれば203高地も戦死者は半減したのか?」
南武少佐
「もちろん機関銃を撃ってくるところへの突撃なんてはさせてはいけない。まっとうな塹壕戦の指揮をすれば半減どころか1割程度になったと思うぞ。
しかし考えるとあの戦いは機関銃主体だったな。ということは次の戦争では機関銃が主で、双方とも弾幕を張って相手を近づけないような戦いになるのかなあ〜」
伊丹
「203高地の要塞を模した訓練施設(注5)が習志野練兵場にあるそうですが、敵が過去と同じ要塞を作ることもなさそうですし、それを同じ方法で攻める訓練なんてどうなんでしょう」
木越少佐
「わしも習志野の施設は見たことがある。まあ訓練施設というよりもある意味記念碑なんだろう。過去にこだわってはしょうがないね」

南武少佐
「結局、伊丹さんは38式歩兵銃の延長上の改良ではダメだということなのか?」
伊丹
「そう思います。あれは銃剣をつけると全長166センチ、重さも4.1キロもあるそうです。平均的な成年男子には長く重いのではないでしょうか。素人考えですが全長1メートル以下、重さ3キロくらいにしないと、戦う前に行軍が辛いでしょう。
それにやぶの中とか市街戦では長物は扱いにくいのではないですか」

南武は口を一直線に結んで黙ってしまった。

工藤と伊丹が去った後のこと、

南武少佐
「伊丹とは何者なのだ?」
木越少佐
「元々は練兵場建設のときに日程管理に雇ったことが始まりだ。軍事にも詳しいようだな」
南武少佐
「いやワシは詳しくないと思う。ただ実際に起きたこと語っているような、それもなんていうかな、その場で見たのではなく書籍で学んだというような感じを受けた」
木越少佐
「どんな人物なのか調べてみよう」
南武少佐
「いや、へたなことをしないで専門家である防諜部門に調査させよう。ワシから依頼する」


会社に帰ってきた工藤と伊丹はあまりうれしくない顔をしている。
実は南武少佐から大変な宿題をいただいてしまったのだ。それは・・・

工藤社長
「南武少佐は伊丹さんの話で、いささかご機嫌を損ねたようですね」
伊丹
「難しいことですが、おっしゃる通りごもっともと追従するのと、向こうの世界の反省を込めて本音を語るのとどちらがいいものでしょうかね?」
工藤社長
「確かに難しい。ダイヤルゲージとかだったら真理を説き主張を曲げなくても良いだろうが、こういった重大深刻なことになるとねえ〜」
伊丹
「重大でない方が真面目に本音を語り、重大な方は相手に合わせるでは価値観が真逆ですが・・」
工藤社長
「ハハハハ、それはさておき、今日の南武少佐からの依頼だが・・・・」
伊丹
「これからの歩兵銃のあるべき姿を明示せよということでしたね」
工藤社長
「仕様書的にまとめるべきか、それともこれからの戦場における状況や要求を列記すべきか」
伊丹
「工藤さん、向こうの世界の現物をいくつか持ってきた方が論より証拠のような気がするのですよ」
工藤社長
「それができれば苦労はないというか理想だろうが、日本国内で手に入るわけがない」
伊丹
「ドンパチやっている国でならいくらでも手に入りますよ」
工藤社長
「戦場に行くのか?」
AK47
伊丹
「いやいや戦場までは・・・紛争地域なら小火器だけでなくあらゆるものが売られているでしょう。金さえ用意すれば」
工藤社長
「具体的にはどのあたりですか?」
伊丹
「私の世界ではイラクとかアフガンとか、
とはいえ現地で購入はできても、それを日本まで持ち込むことはできません。
それで工藤さん、物は相談ですがそのあたりにここからの出入り口を作ることができますか?」
工藤社長
「できなくはないね。ただどこに作ったらいいかここにいては分からない。まず誰かが普通の交通手段で向こうに行って、適当な場所を見つけて出入り口を作った方がいい」
伊丹
「工藤さんできますか?」
工藤社長
「できない。我が一族でも向こうの吉本一族でもそれができるのは数人しかいない。
そうだ、向こうの吉本一族に頼んでみよう。ついでに吉本一族に入手の手伝いを頼もう」
伊丹
「どんな手順でするのでしょう?」
工藤社長
「今考えた案だけど、吉本一族で中東に詳しい人で出入り口を作れる人間に向こうに行ってもらう。出入口完成後に、伊丹さんがここから中近東に行って、必要なものを購入する。伊丹さんはそれを持ってここに帰る。吉本の人間は出入り口を消してから普通に日本に帰ってくる。伊丹さんはパスポートなしでいける。もちろん問題が起きたら日本国の支援はもらえないが」
伊丹
「私一人ってことはないでしょう。行くならそのときは工藤さんも一緒ですよ」
工藤社長
「まあ、それはあとで考えましょう。まずは吉本一族に相談してみるよ。
それと調達するものを検討しておいてください。南武少佐の様子ではすぐにも次の段階に進みたいような雰囲気だったから」


吉本です 1週間後、伊丹と藤原は新世界技術事務所の地下に設けられた出入り口を通って、イラクの田舎町のホテルの一室に現れた。部屋には顎髭を生やした20代半ばの日本人がいた。

吉本
「初めまして、ええと眼鏡をかけた方が、伊丹さん、そうでないほうが藤原さんでしたね。
私は吉本です。下の名前は覚えることもないでしょう。どうせ今日数時間のお付き合いですから」
伊丹
「おっしゃる通り私が伊丹で、こちらが藤原です。よろしくお願いします」
吉本
「私の本職は戦場カメラマンというやつで、この辺りには何度も来ています。言葉も何とかなりますし、土地勘もあります。
この街はずれに銃を販売している店がありまして、そこに行ってご希望のものを購入し、ここに戻ります。距離はここから3キロくらいありますか。
ここは政府側と反政府側がドンパチしているところから数十キロは離れていますから、戦闘に巻き込まれる心配はありません。ただ治安が悪いですから、お二人がドルの札束で大金を支払ったなんて聞いたら、怪しい人たちが鉄砲担いでやってくる恐れは十分にあります。それで車をチャーターしてガードマン二人を雇いました。取引が終わったら即ここに戻り、すぐにそちらの時代に戻ってもらいます。私は出口を塞いでから日本に戻ります。強盗が押しかけてくるにしても1時間くらいの猶予はあるでしょう。
欲しいものは決めていますか?」

伊丹と工藤社長そして藤原でどんなものを入手すべきか話し合った。結局、素人がワイワイ言ってもしょうがない、20世紀後半で最もポピュラーといえば西側はM16系列、東側はAK47系列だからそのふたつにしようということになった。

伊丹は作ってきたリストを見せた。

吉本
「AR15またはM16が10丁ですか、ここではアメリカ軍からの横流ししかないですから新品はまずないでしょう。中古でもいいですね。お値段は程度次第です。程度が良ければ500ドル、悪ければ10ドル。
それから弾が2000発ですか。これは大丈夫です。
次はAK47ですか、これはもういくらでもありますよ。程度は新品から動かないものまで。動かないものは道端に捨ててあったりします。これも10丁と弾2000発、
最後はAK74が10丁と弾2000発。これは当地ではあまり使われていませんから品薄かもしれません。ない場合はしかたないですね」
伊丹
「もしAK74がないなら、その分AK47を上積みしたい」
吉本
「ちょっと気になるんですが、購入量が小規模な作戦をするのにちょうどの銃と弾薬ですね。まあ工藤さんからの依頼ですからお二人がテロをするとは思いませんけど」
伊丹
「テロリストと疑われると通報されるとか、売ってもらえないということですか?」
吉本
「アハハハハ、ここでは誰もそんなこと気にしませんよ。ロンドンやパリではテロで死者が出ると大騒ぎですけど、ここではテロは日常茶飯事、毎日何十人も死んでますから。
ただ私個人としてテロの片棒を担ぐのは気が引けるということです」
伊丹
「でもテロをするならいろいろな種類ではなく同じ銃を使うでしょうね。銃も弾も違っては作戦がやりにくいでしょう」
吉本
「ああ、そう言われるとそうですね。
そいじゃ行きましょうか。店のオヤジとは私が話をします。みなさんはにこにこしていればいい」
藤原
「それなら私たちは危ないところに行かなくてもよいじゃないですか」
吉本
「ちょっとちょっと、買い物を確認してもらわなくては困ります。ここに持ってきてからダメといわれても」
伊丹
「分かりました。それじゃ行きましょう」

ダブルピックアップというのだろうか、座席が二列あって後ろに荷台がある小型トラックに運転手、AK47をもった二人の護衛、そして吉本たち3人が乗って出発する。
数分もかからずにお店に到着する。
店を見て伊丹は驚いた。ライフルとかピストルを売っているだけではない。対戦車ミサイルのベストセラーRPGが何種類もあるし重機関銃もある。取り外したミニガン、対人地雷、プラスティック爆弾まである。

藤原
「ミリタリーオタクには天国でしょうね」
吉本
「ここに住んでいたら地獄ですよ。それじゃ話を付けますから」
銃砲店
吉本はターバンを巻いたオジサンとしばし話していた。オジサンは分かったというそぶりをすると店にたむろしていた数人の男を集めて裏の倉庫らしきところに消えた。
吉本は護衛とタバコを吸いながら雑談をしていて突然大笑いをした。伊丹と藤原はなにかと驚いて吉本の所に行く。

吉本
「言われちゃいましたよ。1万ドル程度の取引する人を襲う盗賊はいないそうです。最低でも5万ドル以上とか、だったら伊丹さん大丈夫ですよ」

護衛の二人もニヤニヤしている。
とはいえ1万ドルの取引かどうかどうやってわかるのか? 気休めにもならない。
30分ほどして大きな台車3台に山盛りの銃器を載せて出てきた。
伊丹が店のオヤジに試射させてほしいことを吉本経由で店のオヤジに話してもらう。
店の裏手に高さ2m幅10mほどの土手があり、そこに的らしきものがある。あれを撃つらしい。
M16
吉本は慣れている様子で弾を込めて30メートルほど離れたところから数発ずつ撃ってみる。ものすごい音なんだろうけど、あたりに人家も樹木もなく反響しないので大して大きな音には感じない。
吉本が何丁か撃った後、伊丹と藤原に試射してみろという。二人がどうしようとしていると、店のオヤジが手取り足取りして装弾と射撃を教えてくれた。伊丹はグアムとかハワイに家内と観光旅行に行ったとき少し射撃をしたことがあった。だからなんとなく使い方は分かった。とりあえず動くかどうか確認のため、全数数発ずつ撃ってみる。試射した結果、狙いはともかく動作しないものはなかった。

まとめて9000ドルだという。相場より高いか安いかわからないが、予想していたよりは安い。伊丹はカバンごと渡した。中には1万ドルちょうど入っている。ここでお札を数える気にはならない。釣りはいらないと吉本に通訳してもらう。












伊丹二等兵である バッグの中身を改めたオヤジは、ニコニコして店に吊してあるヘルメット、防弾チョッキ、手榴弾などいろいろ取り出して伊丹と藤原に着させて土産だという。完全武装の姿になった伊丹はありがとうと吉本に通訳してもらい握手をする。こういったものも購入すれば良かったと気が付いた。幸い今回いただいた物で間に合うだろう。

全部合わせると重さが200キロくらいある荷物をトラックに積んでもらう。
その恰好のままホテルに戻り、護衛たちに部屋まで荷物を運んでもらい手間賃を払う。
護衛たちはすぐに消えた。

吉本
「護衛たちが悪さするかもしれないから、すぐに立ち去ってください。私は後始末してからこの国の別の町に移動します。ここに長居する気はありません」
伊丹
「大変お世話になりました。ではお先に失礼します」

伊丹と藤原はが出入口から反対側に出ると新世界技術事務所の地下室だ。
出口のそばに椅子を置いて工藤が座っていた。心配していたのだろう。

工藤社長
「伊丹さん、藤原さん、無事でしたか? しかしすごい恰好をしてますねえ〜」
藤原
「なにごともありませんでしたけど緊張しましたよ。もう行きたくないですね」

それから伊丹と藤原は荷物をひたすらホテルの部屋から地下室側まで数メートルの距離を運ぶ。工藤も手伝う。
運び終わると工藤は吉本に近づき肩をポンポン叩き手を振って地下室に戻る。するとすぐに地下室にあった出入り口は消えた。
吉本も向こうの出入り口を消してすぐに現在の日本に帰るはずだ。気分としてはホテルからすぐに現代の日本に帰りたいだろうが、合法的に出入国するには通常の移動をしないとならない。

伊丹
「さて、これをどうやって砲兵工廠まで運ぶかですが・・」

日本で初めてトラックが作られたのは1904年、普及したのは関東大震災(1923)以降。
では1910年頃、荷物を運ぶのはどうしたかと言えば、荷車か馬車しかありません。

工藤社長
「相当重そうですね。次回の日程が決まったら荷車を借りましょう。
そうそう、伊丹さん、現代の日本ならそれらの鉄砲の使い方を書いたものは手に入りますか? 取扱説明書を砲兵工廠に渡さないと試行錯誤では危ないでしょう」
伊丹
「おお、そうですね。ミリタリーオタク向けの本を探してきましょう」

藤原が服を脱ぐのにいろいろと装備を外していて、手榴弾をテーブルに置くのを見て工藤が大声を出した。
手榴弾M67
工藤社長
おおおお手榴弾は爆発させないように注意してください。それもここに置いたら危ないから一緒にもっていって向こうで処理してもらいましょう」

二人がヘルメットや防弾チョッキを脱ぐと、火薬の燃えた臭いが部屋に広がった。

うそ800 本日のいい加減なこと
イラクあたりで中古兵器の相場はどうなのだろうとネットをググった。ネットではAK47は10数ドルから500ドルと幅があり、品物の程度の差だけでなく、需給状況によるらしい。ISISの盛衰や治安状況によって大幅に変動するらしい。そりゃドンパチが終われば不要になった武器が大量に出回るだろうし、近隣の店に強盗が入ったとなれば皆鉄砲を買ったり護衛を雇ったりするだろう。株式市場や米相場と同じ市場原理だ。

<<前の話 次の話>>目次


注1
日本人による初飛行は1910(明治43年)年の日本陸軍によるもの。
注2
日本でキャタピラの特許は1911年に取られている。現物は作られなかったようだ。
注3
クリップ(挿弾子)とマガジン(弾倉)は違う。マガジンとは弾丸を複数いれておく部品で銃にセットされる。クリップとはマガジンに装弾しやすいように薬きょうをつないでおくもので、装弾したのちはいらなくなる。リボルバーのスピードローダーのようなものだ。
注4
38式歩兵銃の弾丸は21グラム、5.5ミリNATO弾が12グラムらしい。5.5ミリ弾であっても、300発(4キロ)も腰に付けて野山を駆け回る力は私にはない。
注5
千葉県船橋市習志野台に、日露戦争の203高地攻城戦を基に訓練用に作られた要塞構造物である。現在は習志野台団地地下に眠っている。

異世界審査員物語にもどる
うそ800の目次にもどる