うそ800始末17.良い審査をするために(1)

20.04.13
うそ800始末とは

少し前に審査員の力量というのを書いた。似たようなものだけど今回は審査の改善とか審査員登録などの問題提起をしたい。まあとりあえずはその1です。

ほんの数年前まで環境経営学会とか環境ナンチャラ学会などの定期総会とか講演会に行っていた。会社員時代、会社に案内状が来ると上司からお流れを頂戴して聴講した。もちろん行かなくてもどってことはないのだが、せっかくの招待券を無駄にすることもないし、行けばそれなりに面白い。聴講するには最低でも1000円とか2000円とられるのだから。
会社を辞めてからも惰性で聴きに行っていた。しかしだんだんとISOとかマネジメントシステムなんてテーマは少なくなり、あっても妄想というか浮世離れしたお話が多くて最近は行かない。

学会の発表といっても広い部屋で大勢を集めた講演は少なく、ほとんどは20名くらいしか入れない狭い部屋で同時に5つとか6つとか発表がある。だから参加者は配られたスケジュール表を見て、面白そうなテーマを渡り歩いて聴講する。 講演 興味をひかないようなテーマは聴講者が数人ということもある。
今から4・5年前のこと、そんな学会の隙間時間だったと思う。休憩室でコーヒーを飲んでいたら、隣に老紳士が座り、いつとはなしに会話が始まった。おっと私のことも老紳士と呼んでくれてよい。
その方はMさんと名乗り某大学の講師だそうで、私より年上に見えた。年の頃60代末か70ちょいだろう。話を伺うとISO主任審査員の資格を持っていて、審査員研修機関の講師もしているという。そして私が企業でISO対応をしているなんて話したものだから、ISOがいかにすばらしいか、ISOは企業を改革するツールであるとか熱弁を語った。
私は自分に関係のないことなら自慢話であろうと妄想を語ろうと、スゴイデスネとお追従を言い相手を喜ばすことは苦になりません。金もかからず相手が気持ちよくなるなら喜ばしいことです。でもね、自分の利害関係というか、私の仕事に関することなら黙っちゃいません。
Mさんは、ISO14001では有益な環境側面を中心とした活動にして革新を進めるべきだとのたまわうのです。普通のというかそこらへんに転がっている大学教授がそう語るなら黙ってますよ。別に私より年上の方に恥をかかす気はありません。
でもね、審査員研修機関の講師をしているのです。審査員研修機関でそういうことを教えられるのは困るんですよね。これは少し教育したたきのめさなければと思いました。
私が上から目線だとおっしゃるかもしれません。でもね、相手に非があるなら教育する必要があるでしょう。間違えた主張をする人に合わせるなんてアリエナイ!
忖度はいけません、忖度は!
偉い人のくだらない冗談に愛想笑いをするなんて、私は査定が下がろうと絶対にしませんでした。出世しなかったのはそのせいです(キリッ。

「Mさん、有益な側面なんてありませんよ。ISO審査はISO規格に基づいて行わなくちゃありません。規格にない有益な環境側面を根拠に不適合にするなんて間違いです」
いや私は勇気があるわけじゃなく空気が読めないわけじゃありません。思ったことを言わないと死んじゃう病なのです。
私の反論にMさん怒り狂いました。大の大人というか、還暦を過ぎた大人が見ず知らず初対面の他人に目下のような物言いで「貴様が間違っている!」ときたもんだ。
そしてMさんは「某認証機関のS社長(有益な環境側面教の教祖)とは友人なんだ」と語ります。Mさんは邪教の狂信者なのでしょう。狂信者に死後の救いはありません。
でも有益な環境側面があると認証機関の社長が語ろうと間違いは間違い、首相であろうと犯罪を犯せば犯罪者、審査員研修機関の講師が間違いを教えたらCEARに抗議すべきでしょう。もうCEARはないけど、
論理的に柔らかく説明しましたが、当然ご理解なんぞいただけません。ものわかれというか喧嘩別れでございます。いや向こうが一方的に気を悪くしただけですけど。
私にとって痛くもかゆくもないのではありますが、危険人物Mさんが審査員研修機関で講師をしていること自体が重大問題だと思いました。それは回りまわって私の仕事でトラブルが増えることにつながります。ゲッソリです。
Mさんにはその後会ったことがありませんが会いたくもありません。


H審査員という方とは3か所審査の場でお会いしました。一度は私の元の勤め先で相まみえました。二度目と三度目は転職してから認証を指導した会社の審査でお見掛けしました。私はコンサルの立場ですから後方で見てただけです。
このH審査員はISO用語がマニュアルにあるかないかの審査しかできないようでした。
1回目は環境方針の語句が抜けているといちゃもんが付きました。「継続的改善及び汚染の予防」「環境の法規制及び……」「目的及び目標」「文書化され実行され……」
バカじゃなかろかとしか言いようがありません。
2回目は関連会社の審査で、全く同じでした。マニュアルの文章に「実施し維持すること」「確実にすること」「記録を保持すること」と記載されていないから不適合だと言う。呆れましたね。こんな審査をしていて主任審査員の資格持ちですか
3回目は省略、

要するにこの審査員はISO規格そのままの文章を、マニュアルに書き込めば適合で書いてなければ不適合なのです。それがどんな要求事項に該当するのか教えてください。
その後知ったのですが、このH審査員は承認審査員だそうなのです。承認審査員とはあまり聞いたことがないかもしれません。企業に来てISO14001とかISO9001の適合を審査するのを認証審査員といいます。一般的にISO審査員と呼ばれる人がこのタイプです。ほとんどの人が審査員と聞いてイメージするのは認証審査員です。認証するか否かを審査するから認証審査員、ひねりも工夫もありません。
認定審査員というのもあります。認証機関を認定するための審査を認定審査といい、それをするのが認定審査員です。認定審査員がする審査基準はISO9001やISO14001ではありません。ISO17021です。校正会社とか試験所などの場合はISO17025とかいろいろあります。
審査員研修機関は審査員登録機関から承認されて営業できます。そのためには審査員登録機関から承認審査というのを受けますが、それをするのが承認審査員です。
あなた! ISO14001の審査でISO規格にある語句が環境マニュアルにあるかないかしか調べることができない人が認証審査員だけでなく、審査員研修機関を審査する承認審査員をしていることにゾッとしませんか?
いくら立派な制度とかルールであっても、品質が保たれるか否かは従事者の力量によって決まります。それってISO規格にも書いてある通りじゃないですか。
幸いというかH審査員は2011年頃に引退したようです。承認審査員といっても何人もいるのでしょうし、現在の承認審査員の力量は存じませんが、H審査員が審査していた時代はまさに暗黒時代だったのでしょうね。神よ救いたまえ アーメン


Kさんは私より一回り上、20世紀末に業界系認証機関に出向してQMS/EMSの審査員をしていた。彼と出会ったのは審査ではなく、2005年頃に売り込み……要するに当社に鞍替えしてくださいと……に来社されてそれ以降ときどき会って飲む間柄になった。
あるときのこと「いやいや困ったことになっちゃったよ」と言うので、「どうしましたか?」と返すのは流れだ。 すると最近の審査で規格要求事項にないことで不適合を出した。それでその会社から苦情というか異議申し立てをされて今認証機関が対処を検討中だという。面白そうな話だ。正直非常に興味がある。
それで「それは大変ですね。どうされたのですか?」と返した。
生ビール 誰でも秘密ってものは他人に話したいものである。エッ!そういうのって私だけかな?
Kさんはどんなことをしたのかジョッキを2杯開けるくらいの時間、話して聞かせてくれた。
言い訳がましい修飾語が前後左右に加わって要領を得ない話だったが、要するに審査した会社で品質問題が起きなかなかその原因究明もできずにいた。それを不適合とした。だがISO規格で問題が解決しないと不適合なんて決めてない。そもそも技術的なものがISO規格通りにすれば解決するわけではない。解決しようとしないなら規格不適合だろうけど、解決できないのは規格の範疇外である。審査員は是正活動を見て、手順とおりやっていれば是とするほかない。Kさんは何をしたかったのか?

そのやり取りの中で会社関係者に暴言を吐いたということで、火に油を注いだということだ。Kさんの性格から、さもありなんと思った。
その話を聞いて、時代は変わったなと思った。暴言は当たり前のこと、灰皿を投げられ(当たりはしなかったが)たり、机を蹴とばされたり、こちらの話を真面目に聞かなかったり、そういう審査員ばかり見てきた私は、会社側が審査員がおかしいと思えば認証機関に異議申し立て、苦情を申したてするようになったことに感動した。
とはいえ、21世紀になって10年経っても天上天下唯我独尊でかつ反省しない審査員も生き残っていることにも感動……いや恐れおののきました。


審査員研修機関で習ったとき、S講師が語りました。不適合を出したいけど規格に根拠が見つからないときはISO14004を援用しても良いのです!
オイオイ、それって審査員研修機関に異議申し立てすべきじゃないのか? そんな講師は首にしろ!
そんな考え方で教えているだけでなく、そんな考え方で審査しているのでしょうね。S講師は環境法規制の本を書いてました。そんな人が書いた本は信用できません。
おっと今SさんはISO審査員を引退して、エコアクション21の審査員をしております。


審査を良くするにはどうすればよいのかということは、認証機関にとっては重大な課題でしょう。認証の価値が下がり認証件数が減る一方の昨今、それはますます重要なテーマとなってきたと思います。
審査員といっても何千人もいるわけで、良品だけでなく不良品も多数混ざっている玉石混交であることはわかります。でもおかしな審査員が生き残れるという環境というか管理というのはやはり問題ではないでしょうか。
述べましたように、考え方が論理的でない、審査基準を知らない、審査のルールを知らない、規格と異なるマイルールとかマイ基準を持っている、反論されると気を悪くする、考え方が頑固、会社を良くしてやるという意識、そういう方が多いように思う。

そういう審査員は悪い審査員でしょう。悪い審査員は悪い審査をします。
でも良い審査をするのは良い審査員というのは論理的に間違いです。だってマネジメントシステム規格というものは、組織が継続して良い仕事をするためにはシステムが必要である、そのシステムはどんな機能を具備すべきかということをまとめた国際規格なわけです。
そんなこと私が言い出したわけじゃありません。最初に登場したマネジメントシステム規格であるISO14001:1996の序文に「組織のパフォーマンスが法律上及び方針上の要求事項を満たし、かつ、将来も満たし続けることを保証するに十分ではないかもしれない。これを効果的なものとするためには、体系化されたマネジメントシステムの中で実施し、かつ全経営活動と統合したものにする必要がある」と明記されている。
認証機関が継続して存続するためには良いサービスの提供、つまり良い審査を行わなけばならず、そのためには審査員の力量を高めなければならず、そのためには良い審査システムを構築しなければならないのだ。
悪い審査員が存在するのは審査員の問題ではなく、悪い審査員を派遣する認証機関の問題であり、悪い審査員が存在するのは認証機関のシステムに欠陥があるかシステムを正しく運用していないからなのだ。
もっとさかのぼると認定機関のシステムに欠陥があるのかもしれない。

ところで、社長が悪い審査員の場合、是正することは可能であろうか?


うそ800 本日のお断り
登場人物はすべて実在する人物で、私との関係もアルファベットも仮ではなくすべてご芳名の頭文字である。
ただし某学会で会ったMさんについてはちょっとフェイクありです。実はこの方の役職を具体的に記すと「あっ、あの人!」と分かってしまうから。頭文字だけでもアブナそう。




うそ800の目次にもどる
うそ800始末にもどる