異世界審査員54.船団護衛その1

18.01.29

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは
素晴らしいアイデアがあっても、それを実現する技術や材料がなければ絵に描いた餅に終わる。レオナルドダヴィンチはヘリコプターを考えたそうだが、時期尚早で絵に描いただけで終わってしまった。
とはいえアイデアがなければ新しいものは生まれない。技術がなくても、新しいものを考えることは大事だ。アイデアがあればそれを実現しようとする人は必ずいる。そして実現可能なものは、必ず実現される。

ダビンチが考えたヘリコプター
ダビンチのヘリコプター
この絵は有名だが、ダビンチが駆動方法をどう考えたのか長い間分からなかった。
最近見た絵では円盤の上で4人の人が縦軸の中ほどに付いているぶっ違いの棒を押して回している。
押している方向を見ると、ぜんまいを巻いているのではなく、回転翼が回る方向だ。人が押して回すならせいぜい毎分50回転だろうし、それほど低速なら推力がでるはずがない。
それよりも回転翼のトルクのバランスをとる仕組みがないから、そもそもの設計が間違っているように思える。
対策として上と反対ねじれの回転翼を下に付ければ解決だ。二重反転式ってやつだ。

1914年も年末である。欧州では激しい戦争が続き、既に数十万人の戦死者とそれと同じくらい一般市民の死者が出ている。
幸い、遠く離れた扶桑国は欧州の戦いとは無縁だ。もちろん東アジアや南洋の島々の戦闘には扶桑国も関わり、中国山東半島の青島のドイツ軍要塞攻撃とか南洋のブルネイやマリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島のドイツ軍を破り占領した。いずれも扶桑国の連合国側が圧倒的勝利に終わった。とはいえブルネイで1,800名、青島で270名の戦死者を出している。おっと、ブルネイの真実は実行部隊の幹部と参謀本部のみが知る重大な機密である。

欧州の連合国から日本への援軍派遣依頼は幾度となく来ている。当初日本の参戦を断っていたイギリスもあまりにも激しい消耗戦になったからだろう、ぜひともと数度の要請をしてきている。イギリスは本国だけでなく、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなどから兵士を集め、インド人の部隊まで派兵している。
1914年末になると扶桑国と同盟を結んでいないフランス、ロシア、ベルギー、セルビアなどからも派遣要請がきた。政府は欧州の戦争は扶桑国の安全に関係しないとして、これらの派兵要請を断っている。本音を言えば、1914年の半年だけで両軍合わせて70万もの戦死者を出している戦いに、わざわざ遠くまで若者を派遣したくない。203高地の戦いでは4カ月で1万6千人の戦死者がでたから、一日当たり100人の戦死者だった。今欧州では毎日その数十倍の戦死者が出ているのだ。仮に扶桑国の陸軍全兵力23万を送ってもひと月半で全員すりつぶされる計算になる。

ここは小春日和の日差しが暖かい政策研究所のラウンジである。お茶、コーヒー、紅茶それに簡単な茶菓子がある。幸子は本を読みながらクッキーをかじっている。 コーヒー 今日は研究所に来たものの、特に会議もなく調査することもない。来なくてもよいのだが家にいるのも退屈だ。
幸子がここで過ごしていても、とがめる人はいない。いや幸子が異世界からきたと知らない人は、幸子の振る舞いと処遇を見て華族か皇族の末裔が降嫁した方だ、伊丹は髪結いの亭主で奥さんのつながりで役職についていると信じている。石原中尉もその一人である。
おっと幸子も伊丹もそんな風に思われているとは思いもよらない。
中野中佐が部屋に入ってきて幸子を見つけると、幸子に断って向かい側に座った。

幸子
「まあ、中野中佐、お久しぶりです」
中野中佐
「だいぶご無沙汰してましたね。お元気ですか」
幸子
「元気、元気。ブルネイはお疲れさまでした。私もホッとしました。もっとも期待した成果が得られるかどうかは、これからの戦後処理次第でしょうけど。
ところで最近は私が必要とされていないようでちょっと鬱々しています。なにか面白いお仕事はありませんか」
中野中佐
「課題山積ですよ。連合国諸国からの欧州戦線への参戦要請にどう対応するか、これは外交問題、オーストラリアの反日感情をどうしようかというアジア地域問題、それから国内問題ですが・・向こうの世界では「対華21ヶ条要求」というのがあったそうですが、こちらは元々中国に権益をもっていなかったこともあり、それほど無茶を言う人はいません。しかし先だって攻略した青島を我が国の租借地にせよとか、中国の関東地方を租借しようとか政治家が騒いでいます。なにしろ今は自由民権運動がさかんで、戦争に行かない衆議院議員どもが中国で金儲けしようと企んでいますからね。新聞もその尻馬に乗って扇動しています。
でも死ぬのは軍人です。国家の安全に関わるならともかく、成金や新聞社のために死なせたくありません」
幸子
「なるほど問題山積ですね」
中野中佐
「冒頭の課題ですが、連合国も消耗激しい大陸の戦いに扶桑国に参戦を求めるのは無理だと考えたようで、今度はアメリカから欧州への輸送船団の護衛を打診してきたのです」
幸子
「ドイツの潜水艦対応ですか」
中野中佐
「まだ本格的な潜水艦戦は始まっていませんが、ゆくゆくは輸送船を狙うだろうとイギリスは考えています。なにせドイツは水上艦が弱体ですから、持てるUボートを有効に使おうと考えるのは当然です」
幸子
「中野中佐は既に向こうの歴史をお調べになられたのでしょう」
中野中佐
「はい、来年から大きな脅威になりますね」
幸子
「でもそれは石原中尉のお仕事ではありませんの。企画力のある軍人がいるなら素人の私が出る幕ではありません」
中野中佐
「石原中尉には南洋経営を考えてもらっているのです。こちらは伊丹さんが中心になっていただけませんか。私は議会対策を何とかしなければならないのです。というか役割分担は政策研究所長が決定されたのです」
幸子
「それなら否応ありませんね。でも、私が中心とは?」
中野中佐
「伊丹さんお一人では手足が足りないでしょう。とりあえず軍人と技術者ということで、海軍から一名、海軍工廠から1名で進めたいと考えています」
幸子
「承知しました。では顔合わせをしていただければすぐに取り掛かりたいと思います」
中野中佐
「ありがとうございます。では今から」
幸子
「まあ、中野中佐はお仕事が早いのですね」

二人が小さめの会議室に入ると二人の男性がいた。二人は立ち上がり幸子に礼をする。

兼安少佐
兼安少佐
吉沢課長
吉沢課長
中野中佐
「こちらは兼安海軍少佐、こちらは海軍工廠の設計課長の吉沢中佐です」
幸子
「伊丹と申します。夫もここに出入りしておりますので間違えないためには幸子と読んでいただいた方がよろしいかも」
吉沢課長
「よそ様の奥様をお名前で呼ぶのはちょっと」
中野中佐
「そいじゃ伊丹室長にしましょう。奥様は軍属ですから役職を付けてもおかしくない」
幸子
「暴漢に襲われて寝込んでしまうようではお役目が務まりません」
中野中佐
「まあまあ、それはともかく。では伊丹室長をリーダーに、この三人で船団護衛の方策を考えてほしい。
目的はアメリカから英国まで大西洋を航海する輸送船を、ドイツの潜水艦から守ること。そのための兵器、戦術を考えること。
明日から、いや今からフルタイムで取り掛かっていただく。考えるだけでなく、三人が協力して必要資材の調達そして運用まで面倒を見てもらう。期限として作戦開始は再来年明け、ちょうど一年後だ。兼安少佐には現場で指揮を取ってもらう。
ゆくゆくこの3人では足りなくなるだろうから、必要なリソースは計画書を添えて要求してほしい」
幸子
「責任重大ですね」
中野中佐
「ブルネイ同様に成功することを期待します」
吉沢課長
「ブルネイとは?」
中野中佐
「それは機密だ。お三方には新しい機密を作ってほしい」
幸子
「こちらのお二人は向こうの世界の存在はご存じなのですね」
吉沢課長
「お話を伺いました。ただ向こうの世界の状況や歴史はまだ勉強しておりません」
兼安少佐
「私もです。なにせ今の話ですから」

中野中佐はそこで部屋を出てしまった。無礼というよりも、ものすごく忙しいのだろう。

幸子
「それじゃ今からスタートしましょう。まずは向こうの世界での潜水艦攻撃の経過を勉強しましょう。皆同じことを勉強しても仕方ありません。分担してお互いに輪講しましょう。
とりあえず明日の課題は、兼安少佐は欧州各国の海軍の状況、吉沢課長は潜水艦の性能と兵装、私は対潜水艦戦、対潜戦というそうですが、その概要をまとめることにします。ともかく三人の認識・知識をレベルアップしたい。1週間も勉強すれば、このプロジェクトの理解と方向が見えてくるでしょう。
輪講は明日からとして、今日はこの施設の案内をいたしましょう」

幸子は三人が使う部屋、机やパソコンを含めた事務用品の確保、事務員の依頼をする。それから二人を研究所内を案内する。食堂や種々設備を説明し、最後に図書室に来て資料検索方法や二人が読むべき資料などを説明する。
吉沢も兼安も幸子の能力を測りかねているようだ。いや疑っているというのがほんとのとこだろう。男尊女卑が当たり前の時代で、国家の重大な防衛課題に女性が参画するなど考えられない。ましてやこのプロジェクトのリーダーは伊丹室長なのだ。というとこの奥さん、中佐以上なの?

幸子は図書室から潜水艦や対潜戦に関する書籍や資料を抱えて戻る。そしてすぐに読み始めた。兼安と吉沢は初めは設備担当者が部屋にパソコンを設置したり書架を設置したりするのを眺めていたが、すぐに図書室から持ってきた資料を読み始めた。


翌日である。朝一から幸子が講義を始めた。

幸子
「まず私が勉強したことを説明します。それから兼安少佐、吉沢課長の順にお願いします。一巡したらそれらについて議論を進めていきたい」

幸子は資料を配る。A4サイズで20ページくらいある。
二人は幸子から渡された資料を見ておおっとと声を出す。正直言ってふたりとも幸子がこれほど包括的で詳細なものをまとめてくるとは思っていなかった。これを一晩で作ったのか?
幸子はプロジェクタを使って説明を始める。二人ともプロジェクタはみたことがあるらしい。

幸子
「対潜戦というものは三つの要素からなるようです。ひとつは索敵、二つ目は攻撃、三つめは防御です。
敵を見つけるには船からの見張り、飛行機や飛行船による見張り、ゾンデなどの活用。攻撃は今の時代は潜水艦というよりも可潜艦ですから浮上しているなら大砲で撃つというのが最も簡単。潜航中となると爆雷か魚雷。防御というのは発射された魚雷を防ぐことですが、船の回避、魚雷の破壊や阻止しかありませんね」
<索敵>
索敵
レーダーもソナーもない時代は、船や飛行船から目視でウォッチするのが唯一の方法だった。
パッシブソナーが実用化されたのは1916年、アクティブソナーは1917年である。
但し、当時は常時潜航しておらず、通常は浸潜状態といってセイルを水面上に出していたから見つけやすかった。
ちなみにセイルは乗用車より大きくバスくらいあった(注1)
<攻撃>
砲撃

潜水艦が浮上しているときは、砲撃がもっとも普通の攻撃だった。
潜水艦は艦の構造が二重になっていてそこに水を出し入れして潜航・浮上をする。だから外殻に穴が空けば潜航も浮上もできなくなる。
ただそのためには大砲の(1分当たり)発射速度が速くなければならない。通常の軍艦と違い潜航すれば砲撃をかわすことができる。だからその前に命中弾を与えなければならない。
爆雷攻撃
潜航してしまえば砲撃はきかなくなる。水の抵抗は空気よりはるかに大きく、砲弾は水面下の極めて浅いもの以外、水中の標的には無力である。
潜航した潜水艦への攻撃は当時は爆雷を投下するだけだ。
なお第一次大戦時は爆雷を投下するだけで投射する方法はなかった。ヘッジホッグの登場は1942年、スキッドは1943年だ。とはいえそれらは現代の潜水艦には無力となり、今は対潜魚雷がメインだ。

<防御>
回避
潜水艦からの攻撃方法は二種類あった。
ひとつは非武装の輸送船を攻撃するとき、潜水艦は浮上して当時の潜水艦に装備されていた大砲で砲撃した。魚雷は数多く搭載していなかったので大事に使われた。
砲撃を受けたら逃げるか、降伏するか、反撃するしかない。非武装の輸送船を装い、Uボートの攻撃を受けたら大砲を出して反撃するQシップと呼ぶ囮船もあった。
武装した船を攻撃するときは魚雷を使う。第一次大戦当時の魚雷でも30ノットで6000mくらい走行した。
魚雷攻撃を避けるために水上艦は、危険水域では直進せずにジグザグに航海した。魚雷を発見したら、水面の航跡をみて回避運動をした。魚雷が複数でなければ概ね避けることができた。
金網のようなものを舷側から離して垂らす方法も試みたが、港に固定する場合ならともかく、船が曳航するには水の抵抗が大きくすぐに使われなくなった。
魚雷を砲撃、銃撃する方法もとられた。戦記物を見ると有効だったようだ(注2)潜水艦と違い、魚雷は水面近くだから砲弾が届いたのだろうか?

幸子
「アメリカからイギリスまで船団を潜水艦から守るといっても、船団護衛しかないということではありません。例えば港にいる潜水艦を破壊するのもあるでしょうし、潜水艦を追い求めるのもアリでしょう。
もちろん方法の選択はリソースなどの制約もありますし、期待できる効果にもよります」

幸子が説明を終わると、兼安が発言を求めた。

兼安少佐
「室長、大変申し訳ありませんが、私は室長がまとめられたほど勉強が進んでおりません。それで本日私の報告はご容赦いただき、その時間を室長の講義をもとに討論とさせていただけないでしょうか」
吉沢課長
「ああ、室長すみません。私もこれほど広く深く調べておらず、兼安少佐に賛同します」
幸子
「うーん、致し方ありません。それでは午前中はそういうことで、午後は各自課題研究といたしましょう。明日は、進捗に関わらず担当事項を報告していただきます」
兼安少佐
「ありがとうございます。では早速ですが室長への質問です。今のお話は何を根拠にされたのでしょうか?」
幸子
「まず異世界のドイツがどのような戦い方をしたのかということがひとつ。もちろん異世界はこの世界と同じではありません。ですから全く異なる戦法をとるかもしれません。
だからそれは参考に留めておくべきです。皆さんがドイツ軍の潜水艦や魚雷を使って、どのように戦うのが最善かを考えることが出発点でしょう」
兼安少佐
「実際問題として潜水艦戦というのは、まだ世界でも大々的には行われていません。どうしたら戦術、戦略を考えられますか?」
幸子
「私も知りません。でもそれはあなたの仕事ですなんて私は言いません。そういう方法論は存在しています。
作戦研究という学問があります。敵味方の軍艦や武器の性能をまとめる。それから作戦の目的つまり撃破なのか追い払うことなのか輸送することなのかを決める。そういった前提の上で、種々の戦術の得失を蓋然性を考慮して変数を決めるのです。そして計算した結果、一番結果が良いものを選択するのです」
兼安少佐
「うーん、そう言われればそうなのでしょうけど、今までの作戦検討ではそれほど条件も定まらず、また多種の戦術間の比較検討は時間がかかりそうですね」
幸子
「条件を定め、その時の選択肢を考えて発生の確率などを仮定すれば、紙上演習できるでしょう」
兼安少佐
「そういうものが信頼できるのでしょうか?」
幸子
「ここで議論してもしょうがありません。図書室で作戦研究あるいはオペレーションリサーチというキーワードで検索して何冊か読んでください。どちらにしても今後の方向付けあるいは作戦立案では必須になります。
ああ、もちろんですが現状を絶対とするのではなく、これから発明されるであろうものを含めるなど、変数に反映しなければなりません」
吉沢課長
「ええと私からの質問です。先ほどの室長の説明には、今までにない兵器とか発想が多々あります。例えば気球の活用などですが」
幸子
「気球はロシアとの戦争でも旅順攻囲戦で戦況偵察とか着弾観測に使われています。迫撃砲もロシアとの戦いで使われました。そういうものを活用するのは当然です」
吉沢課長
「いや陸軍には気球隊がありますが、海軍には・・」
幸子
「じゃあ陸軍の関係者に協力を要請しましょう」

二人は幸子の発想と行動力に唖然とするのである。
そしてそうそうに図書室に駆け込んだ。

吉沢課長
「おい兼安君、あの女は只者じゃなさそうだな」
兼安少佐
「彼女も昨日、中野中佐からこの仕事を依頼されたそうです。昨日の午後と昨夜だけであれだけの資料をまとめられるものでしょうか」
吉沢課長
「ほう、それはすごい。なんだかワクワクしてきたよ。男であろうと女であろうと、優秀な人と一緒に仕事して技や考え方を学ぶことはありがたいことだ」


幸子は夜、伊丹と晩酌しながら話をしている。

お酒
幸子
「船団護衛となるとまずはやはり索敵でしょう。現代ならレーダーとかソナーもソノブイもあるけど、ここではどうしたものか・・」
伊丹

「レーダーがなければ作ればいいじゃないか。あんなもの要するに発振器、アンテナ、受信機、その表示機器があればいい」
幸子
「あなた、そんな簡単じゃないでしょう」
伊丹
「確かに・・・今の時代はまだ火花通信の時代だからね(注3)高い周波数なんて手におえないだろうなあ。どうしたものか」
幸子
「それにあなた、いろいろな研究開発が必要になりますが、今のメンバーでどういう進め方をすればよいのか」
伊丹
「メンバーを徹底的に使うんだ。その吉沢課長には、いろいろな専門家が部下にいるんだろう。必要な機能を説明して作らせる。難しいことはない。なにせ回路も構造も分かり切っているんだから」
幸子
「でもレーダーと言っても、アンテナの高さが海面上20メートルとして見通し距離はせいぜい15キロでしょう(注4)ドイツ軍の潜水艦の速度は潜行時10ノットとして魚雷攻撃できるところまで30分で来てします。15キロ先では早期発見とはいえないわ(注5)
伊丹
「視点を高くすればいいじゃないか。気球の活用とか。気球なら高さ200メートルくらいは簡単だろう。むしろ数十メートルでは船の構造物と干渉するかもしれないからかえって危険だ。
仮に高さ200メートルとすると、見通し距離は50キロになる。今の時代の潜水艦は通常セイル部分を水面上に出しているだろうから、レーダーの波長はメートル波でも十分だろう。三極管では高い周波数はだめだろうなあ。この時代はマグネトロンはまだないのか。いや、電子レンジは2400Mヘルツだから波長は12センチか、使えないことはないな」

名称周波数GHz用途
Pバンド0.2〜0.5初期の携帯電話
Lバンド0.5〜1.5対空用レーダー・スマホ
Sバンド1.5〜5.0対水上用レーダー・電子レンジ
Xバンド5〜15気象用レーダー
Kバンド15〜40
幸子
「向こうで中古電子レンジを買い漁るの?」
伊丹
「こちらの人だって素人じゃないんだから理屈と構造を教えて主要部品を与えれば作り上げるだろう。
それに今度からは我が家でも電子レンジが使えるということだ」
幸子
「ますますこの世界への干渉が増えちゃうわね」
伊丹
「レーダーの技術がこの国に留まればいいけれど、外国に流出すると問題だね。まあそれはソナーやコンピューターも一緒か」
幸子
「現地での機密管理は徹底して、更に気球が回収できないとか船が沈むときのために自爆装置を付けておかないといけないわね」
伊丹
「まあ、どんなことをしても情報は洩れるだろうけど」
幸子
「基本的に国力がないのだからズルをしても他国より先に進まないといけないわ」
伊丹
「日本と違って、この国はうまく立ち回ってほしい」
幸子
「そうなるよう私も頑張るわ。そうそうこのたびは研究所の室長を仰せつかったのよ」
伊丹
「ほう、大出世だね」

うそ800 本日の言い訳
実を言いまして私は魚雷もレーダーも何も知りません。魚雷には触ったこともなく、電波の方は昔2アマを取ってアマ無線で遊んだ程度でございます。
参考書(注6)を見ながら書いておりますが、間違いは大目に見てください。

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注1
セイルとは潜水艦の船体の上に出っ張っている部分を言う。舵をセイルと誤解している人がいるが、それは間違い。セイルの語源は「帆」であり、諸説あるが指揮所であるブリッジ(艦橋)でないことを明確にするために、帆に似ていたからセイルと呼ぶようになったという。
セイルの中ほどについている翼のようなものはセイルフィンと呼ぶ昇降舵である。昇降舵がセイルでなく、胴体についている潜水艦もある。

注2
ウィキペディアより
「(戦艦伊勢は)南シナ海などを強行突破して資源を輸送する「北号作戦」に参加する。この作戦では米潜水艦や米軍機の襲撃を受け、命中寸前の魚雷を高角砲で迎撃するなど危険な場面が度々あった。」

注3
現代の放送や通信は、搬送波と呼ぶ周波数も振幅も一定のサインカーブに、振幅や位相(アナログ信号の場合は周波数変調と等価)を変えることにより信号を載せる。これをアンテナから電波にして空気中に放射する。
しかし高い周波数を発振したり変調することができなかった時代は、カミナリと同じくアーク放電そのもので電気的ノイズとして放射した。タイタニック号からのSOS信号も、日本海海戦の「天気晴朗なれど・・」もこの火花通信で伝えられた。わずか100年前のことだ。

注4
注5
Uボート 第一次大戦のUボートは種類がいくつもあるが、いずれも速度は水上15ノット、水中10ノット、水中航続距離は60キロから80キロ程度であった。
第一次大戦中はまだシュノーケルは実用化されなかった。

注6
参考文献(発行年順)
「潜水艦の死闘」エドウィン・グレイ、光人社、1997、ISBN4769808305
 著名な潜水艦艦長の活躍概要。日本人は橋本以行中佐のみ載っている。
「ソノブイ感度あり」岡崎拓生、かや書房、1999、ISBN4906124380
 自衛隊哨戒機パイロットのお話。
「帝国海軍潜水艦史」学研、2011、ISBN978405606301
 黎明期から載っていて参考になった。だけど表現も内容も暗く読むのが辛い
「潜水艦」白石 光、学研、2014、ISBN9784054060494
 基礎から書いてあり初心者に役に立つ。基礎しか書いてないともいえる。
「日韓戦争」中村秀樹、光人社、2014、ISBN9784769828600
 小説だが現代の通常形潜水艦の戦いが分かった。
「潜水艦ファイル」中村秀樹、笠倉出版、2015、ISBN9784773087574
 子供向けかな?
「水中兵器」新見志郎、光人社、2015、ISBN9784769828754
 潜水艦の黎明期がよくわかる。イチオシ
「潜水艦攻撃」木俣滋郎、光人社、2016、ISBN9784769829492
 第二次世界大戦での日本潜水艦の戦いの総括。あまり参考にならず?

潜水艦そのものについてとか、潜水艦からの攻撃についての書籍は多々あるのですが、潜水艦への攻撃である対潜戦についての本は乏しいのですよ。
対潜戦について興味ある人は少ないのでしょうか?


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