異世界審査員38.自動小銃その3

17.11.16

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

世の中にはびこっている(いないか?)ISO第三者認証あるいは広く第三者認証という仕組みは、いつの時代でも成り立ったのかといえば、そうではない。その仕組みが成り立つためにはいろいろな条件が整わないとならない。
まず直接的には品質保証という考えが共有されていなければならない。品質保証とは、顧客が製造工程において管理すべき事項を要求し、供給者はそれを実行することを約束することである。この品質保証は品質を良くするものではないことに留意が必要である。品質が良くならないのになぜそんなことをするのかと言えば、品質保証とは品質を悪くしないためのものだからだ。製品を作るときの条件が判明しているなら、その条件を守れというのは妥当なことだろうし、それを維持すれば管理状態に保てると期待できる。
ということは、そのとき既に製造条件は判明しているわけで、そしてそれを維持する方法も分かっていることが必要だ。製造条件を維持できないなら品質保証を約束することは嘘ということになる。

お断わり 現代のISO9001は「品質マネジメントシステムの規格」であって、「品質保証の規格」ではないとおっしゃる方もいるかもしれない。ちょっとお待ちなせえ、あなたは現実を見ていない。「品質マネジメントシステムの規格」であるならそうであることを証明してほしい。今だかってそれを事実でも理屈でも証明した人はいない。

通常は誰もが不良を作りたくないわけで、供給者は工程を管理しようという意志を持って製造工程の品質状態を監視し、不具合が出たならば原因を追究して対策をとるだろう。
そういう状態であるならば、当然、製造工程の監視項目は分かっており、それを監視する手法が確立されているはずだ。管理項目である寸法、重さ、表面状態、温度・湿度、異音その他もろもろに対応して、種々の測定器、表面仕上げの見本、温度計、湿度計その他もろもろを保有しており、それらは必要とする精度で測定できるはずだ。
言い換えると品質保証が理解されていなければ第三者認証制度というのは成り立つはずがなく、品質管理が行われていなければ品質保証はあり得ず、製造条件が不明ならば品質管理以前で(つまり不良を減らすのではなく、発生した不良をひたすら排除している状態)あり、監視項目も不明なら製造工程を管理するという発想が起きるはずがない。
そしてそういったことすべてを支えるのは、関わる人すべてが品質意識を持つことである。
当たり前と言われれば当たり前であるが、今の日本でISO認証を受けている企業・組織において、こういった第三者認証品質維持のための連鎖をご理解しているところがいかほどあるかと思うと、わかってないところは多々あるように思う。
最近報道されている神戸製鋼とか日産自動車では、そう積み重なった階層の最も基盤である品質意識という階層に欠落があったのだろう。
品質意識を強調してしまったかもしれないが、品質意識だけあれば良いのではない。その実行を裏付ける技術、技術には製造技術もあるだろうし測定技術も管理技術もあるが、そういう技術がなければこの連鎖はなりたつはずがなく、当然それらの延長上にある第三者認証というものが成立しない。
世の中にISO認証しても品質が良くならないとか、認証して良くなったのは文書管理だけ、なんて嘆く人がいるが、そもそも第三者認証が成り立つにはそういう条件整備が必要であって、裏付けが欠落していれば効果が出ないのは当然である。
そしてその理屈から、そういった基礎となるべき要件が整っていない時代までさかのぼって第三者認証を始めようとしても、それは世の中に受け入れられることはなく、また効果を出すこともない。

この物語で伊丹が異世界において第三者認証を始めることはスタート時点での目標であったが、実態を知るにつれて、管理技術だけではどうしようもない、まずは固有技術を向上しなければならないこと、また測定する測定器が必要であることに気づかされたのである。
だから製造の技能・技術移転のために藤原を引き込み、測定のためにはノギスやダイヤルゲージの情報提供や、計算尺の実用化への支援もしてきた。しかし品質管理が行われる段階はいまだに遠く、当然第三者認証が理解される段階はまだまだ遠い。
伊丹は自分が指導して少しずつレベルアップをしていけば本来到達する時期よりも相当早い時期にそのレベルになるだろう、そうすればこの国の製造レベルは大きく向上しているはずで、その結果、国力は大きく増強しているはずだと考える。その論理は間違いないかもしれないが、一個人の努力でそんな大それたことができるものだろうかという疑問はぬぐえない。
そしてまた、人間というものは他人に言われて実行するにはものすごい抵抗がある。自分が問題に気づきそれを解決していかなければ改善をする気にならないだろうし、成果もでないのではないだろうか。

伊丹たちが調達してきた自動小銃を南武少佐に渡してから10日ほど後、ここは砲兵工廠の会議室である。部屋には数人の軍服を着た人と、白衣を着た人が着席して議論している。

木越少佐
木越少佐
南武少佐
南武少佐

藤田中尉
藤田中尉

M16ライフル

M16ライフル

AR15

安藤技師
安藤技師

黒田軍曹
黒田軍曹

馬場技師
馬場技師


画像を回転して表示する方法を初めて知りました。

南武少佐
「先日、伊丹さんから提供を受けた自動小銃の検討をしている。完了までは至らず、まだ1種類を調査している状況である。ともかく本日は分かったところまでの途中報告をさせてもらいたい。今まで得られた情報を、我々設計する側と製造する側で共有し、今すぐできること、これから取り入れるべきことなどを議論したいと思う」
木越少佐
「南武少佐の発言に全く同意だ。ぜひとも判明したことだけでも教えてほしい」
南武少佐
「それでは安藤技師から説明してほしい」
安藤技師
「我々は今M16という自動小銃を調べています。全部で10丁ありました。これをすべてバラしました。そして各部品の寸法を測定しました。測定には藤田中尉から借りたノギスを使用しました。
その結果、すべての部品で、ばらつきが0.1ミリ以下であることが分かりました」
黒田軍曹
「0.1ミリ以下だって!それはすごい」
安藤技師
「まさに驚くべきことです。さらに驚くのは部品を組み立てる時に加工した形跡がないことです」
黒田軍曹
「つまり・・・それは・・・部品を調整せずに組み上がるということなのか」
安藤技師
「そうです。各銃に番号を振りそれからばらしたすべての部品に同じ番号を付けた後、ランダムに組み立ててみました。するとすべてなんら問題なく組み上がりました」
藤田中尉
「えっ、それは本当ですか?」
安藤技師
「本当です。それからその10丁を試射しましたが、すべて問題なく動作しました。まあ照準については調整しましたが」
木越少佐
「軍曹、今うちの組立工程で現物合わせで追加加工をしている割合はどれくらいだ」
黒田軍曹
「正直言いましてほとんど全部ではないでしょうか。そもそも組立工程ではなく、調整組立という名称になっています」
安藤技師
「部品には合成樹脂も多用されています。これはいかなる材料かわかりませんでした。それを金型に流し込んで成型したままで、その後加工した様子がありません。
また鉄板プレスとかアルミや鉄の鋳物も多くありますが、すべて鋳物のままとかプレス加工のままで、手作業で追加加工された気配がありません」
藤田中尉
「つまりすべての部品が互換性の要求を満たしていると・・・ばらつきは0.1ミリもないと」
木越少佐
「まさに夢のようだな。ウチでもそんなふうにできるものだろうか」
南武少佐
「ワシもそれを聞いて驚いた。我々が夢見ている互換性が完全に担保されている。
そして思うのだが、そういう精度で部品ができていないと、この銃は組み上がらず性能もでないのではないだろうか。つまり我々がこの銃の部品を真似して作っても、個々の部品の精度が出せなければ組み上がらないか、組み上がっても射撃しても動作しないとか排莢できないということになるのかなと」
木越少佐
「我々には作れないということか。
あの鉄砲を持った兵隊と38式歩兵銃を持った兵隊では戦いにならないな。特に出会いがしら状態で撃ち合えば一方的になる」

木越少佐は黙ってうなだれてしまった。

藤田中尉
「各加工工程の図面に許容できる寸法公差を記入してもらい、各工程でその寸法を出すようにすればどうでしょう?」
黒田軍曹
「中尉殿、そもそも機械加工やプレス加工で寸法精度が出せるかどうかですよ。図面にいくら厳しい公差を指定したとしてもそれができるわけではありません。
プレス部品に限っても、金型の精度、プレスの精度、作業者の技能など検討事項が山積ですね。
それに必要な精度が測れる計測器があるのかということも要検討事項です。我々がノギスを使いだしたのはここ1年です。工廠内でさえまだすべての工程にノギスが行き渡っているわけでもなく、下請けではノギスを見たことがないところもあります。
おっとノギスの精度で良いのかどうかも要検討ですね。0.1ミリを測るには0.05の精度では足りないでしょう」
藤田中尉
「要するに加工工程すべての機械加工の精度を上げること、そして正確な寸法を測れる測定器がなければならないということか」
黒田軍曹
「そうですね。そのためには計測器もノギスだけではなくいろいろな種類が欲しい。精度もノギスより一桁良いものが」
南武少佐
「あまりにも高い精度に打ちのめされたかもしれないが、今までのところで参考になったことはないだろうか?」
木越少佐
「藤田中尉、黒田軍曹、何か気が付いたことはないか?」
藤田中尉
「うーん、何をするにも機械精度と測定精度ですね。その二点について検討すべきです。工作機械メーカーを呼んで検討させます。
それから測定器についても百分台の測定方法を検討させましょう」
木越少佐
「伊丹さんが教えてくれたノギスはムダであったか」
黒田軍曹
「いえいえ、そうじゃありません。我々がノギスを使うようになって初めて0.1ミリという精度を理解できたのです。
そしてノギスを使うようになって品質は大幅向上しましたし、能率もあがりました」
南武少佐
「伊丹さんにより測定精度の高い計測器の提供を求めるというのもあるな」
藤田中尉
「おお、そうですね。明日にでも彼を呼んで話をしましょう。
そしてついでに今より精度の良い工作機械が入手できないか相談します」
安藤技師
「それから銃床ですが、木製でなく樹脂製です。内部は中空で重量は700グラム以上軽くなっています。4キロに占める700グラムですから大きいですね」
木越少佐
「果たしてどこから手を付けてよいものやら見当もつかん」
黒田軍曹
「あのう、こんなことを申しますと後ろ向きと思われるかもしれませんが、身の程というものがあると思います。今の我々にこれを作れと言われると、まあ事実上不可能でしょう。工作機械も工作技術も測定技術も未熟です。
ですが、これを参考に現状を少しずつ改善していくことは可能だと思います。今生産している38式歩兵銃の組み立ての際の調整作業をなくすこととか、不良率を一桁下げることとか、今できること、やらねばならないことをしませんか。そういうことを積み重ねていけば、高精度の加工はきっとその延長にあって、いつか実現できると思います」
南武少佐
「まあそうなんだろうなあ〜、というかそれしかないのが現実か」
黒田軍曹
「現状でこれを作ろうとすると1丁ごとにものすごい調整作業が発生するでしょう。まずは38式歩兵銃を調整作業不要、完全互換性というものを作ることに挑戦しませんか」
木越少佐
「単純に伊丹さんに向こうの世界から最新の工作機械を持ってきてもらえばいいじゃないか」
藤田中尉
「少佐殿、自分はそう簡単じゃないような気がするのです。なんといいますか、精度の良い工作機械一つを手に入れればおしまいではないと思います。
適正な材料入手もあるでしょうし、熱処理での歪みの管理とか刃物の検討もあるでしょう。精度の良い工作機械が必要なら、工作機械を作る工作機械もまた必要です。この自動小銃にはものすごい背景があるはずです。そういう背景というか基礎がそろわなければ工作機械だけ手に入れても実現できないように思います」
安藤技師
「藤田中尉がおっしゃる意味は分かります。我々もこの自動小銃をばらして驚きましたが、単にアイデアとか構造がどうこうじゃないのです。加工精度とか均質な材料とか、そういったものが必要で、この自動小銃は直接関わる技術とか生産設備だけでなく、製造はもちろん材料調達から輸送、電気や化学工業に至る広い分野というか社会全体に支えられていると思います」
南武少佐
「となると技術も社会インフラも貧弱な我国では、次の小銃も現在と同じものしか作れないということか」
木越少佐
「南武君、そう考えるのではなく、現状でもより良いものを作ることはできるのではないかね。
先日、伊丹さんも言っていたが、狙撃銃を除いた通常の交戦距離は300m以下だから射程は妥協し、その代わり近接戦での取り回し、整備の簡易化など現場の希望をすくい上げて反映することはできる。いやしなければならない。
そして我々も調整作業の全廃、完全互換性の実現に挑戦しなければならない。そしてこれから20年後に起きる大戦までに、このレベルの自動小銃を作れるレベルにする、それが現実的なところではないかな」
南武少佐
「妥協点としてはそんなところなのだろうなあ〜
せっかく身の危険を顧みずこれらを調達してきた伊丹さんたちには申し訳ないことだ」
安藤技師
「いえいえ、我々に目標を与えてくれたことはまさに天の恵みです。こういうものの存在を知るだけで挑戦する意欲がわきます」
木越少佐
「ヨシ、我々物を作る側も、工作方法、測定器、あらゆる面で挑戦だ。現行の38式歩兵銃でも調整作業なし、完全互換性の確保を目指そうじゃないか」


更に数日後の憲兵隊司令部である。
南武少佐が伊丹の調査結果を聞くために岩屋憲兵少佐を訪ねてきた。

南武少佐
「岩屋君、伊丹氏の調査は進んでいるかい?」
岩屋憲兵少佐
「俺たちのことを何でもできる鬼悪魔と思っている連中もいるようだが、我々だって法に従っている。逮捕だって家宅捜査だって法に定めてなければできない。」

岩屋は引き出しから書類を取り出してパラパラとめくる。実際には中を見ていない、南武少佐に一生懸命調査したんだということを示したいだけだ。

岩屋憲兵少佐
「お前の言うように確かに不審な感じはする。まず言葉が出身地の方言と違うと感じる。しかし戸籍や卒業証明書など公文書は整っている。これをすべて偽造したならばものすごいことだ。いや書類はすべて本物だから、偽造というよりも行政担当者とか村長などを巻き込んでやったとしか思えない。そんなことが可能とは思えない」
南武少佐
「本人を拘束して口を割らせることはできないのか?」
岩屋憲兵少佐
「おいおい、仮に伊丹がこの国で生まれたのではないとしてもその証拠はなく、犯罪が存在せず、書類上おかしなことがないのだからしょっ引けるわけがない。
とにかく調査は終わりだ」
南武少佐
「実はだ、本人が異世界から来たのだと俺に語っているんだ」
岩屋憲兵少佐
「はあ! それじゃ狂人とか演技じゃないのか?」
南武少佐
「単なる狂人とは思えない。実を言って俺のところで新しい小銃開発をすると言ったら、すぐに自動小銃を持ってきたよ」
岩屋憲兵少佐
「自動小銃とはなんだ?」
南武少佐
「弾丸を発射するときのガスで排莢して次弾装填する。切り替えで一発ずつでも連射でもできるんだ。伊丹のいた世界で使われているという。それはものすごい性能で、この世界にはまだない代物だ。だから伊丹がこの世界以外から来た人間で、そちらとここを行き来できることは間違いない」
岩屋憲兵少佐
「うーん、それはすごい話だな。ところでそうであれば自動小銃だけでなくいろいろな情報を持っているのだろう。つまり向こうの世界の話を。お前、何か聞いたか?」
南武少佐
「聞いた。聞いたというよりも向こうから話してきた。これからどんな戦争が起きるとか、どの国が勝つとかそういう話をした」
岩屋憲兵少佐
「信じられる内容だったか?」
南武少佐
「トッピではあったが、矛盾はなく論理が通らない話ではなかったね」
岩屋憲兵少佐
「俺も伊丹氏の話を聞いてみたいな」
南武少佐
「しょっ引くのか?」
岩屋憲兵少佐
「いやいや、料亭にでも招待してさ」
南武少佐
「お前の考えは分からんよ」
岩屋憲兵少佐
「ちょっと考える。時間をくれ。どうせ伊丹氏は逃げも隠れもせんよ。実を言って彼の自宅を見張ってはいるんだ」
南武少佐
「分かった。進展があったら教えてくれよ」


南武少佐から呼ばれて今日は工藤と伊丹は砲兵工廠にお邪魔した。
前回と同じく、南武少佐と木越少佐が待っていた。

南武少佐
「伊丹さん、いただいた自動小銃を調査中です。残念なことがあります」
伊丹
「残念とは、なんでしょう?」
南武少佐
「今の我々の製造設備、技術ではこの自動小銃は作れないようです」
伊丹
「そうですか。やはり精度が出せませんか」
木越少佐
「伊丹さんはそれをご存知でしたか。
いや悪いことばかりではない。二つの自動小銃はいろいろと異なるところもあるが、同じこともあった」
伊丹
「同じと言いますと?」
木越少佐
「完全互換ということだ。それぞれ10丁をばらして部品をランダムに組み立てても、すべて組み上がり動作したんだ。今の我々が作っている38式歩兵銃ではそんなわけにはいかない。組み立て時には必ず調整作業と呼んでいるが削ったり曲げたりという修正が必要だ。まずは今生産しているものから調整作業をなくそうということで検討を始めた」
伊丹
「さすがですね。どなたの発想か存じませんが、地道にできることから始めるということは王道でしょう」
木越少佐
「我々の製造技術が高くないことは自覚したよ。我々の実力では高望みするのではなく、基礎体力をつけるしかない」
南武少佐
「ともかくあの自動小銃は将来の目標というわけだ。次期歩兵銃はあまり高望みするのではなく、伊丹さんのご意見にあった、射程距離の見直し、軽量・小型、整備の簡素化などの使い勝手向上を主に考えるつもりだ」
伊丹
「私も微力ながら協力させていただきます」
南武少佐
「前回、伊丹さんが言ったように国家の力というのは兵器ではなく工業力だな。それをいかにして向上させていくかということが重要だ。それは我々だけでできるものではないが、我々が何をすべきかは考えていきたい。
ところで、伊丹さんの世界の戦略とか戦闘に関する書籍を入手できないものかね」
伊丹
「どのようなものがお望みですか?」
南武少佐
「そりゃ手当たり次第なんでもだよ」

うそ800 本日の本音
えー、私は異世界ファンタジーを書く気もありませんし、架空戦記を書くつもりもありません。品質保証という山はものすごくすそ野が広く、ちょっとやそっとでは山は高くならないということを言いたいのです。
巷に満ち溢れる架空戦記では、一人あるいは少数の科学者や技術者が、現代の兵器を50年以上前に実現するものがありますが、そんなことありえません。
現代は確かに原子力から飛行機、高層建築、トンネルなどなど作られている。しかしそれらは高度であるがゆえにものすごく細分化されていて、専門家であろうとひとりでは作れない。
しかし過去に戻った技術者はその世界をレベルアップしたいと思うでしょうね。それが可能かどうかはともかく

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外資社員様からお便りを頂きました(2017.11.16)
おばQさま
お相手有難うございます。
IF小説の不合理;まさに仰る通りで、一握りの未来知識を先取りできる技術者が世の中を変えることは、ほぼ不可能なのです。
これは、おばQさまがよく仰っているように、会社の中での仕事をすれば判る事です。
後知恵で正しかったと思える方針でも、組織で受け入れられなければ効果を発揮できません。
思うに、世の中の革新で、90%以上の労力は周囲を理解を得る事に費やされていると思うし、それが出来なければ組織は動かないのです。
ならば、会社を飛び出して起業するかですが、起業には金がいるしビジネスには信用は不可欠。
革新的な考えは周囲にはトッピにしか見えず、出資者を探すのは組織の意識改革をするくらい大変なことなのだと思います。
この小説を読んで不合理を感じないのは、その時代の人が、できる範囲で精度を向上しようと考える点、そして合理的な解と思うのは、互換性の重要性とその実現には精度が必要な事に気付いた点なのです。
地味なようですが、これこそが大量生産の工業製品の正しい方向なのです。
悲しいことですが、戦前の日本は、少なくともこれが工業の大きな方針にならなかった点です。
現場にいる名人達が、甘い精度を製品ごとに調整をして仕上げてしまう生産ライン。
裏返せば名人がいないと機能しないので、名人が徴兵されれば、学徒兵が鉢巻して必死に働こうが不良品の山。
戦争体験者から必ず指摘されるのは、常にオイルが垂れている航空機エンジン、修理の名人がいないと使えない機関銃や砲。システム全体での効率を考えれば、名人の養成と調整に必要な工数と費用と、個別の部品精度を向上に必要な工数と費用を比較すれば、後者が勝ることは戦争の歴史的大敗北で証明されてしまいました。
これは当時の陸軍も海軍も、合理的思考が基礎になかったからと思います。
技術者の勘というのは重要で、これを気づけた点が素晴らしいのです。
勘というと不合理に聞こえますが、実際には、経験と、常に思考する事で養われた能力です。
それが出てくる小説は、滅多に無いのです。
なかなか無い機会なので、絶賛しておきます

外資社員様 毎度ありがとうございます。
ご返事が遅れまして誠に申し訳ありません。このところ多忙なのです。いえいえ、まっとうなことでなく、フィットネスクラブの仲間とボウリングに行ったり、老人クラブの仲間と飲み会とか、もう連日スケジュールが真っ黒です。
全然世の中のためになることをしておらず申し訳ありません。
本題です
紫電改がすごいとか酸素魚雷がすごいとか、そういったことを書いた本は数多いですけど、現場で戦った人たちの書いたものを読むと問題含みですね。撃墜王穴吹智は撃墜した敵の古い練習機についている計器が飛燕のものよりもすごいとか、飛燕についてない油圧計が付いていたとか愚痴っていました。
別の人の書いたものですが、戦闘機が帰ってくるたびに整備兵がするのは油漏れをふき取ることだったとか。日本のガスケットはろくでもなく油漏れがひどかったという人は多いです。
そういった多くは工業水準が低い、基礎技術がないということが原因です。
ひるがえって、今の日本はどうかと考えると今はまだ良いかもしれませんが、基礎技術、機械要素といったベースがどんどんと流出していること、またそういったことに力を注いでいないのではないかということ、そんなことを思います。
個人的に考えればよい暮らしをしたいとか金を儲けたいとなると、医者、弁護士、会計士という職業を目指すことになるのでしょうけど、国家として考えるとやはりものづくりということが基本のキだと思います。
金融立国なんて言葉を2007年頃聞きました。アイスランドはを目指せなんて騙った人は多かったです。それが2008年サブプライムローンの破綻で、一夜にして国家崩壊の危機に陥りました。人間も国もまっとうに汗を流して働くことしか生きる道はなさそうです。
ところで、こんな駄文をなぜ書いているのかというと、自分のためです。ここまで38話書くだけでも結構勉強しました。
ダイヤルゲージのことを書くには本を読んだだけでは手掛かりがありません。メーカー、技術史を研究している大学の先生などに問い合わせました。いやあとんでもなく奥が深い、いや情報が見つかりませんでした。
歯車なんて工業高校で習っただけ。自分が歯車の設計とか加工をしたことはありません。文中に歯厚マイクロメーターのことを1行書くだけで歯車の本を3冊読みました。
 注:歯厚マイクロメーターとは歯車の寸法を測るものです。
科学的管理法については5・6冊読みました。アサルトライフルについては4冊読みました。シルク印刷しかり、
はっきり言ってボケ防止どころか勉強になると感じます。しかしそういったことを経て思うことは、やはり国力とは科学、技術、製造力だと思います。おっと、国力という言葉を使うために国力について書いてある本を2冊読みました。文章を書くということは試練ですね。
またのツッコミを期待します。

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