異世界審査員114.南洋開発その4

18.09.06

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは


ゆきの後に続いて岩屋と米山はドアを通ってコロールの小屋に来た。
ドアを通った瞬間に汗が出る。3月の扶桑国では外出にはコートが必要だが、ドアのこちらは熱帯だ。

岩屋
「これじゃ上着は着ていられない、ワシは上着をぬいでワイシャツだけで出かけよう。おっと軍隊手帳を持っていかねば、何があるか分からない。米山君も身分証明になるものを持っていけよ」

小屋を出ると、ゆきの案内で町を貫く大通りに出る。木造平屋の商店やレストランなどが並んでいる。その先には南洋庁、総合病院、役場などの官公庁の建物が見える。

ゆき
「これが私の泊まっているホテルです。ホテルというと東京では立派なものですが、ここでは一般人が泊る普通の宿屋です」

そのとき、「待て〜」という声が聞こえた。12・3歳の男の子がそばの店から走り出て来て、岩屋の前で何かに躓いて転んだ。追いかけてきた現地人が少年を引き起こす。少年は扶桑人だ。

岩屋
「この子供が何かしたのかい?」
男
「泥棒ですよ。ここ1週間で3回もやられたよ。警察に突き出してやる」
岩屋
「面白そうだな。わしも同行していいかね。証人になろう」
男
「警察はすぐそこ、歩いて一分くらいだ」

変なことになったと思ったものの、米山とゆきもその後に続く。
1・2分歩いたところに警察と看板の出ている小さな建物がある。子供を連れて男を先頭に皆ぞろぞろ入る。それを見て現地人の警官が立ち上がる。

男
「巡警殿、盗人です。店のものを盗んで逃げたので取り押さえました」
巡警
「まだ子供じゃないか、親の顔が見たいよ」

奥の机から立派な肩章を付けた警官がやってきた。

池神警部
「小僧が泥棒とか、まったくしょうがないねえ・・・ウッ、これはまずい」
巡警
「どうかしましたか?」
池神警部
「こいつは南洋庁長官の倅だ。揉めると困る、放免しろ」
小僧
「ほら、オヤジが怖いなら早くしろよ」
岩屋
「ちょっと待ってください。私は目撃者なのですが、南洋庁長官の息子なら無罪放免ですか?」
池神警部
「うーん、捕まえていてもすぐに放免しろといわれるだけだ」
男
「それじゃ盗まれ損じゃないか。今回はたまたま捕まえて盗品を取り戻せたけど、これからは見逃せと言うのか」
池神警部
「うーん、」

岩屋は失礼すると言って警察の建物から外に出た。米山とゆきもその後に続く。

米山教授
「放置ですか?」
岩屋
「なかなか面白いと思ってね。ゆき、このあと熊田君に長官の息子のことを聞いてきてくれ。
米山君はこの通りの店を聞き取りして今のようなことがあるのか調べてくれ」

三人はしばし警察署の前で話をしていると、ほどなく少年が釈放されたようで、門を出るとペッと唾を吐き捨てて歩いていった。
それを見送っていた岩屋たち三人の後ろから声がかかった。
先ほどの警部がいた。どこかで見覚えがある。

岩屋
「申し訳ない君の顔は覚えているが名は忘れてしまった」
池神警部
「岩屋少佐殿ですよね。私は元東京憲兵隊におりました池神です。当時は憲兵曹長でした」
岩屋
「おっ、言われて思い出したよ。確かに池神君だ。
米山君とゆきさん、俺は話をしていくからさっきの件に取り掛かってくれ。
ちょっと話をしよう、どこか内緒話ができる場所ありますか?」
池神警部
「内緒話なら道端が一番安全です」
岩屋
「そいじゃ日陰に入ろうよ。ここは暑くてかなわん」

花が咲いている名も知らぬ木の下にベンチがあったので、そこに座る。
岩屋は池神警部に軍隊手帳を見せて、今は憲兵ではなく政府の調査機関にいて、部下と仕事で来たと説明する。政府の調査機関と聞くと、なるほどと納得する。
池神は南洋諸島を扶桑国が統治したとき駐屯軍の憲兵としてやって来て、その後軍政から民政に変わったとき、身分を憲兵から警官に変えてここに残ることを選択した。今は奥さんを呼んで二人暮らし、子供たちは本土の学校だという。
岩屋は先ほどの万引きの少年を釈放したことを聞く。
警部はため息をついて、愚痴を語る。少年の万引きどころか親の長官も店や飲み屋へのタカリで住民も警官も参っていること、しかしそれを咎めるとなにかしら無実の罪を着せられ本土に送り返されてしまうという。
岩屋も呆れたが、とはいえそれは真実か? まだ万引きしか見ていない。
2週間くらいいるつもりだと言って警部と別れた。
浜に行って飛行艇を眺め、また街を通ってゆきが借りた家に戻った。ゆきから島村医師が岩屋たちに会わない方がいいと言っていたと聞いていたので、病院には行かなかった。

小屋に戻ると米山とゆきの他に熊田がいた。

岩屋
「熊田君・・だったな。政策研究所にお邪魔したとき会ったことがあったね」
熊田助教授
「米山さんからいきさつは伺いました。間もなく私は帰国するので、そのときに中野さんに相談しようと思っておりました。島村先生から中野さんへの救急活動の支援から、そちらが行動を起こしたとは驚きました」
岩屋
「聞いたかもしれんが、このメンバーは今、帝太子殿下のお庭番をしている」
熊田助教授
「ほう!そうでしたか。ゆきさんから長官の息子の行状を聞かれました。息子どころか親の方も同じですよ。小役人が中央から離れた地で権力を持つとどうしようもなくなる典型です。講談では悪代官が出てきますが、あれと同じです」
岩屋
「悪代官とは講談と小説の中だけの存在だよ。実際にはいなかったらしい。代官は厳しいノルマがあり、また監査もあり、悪いことなどできなかった(注1)
ところで暑さに参ったよ。ゆき、お茶かコーヒーが欲しい。悪いが街まで行ってお茶とコーヒーの道具一式を揃えてくれ。ここは水も買わないとならないようだからそれも頼む。夕方は皆で街に行って一緒に食べよう」

午後一杯、4人は話をする。とはいえ熊田が語るのを3人が聞くばかりだ。
お茶 ここでは長官がすべての権力を持っている。長官がまっとうな人なら良いが、私利私欲に走ると止めるものがない。ここの統治を始めた頃は地位が高い人が長官をしていたが、だんだんと中央から見て重要性が落ちてきて、官僚すごろくのあがりのひとつになったのだろう。
熊田の話では、長官のふるまいが幹部に感染し、更に下の役人までに広まっているという。原住民や扶桑からの移住者に対する強請り・タカリ、公金横領、南洋庁の船や飛行機の私的利用、外地駐在者の子弟の優遇措置の悪用などなど

岩屋
「熊田君、証拠はどれくらいとれる?」
熊田助教授
「申し上げたことに間違いはないですが、裏付ける具体的な書類や帳票類となると担当する下級役人を味方に付けなければなりませんね」
岩屋
「役人ぜんぶが長官よりなのか?」
熊田助教授
「そうではありませんが皆戦々恐々で、長官の敵にならないようにしているので。なにしろ下手に動くと自分の方が悪人にされてしまいますから」
岩屋
「強制的に監査しないとだめか?」
熊田助教授
「あるいは重要な任に付いている人に、こちらの立場を明らかにして協力を求めるとか」
岩屋
「過去の問題について、関わった人に聞き取りすれば話してくれるかな?」
熊田助教授
「人によるでしょうね。ことなかれとか自分もお零れを頂戴している人はダメです。役人を辞める覚悟と辞めても生きていく能力があれば証人になってくれるかもしれませんけど」
米山教授
「あの警部もあまりあてにならないようですね。南洋庁長官には警察の指揮権もあるのですか?」
岩屋
「立場上は警察に対して一般的な指示はできるが、捜査とか逮捕に対してはない。警察の統括は内務省にある」
米山教授
「じゃあ万引きを釈放させたのは?」
岩屋
「あれは警察が長官ともめたくないのだろう」
熊田助教授
「長官の息のかかったやくざ者がいますから、警官では抑えきれませんよ。警官はこの島に10人くらいしかいません。あの長官ならやくざ者を使って騒動くらい起こすでしょう」
米山教授
「長官とのトラブルをなくすためなら住民とのトラブルはあってもいいわけですか」
岩屋
「おいおい、そういう言い方はいかんぞ」
米山教授
「殺人などの重大事件なら長官が警察に命じても釈放はないのですね?」
熊田助教授
「まあ、そうでしょうね」
米山教授
「それを聞いて安心しました」
岩屋
「これは小細工なしに南洋庁の業務監査をしたほうがいいな」



その日、三人は熊田と夕飯を食べた後 東京に戻った。
翌日、岩屋は帝太子と中野に、状況を報告して監査員を派遣してもらうのがベストであると説明する。

帝太子
「岩屋さんなら魔法のようなテクニックで処理してくれるかと思っていたが。
監査して、悪さしてないときはどうする? お庭番スタート直後にこけるのでは困るぞ」
岩屋
「不正がないなら長官は無罪が証明されて結構じゃないですか。しかし今の状況を見れば悪事をしているのは間違いありません」
中野部長
「会計監査の専門家となると総理直下にはおりませんから、内務省の会計課から専門家を出してもらいます」
帝太子
「移動は飛行機でか?」
岩屋
「ドアを通って行くのもありますが、周りがおかしいと思うことをしたくありませんね。我々のことを知る人が増えると漏れる可能性も大きくなります」
帝太子
「分かった。中野よ、次の飛行機便で担当者を派遣できるように手配してくれ。
岩屋はお金以外の犯罪とか恣意的な刑罰や釈放の証拠をつかんでおけ。
それと、長官が手下を使って暴力に訴える恐れもある。それについてはどうする?」
岩屋
「確かに長官が官僚ややくざなど腹心を10人も集めて武装させれば警官では抑えきれませんね。憲兵と陸軍特殊部隊から2・3名呼び寄せます」
帝太子
「そこは岩屋が上手くやれよ」



ケンジは、足は骨折し体中何針も縫う大怪我をしたものの、体力はあり退屈なので車いすでその辺を走り回る。ナミは仕方なくその後を追っていくのが日課だ。
ゆきが岩屋と池神を連れてきた。

ゆき
「あれ、ケンジじゃないか? 歩き回って大丈夫なのか?」
ケンジ
「大丈夫、大丈夫。足が動かないだけでベッドにいるのも退屈で」
ゆき
「ケンジに話があるんだけど」
岩屋
「ケンジ君はこの島の酋長と顔見知りかね?」
ケンジ
「南洋群島の酋長同士の会合があるのはご存知ですよね。私も父親の代理で会合に出たことがあります。ですからこの島の酋長とも知り合いです」
池神警部
「ちょっとこれからトラブルが起きそうだ。それで警察の手伝いとして人を出してほしい」
ケンジ
「警部さんなら直接酋長に話せるでしょう」
池神警部
「私からの指示ではなく、島民が自主的に立ち上がったことにしたいのだよ」
ケンジ
「酋長に頼んで人を出してもらいましょう? 100人くらいはすぐに集まるでしょう」
池神警部
「すぐに連絡がつくかい? ケンジは歩き回れんぞ」
ケンジ
「ナミに連絡してもらいます。街の土産物屋をしているのが酋長です」
池神警部
「それじゃケンジ、酋長への手紙を書いてくれないか。ナミはそれを持って行って話をしてくれ」



三日後の昼過ぎ、定期便で内務省会計課の職員が5名やってきた。
岩屋と池神警部が砂浜に出迎えに行く。挨拶するとそのまま南洋庁まで歩いて行く。監査責任者は野上と言った。

池神は庁舎に入り総務課に行く。職員に総務課長はどこかと聞くと知らないという。
池神が机の上に上がる。それを見て職員たちがざわざわする。

野上
「諸君、私は内務省から来た野上である。
総理大臣閣下に南洋庁において横領が多発していると密告があった。密告が正しいのか検証するために私が派遣された。総務課長の協力を得て帳簿類を点検しようと考えていたが、総務課長がおらん。行先をご存じなら私に教えてくれ。
ということでここにいる5人のメンバーで本日から点検を行う。心配することはない、諸君全員が疑われているわけではない。もし不正な処理についてご存じであれば、ぜひとも情報を提供してほしい。
また諸君が不適切な処理に関わっていたとしても自主的に申告して損害賠償することを誓約するならば、罪一等を減じることも約束する。そういうことなく横領その他の犯行に関わったことが明白になった場合は、法に基づき告訴される。有罪となれば懲役刑になるだろうし、退職金、恩給などの権利は喪失する。もちろんここにはそういう人はいないと思っている。
ただいまから仕事でも書類には触らないでいただく。諸君はこの部屋を出てもらう。部屋の警備は警察に依頼した。もし書類に触れないために仕事ができないならば魚釣りをしてもよい」

「ええー」とか「なんだってえ!」という声が聞こえるが野上は気にしない。
皆が出た後、ドアを封じ巡警を配備して表に出る。

本庁から歩いて数分のところにある雀荘である。総務課の職員数名が一大事の知らせのために駆け付けた。

南洋庁長官
「なにごとだ?」
職員
「内務省から緊急会計監査が入りました」
南洋庁長官
「内務省? 南洋庁は内務省とは関係ない。ここは総理大臣直轄だ」
職員
「総理大臣から内務大臣にご指示があったそうです」
南洋庁長官
「来ているのは誰だ? ワシの部屋に来させろ」

楽しくマージャンをしていたが、一瞬にしてお通夜のような雰囲気になった。皆ここにいてはまずいと感じたようで三々五々と本庁に戻りはじめる。
長官が自室に戻ってお茶を飲んでいると背広を着た男が入ってきた。

野上
「私は野上といい内務省の会計課長です。総理からご指示があり内務大臣閣下の代理として南洋庁の帳簿点検を命じられました」
南洋庁長官
「下っ端役人が、そんなことは許さない 💢」
野上
「そう言われましてもあなたも官僚ですから、私の使命もお分かりでしょう。
ところで総務課長がつかまらないのですが、ご存じありませんか?」
南洋庁長官
「総務課長なら先ほどまで一緒だったが」
野上
「ご存じでしたら速やかに出頭するようにお伝えください。
ええと、こちらにある書類もいじらないように願います。書類の改ざんや盗難防止のために、警部に依頼して巡警が24時間監視をしますのでよろしく」

そういう間もなく、ドアが開いて警部と巡警という現地人の下級警官が入ってくる。

池神警部
「長官、内務省からの要請によりまして南洋庁本庁の警戒に当たります」
南洋庁長官
「この地の警察はワシの指揮下にあるはずだ」
池神警部
「普通の行事ならそうかもしれませんが、国の組織では、我々は内務省の下にあります」
南洋庁長官
「ワシはどうしたらいいのか?」
野上
「とりあえずこの部屋を出ていただきます」

長官はお茶を飲み干して部屋を出ていった。

野上
「おとなしく退去してくれましたね」
池神警部
「いやいや、彼はやくざとおつきあいがありますから、今晩でも刺客が来るかもしれませんよ。この島中の巡警を集めて野上さんたちの護衛に当たりますが、なにせ人数がおりませんからご自身で身を守ってほしいです。野上さんたちはホテル宿泊ですか? ホテルにも巡警を派遣しましょう。
私は警察に戻ります。総務課長はトンズラしたのかもしれません。あるいは長官が総務課長一人に罪をかぶせて海に投げ込んだとか」
野上
「悪い冗談はやめてください」

池神警部が警察署に戻ると、米山がいた。

米山教授
「本庁の方はどうですか?」
池神警部
「書類や帳票を動かさないように確保した。巡警が警備している。野上さんたちは監査を開始した。
ところでこの島中から集めたが巡査と巡警で10人ちょっとしかいない。ナミの方は話がついたのだろうか?」
米山教授
「この辺のやくざは鉄砲とかピストルとか持っているのですか?」
池神警部
「任侠を自認してる連中ですから長ドスは持ってますね。飛び道具は聞いたことはありませんが、港には外国の船も来ますし持っていてもおかしくはないです」
米山教授
「鉄砲で一人二人殺しても、最終的には怒り狂った群衆にやられるだろうけど、死んだ人は還らない。騒動にならなきゃいいけど」

岩屋がやって来た。体のごついのを二人引き連れている。

岩屋
「こちらは陸軍特殊部隊の相川軍曹と荒井伍長だ。問題が収まるまでの用心棒を頼んだ」
相川軍曹
「やくざが何人いるか、そのうち何人が鉄砲を持っているかですが・・」
池神警部
「まず長官に忠誠を誓う幹部が数人いると思います。幹部連中は軍刀とピストルは持っているでしょう。まあ、使ったことはないでしょうけど。
それから元から長官べったりのやくざ者が5名程度、やくざ連中は長ドス持っています。ピストルも持っているかもしれません」
相川軍曹
「それじゃ皆が集まって来たときにそのメンバーを教えていただけますか。大勢で囲い込んでしまうのがいいでしょう。動きも取れず狙撃もできないように」
岩屋
「総務課長は捕まらないのか?」
池神警部
「雀荘からどこに行ったのか?」

電話が鳴った。池神警部がとる。

池神警部
「総務課長が捕まったそうです。書類を取りに本庁に忍び込んだのを巡警が見つけて捕縛しました。まもなくこちらに連行します」
岩屋
「警備するのは、本庁とここだな。長官が総務課長を奪還しに来るかもしれない。書類を持ち出されたり燃やされるとおわりだ」
池神警部
「現地人の応援が絶対に必要ですね」
岩屋
「では今晩と明日の予定だ。
ナミが現地人を動員出来たらどうするのかな?」
池神警部
「本庁とホテルとここの警備をさせます。本庁は書類の保全、ホテルは野上さんたちの警護、ここは総務課長の身柄の確保」
岩屋
「警察の支援であるを明確にするため、現地人の応援者に帽子あるいは腕章を付けさせろ。それから指揮系統をはっきりさせること。配備する場所のグループ分け、立哨は30分が限度だから交代制にすること。食事、水、便所などの確保をすること。アルコールは禁止」
池神警部
「了解しました」
岩屋
「野上君の監査の方はどうなんだろう?」

ナミが警察に入ってくる。

岩屋
「ナミ、話は付いたか?」
ナミ
「この島のチーフにお願いしました。今夜7時までに100人確保して警察署前に来るそうです。
チーフからの依頼ですが、暴動と間違えられないために、警察であることを示す帽子とかバッジのようなものを貸与してほしいとのことです」
池神警部
「了解した。こちらでも気が付いて準備している」

総務課長が連行されたので留置所に閉じ込める。
その後を追って数人の人が警察に入ってくる。
先頭はなんと南洋庁長官だ。

南洋庁長官
「総務課長を釈放しろ、横領とかで逮捕したようだが、まだ犯罪かどうかわかっていない。越権行為だ」
池神警部
「疑いが晴れたらすぐに釈放します。書類をいじられないようにちょっとの間身柄を拘束します」

なんとか押し返してほっとする。

岩屋
「連中は今夜押し入ってくるだろう。総務課長を取り戻したいのは間違いなく証拠があるのだろうね」
池神警部
「明日とかそれ以降ということはないですか?」
岩屋
「野上君の監査が進んでボロが出る前に動くだろう。だから今日・明日だろう」

酋長が派遣してくれた現地人は百数十人もいて、三か所の警備に分け更に二交代に分けてもアリの這い出るスキもない。
本庁の方には誰も来なかったが、警察署前には怪しい者が数名佇んでいる。この地では騒動を見に危険なところにくる野次馬もなく、警備隊以外は彼らだけで、長官からの回し者であることは明白だ。
岩屋が本土から呼んだ相川軍曹と荒井伍長は挙動不審な数名を取り押さえ、本庁を警戒していた巡警は放火しようとした者を捕まえた。締めて長官の指示という言葉を引き出して、長官宅で酒を飲んでいた長官も捕まえる。
とりあえず翌朝まで警戒を続けたが、特段問題は起きなかった。
翌朝、長官とその配下が捕まったという話が広まると、10名ほどが野上警部に自首して来た。そしてその他の職員もおとなしくなった。元から犯罪に関わっていなかった職員は野上たちに協力してごまかしを教えてくれた。

米山教授
「岩間さん、なんだかあっけないですね。大もめにもめる騒動になるかと思っていましたが」
岩屋
「そうなった方が良かったか?
その前に、内務省の専門家に監査をしてもらうのが良かったのか、それとも我々素人が尻尾を掴むよう努力した方が良かったか?
俺はお庭番のような非正規ルートじゃなくて、本来の指揮監督のルートで不具合を見つけ正すというのがあるべき姿だと思う。
そして怪我人がでないように大げさなくらい事前に手を打つべきだ。まあ、思うだけだけどね」

野上は数日で長官と取り巻きの横領や越権行為を多数見つけた。野上が中野に報告すると、その日のうちに長官解任と野上が長官代行を務めることという辞令が来た。それは初めからの予定だったのだろう。
帳簿の点検が完了した2週間後に長官と取り巻きが本土送還された。

うそ800 本日の考え
なんだ全然つまらないとおっしゃらないで。お庭番と名乗っても、超法規的(違法)行為はしてはいけないわけで、結局合法的でまっとうなことしかしてはいけないと思います(注2)犯罪者が法を破っても、権力側はまっとうなことしかしてはいけないという非対称性の足枷を甘受しなければならないでしょう。

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注1
江戸時代、将軍や領主に代わり天領を治めたのが代官である。水戸黄門を始めドラマや小説には悪代官が登場するが、現実にはそのようなことはめったにない。
代官は世襲でなく、また数年で任地を替わったから癒着は発生しにくい。その任務は治安維持や年貢の取り立てだけでなく、住民の安全や健康に責任があった、飢饉で死者が出たりするとその責任を問われた。だから常に開墾や産業育成に努め、農民の生活向上などを配った。私の住んでいる下総は江戸時代はほとんどが天領だったので代官によって治められてた。古い寺社には、代官が行った諸事業や代官が親孝行者に与えた報奨などを記した碑がある。
参考資料
 「百姓の江戸時代」田中圭一、筑摩書房、2000
 「村から見た日本史」田中圭一、ちくま書房、2002
 葛飾八幡宮、川上善六翁遺徳碑など

注2
政府が異常事態に際して超法規的措置とか名乗ってことを成すことがある。過去、ハイジャック犯に脅迫されて、身代金を払いハイジャック犯を逃がし、更に受刑者をパスポート付きで釈放したことがある。これを超法規的措置と美辞で呼ぼうと、法の定めを逸脱した違法行為であることは明白だ。違法だと言われるのを嫌うなら、非常事態対応の法律を作っておくべきである。
もっとも非常事態対応の法制定にはサヨクたちが反対するので、これもなかなか進まない。


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