*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
1930年9月10日 扶桑国政策研究所 中野、犬養首相、高橋蔵相、伊丹夫婦、岩屋がいる。 515事件のないこの世界では犬養首相は健在である。 1週間ほど前、ドイツはベネルクス三国に進撃したが、待ち構えていた英仏軍の反撃を受け大きな被害を出して国境より後方に撤退した。 | |||||||||||||||||
「これが10日前の衛星写真です。ベルギーとドイツの国境線近くにドイツ軍が見えるでしょう。これらの写真に写っているだけで十万はいますか。 それとこれが同日のベネルクス国内に駐留している英仏軍です。もちろんドイツのスパイは英仏軍が配備されているのを知っていたはずですが、ドイツに比べてはるかに少ないので重要視しなかったのでしょう。数は少なくても重要拠点に配置し、ドイツ軍の状況を常時知らせていましたから数倍の働きをしました。 しかし衛星写真というのは便利ですが、知りたいところを通過するのに数日待たねばならないのが問題ですね。我々が自分で何個も衛星を打ち上げて、いつでも見たいところが見られるようにならないと…」 | |||||||||||||||||
「人間の欲望は限りないもんだね。もう人工衛星があるのが当たり前になってしまったようだ。他人のふんどしなんだからありがたく思わなければ」
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「アハハハ、まあ、そうではありますな。満州でもこれがなければ戦いは大きく違ったでしょう。平時は国境を越えての偵察はできませんし、いくら高空でも偵察機は視認されます。他方衛星は絶対に察知されませんから」
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「さてと、この後どうなるかだが…」
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「伊丹さんが来た世界の歴史を読ませてもらったが、ドイツ軍がベネルクスからフランスに侵入して連合軍が総崩れになるのが、この世界ではそうはならなかったな。それはどうしてなのかな?」
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「我国は英国と同盟関係にあります それで昨年から衛星写真を英国に提供してきました。またスペイン内戦時からイギリスに飛行艇偵察機を駐留させて、高空からのフランス国境付近の偵察を行ってきました。その結果ポーランド侵攻はありませんでしたが、フランス侵攻の計画を掴みまして、ベネルクス侵攻もアルデンヌからの侵入も把握していました。 ドイツ軍が電撃戦という人畜によらない自動車主体の、従来よりはるかに速い移動をしても、空から見ていれば所詮お釈迦様の掌の上の孫悟空ですよ」 | |||||||||||||||||
「なるほど、ドイツ軍は相手が油断していると思っていたのに、国境を超えた瞬間に大反撃を受けては驚いただろう」
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「ましてやヒトラーご自慢のスツーカとメッサーシュミットが、我国の偵察機による情報提供と要撃戦闘機の指揮管制によって壊滅しましたから、ハハハ」
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「ともかくベネルクス侵攻で大きな被害を出して、ドイツ軍はベネルクス国境から大きく後退しました。今時点は戦闘はありません」
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「とはいえ、一旦始めた戦争は簡単に止めることはできまい」
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「ドイツは国内の経済情勢から戦争を始めたわけで、侵攻した国と話がついても国内の事情から戦争を止められませんよ」
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「あれ! ドイツは大恐慌を真っ先に抜け出したんではないの? 何かで読んだが、アウトバーンなどの公共事業、再軍備による需要増、そして自動車産業の躍進で恐慌を脱したとあったが | |||||||||||||||||
「殿下、恐慌からの脱出に必要なのはお金です。公共事業でも再軍備でも先立つものが必要です。再軍備すれば借金がなくなるわけがありません」
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「じゃあ、不況を脱したのは?」
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「ドイツが大恐慌を抜け出たきっかけは、フーヴァー大統領お声がかりの賠償支払い猶予 | |||||||||||||||||
「なるほど、アメリカはドイツが一層の混乱に陥るよりは、取り立てを伸ばした方がいいと思ったわけか」
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「もっともそれで回収ができなくなったイギリスもフランスも倒産寸前ですがね」
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「戦争は貧しいから起きるのだな。ワシが殺されないためには国民を豊かにすれば良いのか」
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「首相閣下、豊かであっても総理になりたい人がいる限り下克上の危険は常にあります」
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「ワシに代わって舵取りしてくれるなら、首相より百姓をした方が気は楽だ」
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「ともかく殿下、ドイツが公共事業で雇用問題を解決しても、賠償が解決したわけではなく、いずれ支払いをしなければなりません | |||||||||||||||||
「ドイツは新たな戦争で欧州大戦の賠償をチャラにするつもりか」
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「勝てばチャラですが、負ければ上積みです。博打も経済も戦争も理屈は同じですよ。今ヒトラーはこんなはずではと思っているでしょう」
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「本来ならばベルサイユ条約で敗戦国がなんとか払える金額にすべきだったのだろうが、ルイ王朝時代の発想で史上最大の戦争の後処理したことに無理があったのですな」
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「ともかく欧州の睨み合いはどうなるのか、どうすれば解決するのか?」
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「満州ではアメリカとソ連がにらみ合っているし、これも見通しがどうなるのか? ひょっとして東と西の戦争が合体することもあるのか?」
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「満州は我国の安全保障に関わるからソ連の勢力がこちらまでこないようアメリカを支援した。 欧州なら傍観という手もあるが、もしユーラシアの東と西の戦争が合体すれば、我国は完全に巻き込まれてしまう」 | |||||||||||||||||
「そうなりますと、日本のあった世界とは違った組み合わせになりますね」
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「組み合わせとしてはイギリスとフランス対ドイツは固定です。もう既に宣戦布告して交戦状態ですから。 ソ連がどちらかに付けば、ソ連と交戦中のアメリカはその反対側に付くでしょう」 | |||||||||||||||||
「いやソ連が英仏側に付けば、アメリカとソ連は講和して一緒にドイツと戦うのもありかと」
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「アメリカは欧州の戦いには中立を保つこともあり得ます」
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「ドイツ一国だけであれば長期戦はありませんな。東にソ連、西にフランス・イギリスでは短期間で決着がつくでしょう」
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「いや、ドイツは過去10年臥薪嘗胆で準備してきた。世界恐慌が起きるまで戦後の好況で浮かれていた英仏とは違う」
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「ここは石原かさくらにシミュレーションをさせたいな。さくらを呼び戻したい」
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「秘密に帰ってきてもらいましょうか?」
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9月16日● ● 政策研究所 中野から帰還命令を受けて、石原とさくらは例の通路を通って扶桑国に帰ってきた。短期間ならともかく、ときどきアリバイ作りにホッブス准将の顔を見に行かないとまずいだろう。 石原とさくらは1週間くらい石原と議論したりコンピューターをいじったりしていた。その後、例のメンバーを集めて結果について討論する。 | |||||||||||||||||
「ソ連が東西両面の戦争はできないと思います。重要な方を確保するでしょう。 満州が大事ならアメリカと講和することはなく、冬の間に軍備を増強して来春に再度満州を攻撃すると考えられます。 満州よりもポーランドが重要なら、すぐポーランドに侵攻するでしょう。ドイツ軍は西側で手一杯でポーランドに進出できないようですから、ポーランドの東半分じゃなくて全部占領するでしょうね。ドイツに気遣うことはないでしょう」 | |||||||||||||||||
「ドイツと英仏が戦っているスキをついてソ連はポーランドを占領し丸儲けか」
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「ドイツが西側と東側同時に戦争できないのと同じく、ソ連も満州とポーランド両方で戦うことは無理でしょう」
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「ちょっと待て、ポーランドなら冬でも戦争ができ、満州は霜が降りたら戦争ができないというわけはあるまい」
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「欧州と満州ではちょっとニュアンスが違います。欧州は町があり農地があり人が住んでいます。ですから占領すれば施政権を持ち自分の領土と言えるでしょう。満州は開墾されてるところを除き定住者もおらずなにもない平原です。平原を抑えても航空優勢のようなもので、軍隊がいれば相手は出てこないけど、引き上げれば敵が出て来る。そんな感じでしょうか 大草原に前進基地を築いても、高空爆撃のある時代あまり意味がありません。電撃戦の時代に逆行です」 | |||||||||||||||||
「おいおい、じゃあなんでソ連はノモンハンに侵入してきたんだ?」
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「彼らはノモンハンを取ろうとしたわけではありません。チチハルやハルピンといった都市やそれを取り巻く農地を占領するための回廊としただけですよ」
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「なるほど……草原を抑えても意味がなく、そんなところを無理して取ろうとはしないということか」
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「ソ連とドイツが連合する可能性は?」
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「ドイツが勝つ見込みがあるならありますね。そうでなければ…わざわざ負ける方に組することはないでしょう」
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「ドイツもソ連も主義主張があうわけでなく、単なる利害関係だけでしょう」
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「となると、ドイツは攻め込んだものの支援する国もなく、腰砕けでおしまいということか?」
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「そうはいきません。ここでドイツが講和を言い出したらドイツの国土をフランスに割譲と更なる賠償となりそうです。ドイツがするはずはありません」
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「現時点、ドイツの戦力は無視できません。英仏だって臨戦体制には程遠いし、アメリカも戦える状態じゃありません。戦車も飛行機もこれから作らなくちゃなりません」
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「言いたいことが分からないが」
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「ドイツと英仏の戦闘は収まっても、講和せずにらみ合いが続くのではないかと思います。現に満州だってそんな状況でしょう」
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「いつ戦闘が再開するか分からない状況が続くわけか。それも困る」
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「結局、シミュレーション結果でもわからないということか」
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「でもにらみ合い状態で双方が軍備増強に励んだら、結局は英米仏の勝ちに終わりますよね。ドイツのアキレス腱は石油もないし、輸出ができなければ経済がなりゆきません。扶桑国よりはるかに貿易依存度が高いですから」
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「となるとドイツは一か八かの乾坤一擲しかない。フランスを占領して傀儡政権を立て、イギリスとは交渉だな。フランス本国とその植民地があればブロック経済を回せるだろう」
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「これからアメリカに戻りますが、どういう戦略を売り込みますか?」
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「我国としては、恒久的とは言わないができるだけ長期間平和なこと、ソ連の脅威を排除できること、大きな戦争にしないことが条件だ。 となると二つ案がある。 ひとつはドイツを可能な限り早期に叩いてベルサイユ体制の再構築を図ること。 ひとつはドイツとソ連をくっつけて双方を叩き、共産主義の拡大を防ぎ長期的な国際社会の安定を図る。 そんなところじゃないかな」 | |||||||||||||||||
「伊丹のおじさまは直感でそういう結論ですか。いくつかの仮定をいれてシミュレーションしましたけど大体そんなところでした」
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「そんなの常識だよ。前者なら二つの戦争は別々で終わるだろう。後者なら世界中を巻き込んだ大戦争になるけど、後顧の憂いを断ち切ることができる」
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「後顧の憂いを断ち切る方は、今の憂いを大きくしそうだな。先だっての欧州大戦の犠牲者は1600万人という。またそれほど殺すのか?」
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「次の大戦争発生が遅くなればなるほど犠牲者が増えるでしょうね」
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「まあ、そうでしょうなあ〜。15年前の戦車は37ミリ砲でしたが、今や既に57ミリとか75ミリの時代になった。飛行機も時速300キロから600キロですからね。爆弾搭載量も1機で10トン越え。想像を絶する戦争になるでしょう」
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「となると選択は一つしかない。うまくアメリカとソ連を対立させて、ソ連とドイツを同盟させるのよ」
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「そんなことをサラッと言うとは恐ろしいおなごじゃな」
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「私の娘はそれくらいでちょうどいい。 さくら、まずはドイツと英仏に講和を図るべきだろう。アメリカが一方に肩入れする前に仲介してもらった方がいい」 | |||||||||||||||||
「まずはそれだろう」
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「でもなあ〜、ドイツが一方的に戦争を仕掛けてうまくいかないから、止めて講和しましょうというのがありますかな?」
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「ありえないように思いますね」
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「こうしよう。さくら、選択肢を示さずにシミュレーション結果をアメリカに伝えてくれ」
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「承知しました」
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9月17日● ● アメリカ戦争省 二十日ぶりくらいに石原とさくらが訪問してきた。 | |||||||||||||||||
「ホッブス准将、お久しぶりです」
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「しばらく姿を見なかったので、祖国に帰ったのかと思っていたよ」
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「いえいえ真面目に石原さんと欧州の戦争の検討をしてました」
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「ぜひ結果を教えて欲しいね。欧州はどうなるんだ?」
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「シミュレーションは占いじゃありません。結論はこうなりますではありません。こういう選択をしたらどんな結果になるか確率を示すだけです。プレイヤーの決断と行動によって結果が変わります。 選択肢は再侵攻、にらみ合いの継続、講和しかありません。いずれかはドイツの今後の行動次第です」 | |||||||||||||||||
「言われることは分かる。一番確率の高いのは?」
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「一番確率の高いのはと問うのではなく、ホッブスおじさまが望む結果にする方法を問うべきではありませんか」
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「そんなことができるのか?」
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「大統領が何を望むのかわからんが、私なら恒久的は無理としてもできるだけ長期間の平和、我国が覇権国であり続けることだ。いつ戦争が起きるかと心配するような暮らしはごめんだよ」
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「満州も未解決ですし欧州もにらみ合い状態では困りますね」
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「准将閣下の期待を実現するとなると、ドイツの弱体化でしょうね。ベルサイユ体制の再構築でしょうか」
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「いや、ソ連が列強の仲間入りすると世界は不安定になる」
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「ホッブス准将の言葉を言い換えると、ドイツとソ連をまとめて撃破することですね。そしてもちろんソ連を共産主義から民主化する」
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「そうだ。兵隊を鎖で縛りつけて戦争をさせるような国とは交渉不可能だ。 ドイツは人口も資源も制約があるが、ソ連は今後スターリン体制が強化されるに従い軍拡していくだろう。次のノモンハンでは勝てないかもしれないな」 | |||||||||||||||||
「准将閣下、それは弱気すぎますよ」
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「ホッブス准将、そう考えていたなら、満州でもっとソ連にダメージを与えれば良かったでしょう」
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「満州でダメージを与えてもダメだろう。領土を失わない限り奴らは気にしない」
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「今から攻撃してもしょうがないだろうなあ〜」
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「ダメージを与えるなら今復旧整備している飛行場や兵站基地などを爆撃するのはありますね。もう3週間くらい戦闘がありませんでしたから、雪が降る前に爆撃を数回すれば吃驚するでしょう」
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「今頃は最低気温0℃、最高気温10℃くらいかな。基地の復旧とか増設はしているだろうねえ。 ドクター石原、偵察機は今も飛んでいるんだよね?」 | |||||||||||||||||
「本日は持参しませんでしたが、爆撃された基地の復旧工事をしています。 それに新たに建設中の飛行場が2つ見つかっています。掩体壕も建設しています | |||||||||||||||||
「来年雪が解けたらまた侵攻してくるのは間違いないな」
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「いや満州を放置してポーランド侵攻というのもありますよ。ドイツが西部戦線で手一杯、それに独ソ不可侵条約がありますし」
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「ソ連との外交交渉で、満州まで飛行機が飛べる範囲内の基地の閉鎖、新規飛行場を建設しないという協定を提案するのはいかがでしょう。協定しないと言えば爆撃するということでは」
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「雪が降っても爆撃は可能か?」
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「問題ありません。ただ爆撃するなら雪解け時がよろしいのではないですか。今爆撃しても冬の間復旧してしまうでしょう」
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「それは欧州戦線にはどう影響するのかな?」
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「単純な話、ソ連が東から攻撃を受け、ドイツが西から攻撃を受けたとき、ソ連とドイツが戦闘になることはないでしょう」
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「そりゃないだろう。だけど仲良くなるかどうかは分からないぞ。ポーランドの切り分けでもめるかもしれんし」
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「そのときはそれぞれと個々に戦い撃破すればいいじゃないですか」
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「ドイツはともかく満州で戦ってもソ連は奥が深いから勝利するのは無理だな。シベリア出兵の二の舞はしたくない。ソ連と戦うなら西側でなければ、 ところで、さくら、聞いたぞ。扶桑国はイギリスに偵察機を持っていって、スペインとかドイツの空撮をしてイギリス軍に協力しているそうだな。なんで俺たちには教えなかったんだ」 | |||||||||||||||||
「スペイン内戦のとき写真を提供したでしょう。イギリスとは同盟関係だけど、アメリカとはついこの前 不可侵条約を結んだだけ。貴国に全部情報提供する必要はないわ」
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「ケチケチ情報を小出しせずに、まずは全体像を教えてくれればよいのに」
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「ホッブスおじさま、全体像をお示ししても、そちらが咀嚼できませんわ」
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「ひどいことを言う」
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注1 |
史実で日英同盟解消は1923年である。それは日米の利害対決からアメリカが日米同盟を更新しないよう動いたことによる。そうでなければその後の世界史は少し(大いに)違ったと思う。 アメリカにしてみればしてやったりですな。いや、イギリスにとってかも? | |
注2 |
不況を公共投資で挽回するというのは21世紀に中国が打った手ですね。2008年リーマンショックで経済が落ち込んだのを60兆円の対策を打った。当時日本のマスコミはスバラシイと褒めたたえたが、日本の黒田日銀総裁が同じことをしようとするとダメダーと言ったのもマスコミ。よく分かりません(笑 ともかくその結果 中国はバブルの種を抱え続け、ときどき芽を出すのを必死で抑えている。 下記を参考にした。 ・「ナチスドイツの経済回復」、川瀬泰史、立教経済学研究、2005 ・「第二次世界大戦1939-45」、アントニー・ビーヴァー、白水社、2015 ・「日本がもっと賢い国になるために」、中西輝政、海竜社、2015 | |
注3 |
フーヴァーモラトリアムといい1931年にアメリカ大統領フーヴァーが、世界恐慌によって財政危機に陥ったドイツを救済するために行った債務支払猶予措置。最初は1年だったが、なし崩しに延長された。1933年に政権を取ったヒトラーはこの猶予によって見かけ上の成果を出した。 下記を参考にした。 ・「ヒトラーとナチ・ドイツ」、石田雄二、講談社現代新書、2015、pp.204-214 ・「二十世紀論」、福田和也、文藝春秋、2013、pp.96-104 | |
注4 |
ドイツが大恐慌での失業を解消したのは、ヒトラー政権の勤労奉仕(実は強制労働)、農村補助労働、家事奉仕(若い女性を女中にする)、結婚の推奨と専業主婦の優遇などの施策による。これらは若い人に職を与えたのではなく、労働市場から若い人を除くためであった。 参考図書 上記(注3)に同じ。 | |
注5 |
昔は制空権という言葉が使われた。現在では完全に航空脅威を取り除いた状態を「Air supremacy・制空権」と、一時的に航空脅威を排除して作戦を実施できる状態を
「Air superiority・航空優勢」と呼ぶ。航空機は陸海軍と違い常時滞空することはできず、制空権の確保はできない。それで作戦時に航空優勢を確保するのが基本だ。 空域の支配を航空機でなく対空ミサイルやレーザーなどによってなされるようになれば、制空権という言葉が復活するかもしれない。もっともそのとき相手もミサイルやレールガンになれば制空権も航空優勢も概念がなくなるかもしれない。 | |