うそ800始末19.良い審査をするために(3)

20.04.23
うそ800始末とは

私は過去より第三者認証の改善について何度も何度も書いてきた。というよりもこの20年も書き続けたウェブサイト全体が、ISO審査の問題提起と改善提案である。
前回は力量不足の審査員が存在することが問題であり、だから審査員登録や更新時の評価をしっかりする必要があると書いた。今回はその続きである。

注:ISO審査の問題・トラブルの原因がすべて審査員にあるわけでもなかろうというご意見があるかもしれない。
そのとおりだ。
だからこそ実情調査が必要であり、その結果、審査員が原因でないと判明すれば、それはそれで結構なことだ。

審査員の登録時や更新時の評価や判定を、精度よく漏れなくするにはどうすれば良いのか?
「改善は測定に始まる」といわれる。お仕事なら品質向上でも省エネでもコスト削減でも、個人的なことなら家庭の炊事や掃除あるいは友人間のコミュニケーションでも、いかなることの改善においてもそれは真理である。
測定といっても数値で表せないこともある。だけど代用特性や定性的な表現でもよいが現状を正確にきめ細かく把握することが必要だ。代用特性がないなんて言ってはいけない。それなら自分が考えてあみださなくてはならない。
審査員の評価や判定をしっかりするためには、まずは現実の審査の状況を把握しなければならない。そしてその現実と現状の問題を考慮し、問題のない人をパスさせるという単純なことだ。いや問題の人をはじくというべきか?
第三者認証の顧客である企業から見れば、派遣されてくる審査員が今まで問題を起こしたような人でなければ必要十分である。
ニンジン

我々企業から見れば、問題のある審査員の是正したり力量向上を図る必要はない。もっともLMJのお話では審査員に不向きな2割の人はどうしようもないわけだ。ともかく問題のある審査員をどうするかは認証機関が考えることだ。
前回も述べたがスーパーで良いニンジン(審査員)を選ぶ権利は消費者(受査企業)にある。売れ残りのニンジンの処置はスーパーのバイヤー(認証機関)がすればよく、売り物にならないニンジンを減らすのは農家(審査員研修機関)が考えることである。


さてあるべき姿とか問題を起こさないは、何をもって測るのか?
ISO17021とかISO19011を持ち出してもあまり意味はない。現に起きている問題が何なのか? それを解消するのが顧客要求水準である。
従来の審査員研修修了の試験では不十分であることは明白だ。前回は審査で多々問題があり、認定機関の理事長がおっしゃるように企業が虚偽の説明をしてもそれを見つけることができない人がいるのだ。そしてまた彼ら節穴審査員(注1)も現行の審査員育成のコースを経て試験合格して審査員になっているのが事実だ。
要するに求めることは「良い審査」ができることである。つまり前述した「ISO17021に基づく社会常識とマナーを守った審査」ができる人である。
具体的に言えば、それはビジネスマナーがあり、規格要求を理解して個人的見解を含めず見逃しをしない人。また審査報告書を正しい日本語で論理的に記述できることくらいだろう(注2)。それは審査員に限らず社会人として当然のレベルでもあろう。
そしてそれができない人を審査員に登録しないこと、既に審査員であれば資格更新しないことが次のステップとなる。
ともかくそのためには従来に増して、試験や評価の精度を上げ、厳密に運用することが必要だ。

とはいえ、その全体像を語ると膨大であるので、本日は審査トラブルをなくすための方策に限定して語る。


ところで: IBMと聞くと滅びゆく恐竜のイメージを持っている人がいるかもしれない。だが環境においてはIBMは環境先進企業と認識されていた。多くの企業はIBMを目標にして活動し、環境レポートもIBMを手本とした(注3)。そんなことを知らない方は、21世紀になってから環境に関わったに違いない。今はほとんどの企業が環境レポートを出し環境活動を宣伝しているから、IBMもうずもれてしまったかもしれない。少なくても1990年代から環境に携わっていた人はそういう意識があった。ではIBMはいかにして環境先進企業になったのだろう?
「IBMの環境経営(注4)」という本がある。もう20年も前の本である。この本を読むとIBMは、長期的なビジョンとかあるべき姿を目指して環境活動を進めてきたわけではない。土壌汚染の問題を起こせば二度と起きないようにしっかりと是正処置をする、業務に無駄が見つかればそれを排除する、決めたことはルールにしてそれを遵守する、そういった積み重ねで世界から環境優良企業に認められるようになったと書いてある。私はだからこそすごいと思った。
改善とは理想を求めることでなく、不善を治すことなのだ。もし初めから正しい道が分かっていたなら、改善なんてあるわけがない。

現状のISO審査での問題とは何だろう?

では最初のステップは現状の問題を把握することだ。
まず現状把握で重要なことは一般論ではなく、個別論・具体的事例である。キプリングではないが5W1H、つまり、いつ・どこで・誰が・何を・どうしたが必要だ。
水質測定データの改ざんがあった、虚偽の説明があった、記録がない、そんな散発的な問題の把握では統計処理もできない。なにごとも「現場・現実・現物」である。
次にデータは数が勝負だ。もちろん正しいデータという形容詞付きだが。QMSとEMSの登録件数が減少しているとはいえ、2020年現在4万件あるわけで、毎年の審査でその1割に意見の相違があったとすれば4000件、ISO認証している会社の1割4000社も抜き取れば400件くらいのトラブルを収集でき、統計処理をするには十分だろう。

こんなことを提案すると昭和30年頃勤務評定制度を導入というとき、気が狂ったように騒いだ先生方のように、審査員の方々は胸に勤務評定反対と騒ぐのだろうか?
ちょっとそんなことを期待する私である。
だが先生たちは日教組という強力な圧力団体を有していたが、ISO審査員は日本審査員組合なんて組合を組織してないからそうはならないか?

だがそもそも2015年版の審査員の定義「審査をする人」というのは間違いなのだ。それ以前の定義であった「審査を行うための個人的特質及び力量を持った人」が正しいのである。
この定義を変えたのはいったい誰だ?
ISO9000のTC委員の責任を問うぞ、
力量がなければ誰が金を払うものか
辞めてもらおう そんなことISO審査員に限らず、コンビニのバイトだってテッシュ配りだって同じだ。
元大企業の部長であっても企業の人を小僧とか坊主と呼ぶことは許されない。博士号を持っていようと企業の人より上のわけではない。企業を良くしようと規格にないことを求めるのは余計なお世話である。審査員が企業担当者より知識があるとか知恵があると思うのは勘違いである。LMJは「会社を一番知っているのは会社の人だ」と語ったそうだ。
そういうことを認識して審査というお仕事をしなければならないということを、骨の髄から認識してほしい。
まあ、認識していないから今があるわけで……


私はJABの理事長飯塚先生に反旗を翻すものじゃありません。その真逆で飯塚先生がおっしゃることにまったく同意です。先生が唱えた節穴審査員を撲滅しましょう。そしてISO審査の質向上を図り、第三者認証の躍進を図りましょう。
お互いの認識が一致し利害が一致したなら共同戦線を張れるはずですよね?
現実を見ずに「虚偽の説明ガー」なんて言ってるようでは進歩がありません。


うそ800 本日の提案
改善は測定に始まるといわれる。まずはISO審査の実態を定期的に調査し、その調査結果を公表することはISO第三者認証の有効性向上だろう。
そしてその結果を審査員の更新時の評価に反映したら審査員の質向上に効果があるのではないだろうか。




注1
わからん 「節穴審査員」なる言葉は2010年に開催された「2009年度JAB/ISO9001公開討論会」で飯塚教授が言い出したものである。飯塚先生はその後も講演会などでたびたび節穴審査員という言葉を使っている。
なおその定義とか、いかほど存在するかのデータは不明である。

注2
21世紀は審査報告書はエクセルでマクロを組んで作成する認証機関もいくつもあり、その結果 主語述語が合わないとか意味不明なものがある。それが認証機関名で出されるという不思議?

注3
残念ながら現在IBMの環境レポートは英文しかない。
2018年版環境レポートにはIBMが過去5年間に何件環境事故を起こしたか、そしてどんな罰を受けたか罰金をいくら払ったか記載してある。それを素晴らしいと思わない人がいるだろうか?
日本の環境レポートでも、報道された環境事故の是正処置を書いたものを記載したものはいくつかあるが、どんな処罰を受けたかを書いたものを見たことがない。
注4
「IBMの環境経営」、山本 和夫/国部 克彦、東洋経済新報社、2001、ISBN 9784492500941



コマゴマ様からお便りを頂きました(2020.04.24)
いつもお世話になっております。
こうしてみると認証機関側は企業に好き勝手言って、高いお金もらってきたツケが、認証件数減少という形で出ているんでしょうね。そういう現状をどう考えているのかは是非聞いてみたいものです。予想もしてなかったのでしょうかね
審査を受ける側としても審査員の情報は是非欲しいので、大賛成です!変な審査員が来たら面倒だなぁと悩んでる部分もありますし

コマゴマ様 毎度ありがとうございます。
弁護士相談が30分2000円から5000円です(地方によって違います)。超難関の司法試験に合格し、修習生の研修を終えて、どこかの法律事務所で見習いをして、一人前になってそんなものです。
誰でもなれるISO審査員で審査料金は1日10万から高いところは18万なんてところもありましたね。時間当たり1万以上。もっとも値引きがありますけど。いずれにしても弁護士と違いすぎますよ。
おっと、ISO審査はオーバーヘッドがあって手取りじゃないといわれるかもしれませんが、弁護士相談料だって弁護士事務所のオーバーヘッドが入っているわけで同じです。
言いたいのはISO審査って高すぎです。いや高いなら審査のレベルも高いことを期待します。規格解釈を間違えて会社の担当者から突っ込まれると逆切れするようなお方では、それだけの価値がないでしょう。
でも事前の審査員諾否のとき提示される情報はプアそのもの。そのお方がいかほどの力量か、どんな審査をしてきたのか、まるでわかりません。
実は私は現役時代知り合いのネットワークで審査トラブルの情報を集め、審査員のえんま帖を作っておりました。仲間は当然それを知ってますから、「○○認証機関の○○審査員はどうですかね?」なんて私にメールとか電話してきたものです。
審査員の必要な情報の開示は一企業担当者が要求してもダメですから、認証制度が自浄作用として行うべきでしょうね。
それまでISO認証制度が続くのかどうか……


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