散歩で気づいたハザード(2)

20.05.04

2020年春、新型コロナウイルス流行で非常事態宣言が出された。なにもすることがなくなった老人が、ひたすら地元をウォーキング(徘徊)していて気が付いたハザードを書き連ねる。

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ちなみにハザードとは、危険や事故を引き起こす原因となるものや避けられない危険を意味する英語である。日本ではもっぱら「災害」そのものの意味で使われている。

前回は元リアス海岸についてだった。リアス海岸が危険ならそこに住まなければ良い。下総台地の周辺ではなくその裾野、海岸沿いに住むという選択もある。しかしそこは昔から人が住んでいて都市化されて地価が高い。そして低地にはがけ崩れの危険はないが、津波・高潮・液状化の危険が高く、ベイサイドライフを楽しむにはリスクが高いことを覚悟しなければならない。
じゃあ下総台地の上面に住めばよいかとなると、水がないために開発が進んでおらず、道路も未整備だし公共交通機関がない。彼方あちら立てれば此方こちらが立たぬ、そこはトレードオフしかない。危険でも便利が良いという考えもあり、不便でも災害のリスクが低い所という選択もある。我が家は後者を選んだわけだ。
ミニマックスとは損害を最小にする戦略で、その逆に利益最大を狙う戦略はマクシミンという。不便でも安全をとるのがミニマックスで、リスクが高くても便利がいいのがマクシミンになるのだろうか? 投機より投資、投資より預金というローリスク・ローリターンの人生を送っている我が家は、ミニマックスそのものなのだ。


本日はウォーキングしていて目についたその他の危険について語る。

歩いていて目に付くランドマークは、背の高いもののわけで、タワーマンション、送電線の鉄塔、高い樹木、などだ。 タワーマンション
それらの高さはいったいどれくらいだろう。


自然の摂理で背が高いものは倒れることになっている。何事でも安定が正義である。
1964年の新潟地震ではアパート群が建物の形のまま傾いたり寝転んだりした。

ではまずハザードとして高いものから始める。

ゴルフ練習場
ゴルフ ゴルフ練習場の支柱が、根元を支点にして折れたのはテレビでよく見る。
2019年の台風で市原市のゴルフ練習場の支柱が何本も倒れ、近隣の住宅多数を破壊した映像を観たと思う。ネットの支柱の高さはさまざまだが高いものは60mもあるから、ゴルフ練習場の敷地の端から5軒くらい先まで届く計算になる。市原の事故では多数の家が破壊し、重傷者もでている。
ゴルフ練習場の支柱倒壊は結構発生している。2019年の台風では横浜市のゴルフ練習場でも支柱が倒れた。数年に一度は台風や竜巻による倒壊が報道されている(注1)
ゴルフ練習場の近くに住まいを求める際は、支柱倒壊を考慮する必要がある。


送電線鉄塔
これも2019年の台風で多数の鉄塔倒壊が起きた。その結果、首都圏で長期の停電が起きた。送電線鉄塔はゴルフ練習場の支柱より頑丈に作っていると思うが、2019年の台風は従来になく強烈だったのと、あまりにも多数が倒壊して復旧工事のパワーが足りなかった。実際 東電だけでは間に合わず、ほかの電力会社が支援したそうだ。
三橋貴明がよく言っているが、日本のインフラは戦後整備されたが、それから80年が経過した今、メンテナンスも更新もしっかりやっていかないといけない。送電線鉄塔だけじゃなく橋も道路も鉄道も学校などの公共施設もだ。
送電線の危険として「デンジハガー」と叫ぶ人もいるが、ちょっと彼らの主張は信じられないので、とりあえずそれはおいておく。
田舎にいたとき、我家の近くで大雪のために電柱が倒れて電線が接触して火花が出たのを見たことがある。あの状況を見ると電柱や送電線の下には住みたくはない。
その後、私が戸建てを買ったときに、電柱を敷地内に建てさせてほしいといわれた。電柱の借地料として毎年何千円かもらっていた記憶がある。あのときは電柱だけでトランスはなかった。トランスがあれば倒壊したときのダメージは大きいだろう。とはいえ電気は自分も使うわけで、電柱を建てるのを断りにくい。


樹木
ツツジやキンモクセイなどの低木なら倒れてもどってことはないし、そもそも風で倒れることもないだろう。
庭木として多く見かける喬木には、ハナミズキ5〜10m、柘植(ツゲ)も8mくらいになる。桜は虫がつくからあまりないだろう。千葉ではけっこう大きくなるビワを庭に植えている家も多い。
ハナミズキ 樹高が5mくらいならかわいいが、10mを超えるようになると、風や老化で枝が落ちたり倒れた時が心配になる。私が住んでいるところは田舎だから当然農家も多い。農家のように敷地が広ければ大きな木があっても近所迷惑はないだろうが、一般の住宅で庭に喬木を植えていると、大丈夫かなと思う。
田舎にいたとき、隣の家の木が倒れて庭にあった盆栽の棚が壊れたお宅があった。今は敷地境界いっぱいに家を建てるから、風で枝が折れたり煽られて窓を割ったりすることがあるから、事前に隣人と話し合っておく必要があるだろう。
倒れなくても、隣に大きな木があれば秋の枯葉は覚悟したほうがいい。田舎の工場にいたとき、敷地周囲に植えていた落葉樹の落ち葉で隣接した家の雨どいが毎年詰まりお詫びが大変だった。


狭い道・行き止まり
ウォーキングに出かける前に、どの方面に行くかを考えます。毎日同じ方向でもつまらない。ましてや同じ道を歩くなんていやです。それでまず仮にでも最終目的地を決めます。○○公園とか○○博物館などとします。非常事態宣言中ですから休館ですけど、歩いていくには関係ありません。
それから経路を考えます。あまり緻密な道順とかタイムスケジュールを考えるわけではありません。まあ○○街
奥の細道













道を行くとか○○橋を渡るという程度は決めておきます。もちろんひたすら歩くわけではなく、行ってみて家並みが気に入ったらそちらを歩くとか、気になった建物を眺めたりお店に入ったりするわけです。
目的地と経過点をGoogle mapにインプットすると、いくつかの経路を示してくれます。面白いことにGoogle mapが示すコースは市街地では大きな通りではなく、家と家の間を通り抜けるような経路が出ることが多い。ときにはこんなところに道があるのかと思うこともあり、行ってみると民家の庭先を通るような感じだが一応公道らしい。そんな細い道は、Google mapを使わなければ絶対に通らないと思う。
いやその前に、どうしてそんなレアな道がGoogle mapに載っているのか、それが不思議だ。

しかしそういう道路を歩いていると不思議に思うことがある。
人が歩けるだけの幅2mほどの道に面している家があるのだ。家を建てるには道幅4m以上の道路に2m以上接していなければならないはず(注2)
ただ都市計画区域外はその規制を受けないらしい。その他、特例として広場などに面している場合などもあるらしい。だが実物をみれば、そういう除外に当たらないと思える。
思いつくのは、離れとか敷地内同居で子供夫婦の家を建てて、後にそこを貸家にしたケースくらいだが?

車が入れず歩いてしかアクセスできないということは、車もバイクもこない。 三輪車 そのせいか小さな子供が道路で三輪車に乗っていたり、縄跳びしたりして遊んでいる。
そんな風景を見ると、私が子供時代住んでいた長屋を思いだし和む。
でもさ、火事のときどうするの、災害が起きて避難するときどうするのか、いやいやそんな非常時でなくても、大きな家具とか家電を運ぶにもトラックが入らないだろうと心配してしまう。
ましてそういう道は、蛇行していたり行き止まりだったりすることが多い。

建売住宅は規制が甘い1200m2以下のミニ開発というのが多く、道も狭いしごみ集積所なども設けられていない。隣接して複数の開発がされて道路がつながっているように見えて、実際は通行できないというのも多々見かける。
その結果、広いといってもセンターラインがある幅6m程度の道路に出るまで、500mも1キロもあるところもある。まず日常交通が不便だし、火事になっても大型消防車は入ってこれないし、災害時に非難するにも別ルートがなく座して死を待つことになりかねない。
そんな価値のない街を作らせないためには、都市計画を早め早めに決めてそれに従って開発させないと、そのつけを子の代、孫の代に払わせるようになる。
街並みとか道路というものは結構長期間残るものだ。昔の城下町の、食違 ・丁字 路 ・鍵 の手なんてのは何世紀たっても残っている。現代だって道路を広げるとき立ち退きしない人がいたりすると、一部だけ道路が曲がっていたりする。ああいったものは今後1世紀以上残るだろう。

ともかく、そんな狭い道・行き止まりは、どう考えても暮らしやすくもなく、災害時にも問題ばかりで、そんなところの家を借りるべきではないように思う。
現実にはまあ家賃と相談ということになるのだろうか?


坂道
海岸は海抜ゼロだが、下総台地は海抜25〜30m(注3)ある。海岸から台地に向かう道は当然ながら坂道になる。
例えば稲毛駅から海に向かって南西に走っていくと、稲丘町で突然ものすごい下り坂になって驚く。この坂は海抜21mから3mまでを距離にしてたった90mで下る。その勾配は20%、角度にして11度を超える。だがそれは人間がなだらか(!)に作った道路だからだ。もとの地形は崖だ。
海岸から陸を見ると14号線より陸側は坂というより階段のように見える。これは断層ではなく海岸段丘らしい(注4)
14号線より海側は埋め立てなのがはっきりわかる。私の母方の祖母は稲毛の漁師の出だった。本家の位置は変わっていないが、昔は海辺だったのが、今は海岸から3キロ以上離れている。

松戸市から市川市は海岸の高さが奥まで続いている。海岸から5・6キロ内陸に入っても、ところどころにゼロメートル地帯があるくらいだ。江戸時代以前は市川・松戸から江戸川区・江東区は湿地だったらしい(注5)
チャンバラ小説を読むと、江戸から千葉方面に行くときは、日本橋小網町から船で行徳まで渡ったとある。大奥の御殿女中の楽しみは下総中山の法華寺参りだったそうだが、これも船で行徳まで行ったらしい。
そもそも地名は京都に近いほうが上・前が付き、遠いほうが下・後が付く。下総が房総半島の根本で上総がその先というのは、京都から来た時、まず船で三浦半島から上総に渡り、そこから陸地を歩いて下総に行ったからという。

台地と低地の境は東京湾に平行ではなく、海に直角に南北に走る。海抜0mと海抜20mの違いは小さく等高線では分かりにくいが、明治時代の地図を見ると市街地がないから高低差が水田と畑の違いに表れてよくわかる。台地の上は水がないので水田は作れない。それはいまでも同じだが、農地が少なくなった今では土地利用からでは海抜がわからなくなった。
船橋側は下総台地の西端で海抜20m前後、市川市の方は海抜5m前後、差が15mある。市川市と船橋市の境目はすべて坂だ。その坂は概ね長さは250mくらい。ということは坂の勾配は6%、角度にして3.4度。長さが6%で250mというと、稲毛の坂よりは緩やかだが、歩くにしてもかなりきつい。自転車では普通の人ならまず上までは登りきれない。普通の人が自転車で上り続けることができる傾斜は1%という。
ベビーバギーとか老人の手押し車、車いす、子供の三輪車などはひとりでに走り出してしまう。
ちなみに車いす用のスロープは1/12、つまり8%、角度にして4.7度というから、この坂のきつさがわかるだろう。

参考までに… 数字だけでは坂の勾配がわからないかもしれない。誰でも学生時代に行っただろう神楽坂は、外堀通りの標高が6.1mで220m登って最高地点で18.5mで、その傾斜は5.6%。原宿の竹下通りは原宿駅前が26m、180m歩いたマツモトキヨシが22.4mで傾斜2%である。
稲毛の20%の坂が、いかにすごいかお分かりだろう。

実際に私がウォーキング中に見た情景であるが、若いお父さんが園児と低学年の子供と、坂道の歩道で遊んでいた。 ギョ!
おとうさんがちょっと目を離したすきに、園児の乗った三輪車は坂道を下り始めた。おとうさんは走って追いかけたがなかなか追いつけず……幸いというか三輪車は道路脇の側溝に落ちた。子供はギャン泣き。おとうさんは我が子がケガしてないか必死で調べていた。

1時間後、私が帰り道を歩いていたら、またその三人に会った。園児も元気に遊んでいた。ヨカッタヨカッタ、 あのおとうさんは非常事態宣言のためにお休みで、子供たちの相手をしていたのだろう。


坂道の交差点
坂道の交差点も危ない。今 乗用車はほとんどオートマだから、坂道発進といってもクリティカルな半クラッチに気を使うことはないけど、下り坂が長いからついついスピードが出てしまうし、エンジンブレーキを使うよう心掛けないと危ない。
それと駐車するときは必ずハンドルを道路端に向かうように一杯に切る。できるなら歩道の段差に車輪をぶつけておく。教科書通りにハンドルをいっぱいに切って停めている車はめったにないので私は心配になった。宅配便はみな輪止めをかけている。立派立派

傾斜地に住むなら坂道でなく、それと交わる横方向の道沿いにすべきだ。ともかく坂道に住むのは好ましくない。
急な坂道は山口百恵に任せておこう(注6)


液状化
東日本大震災のとき浦安市は液状化でえらいことになったが、千葉県内では市川市も船橋市も習志野市も千葉市も、東京湾沿いの昔からの低地や埋め立て地は軒並み被害があった。その他、内陸地でも利根川流域では液状化が起きている。
地震の後、浦安市に液状化したところを見に行ったが、コンクリート舗装の目地などから泥水が湧き出している。普通の靴では避難するのは困難だったろう。

お断り: わざわざ興味本位で見物に行ったのではありません。当時は京葉線で通勤していたから、途中下車して被害を視察(?)しました。

液状化被害を避けるには、埋め立て地・元河川・ゼロメートル地帯を避ける。最低限、過去に液状化が起きたところには住まないことだ。


川のそば
津波は単なる高低差だけでなく、抵抗の少ないところに進む。だから川は長距離を遡上する。川のそばにある住宅を見るとざわざわする。高さがあっても、洪水時には岸部が侵食される下の土が流されるから、川岸の家は倒壊する恐れがある。
大仏 なお鎌倉の大仏殿がそばを流れる小川を遡上した津波によって壊されたというのを聞いたが、それは事実ではないらしい。
津波でなくても洪水で、床下浸水、床上浸水があると大変だ。
今は下水道が普及しているけど、昔は汲み取り便所だったから洪水の後は大変だった。何が大変だったかは言わせるな!
それから川のそばは液状化しやすい。川の流れが固定されたのは近年である。昔は大雨が降れば常に川の流れは変化した。以前川が流れていたところは液状化しやすい。


どうせ住むなら、台風が来ても地震があっても被害を受けないところが望ましい。
我々素人は見ただけでは安全か否かわからない。だから最低、今まで災害があったのかとか、海抜とか調べて適否を考える必要がある。
でも賃貸アパートを探すとき、その町の歴史とか過去の土地利用状況とか、災害とかを調べるのは面倒だ。
でも行政は、ちゃんとそういうサービスをしている。そういった危険な場所をまとめたものが自治体のハザードマップだ(注7)
2006年に国土交通省が自治体に対してハザードマップを作成するよう通知やガイドラインを出しており、その後東日本大震災があり、記載事項の充実などの見直しをしている。
それに基づいて各自治体は洪水や地震の際に想定される被害や避難について取りまとめ、自治体の住民に配布することになっている。
多くの都市では一回は住民にハザードマップを配布したものの、人の移動は激しく、現時点の住民が配布されたかどうかはわからない。
もし持っていなければ、市役所に行ってハザードマップを入手し、それを見て住まいを決めたり、避難場所の確認をしておくのは義務であり権利だろう。

正直言って、私も住んでいるところの避難場所は知っていたが、それだけでなく近隣にどんな危険があるのか、過去にどんな災害があったのかなど全く考えたこともなかった。
新型コロナウイルス流行でほかにすることがなくてウォーキングするようになり、ひと月も歩き回っていると、アレッ!?と思うことが多々あり、少しは目ざとくなったのかなと思う。正直言って非常にためになった。



うそ800 本日のアドバイス
まずはあなたが住んでいるところのハザードマップを入手しましょう。
そしたらそれを持って自宅から半径500メートルの道路をすべて歩いてみましょう。
それから避難場所までの道順の確認、そしてその道路が通行できないときのオルタナティブルートを検討しておきましょう。
正直言って私もそんなことをしたことがありません。非常事態宣言のおかげで暇になり、毎日歩き回っていて気が付いたことであります。わが家が常に高台を選び、災害を受けないところに住んでいたのは私の考えではなく、家内が決めていたからです。
お前はそういうことを調べて借家を決めていたのか?と聞きましたら、あたりまえじゃないかとのお言葉。平伏いたしました。




注1
注2
建築基準法43条

注3
千葉県西側の市の標高最高地点は、浦安市4m、松戸市32.4m、市川市30m、船橋市32.3m。いずれも下総台地が最高峰となる。
千葉市の最高地点は板倉町の山で標高103mであるが、これは下総台地ではなく上総丘陵になる。
注4
注5
今昔マップを見ると、その名残が見える。

注6
横須賀ストーリー 1976年、作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童 歌:山口百恵
注7


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