4.3 適用範囲の決定

17.05.22
この項番はツッコミどころ満載なので、とりあえず今回はその第1回目として最初の一文だけ取り上げる。


組織は、環境マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定しなければならない。
(ISO14001:2015 4.3)

さてISO14001は認証だけを目的としているわけではなく、序文には二者間にも自己宣言にも使えると書いてある。それだけでなく環境マネジメントのための体系的なアプローチによって長期的な成功を築けるとある。
ともかくISO14001規格は認証のためのものではないなら、この適用範囲は認証範囲の意味ではないことは明らかである。組織はマネジメントシステム、つまり運用の仕組みやルールの適用範囲を決めなければならないということだ。
認証範囲なら審査料金によってここまでにしようとか、客から要求された範囲にしなければということで決定されるだろうけど、認証範囲でなければ仕組みやルールをどこまで適用するか決めなければならないということを言っている。

この文章を何気に読んでいると何も感じないというかナルホドネと終ってしまうだろう。
だけどあなたが会社規則を一から作っているとすると、いや会社規則をお守りしている立場であるなら、そうは思わないだろう。おかしいなあ〜と感じるはずだ。

説明する。
あなたが会社規則を書くとしよう。そのときは "既に" その規則が効力を発揮する範囲、つまり○○工場とか○○研究所という物理的範囲とか、営業部門とか施設管理部門という機能的範囲を決めて起草しているはずだ。どこまで適用するのかどの範囲まで有効なのかが決まっていなければ規則というものを作れるはずがない。
マネジメントシステムとは文書に裏打ちされた体制、役割、手順であるから、必然的に存在するマネジメントシステムはその適用範囲が明確になっているはずである。もし適用範囲が明確になっていないのであればそれはマネジメントシステムではない。

どうでもよいことであるが: ISO9001:1987年版において「明確にする(define)」とは文書化すると同義であった。そしてもちろん「確実にする(ensure)」とは記録に残すことであった。はるか昔のことである。

お前は何を語っているのか お前は何を語っているのか
なんて言わないでください。
というか今までに話したことで言いたいことをお判りにいただけないでしょうか?

マネジメントシステムを明確にするには文書化せねばならず、その文書を書くためには適用範囲が明確でなければならないということだ。
となるとおかしなことになる。
この項番では「環境マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定しなければならない」というが、それは逆ではないのだろうか?
会社あるいはその他の事業を進めるためには一人でできないから組織を作る。そのときわざわざ適用範囲を決めるというよりも、必然的に決まるということではないのだろうか?
工場の規則を作ろうというとき、諸条件、諸事情でこの範囲内の規則を決めようという発想ではなく、適用範囲を決めることはおかしいというか変だと思う。

私は過去に一つの事業部を二つに割ったときの規則作成とか、新設の工場の規則作成などに参画したという得難い体験が数回ある。事業部を分けるということはその企業の経営判断であり、専決事項である。そして事業を分けるということはマネジメントシステムの境界を定めるということである。

そうではあってもその前提には


 a)4.1に規定する外部及び内部の課題
 b)4.2に規定する順守義務
 c)組織の単位、機能及び物理的境界
 d)組織の活動、製品及びサービス
 e)管理し影響を及ぼす、組織の権限及び能力

(ISO14001:2015 4.3)

といったことを考慮して決定されているはずだというご意見もあるかもしれない。
だがそれはもはやISO14001規格の範囲外のことだろう。企業のウィルで組織を作りそれが行う業務を決めるというだけのことだ。そして決定した業務をその組織が担っていくというだけのことである。
といえばお判りだろう。
「組織は、環境マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定しなければならない」というのは論理的におかしい。
4.3の言っていることは現実とは逆なのである。
マネジメントシステムの適用範囲を決めなさいではなく、マネジメントシステムの適用範囲は自動的に決まる、あるいは決まっているのである。

とここまで書いてきてこの文章が間違いというか誤訳に気がついたのである。
この文章の英語原文では「決定する」「determine」である。
辞書を引けばわかるが、「determine」とは「(意思で)決定する」ことではなく、「調査した結果なにかが分る」あるいは「制約条件によってなにかが決まる」という意味である。以前も環境側面の誤訳について語ったが、それとまったく同じ語を同じように誤訳しているのだ。
だからこの文章「The organization shall determine the boundaries and applicability of the environmental management system to establish its scope.」「組織は、環境マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定しなければならない」ではなく「組織は、環境マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を調査して明確にしなければならない」と訳するのが本当だろう。

いろいろとさまよってきたが、問題は翻訳がいささかというか根本のところで不適切ということであろう。誤訳とまではいわないが、誤解を招きやすい翻訳であることは間違いない。
そしてJIS訳では同じでも原文では異なる語であることもある。このへんは問題じゃないのだろうか? いや正しく言えば問題である。 このほかにもたくさんあるだろう。数える気にもならないけど

うそ800 本日の教訓
ISO規格を理解するにはJIS翻訳ではなく、英語を読むしかない。
いっそのことJIS規格に訳さず英語のISO規格ままの方が良いのではないか
1992年頃、主任審査員になるためには英語力が要求されたがあの時代に戻るのか・・・
いやいや、日本語訳するときに正しく誤解されないようにすればいいだけだと思うのだが。



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