うそ800始末4.環境側面の誤訳

20.01.27
うそ800始末とは

ISO14001規格の意図はご存じの通り「遵法と汚染の予防」である。忘れた人はいませんよね?
そのためにISO14001が要求するのは、組織の環境側面の管理だ。だからISO14001の要点は環境側面である。ならばISO14001認証するにも、あるいは認証しないでそれを使おうとしても、環境側面をしっかり理解しなければならない。
しかし現実をみれば、多くの組織は環境側面の意味をよく理解せず、だから真の環境側面を把握せず、ISO規格の効果を出していないのではないかという感じを持つ。ということは真の原因は規格そのもの、文章が悪いのではないかと考えられる。
ということで、今回はISO14001をまっとうに翻訳しなかった、ISOTC委員の無力、翻訳者の無力を問題としたい。
おっと、強烈なしっぺ返しが来るだろう。期待している。

まず環境側面の定義を考えたい。

環境側面の定義: 3.2.2環境側面
環境と相互に作用する,又は相互に作用する可能性のある,組織の活動又は製品又はサービスの要素。

  • 注記 1 環境側面は,環境影響をもたらす可能性がある。著しい環境側面は,一つ又は複数の著しい環境影響を与える又は与える可能性がある。
  • 注記 2 組織は,一つ又は複数の基準を適用して著しい環境側面を決定する。

3.2.2 environmental aspect
element of an organization's activities or products or services that interacts or can interact with the environment.
  • Note 1 to entry: An environmental aspect can cause an environmental impact. A significant environmental aspect is one of that has or can have one or more significant environmental impact.
  • Note 2 to entry: Significant environmental aspects are determined by the organization applying one or more criteria.

 規格の文章が、なぜ小文字で始まるのかわかりません。

さて質問です。問題は何でしょうか?



では環境側面についての要求事項を考える。

環境側面についての要求事項: 6.1.2 環境側面
組織は,環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で,ライフサイクルの視点を考慮し,組織の活動,製品及びサービスについて,組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面,並びにそれらに伴う環境影響を決定しなければならない。
環境側面を決定するとき,組織は,次の事項を考慮に入れなければならない。

 以下略

この文章で誤解を招くのはただ一つである。「決定する」の原語は「determine」であるが、これを「決定する」と訳したのはまったくの誤訳だ。
これについては過去何度も書いているが、日本語の「決定する」とは決定者の意思・恣意が働くものと考えられる。英語でそれに対応するのは「decide」だ。
例えば認証機関をどこにするかは、コストとか評判とか業界のしがらみを考慮して決めるだろうし、その結果 審査を受ける会社によって認証機関が異なるのは当然だ。
だが「determine」はそれとは違う。例えば証拠から犯人を特定するとき、刑事によって犯人が違っては困る。証拠を基にこいつが犯人と決定するとき「determine」を使う。

もちろん日本語においても人間の意志が関わらないときでも「決定する」を使うこともある。例えば「事故原因を決定する」とか「桜の開花時期は気温に決定される」とかいう。だがそういうケースにおいては、決定する主体は事故調査報告とか気温であって、人の意思ではないのは明白だ。
規格の上記文言、組織は(中略)組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面、並びにそれらに伴う環境影響を決定しなければならないという文章を読めば、「組織」の意思で決定すると理解するだろう。だが組織が環境側面を取捨選択できるわけではない。
っ、御社は社内で検討した結果、著しい環境側面を決定しているのですか

点数をつけて一定以上を著しい環境側面にしているのは要求事項である「determine」に不適合だ。だってその根拠となる配点と計算はまったくの恣意だから。もちろん実験や調査に基づいて配点表が作られているなら、その方法を妥当とみなす。
しかし私は今まで数十の組織の環境側面評価表を見てきたが、電力や廃棄物の配点が環境影響を基に論理的に作られたものを見たことがない。

産業廃棄物100トン重油20トン
産業廃棄物


重油

もし産業廃棄物100トンと重油20トンの環境影響を比較できる人がいたら、教えを請いたい。だが論理的でなかったら、ただではおかない
廃棄物の種類、分別の程度、量、排出場所の位置、処分方法による環境影響、処分費用はどう反映して比較しましたか?
重油といってもメーカーによって違いがあります。それに重油のどんな性質を考慮しましたか? 可燃性、揮発物質の影響、環境残留時の影響、対象場所の希少生物の有無、いろいろありますね。


話は飛ぶ……私が立ち会った審査で、審査員が「どうしても環境側面に入れたいなら、経営者が判断したものを入れるという文言を環境側面の手順書に入れておけば良い」と語ったことがある。
んでもない話だ。経営者の判断によって、環境に影響を及ぼしたり及ぼさなかったりするのか? それなら著しい環境側面にしたくないときは、これは環境影響はないと手順書に定めておけばいいのか?
こういう審査員は環境側面だけでなく、環境目標を環境側面から選ぶと勘違いしているのだ。だが規格では環境側面から環境目標を選べとは書いてない。勘違いというより不勉強というべきか?


話を戻す。
determineは過去に何度も書いているのでこちらを参照願う。
 「環境側面はいまだ誤訳なり」

いずれにしても「determine」は「決定する」のではなく「決まってしまう」という意味なのである。
環境側面は、どれにしようとか考えて決めるものではなく、それが持つ性質、与える影響、法規制などによって必然的に決まってしまうのだ。
ヤレヤレ 言い換えると、「それ」が持つ性質、与える影響、受ける法規制によって管理しなければならないものが「著しい環境側面」なのである。
はっきりいって「環境側面を決定する」なんていう文章は支離滅裂である。行政から見たら確固たる根拠なく管理項目を決めるなど不遜そのもの、身の程知らず、控えおろうとお叱りを受ける。規格に書く文章は、せいぜい「今まで管理していた項目に過不足がなく適正であるかを確認する」程度であろう。

ISO14001規格は難解である。だがそれは規格が難しいのではなく、翻訳がまずいのだ。もっと日本語としてこなれていなければならない。そして原文の意味を正しく伝えなければならない。
そのためには原文ではワンワードでも、日本語訳するときには節や句にしても良く、直訳でなくても良い。原文にない説明を追加してもよい。もし翻訳としては不適と懸念するなら、和訳に注記をつける方法もある。現実にそういう箇所があるわけだし。

しかし……過去よりISO14001規格の解説本は100冊以上出版されている。私はISO14001の解説本の半分は読んでいるが、読んだ中で「環境側面」とか「決定する」の意味について、この駄文のように解説しているものを見たことがない。
解説本の著者はみな原文の意味を十分理解して日本語でも通用する、いや誤解されないと考えたのだろうか?
それとも著者たちも誤解しているのだろうか?
うがった見方をすれば……解説本を書いた人たちは十分ISO14001を理解していたが、平易に書くとコンサルでお金がいただけないから、具体的に書かずコンサルでお金を稼ごうとしたのかもしれない。
どちらにしてもそれら解説本が役に立たないのに変わりはない。


うそ800 本日の提案
翻訳が適正か否かを判断するには、和訳したものを高校生に読ませて、9割以上が誤解しないことというのはどうだろう。正しく理解できない生徒が1割を超えたら、差し戻して翻訳を見直すことにする。
というのはISO審査員になる要件は高卒以上となっているから、高校までに習う言葉、知識で理解できなければならない。なお審査員の要件が高卒以上とは、国際規格だから変えられない。
ちなみにアメリカ軍では、兵器の取扱説明書に13歳までに学校教育で習う単語以外使ってはならないそうだ。高尚な文章よりも間違いのない文章のほうが良いと私は考える。
AR15
今回は環境側面をいかにして決定するかまでたどり着かなかった。よって次回は環境側面の決定方法の予定である(予定は未定につき……以下略)。


レイシオ様からお便りを頂きました(2019.01.28)
環境側面の誤訳について
ずいぶんとご無沙汰しております。
特定環境要素いいですね〜、今度教育等行う機会があれば活用させていただきます。

さて、逆説的な著しい環境側面は、8.1項、8.2項も含まれているように思いますが、いかがでしょうか?

レイシオ様、毎度ありがとうございます。
おっしゃる通り漏れておりました!平にご容赦のほどを......
8.1では、「6.1及び 6.2 で特定した取組み云々」とあって、環境側面という語がなく、全文検索で漏らしてしまいました。
手抜きはいかんですよ、手抜きは....と他人事のようなことを言ってはいけません。
後々のことを考えて自戒の意味を込めて、間違いをそのままにして、ここへのリンクをつけておきます。


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