認証の今

20.03.26
過去25年間ISOMS規格はどんどん増殖し、片手どころか今や両手でもあふれそうです。パーキンソンの法則なのでしょうか? 定向進化でしょうか、
ISOバリューセットです 最近は1件ずつ単独で認証するのもめんどうなのか大きいことはいいことなのか、認証機関はマクドナルドを見習って統合認証とかいうセット売りを推奨しています。セットなら個々に認証するより割安になるようです。
もちろんセットにするのはお客様のためではない。一つより二つ、二つより三つのほうが、売り手にとってメリットはたくさんある。一個 一個 注文されるより客単価を上げることができるし、売れ行きの悪いものを組み込んで販売できる、目玉商品…それはオマケのこともあるが…を餌に売れる。まさしくファーストフードのセット売りの手法と同じ。
おお、そうするとマネジメントシステム認証は、おいしさ・食の安全を売るレストランではなく、早い安いが売りのファーストフードだったのか!?
ちなみにマクドナルドは不動産業だという。では認証機関も不動産業なのだろうか 😃
いやいや士商法さむらいしょうほうというのが正しいのだろうけど……


ISOMS認証を認証機関から見ればそれなりの見え方があるだろうけど、認証を受ける企業サイドから見ればまたそれなりの風景がある。
企業がどのISOMS規格の認証を受けるにしても目的があるわけです。認証していないとビジネスができない、お客様に買ってもらえない、市場で評価されない、他社と差別化できない、コンペティターに見劣りする、周りの協調圧力とか、中には認証によって会社を良くしようという奇特なところもあるそうです(注1)。まあそういったことから、積極的か消極的かはともかく目的を達成するために認証しているはずです。理由がなくちゃ認証するわけがありません。

でも認証するのは、ただ・無料・フリーじゃありません。お金がかかります。どれくらいかかるのかとなると、それは認証機関によるとしかいえません。とはいえ基本的な算式はISOだかIAF規格に決まっています。


そんなわけで認証機関によって審査費用は大きく違います。もっと違うのは愛想の良さ。腰の低いところもあるし、わが社を選んだのはお目が高いなんていう上から目線の認証機関もあります。
じゃあ値段の高いところはサービスの品質が良いのかといえばどうか? お値段の高い認証機関は安い認証機関を「安かろう悪かろう」なんて貶しますが、本当にそうなのか「高かろう悪かろう」なのかも一概に言えないという面白さ! こちらが資料を送っても「受け取ってない」なんていう姿勢のところも(ゲフンゲフン)

もちろん認証するには認証機関に払う他、コンサルタントを依頼することもあり、余計な社内業務が追加になるための内部費用もあります。「余計な社内業務」というのは本来やるべき当たり前のことではなく、認証機関との交渉、審査の対応時間、アテンドなどなど必要なものをいいます。
そんなことを考慮すると200名規模で年間200万以上は最低かかるでしょう。なかにはISO事務局なんていう部署を設けたり、驚くことに専従者を置く会社もあります。1名専従をおけば、人件主費・副費で年間1,000万以上はいくでしょう。

もっとも事業を行うとき費用が掛かるということは即悪いことではありません。なにごとも投資効率、費用対効果、見返りがあるかないかってことです。
神様 残念ながらISOMS認証の効果は、今のところ絶対的なものではなく、それどころか効果が確固たるものでもない。
例えれば神社でお賽銭上げるようなもので、つまりは気は心程度。「人事を尽くして天命を待つ」といいますが、これは言い換えると「努力せよ神にすがるな」ということで、神頼みの効果がないということです。「天は自ら助くる者を助く」といいまして、助かる人は神の力添えがなくても助かるのです。

おっと審査費用は認証を受ける企業から見ればコストですが、認証機関から見れば売上です。売り上げを拡大し発展するためには、認証件数を増やす以外にも、審査工数を増やす、審査単価を上げる、サービスにオプションをつけて……となりますが、前述したように審査工数は国際基準があるから無理、単価はコンペティターがあるから無理、オプションといっても昔のように予備審査で指導というのはダメと美味い方法はありません。


まあそういった現状を再認識していただいたうえで、認証の現実はどうなのか?
ISO登録件数推移 冒頭でISOMS規格が増えていると書きました。実際に多くの企業がISO認証をしています。ところが最近…いや過去10年以上に渡ってISO9001とISO14001の認証件数は年々減少しています。
じゃあ新しいセキュリティ関係とか食品関係がそれをカバーして、いろいろな規格の認証件数合計は増えているのでしょうか?

実は2020年現在、JAB認定のISOMS規格の総認証件数43,542件のうち、QMSが63%、EMSが34%合わせて97%を占めている(2020/03/25現在)。
残念ながらQMS・EMS後に現れた二番煎じ三番煎じで柳の下のドジョウを狙ったものの、金のなる木に育ったものはないようです。

ISOMS規格認証状況(2020.03.25現在)
規格番号名 称1認証件数11割 合1
ISO9001品質マネジメントシステム27,32762.8%
ISO14001環境マネジメントシステム14,89434.2%
ISO27001情報セキュリティマネジメントシステム100.0%
ISO50001エネルギーマネジメントシステム70.0%
ISO13485医療機器品質マネジメントシステム2310.5%
ISO22000食品安全マネジメントシステム10012.3%
ISO55001アセットマネジメントシステム600.1%
ISO45001労働安全衛生マネジメントシステム120.0%

認証機関の中には新しいMS規格の認証を始めたものの、お客さんが少なくてそのMS規格の審査登録を止めてしまったところもあります。儲けにならないことをしないのは商売の鉄則です。

と考えると認証ビジネスとはいったいなんなのだ? という根本的な疑問が消えません。だって認証を受けるほうも一つ二つならともかく、片手どころか両手いっぱい、そのうち両手両足になりそうで認証疲れどころか病に倒れそう。
認証受けるほうも認証するほうも認証疲れ、それじゃ誰得?となります。

私は毎年「認証ビジネス○○年」というタイトルで種々の指標をまとめていますが、これは単に過去の事実でしかありません。論理的にビジネスとして成り立つのかどうか、将来的に伸び代があるのか、そこんところを考えなくちゃいけないなって思いました。
ということで本日は非常に荒っぽくはありますが、認証ビジネスはビジネスとして成り立つのかということを考えたいと思います。

日本に会社はいくつあるのか? はっきりしたことは誰も知らないようですが、総務省統計局によると400万社以上といいます。もっとも個人事業主が240万で、法人企業は170万だそうです。
もちろん法人企業の中にはペーパーカンパニーもありますし、休眠会社も税金対策もあるわけです。また個人事業でなくても実質一人とか数人なら、認証する意味もないでしょう。他方法人がひとつでも工場ごとに認証することもあるでしょう。そんなことを考えるとISO認証対象となると法人企業の半分かせいぜい4割、まあ80万組織というところでしょうか。
実際には認証を受ける組織には行政機関や公立学校などもあり対象数はもう少し大きくなります。とはいえ2010年以降、行政機関も教育機関も認証返上が続いているようです。
まあそれを考慮して80万として試算します。

さて、仮に対象となる組織が80万として、そのうち何割が認証するのか?
日本でテレビや洗濯機はほぼ全家庭に普及しているようです。しかしパソコンの普及率は77%、これはもう10年位前から変わっていません(注2)。これくらいが限度なのでしょう。炊飯器や洗濯機ではないから必要ない方もいるでしょうし、スマホで十分ということもあるでしょう。いずれにしても洗濯機並みの100%なんてありえません。
ISOMS認証も、どの会社も必要だ、必要でなくてもあれば便利というものでもない。当社は関係ない、必要ないという会社も多いでしょう。
ISO9001の認証件数がピークとなったのは2006年で43,564件でした。対象となる組織を80万とすると、これは5.5%になります。なおISO14001のピークは2009年に20,799件で2.6%でした。
2020年現在のJAB認定の種々のISOMS規格認証件数は4,3542件ですから、重複を無視すると5.4%です。日本でISO認証が始まって27年が経過して総件数が伸びてないわけですから、今後も今以上に認証が増加するとは思えません。
ここでは仮にISO認証ビジネスはQMSとEMSの合計がマキシマスとなった2008年の6,3182件、丸めて63,000件としましょう。これは80万社の7.9%になります。
この大きさのマーケットでどのように商売を進めるかというのが課題です。

では認証件数63,000件としてどんなビジネスになるのかを考えてみました。


ISO認証ビジネスを考えてみると、そもそも規模が非常に小さいのである。
そして認証件数は上記で仮定した63,000件ではなく、現実は43,000件しかない。
まずは現在の43,000件を最盛期の63,000件に盛り返すことを考えなければならない。13年前のISO認証に対する社会や企業の期待を甦らせること、それを考えなければならない。
もちろんそれはリーマンショックの前かつ大震災前という時代背景もある。
だからそれは無理というなら、43,000でビジネスをすることを考えなければならないが、ここで43,000とは減少中の数字であるということだ。10か月後の2020年末には2000件強、5%も減ることが予想される。この減少を止めることができなければ間違いなく認証ビジネスの消滅である。
とりあえずは認証件数減少を止めることだ。

止めることができたとしても、現在の認証機関数、審査員数、審査員研修機関、審査員登録機関すべてが過剰なのだ。
普通のビジネスならとうに撤退を始めるどころか完了しているはず。ビジネスを拡大しようとしても市場が小さすぎる。撤退するにも遅すぎる。手詰まりだよ、

いろいろと見てくると、そもそも認証事業はビジネスたり得るのかと疑問でしかない。
事業として成り立つためには、最低限 現在の規模の3割増し、最盛期くらいは欲しい。そして効率化を図って存命を考える程度なのではなかろうか。

どんなビジネスでもマーケットの規模が大きくなければどうしようもない。スポーツカーがなくなったのも、バイクの新車が出ないのも、売れない商品が消えていくのも「見えざる手のお導き」だ。
認証ビジネスが存続していくには、非常に少数の有能な人間がほそぼそと事業を営むという姿しかないのではないだろうか。
事業規模は小さくてもそういう特殊なビジネスは存続できるし社会も必要とする。例えば古い機械式時計の修理業とか元法曹の公証人とかいう仕事がある。
大手企業で肩叩きされた年配の元管理職が、きれいなビルにふんぞり返って客がやってくるのを待つ、そういうスタイルではたちゆかないだろうけど。

昔の話ですが…
私が東京に出てきてすぐだったから2004年頃だろう。JAB環境ISO大会で吉澤 正先生が「ISO14001認証4万件を目指してガンバロー」なんて講釈 夢物語 を語っていたのを覚えている。
当時ISO14001の認証は1万ちょぼちょぼ、ピークは2009年で20,800件、そして2020年の今は15,000を切った。夢や希望を語るのも結構だが、現実の問題を把握しそれを是正して顧客満足(この場合は企業及び企業担当者)を向上させなければならなかったはずだ。
だがISO14001の規格解釈委員会が出した通知は2000年4月28日の1件だけだ。なぜ有益な環境側面とか計算で環境側面を決定する方法以外でも良いとか通勤の環境影響は必須ではないとか、認証機関や審査員に知らしめることはたくさんあったのではないだろうか?
それを怠り規格の誤解、ハチャメチャ審査を野放しにした、その結果が今ではないのか?
まあ原因があって結果があるのは理、後悔先に立たず。

ところで吉澤先生がお亡くなる直前、日比谷と大手町をつなぐ地下道で先生に出会った。私は写真や講演で拝顔していたので近しい感じがしてご挨拶したが、もちろん先生が私をご存じであるわけがない。愛想の良い吉澤先生から「やあ頑張ってね」とかそんなご返事をいただいた。
残念ながら吉澤先生の思い描いた、EMSが繁茂する未来はなかったようです。


うそ800 本日の気づき
認証疲れしているのは認証を受ける企業だけではない。認証制度も認証疲れしているようだ。ならば認証ビジネスを廃止するという選択肢もある。先が見えたビジネスにしがみつくことはない。



注1
よく考えよう 会社を良くするためにISOMS規格を利用するというのと、会社を良くするためにISO認証を受けるというのは全く違います。
認証しないと会社が良くならないのか? 認証を受けるのと受けないのと何が変わるのか?そこんところはよく考えなくちゃいけません。

注2
注3
認証機関によって大企業メインとか中小メインもあり、また審査費用の高低もあり、ほんとのところはわからない。知る限りのものから試算した。大きくみても65万以下だと推定する。

注4


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