認証無常2019

19.02.04

お断り
本日の文章は昨年末に、私のブログに何回か書いたことをまとめたものです。でも全く同じではありませんん。あれからだいぶ経ちそれなりに考えましたし、構成や引用データを再確認し一部修正してグラフも見直しました。


諸行無常で始まるのは平家物語、万物流転はヘラクレイトス、世は去り世は来るは旧約聖書伝道の書、世の中は三日見ぬ間の桜かなは大島蓼太、何を言い出すのだ、気がふれたのかとは言わないで・・
おっと、気がふれているのは昔からかも?

世の中は時代につれて変わっていくのが唯一変わらないこと、今あるものが永遠にあるわけがない。社会制度のような大きなことだけでなく、私たちが現実に仕事で関わってきたことでなくなったもの、廃止された法律、廃れた習慣など数え切れません。

昔は電取法(注1)なんてのがあった。電気用品を製造するときメーカーは種々検査をして通産省に申請して認定を受けて製造した。
私が高卒で働き始めた頃は一般企業は碌な試験装置もなく、専門の検査機関に依頼した。当時は日本機械金属検査協会(JMI)といったが今のJQAである。そこに様々な試験を依頼して確認してもらった。もちろん高校を出たばかりの下っ端がそんなことに携わるわけはなく、私はもっぱら荷造りとか出荷手配をした。
しかし21世紀になると、世の中の技術レベルも上がって来て、電取法は電安法と改正され、製造企業が試験して安全だと確認すれば良くなった。
UL検査器具
アメリカに輸出するときはULで定められたいろいろな試験結果を添付するが、そのときもJMI、現在のJQAに頼んだと記憶している。
なにしろ田舎の会社には強度を確認するためぶつける鋼球もなく、安全を確認する人の指の形をした試験器具もなかった(注2)

時代が下り、一般企業でも振動試験機からさまざまなアナライザーを保有するようになると、JQAに頼むことがなくなった。だから当時私はJQAも大変な時代になった、仕事がなくなるんじゃないかと他人事ながら心配したものだ。
ところが1990年頃からISO認証が始まると、JQAは認証ビジネスに進出し結果としては大成功であったと今になって気が付く。ちなみに2017年のJQA売上153億の48%はISO第三者認証である。

パソコンソフトのWindowsOSでの動作保証は、昔々はマイクロソフトが確認をして合格するとラベル表示などしていたが、何年も前に製造者が確認するだけになった。
USBの動作保証も元は検証機関がしていたが、今は自己宣言のはずだ。

このように私の周りを見回しただけで、認定とか認証という制度が廃止されたものというのは多々ある。
誰が考えても技術はどんどん進むから、初めは製品やソフトの品質レベルが水準をも満たすかどうかを公的な認定や認証あるいは第三者検証などがあっても、時代が経つと製造者の技術レベルが上がり自己宣言で良いとか、それどころか確認そのものが不要となり廃止されることも普通にある。

ちょっと違うが私が若いとき、計算尺というのは技術者・技能者の必須技能であり、これが使えないと設計も現場の仕事もできなかった。だから技術者や技能者たるものは、胸に5インチの計算尺をさし、何かといえばスライドルールを動かしたものだ。ちなみに日本語でスライドルールとは滑り尺のことであるが、英語でスライドルールは計算尺そのものの意味である。
当時は計算尺検定があり、計算尺競技会もあった。だけど今は電卓どころかパソコンも手軽に使え、有効桁数は3桁どころではない。当然、計算尺検定などなくなり、計算尺も生産されていない。
計算尺

なくなった検定とか資格は、計算尺ばかりではない。昔は電話交換取扱者という資格があった。一般の会社も自動交換になったのでなくなった。パーソナルコンピュータ利用技術認定試験(PAT認定試験)というのもあった・・というかなくなった。
時代が変わり、機械や仕事が存在しなくなればその資格とか検定がなくなるのは必然だ。
おっと、ISO関係では内部監査員検定なんてのもあったけどなくなった。これはそもそも必要だったのかどうかは疑問ではある。

世の中には「検定ビジネス」というのもひとつの金儲けのジャンルである。検定ビジネスの業界規模は2兆円という。TOEICなんてのはその点数と英語の実力の相関が高いという理由でもてはやされている。やはり実用性がないと存在は難しい。検定ビジネスといっても、即怪しいとか虚業というわけではない。剣道の段位とか囲碁の段位などは歴史もある。いずれにしても実力との相関が高ければ意義があるし、そうでなければそうでない。

ISO9001認証も、元々はサッチャーがイギリス工業界復活を願ってBS5750とその認証制度を作ったが、それがISO規格となり、更に二者監査の代行から独立した商売としてISO第三者認証制度に発展した。
しかし10年も経てばどんな企業もレベルアップするから、品質保証の要求はあっても、第三者認証なんて必要性がなくなるのは明らかだ。そんな制度を25年も制度改革もなく引っ張ったのは惰性というかやりすぎではなかろうか。
おおっと、大事なことだが、サッチャーが大英帝国復活をかけて品質保証認証制度を作ったが、それから40年経過した今もまだ大英帝国は復活の気配を見せない。なぜだ?
ISO9001:1987に「4.1.3経営者による見直し」で「品質システムが継続的に適切かつ効果的に運用されることを確実にするために適切な感覚で見直しを行う」とあった。ISO第三者認証制度の関係者、ISOやIAFの人たちは、このビジネスモデルが適切で効果的かを見直さなければならんだろう!

そしてどう考えてみても、第三者認証制度がなければ社会が困るということもない。JABは第三者認証制度のことを「社会財」というが、そもそも「社会財」とは何なのか? 国語辞典にないような言葉を創造(乱造)しても理解に困る。

社会財ってなによ?: 飯塚先生はサラッと「第三者認証制度は社会財」なんて語るが、そんな言葉は辞書にない。
ネットをググってもJAB関連以外は2件しか見つからなかった。いずれも定義も何もせず、社会的に重要というニュアンスで使っている。まあ講演で話し言葉で使うくらいなら許しても良い。
でもさ、自分の仕事とか自分の組織を社会の財産だという発想は傲慢ではないのかい?

第三者認証制度が不要になるということはレベルが向上したということであって、特段不都合でもないし困ることではない。 ああ、認定機関と認証機関そして審査員研修機関は困るかもしれない。

1990年代初め、欧州ではISO第三者認証制度はホワイトカラーの失業対策と言われた。
実は私の元同僚の岳父も1990年代のバブル崩壊時にリストラされたが、ISO9001の審査員になって晩年はハッピーであったと聞いた。私の周りでISO認証制度があって良かったという話をしたのは彼だけだった。
まあ必要なお仕事で失業者を救えるなら良いことだ。しかしその賃金は社会が負担しているということを忘れてはならない。ISO認証制度が普及するということは、一般消費者がその費用を払っているということだ。じゃあ一般消費者はいかなる見返りを受けることができるのか、認定機関も認証機関もよく考えて欲しい。
まさか、社会に貢献しているから社会財とかww
ともかくハードでもアプリでもどんどんと変わっていくわけで、既得権とか旧態然とした制度を後生大事にしてもしょうがない。

自動運転も一部実用化されてきたが、これからどんどん拡大し普及するだろう。新聞報道によると、これから一層高齢化したとき老人が生活するために車が必要で、
マツダキャロル
1960年代の車はマニュアルというだけで
なくシンクロメッシュでなかったから、
ダブルクラッチという技を使わなければ
なかった。
そのために自動運転車が必須なのだという。
確かに私の出身地郡山の郊外では、車がないと床屋にもコンビニにも行けない。だからヨボヨボになっても免許証は必要だ。
福島から千葉に移り住んだ私が過去17年間にハンドルを握ったのはたったの一度、わずか数分だけだ。娘が私の住んでいるマンションに婿さんの大きな車で来て車庫入れできないので、代わりにしてと言ってきたので車庫入れしてやっただけだ。

自動運転車が当たり前になると、免許制度がなくならないにしても免許はずいぶんと簡略化されるだろう。
それはオートマチックトランスミッション専用の免許ができたのと同じだ。シンクロメッシュのない時代、シフトアップはともかく、シフトダウンするときダブルクラッチに苦労した人は多いだろう。えっ、もうそんな経験をした人は死に絶えたって? まだここに一人おるぞ!

技術の進歩や時代の変化で不要となった職業やビジネスはたくさんある。馬の蹄鉄を作っていた人が、 蹄鉄 自動車の登場によって仕事がなくなったのははるか昔であるが、ここ10年くらい見てもたくさんある。
ネットからのダウンロード販売が増えてレコード屋(CD屋)は上がったり、ネット販売が増えたりキンドルが増えたりで本屋は上がったり、USBケーブルや充電器が100円ショップで売られて電気屋は上がったり。
じゃあ、レコード屋が音楽データ販売を法規制しろとか、本屋に補助金をとか、USB機器は電気屋でしか売らせない専売制度を作れと騒いだか?
そんなことを思うと、ISO認証制度は、もう潮時、止め時じゃないのだろうか?

日本のISO認証件数が減少しているというと、「外国では・・」と語る人がいる。
外国でISO認証が増えているから日本も増えた方がいい、増えるべきだ、増えなくちゃならない、そんな論理はありませんよね。
でも外国かぶれって意外と多いんですよ。そして連中は論理じゃなくて大声で叫ぶっていう、日本の西にある国のような反則技を使う人が多いのです。
でもさ、外国かぶれって、おかしなことを言うのが多いよね。変なこと、まずいと思えることでも、 外国かぶれって 外国が正しいとか外国が良いとか、外国に合わせようっていうお考えのようです。
実際に今まで聞いたものでも、外国では離婚が増えているから日本も増やすべきだ、外国ではカード破産が増えているから日本も破産が多くなければ、外国では犯罪が多いから日本も多くしよう、少し前フェミニストの方が「外国では未婚の母が多いから日本も増やさなければ」と語っていました。
昔の人間である私には理解できません。どういうことなんでしょうねえ(鼻ホジ
ともかく、そんなに外国をありがたがることはなさそうですよ

おっと、待った、待った。想像で語ってもしょうがありません。実際に外国ではISO認証は増えているのでしょうか? そういった統計はちゃんと調べられていますし、公表されているのです。
図表1は世界の認証件数と日本の認証件数の推移です。世界全体は左側目盛り、日本は右側目盛りです。
元データはISOつまりスイスにある国際標準化機構が発表しているISOサーベー2017年(2018年公表)という権威()あるものですヨ。

図表-1
全世界と日本の認証件数推移
全世界の登録件数は左目盛り、日本は右目盛り

日本は減っているが世界全体では増加している。

2016年の小さい山はなにかおかしい。作為か集計ミスの気がする。
図表-2
JAB認定の認証件数
図表1と日本の認証件数の縦方向は違いますが、横方向はISO9001のMAXは2006年、ISO14001のMAXは2009年で合っている。

図表1の日本の認証件数のグラフは、いつも私が出している日本の認証件数の図表2のグラフと違います。
というのは理由があります。図表2はJAB認定の数字です。ISOサーベーの認証件数にはJAB認定だけでなく、外国の認定を受けている認証機関から認証を受けている会社、認定を受けていない認証機関に認証を受けている会社、そして認定を受けている認証機関が認定がいらない会社を認証したなどを含めた数字なのです。
そのためISOサーベーの方がISO9001では15,000件、ISO14001では8,000件ほど多くなっています。3割も違うと驚くことはありません。ノンジャブも結構シエアがあるのが現実です。
3割を占めるノンジャブがJAB認定を受ければJABの売り上げは3割アップですか、よだれが出そうですね。でもノンジャブが継続的にビジネスを展開しているということは、世の中の現実は認定が必要でないのかもしれません。だから積極的に認定を受けていない認証機関に依頼しているという可能性もあります。なにせ認定を受けるとJABそしてIAFに上納金を収めなければならず、企業が払う審査料金は高くなるわけです。
おっと、ノンジャブの方が、まっとうな審査を(以下略)

ともかく図表1を眺めると、世界全体でISO9001は伸び悩みであっても減少はしておらず、ISO14001はまだまだ一直線に増加しているようです。
ともかく世界全体ではISO認証は増えているようです。ヨカッタヨカッタとパレアナ(注3)ならば喜びそうです。
ところで外国というのは自分の国以外を言います。この定義は英語でも同じです。
ですから外国にはアメリカとかEU諸国だけでなく、韓国も北朝鮮も入ります。それではISOサーベーの中身を見てみなければなりません。
実を言って分析するまでもありません。中国とそれ以外に分けてしまえばおしまいです。

図表-3
ISO9001世界全体と中国
認証の37%が中国!

2010年頃は9001も14001も減少してます。中国もこの年は増えてません。リーマンショックの影響でしょうか?

図表-4
ISO14001世界全体と中国
認証の46%は中国だ
すごいね、
何がすごいかはともかく

「ひとめあなたに」は荒井素子、上の図をみれば「ひとめであなたも」ひらめいたでしょう。
そうです、世界中でISO認証が増えているのではなく、中国だけISO認証が増えているのです。中国を除くとISO9001の方は2010年をピークに減少しているように見えます。ISO14001は2016年くらいがピークになるのかどうか、まだ予断はできません。しかし図表1から受けたイメージはイケイケドンドンの柔道一直線でしたが、それとは大きく違いますね。

グラフでは細かくて分かりにくいですから関係する数字だけ示しますと、

2016年から2017年への増減
中国以外中国
ISO9001-89,810+42,377
ISO14001-11,972+28,435

2017年の全世界のISO認証件数のISO9001ではその37%は中国、そしてISO14001では46%が中国。そしてISO9001は年率6%、ISO14001は4%シエアを増しているのです。
この分だと あと2年でISO認証の過半数は中国が占める でしょう。

どういうことか分かりますか?

ケンシロウではないけど、中国を除いてISO認証はもう終わっているのです。

ISO認証は、中国の中国による中国のためのもののようです。
アメリカを真似しろとか、フランスを真似しろという方は多いかもしれませんが、周回遅れの中国を真似することはありませんでしょう。
いや既に日本はISO先進国イギリスを真似しているから認証件数が減っているのです。
真似ではなく製品ライフサイクルが衰退期なのでしょう

もし御社がまだISO認証していてその効果が見えてないなら、即刻 認証返上するのが良さそうです。というか、いまだに認証を続けているのが信じられない。無駄は省けと大野耐一さんも唐津一さんも言ってますよ。
私が嘘をついているかもしれませんから、元データでご確認くださいね、

元データ:ISO Survey of certifications to management system standards - Full results


うそ800 本日思い出したこと
もう1年か2年前になりますが、私がISOサーベーの数字を基に作ったグラフをウェブに載せたら、お前のグラフは「うそ800」以外では見かけない。だからお前は嘘つきだ、信用できないと罵詈雑言のメールを何度も送って来た方がいました。
ヤレヤレ困ったもんだ
そうなんですよ、ISO関係者はきれいなというか、自分たちに都合の良いものしか公にしていません。ISOサーベーの元データから、グラフを書いたり考えたりする人はあまりいないようです。
私に文句を言うのは、まずはISOのウェブサイトにアクセスして多数のエクセルファイルをダウンロードして(もちろん無料ですよ)、それらの数字を比較したりグラフにして考えてからにしてください。
元データを示しているのですから、そこから演繹される結果にイチャモンを付けるのは困ります。


注1
電取とは電気用品取締法の略、今は電気用品安全法と変わった。名前が変わっただけでなく規制緩和の大改正であった。

注2
ULの安全確認には指定寸法の鉄球を糸で吊るして一定の位置まで持ち上げて手を放して当てたり、指の形をした器具で危険個所に触らないかとか、切断面で傷がつかないかとかさまざまな試験がある。
最初はそういうプローブの図面をみて自分たちで加工して作ってみたが、後でUL指定の検査器具でなければダメというのを知った。それがまたべらぼうな値段がした。なもの中小企業では買えませんよ。

注3
どうでもいいことですが興味があれば下記を読むこと。
「少女パレアナ」エレナ・ポーター、村岡花子訳、角川文庫、1981



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