異世界審査員4.大工

17.07.03

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。

異世界審査員物語とは

プロジェクト管理(Project Management)という管理技術のカテゴリーがある。
竪穴式住居 昔々、まあ縄文初期(B.C.10,000)としようか、その頃はプロジェクトと呼ばれるような大きな仕事はなかったと思う。竪穴式住居を作るとか、遠くの地まで物々交換に出かけるというくらいなら一人の頭の中で計画できたに違いない。
その後時代を下るにつれて大掛かりな仕事が現れた。三内丸山遺跡(B.C.3,000)ではとんでもなく大きな丸太を組み合わせた砦(?)があったらしい。
ピラミッド
エジプトではピラミッド(B.C.2,500)を建てたり、ギリシア(B.C.800)で神殿を作ったり、ローマ(B.C.500)では橋を架けるとか街道を整備するなど。
戦争をするには剣や弓が上手な兵士がいればよいわけではなく、正面装備だけでなく輜重もあるし、情報収集、敵方のかく乱、対防諜いろいろしなければならない。
とはいえ戦国時代頃(A.D.1400)までの戦(いくさ)の時間感覚は現代とは違い、季節単位で動いていたようだ。兵農分離が進んでいない時代は、戦とは農閑期の行事だったのだろう。 侍
半村良の「戦国自衛隊」では、タイムスリップした自衛隊が戦国武将に優れていたのは現代の武器ばかりではなく作戦能力そして即応体制であった。 ナポレオン(A.D.1700)以前は一刻を争う移動能力を重視した機動戦というのはあまり知らない。

時代が新しくなるにつれどんどんとプロジェクトは大きくなり、その多くは軍事関連であった。例えば船それも戦艦のような大物を作るときは、ものすごい数の仕事が並行して進んでおり、果たして今は全体の何割まで進んだかということを把握するのも困難だった。管理指標として何をとらえたらよいのかさえ分からなかったそうだ。だから日常の管理にしても、現場を見て人が足りない・余っているを見て手を打つ程度だったそうな。しかしそれは国家安全保障に係る重大問題だったので、管理方法を考えることは必然だった。

戦艦大和は姉妹艦である武蔵の半分の日数で完成したという。それは建造責任者であった西島技術大佐という人が、造船の進捗管理の指標には締結したリベット数と溶接長で把握すべきと考え、 その数値を日々集計し進捗管理をしたからだという。
戦艦大和

進捗管理とはどこまで進んだかを記録することではない。実績を把握し、予定との違いをなくすように手を打つことである。

ガントチャートは第一次大戦時(1914)に、プロジェクトを管理するためにどんぶり勘定でなく、プロジェクトを構成する作業ごとにその各段階に分解した。ヘンリ−・ガントという人が考えたそうだ。後世まで名を遺したとは羨ましい。

ガントチャート

今は子供でも知っているPERTなるものは、人間を月に送るというアポロ計画(1961・注)を実施していくにはガントチャートでは管理できないということで考えられたそうだ。仕事の進捗を管理するだけでなく、各タスク(仕事)の相互関係が分かり、時間的に厳しい工程(クリティカルパス)を見つけ、全体の工期を短くすることができた。

注: PERTはポラリス潜水艦プロジェクト(1958)で考案されたという書物もある。
どちらにしても大規模で開発期間の短縮、コスト削減のためであることは間違いない。

実際には今現在でも普通の仕事ではガントチャートが使われることが多い。取り扱うプロジェクトの規模と困難性が低いから初心者にわかりやすいガントチャートで間にあうのだろう。

じゃあ、ひるがえって21世紀のプロジェクト管理手法を100年前(明治末期)にもっていけばすばらしい成果が出るかといえば、どうだろうか?
私はそうはならないと思う。単純な仕事がただ大規模になるだけなら難しくはないだろう。大きな建物を作るだけなら大工だけで間に合う。しかし建物だけでなく、そこに大仏を収めるとか、土木工事を伴うとか、更にそういったものの全体スケジュールを短縮するとかいうときにプロジェクト管理の必要性が出てきたのだろうと思う。
そしてそういう条件がなければわざわざ難しい手法を使うまでもない。
必要は発明の母であり、必要がなければ発明されることはない。

吉本、工藤、伊丹の三人は、朝の打ち合わせを終えると森広鉄工所というところに挨拶に行く。聞くと陸軍の歩兵銃の部品を作っているという。現物を見せてもらったが数センチの部品を作っている。板金をプレスで型抜きして曲げたり穴あけしてやすり仕上げした後、下請けに持っていってメッキしてから砲兵工廠に納品している。
38式歩兵銃 数年前に扶呂戦争があったばかりで、軍備増強の風潮で仕事量は十分あるという。工場内は活気があふれ、働く人たちの表情も明るい。
一通り工場を見せてもらって応接室に戻る。
話をしていると女子事務員が会議室に入ってきて、社長に電話ですという。森広社長は吉本に断って部屋を出たが、すぐに戻ってくる。

森広社長
「すみません。同業者から今夜飲みませんかというお誘いでしたよ、アハハハハ
いやね、現場で気の利いた女の子がいたんで、事務所の給仕をさせたのだが字を書くのが苦手でね」
工藤番頭
「字を書くのが苦手と電話がどういう関係があるのですか?」
森広社長
「電話が来てもすぐに私が出ることができないことも多いじゃないか。今みたいに客が来ているとか外出もするしさ、
そういうときメモでもしておいてくれればいいのだけど、読むのはできるのだが書くのがどうも」
工藤番頭
「そりゃ困りましたね」
森広社長
「字を書く練習とそろばんをやれと言っているのだが、なかなか」
伊丹審査員
「おたくにガリ版ありますか?」
森広社長
「ありますよ、それが?」
伊丹審査員
「文字を書くのが不得手でも書いてある中から選ぶことくらいできるでしょう。例えばですね」

伊丹は紙を取り出すと表を描いた。

いつ  月  日  時  分
どこから甲社、乙社、丙社、丁社・・・
だれからお名前
用件のあらまし
どうしてほしい電話ほしい、あとでまた電話する、この要件はおしまい
急ぎ具合大至急、急がない、・・・

伊丹審査員
「例えば、こんなふうにガリ版で作っておくのですよ。相手の話を聞いて、該当箇所を丸で囲むくらいはできるでしょう」
森広社長
「なるほど、せっかく来られたのだから伊丹さんの顔を立ててだまされたつもりでやってみるか」

その後、森広社長に作業改善の提案とかしたのだが、軍の指導を受けておりコンサルを頼む必要がないと言われた。改善の必要性を感じていないのなら仕方がない。


三人はいったん会社に戻る。
昨日、南条さんと工藤さんと話をしたのだが、現状では南条さんはあまり仕事がないので当分の間、吉本たちのお昼を作ってくれることになった。工藤さんは竹で編んだ愛妻弁当を持ってきている。4人が会議室に集まって一緒にお昼を食べる。
南条さんが食器を下げお茶を入れなおすと雑談タイムだ。

伊丹審査員
「こちらの様子はまだよくわからないのですが、生産管理とかスケジュール管理などの指導という需要はないものでしょうか?」
工藤番頭
「う〜ん、むこうの世界と違って会社の規模が小さいでしょう。今日行った森広鉄工でも、昨日の岡本染色でも技術的なことから、仕事の納期、お金、人などすべてが社長の頭に入っているんですよ。何人かの番頭に分けて管理するほどの複雑じゃないんです」
吉本取締役
「なるほど」
工藤番頭
「それと一つのものを作るにも多くの工場や会社に分割されているでしょう。だから工程管理とか日程を短くしようというのは、それを取り仕切っているところの仕事でして」
伊丹審査員
「取り仕切っているところはどこか、ご存じないですか」
工藤番頭
「昨日行った岡本染色も今日の部品も相手は全部陸軍です。正確には砲兵工廠ですね。もちろん我々が陸軍に売り込みに行けなくもないでしょうけど、まあ門前払いでしょうね。
はっきりいって財閥とか政界とか学閥のつながりがないと」
吉本取締役
「なるほどなあ〜、いや参考になったよ」
伊丹審査員
「ともかく認証ビジネスは遠いというのはわかりました」
吉本取締役
「いやいや、そのつてを探して陸軍の仕事をとることはできないかな」
工藤番頭
「私も生かじりですが、今まで社長から教えていただいたことから考えると、陸軍に品質保証要求を制定させることが手始めで、次に我々がその規格に基づいて品質監査を代行するというのはどうでしょうか?」
吉本取締役
「おおアイデアだね。ただその話を進めるには、現状の不良とか品質コストの状況を把握しないといけないな」
伊丹審査員
「イヤハヤ、みなさんのポジティブ思考には感心しますよ」
工藤番頭
「伊丹さん、弱気になってはいけません。今の時代はまだ産業勃興期で流動的です。アントレプレナとかいいましたっけ、誰でも意欲があれば会社を興せるのです。うまくすれば財閥になれるかもしれません」
吉本取締役
「そいじゃ昼飯も終えたことですし、午後は昨日の岡本染色に行ってみますか。
大工がどうこうという話だったよね」
工藤番頭
「まずは染屋に行って社長に案内してもらいましょう」


再び岡本染色にやってきた。工藤は引き戸を開けてズカズカと入っていく。

工藤番頭
「社長さんいますか?」
岡本社長
「おお、よく来たな」
工藤番頭
「昨日の話が上手くいったとか聞きましたんで拝みに来ましたよ」
岡本社長
「ああ、倅が癇癪を起さなくなっただけでもありがたい。こっちだこっちだ」
なんなんでしょうかねえ
吉本と伊丹が二人の後を追う。

昨日の作業場に直径1mもある大きな木製の円盤が置かれている。白木の文字盤に墨痕鮮やかに仕事が書かれてその中心に指針がある。
指針は回っているのだろうが、ゆっくりなのでちょっと見た目には動いているようには見えない。
岡本の息子
「やあ、昨日教えていただいたようにしてみましたよ。これを見ると何をするかわかります」
作業者
「自分は昨日初めてこの仕事をしたんですが、言葉で教えてもらっただけではわかりにくいんです。これは時計を見て何をするかわかります。おかげで今日は若旦那にまだ怒鳴られてません」
作業者
「おれはもう長いことこの仕事をしているので体で覚えているが、こう見ると仕事していない手待ち時間が多いことが分かったよ。若旦那と話して仕事の組み合わせを見直せないかと考えている」
岡本の息子
「熟練者はこんなものいらないと思っていたけど、予想と違い効果がありました。今までも手順を抜かしたりすることはたまにはあった。そういうことがなくなることと、それとトメさんが言ったように改善の出発点になりそうな気がする」
岡本社長
「まあ皆から好評だ。工藤君の話も嘘800ばかりじゃねえってこったな」
工藤番頭
「社長、冗談はやめてよね。で、大工の棟梁の話はどうなりやした?」
岡本社長
「そうだ、そうだ、ここで話をしてもしょうがない。これから棟梁のところに案内するわ」

岡本社長はみんなを引き連れて外に出る。
スタスタと歩いて数分で大きな2階建ての民家に着いた。

岡本社長
「おーい、棟梁いるかね?」
大工の棟梁
「なんだよ、誰かと思ったら岡本のとっあんじゃないか」
岡本社長
「悪かったね。昨日、時計屋で話がでた専門家を連れてきたよ」
大工の棟梁
「あれは冗談じゃなかったの?」
岡本社長
「オレは江戸っ子だよ、冗談と坊主の頭は結ったことがねえ」
大工の棟梁
「ここじゃなんだ、まあ上がってくだせえ」

岡本社長以下4名は棟梁に導かれて広い居間に入る。欄間もふすまも柱も立派なものだ。21世紀には欅の柱なんて手に入りそうない。とはいえこういう家は好みに合わないと伊丹は思う。
棟梁は大きな青写真の図面を広げる。みると木造2階の長い学校のような建物だ。
大工の棟梁
「これは新宿のほうに計画されてる練兵場の兵舎なんだよ。ひと棟200坪もあるんだ」
吉本取締役
「練兵場というと兵舎だけでないのでしょう?」
大工の棟梁
「そうだ。井戸を掘ったり道路を作ったり植栽もある。
建物も兵舎だけでなく本部とか講堂とかいろいろ施設を作るのだけど、俺が入っている組合に兵舎を作れという割り当てが来た。ところがうちの仲間は誰もこんな大きな仕事をしたものがいない。俺たちが作ってきたのは大きいといっても料亭とか風呂屋くらいだからね。皆尻込みして一番年長の俺にこの仕事を仕切れというんだ。俺も困ったよ」
伊丹審査員
「なるほど、今までにない大きな仕事ということですか」
大工の棟梁
「それだけでないんだ。納期が4か月後だよ。材料は軍の方で手配しているそうだけど、今まで大規模な建物をそんな短納期で建てたことなんてない」
伊丹審査員
「それは大変ですね。家を建てる時は大工とか左官とかの人工(にんく)の見積もりはできるのですか?」
大工の棟梁
「おやさすが専門家だねえ〜。一緒になって作る大工仲間と必要人工は見積もった。
正直言って俺は建物しかよくわからない。石工や左官とか、2階建てだから鳶まではいらないだろうがいろいろあるだろうね。
指定によると基礎は石でなくべトン(コンクリート)にするそうだ。知ってるかい?」
伊丹審査員
「ええと、それは例の戦争の影響ですか?」
大工の棟梁
「そうそう、ロシア軍が要塞をべトンで作っていたので、兵隊にそれを身近に感じさせるために本部と講堂はベトン作りにするという。兵舎は基礎だけベトンにするそうだ」
伊丹審査員
「なるほど、状況はわかりました。それで要求された工期ではできないと・・・」
大工の棟梁
「そりゃ大工を何百人もかけるとかすりゃできる計算にはなるけどね、そんなこと実際にはできないがね」
伊丹審査員
「兵舎1棟200坪とおっしゃいましたね。人工とすると400人日くらいですか?」
大工の棟梁
「一般の家庭で20坪なら基礎とか電気を除いて60人工というとこかね。でもまあ兵舎は一般家屋と違って間取りが簡単で台所なんてないわけで、おっしゃるように200坪で400人工というところかな」

注: 当時は電動工具はないし金具を使うことも少なくノミ加工によるホゾやアリ加工が多くて、大工仕事は現代の木造住宅の倍以上かかっていた。壁も土をこねて塗りつけるので日にちがかかった。

伊丹審査員
「4か月120日ですから400人工なら、毎日大工が3人半いればできることになりますね」
大工の棟梁
「そうはいかないよ。まず日曜休みがあるから実際は100日しかない。それから手はじめは土方を入れて地面を削って盛って平らにしなくちゃならない。元は牧草地だったから水平を出すのも大変だ。ひと月かかるだろう。
次に基礎工事となるが、縄張りして掘方、砂利敷、型枠作ってベトンを流し・・ベトンが固まらないと大工仕事は始められない。うーん、半月は必要だろう」
伊丹審査員
「コンクリート、いやベトンが固まるのに5日くらいですかね」
大工の棟梁
「我々は1週間や10日はみているねえ〜そのほか水道工事もあるし、
躯体工事、屋根、それから壁塗りと。それだけじゃない、その次に内装や電気工事に外壁塗装もしなくちゃならない。すると大工は35日で仕上げないとならない。となると大工が400人工として35日で割ると11人から12人か、でも俺たちだけじゃないできないから人が集まるかどうかも問題だ」
伊丹審査員
「兵舎はひと棟だけではないのですか?」
大工の棟梁
「全部で10棟らしい。同時に建てるわけで大工の取り合いが大変だ」
伊丹審査員
「10棟同じものを建てるなら柱でも戸でも同じものを大量に作るわけで、同業者が集まって分担したらいかがですか。それぞれが柱も梁も戸も窓も作るよりも、柱を作る人、梁を作る人というふうに分担すれば慣れもあるでしょうし相当早くなるのではないですか?」
大工の棟梁
「なるほど、そういう手もあるな。
しかし計画を立てるのは難しい。柱だけできても建前はできないし、大工たちの作業場も違うから加工する順序とか搬入とかもよほどうまく計画しないとならないな」
伊丹審査員
「大工だけでなく、土木とか基礎屋と話し合ってお互いの仕事を組み合わせて全体的な日数を短くすることを話し合ったらよい考えが出るかもしれません。三人寄ればと言いますからね」
大工の棟梁
「うーん、話は分かるが・・・作業を組み合わせるとはどういうふうに検討したらいいものか?」
伊丹審査員
「木っ端ありませんか? 1寸角くらいがいいですが。同じくらいの大きさの駒が何十個もほしいです」
大工の棟梁
「何をするのかわからないが・・・ちょっと待ってくれ、作業場から見つけてくるわ」
数分して棟梁が両手いっぱいの木材の駒を持ってきた。

大工の棟梁
「こんなものでいいかな。たまたまこの前、1寸角の桟を作ったらちょうど1寸長すぎて切り落としたんで大量のサイコロができちゃったよ」
伊丹審査員
木片 「結構、結構、今回の大工仕事が400人工ならこれ1個を4人工としましょう。そうすると100個になりますが、まあとりあえず10個くらいに大工と書きましょう。
大工以外に土木や基礎がありますから土木、基礎と書きますね。1個のサイコロはみな4人工を表します」

伊丹がマーカーで駒に文字を書くのを見て棟梁が言う。
大工の棟梁
「おお、その筆はいいなあ、俺にくれよ」
伊丹審査員
「よろしいですよ。蓋を取っておくと乾いてダメになってしまいますから、使わないときは必ず蓋をしてくださいね。仕事ごとに色分けするとわかりやすいでしょう」

伊丹はカバンからマーカーの多色セットを取り出して棟梁に渡した。ここでなにか貸しを作っておけばあとでいいことがあるかもしれない。どうせ向こうの100円ショップで買いなおせばいい。
大工の棟梁
「おお、ありがとう。他に水道、電気、内装などもある」
伊丹審査員
「それじゃ、それも書きますね。みな1個4人工です。
次にこの紙を全日程として長手を4か月分、100日として、ここにこの駒を並べるわけです。休日も仕事をするかもしれないから書いておいた方が良いですね。
横は日程、縦方向に並んだコマの数に4人をかけた数字がその日に必要な人数です
ではどうするのかと言いますと、この紙に書いたそれぞれの日に作業する仕事の駒を人数分置いていきます。
例えばこうします・・・並びは適当です。私は仕事の内容なんて知りませんからね」

日程計画図

伊丹が適当に駒を置いていくのを棟梁は腕組みして眺める。しばらくして鉢巻をほどいて締めなおした。興味を持ってきたのだろう。

大工の棟梁
「大工仕事が初日からあるのはなんでだ? 俺たちは基礎ができないと仕事ができないぞ」
伊丹審査員
「大工仕事と言っても事前にできるもの、現場でしかできないものとあるでしょう。前もってできることは早くから始めたらいいでしょう。
大工仕事の内容の違いをはっきりさせるなら色を変えるとかするのもありですね」
大工の棟梁
「何人もの大工が別個に、ましてや部材ごとに分業するとなると、始める前に相当細かいところまで詰めておかないとだめだな。いつものようなある程度作っておいて、細かいところは現場で現物合わせというやり方はできない」
伊丹審査員
「そうです。接合個所をどういう継ぎ方にするのか、アリとかホゾの寸法をあらかじめ決めておく必要があります。間違いが起きないようにひな形を作って、それに合わせて作る方がいいかもしれませんね
もちろん大工だけでは決められないこともあるでしょう。土方や基礎の親方と話し合って日程や寸法関係を決めていきます」
大工の棟梁
「分かった。そして人数をなるべく平均化して、長さを100日に収まるようにする」
伊丹審査員
「そうです。基礎が固まった翌日に一挙に10棟の建前をしたらみんな驚きますよ。
とはいえ同時じゃなく順繰りに建前をした方が、後工程の電気や内装なども棟ごとにずれていくから、少人数で10棟の仕事ができかつ習熟が期待できる」
大工の棟梁
「ちょっとすまん。一旦ここで止めてくれ、
あとは俺に考えさせてくれ」
工藤番頭
「伊丹さん、紙に仕事を書き込まないで駒を並べるのはどうしてですか?」
伊丹審査員
「紙に書いてしまうと動かせないから、いろいろ試すことができません。駒を置くだけなら気兼ねなく動かして検討できます」
岡本社長
「紙よりも板の方がよいかもしれないね。見ているとどうも落ち着きがない」
大工の棟梁
「俺も思った、現場に板はあるけど紙はない。それに線を引くのも墨ツボなら一瞬だ」
工藤番頭
「そして決まったらそれを板に書き込んでしまうわけですか」
大工の棟梁
「いや実際に工事になれば、雨降りとか材料の遅れいろいろ状況変化があるだろう。そのときにそれ以降の計画変更ができるように、このままがいいかもしれんな」
工藤番頭
「それなら完了したとこは駒の色を変えれば進捗が一目瞭然ですね」
岡本社長
「道場の名札掛けのように完了したら裏返すのもある」
伊丹審査員
「これを工事現場に誰もが見えるようにしておけば、工事にかかわる人たち全員に進捗を理解してもらえますし、仕事に対する意欲が増しますよ」
岡本社長
「フフフ、うちでは工場ふたつあるんだが、毎日の予定を事務所に書いておくと、競争心が沸いて遅れることが少なくなった」

どうでもいいこと: D.カーネギーの本で読んだお話である。
アメリカで能率の上がらない製鉄所があった。それで経営幹部が退社する工員をつかまえてシフト中に何度「湯」(溶けた鉄)を流したか聞くと8回だという。幹部はチョークで床に大きく"8"と書いた。
交代の工員が入ってきてその数字はなんだと聞いた。次の交代時にはその数字が横線で" 8 "消されて脇に大きく"9"と書かれていた。そしてどんどんと生産性が上がったという。
提案制度をしている企業では各人の名前と提案件数を貼っておくところが多い。あれは競争心から提案をどんどんと出させるためである。
勉強でも会社でも健全な競争は成長を促すが、なにごとも行き過ぎると問題だ。

大工の棟梁
「よし、駒を必要数作って色を塗り、仲間を集めてワイワイやれば良い案もでるだろう」
お酒
工藤番頭
「仲間とワイワイやるのはいいけど、飲みながらでは建前のあとに基礎工事をする羽目になりまっせ」
大工の棟梁
「てやんでえ、べらぼうめ」

うそ800 本日の回顧
ガントチャートが普通じゃないかという声があるだろう。でもあれってパソコンが現れる前は書き直しが簡単にできません。書き込まずに駒とか木っ端を並べる方がいろいろアイデアがでると思います。
実を言って私が若いとき、1960年代ですが、当時勤めていた会社で新機種の設計のときはこんなことをしていました。誰もが俺の仕事は大変だ時間が欲しい人が欲しいというのは当たり前。それで何人工かかるのか具体的な数字を出して駒を並べて、人のやり取りを含めて計画を決めました。会議の結論は議事録を書く人が決めるという風潮でしたから、ガントチャートを書く人が好き勝手しないようにこういった方法をとったのでしょうね。もっとも計画通りいったことはあまりありませんでした。
おっと、本文の工数はでたらめですからイチャモンつけないでくださいね。
Yosh師匠がクレームをつけてくるような予感がする。

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