20.05.17
うそ800始末とは
振り返れば、「うそ800」を書き始めたのはもう19年も前のこと、当時私はもちろん現役で、ISO審査員とチャンチャンバラバラしていました。
お相手はあまりにもアホというか非論理的で不勉強な審査員ばかり、現状逃避ではありませんが、そのうっぷん晴らしに書き始めたのがこのうそ800の始まり。おっと、うっぷん晴らしといっても批判、非難ではなく建設的な正論であったと確信しております。
さて19も年の間この「うそ800」に1500ものコンテンツも書いてきましたから、言いたいことは言い切ったと思います。しかしいくら是正を叫んでも当事者が是正もできないなら、反省を呼びかける言葉を発するのも馬鹿らしくなります。私にとってISO認証は四半世紀も付き合ってきた悪友(?)ですが、もう見切ってさよならすべきでしょう。
ということで古希となったのを記念して、ISO語りを卒業しようと思っております。まだ「決心した」といわないところが私の執着というか未練でしょうか〜?
ともかくヤーメタというだけで終わるのもチョットと思いました。今までさんざんISO認証制度の棚卸しをしてきましたが、最後はその総括をしようと考えております。
はたしてどうなりますことやら……
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タイトルが「認識」とあっても、ISO9001やISO14001の要求事項「7.3認識」ではありません。一般語としての認識、つまり物事を見て理解したり、状況や善悪を判断する心の働きという意味です。
もう10年近く前のこと、某認証機関の社長に会ったときのことである。話をしていて私は「審査員に認証ビジネスの将来とか市場動向を考えている人はいない」と語った。するとその社長は「無礼者!」とは言わなかったが「不遜である」といった。
無礼とは失礼なことだし、不遜とは身の程知らずの思いあがった態度だから、不遜のほうが厳しいのだろう 😄
その社長は隷下の審査員は力量十分でかつ常に研鑽に励んでいて、それは審査技量だけでなく認証ビジネスの将来性や事業規模拡大まで考えていると認識していたのだろう。
だがそれは事実だろうか?
ということで今回は、私が審査員の認識(見識?)について思っていることを書く。
あなたが何か消耗品でも家電品でも、メーカーの営業担当者、あるいはお店の販売員としよう。具体的に例を挙げれば、スマートフォンでもトイレットペーパーでもよい。自分が扱っている商品の知識を持っているだろう。
スマホであれば、iPhoneやアンドロイドの基本的な操作方法、他社品との比較、契約と種々のオプション、自社/他社の値付け/値引き状況、各機種の評判や売れ行き、新機種情報といった接客に必要なことはもちろん、業界の動向や売れ行き、ビジネスの先行きなど大局的なことも勉強しているはずだ。そういったことを知らないと、客と話もできないだろう。
私はものを買うとするときは、そうとう調べるというと大げさだが情報収集のためにお店を見て歩く。今年初めに今のスマホを購入してから2年になるので、キャリアを変えるか機種変するか決めるのに、昨年末だいぶキャリアの直営店とか家電量販店を見て歩いた。そして販売員に各メーカーのスマホの評判、総務省の通知による料金体系の変化などを聞いた。
もちろんそれだけでなく雑談もする。どこでも販売員が語ることは、スマホはもはや科学技術の先端商品ではなく、コモディティ化したこと。買い替え間隔も伸び、2017年から売れ行きはほぼ横ばいであること。自分のいる店は台数が減少しているから次のことを考えているとか。今の販売員はほとんど派遣だから、製品やお店の状況を認識して、次にどうするか考えている。
もちろん本題のスマホについても、あなたの使い方ではこのキャリアの料金体系では損をする、○○社の○○プランが一番じゃないかとか、あのキャリアでも同じ型式を売ってるけど、この色は扱っていないとか、ざっくばらんに教えてくれる。目の色変えて嘘をついても売りつける人はおらず、みなこちらの身になってアドバイスをくれる、ありがたい。
もちろん中には右も左もわからないレベルの販売員もいるが、多くはものすごい知識とそれを日々最新化している努力がうかがえる。他のキャリアの商品について質問しても、知りませんという販売員に会ったことはない。
さて、ISO審査員はどうだろうか?
スマホと認証はまったく異種なものだ、片や耐久消費財で此方サービスだとは言わないで、考えてみましょう。
まず手軽というか身近な規格解釈からいってみますか……
- 同じ要求事項でも認証機関によって見解が異なるのは、審査を受ける企業にとっては常識です。ほんとを言えば、そんなことが常識ってことがおかしいんですけど、
審査員のみなさんは、規格項番○○はウチではこう解釈しているけど、A認証機関はこうこうで、B認証機関はこうだ…なんてご存じでしょうか?
おお一覧表を作り、規格解釈の妥当性を考えているって、それはすごい。そして御社が正しいと確認されているのですね。それじゃあなたが審査された会社では不満などありませんね、さすがです。本当ですか?
ちなみに私が現役のときはそういう一覧表を作っておりました。だって仕事をするには必需品ですからね。
- 審査で日々書いている所見報告書は認証機関によって大きく違います。
あなたの書く所見報告書は何ページありますか?
書くというよりも、単にエクセルのマクロが組んであって、審査員は日付と不適合内容を数十文字インプットするだけですか……楽でいいですね、
ページ数が多い認証機関は数十ページあり、少ないところは3ページというところもあります。審査料金が大差なくて、内容がプアなのとしっかりしているのと、どっちがいいですか?
あなたは自分が働く認証機関が提供するサービスは、お値段以上と考えていますか?
もしそういうことを考えたことがないなら、私は職務怠慢だと思う。
商品を売っている営業マンが、他社製品が自社より良いとわかったら、上司に報告、設計改善を要求するのではないか?
それとも何もアクションを起こさず、売れ行きが落ちていくのを傍観するだけか?
あなたは自分ができることをすぐさま実行しなければならない。高邁なISO審査員なのだから!
もし他社の所見報告書など見たことがないというなら、それこそ不勉強のそしりをまぬがれない。コンペティターの製品仕様や品質を知らなくては、営業だけでなく設計も製造も仕事ができないだろう。
えっ、他社の所見報告書を見る機会がないって!
あなた新社会人じゃないんでしょう、それくらい考えなさい。
- 不適合には証拠・根拠を記載しなければならないとありますが……えっ、ご存じない? ISO17021-1の9.4.5.4にあったような気がしますけど、ともかくそれを漏らさずに報告書は書いていますか?
不適合については審査を受ける側の同意を得なければならないですけど、強引に押し切ったなんてことはありませんよね?……えっ、そうですか、
あなたは圧迫面接が得意ですか?
なんかそんな気がしたもので……
- 各認証機関の審査一日の料金がいくらかご存じですか?
各認証機関の契約審査員の日当をごぞんじですか?
ついでに言えば、ISO審査員と類似の弁護士、税理士、司法書士などと、比較したことありますか? 弁護士の相談は30分4000円から5000円ですけど、あれは全部が弁護士の取り分じゃありませんからね。弁護士の平均年収は800万くらいだそうです。
あなたも同じくらいもらってるんでしょう?
えっ、それ以上ですって! うらやましい。
それなら、あなたは仕事に誇りをお持ちでしょう。尊敬します。ミスジャッジなんてありませんよね、
- ジャブ認定、ノンジャブの認証機関をそれぞれ10社挙げて、それぞれの審査の特徴を説明してください。
えっ、そんなこと考えたこともないって!
家電品の営業マンなら当社の冷蔵庫の特徴はこれこれである、A社はウチより省エネ性能が良い、それは断熱材の特許を持っているからだ、でもウチは冷蔵室の仕切りの自由度が高いメリットがある。B社は価格が安いのが取り柄だとか、流れるように説明できますよね。
車のセールスマンでもお菓子の営業マンでも(以下略
口の悪い人はノンジャブのことを「安かろう悪かろう」なんて言いますが、あっ、あなたもそうお考えですか。そう思う根拠を教えてください。まさかISO審査員が根も葉もなく、そんなことはおっしゃらないでしょう。
もっとも某認定機関の理事長は、明確なデータを示さずに企業が審査で虚偽の説明をすると語っていましたが……まさかあなたも?
- 認証ビジネスの将来性をどうお考えですか?
昔といっても20年位前、フォードは自動車会社ではなく移動手段を提供する会社になると語っていたそうです。
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アシモのつもり |
もっともそれは叶わず、今は自動車ローンの金融会社だそうです。車が売れないなら、金貸しで儲けるしかないのでしょう。
トヨタもいっとき移動手段を提供する会社になると語っていましたけど、現実にはそれどころじゃなく、住宅、土地開発、金融、医療から介護まで暮らし全般のハード・ソフト提供会社になったようです。
ホンダは自動車会社から航空機製造会社になるんでしょうか? それともロボット会社ですか?
そもそもロイドとかビュローベリタスなんて認証機関の老舗も、元は船級検査とかですしね。世の中ドラスティックに変化しています、昨日と同じことをしていたら存続できません。
お宅はどこを目指しているのでしょう?
毎年のISO surveyはお読みになっているでしょう。認証件数は世界的に減っています。日本はもう10年以上、イギリスは日本よりはるか昔から減少しています。発展途上国においても、もうピークは過ぎたようです。
お勤めの認証機関の認証件数、売上推移、マーケットシェアの推移とかご存じですよね。そういったことを踏まえて、御社はなにを目指しているのですか?
まさかあなた、認証機関はお金儲けじゃなく社会貢献ですって!
すべての会社は社会に貢献するために存在しているんです。そして存続するためには利益を出さないとならない。そんなことドラッカーが1960年代に語っていましたよ。
このような状況で、あなたご自身はこの減少傾向を止めようとか認証ビジネスをどうしようとか、なにか実践されていますか?
あなたが定年になるまでは大丈夫ですって? あとは孫守ですか、孫のいない私にはうらやましい限りです。
あまりそういう方面は得意じゃありませんか。それじゃ審査実務のお勉強について伺います。
- ISO規格はもちろん英語原文をお読みになっていると思います。JIS翻訳は誤訳というか原文とは違うところが多々あります。
過去からどんなところに差異がありましたか? そこについてはどのようなお考えで審査されてきたのでしょう?
改定の都度、訳語が変わることがありますよね。それを受けて認証を受けている企業が社内文書の語句をそれに合わせて改訂したりしてますけど、ああいったことをどうお考えですか?
- 日々CPDを積んでらっしゃいますか?
CPDとは審査員資格更新時にちゃちゃっとフォームを埋める、あれではありません。
本来の意味の、Continuing Professional Development、継続的専門能力開発です。あなたは日々、移動時間も活用されてお勉強されていることでしょう。今はどんなお勉強をされてます? 今日はどんな本をお読みになられました?
環境法規制、新しい環境技術、リサイクルの効率、経営戦略……なるほど、毎月10冊は専門書をお読みになってると、
おおっ大学院に在籍して経営学を研究されているのですか、それはすごい。もちろん研究テーマはISO認証制度に関わるものでしょう?
ぜひ博士論文を読ませていただきます。
- ISO審査はISO9001やISO14001など、いわゆるISOMS規格だけで行うわけではありませんよね。あれは審査を受ける認証組織への要求事項です。審査する側には認証機関への要求事項や審査員への要求事項があります。
となるとまずISO17021、これって枝番がついて何件あるのかなあ〜あっ5件でした。それとISO19011、JAB基準類、JRCAの基準類も関係しますね。お読みになってますよね? もちろん自家薬籠とされてますよね。
えっ、ご存じなかったですか。
- 環境法規制ってなかなか覚えられませんね。廃棄物処理法は三段組って売ってますけど、他の法律はないもんで私は現役時代は自分でワープロしてました。まあ廃棄物処理法ほどボリュームありませんから楽ですけど、
おお、あなたもご自分で関係する法律の三段組を作られていると、さすがですね。それじゃ出張の電車の中ではその読書ですね。
- ISOでも流行ってありますよね。あなたは流行に流されるほうですか?
流行なんてないって? 有益な環境側面なんて今は廃れたんでしょうか?
以前は通勤の環境影響とか本業を側面になんて妄想ももてはやされましたね〜
馬鹿な人が多いですよね〜、困ったもんだ。
おや、どうしました。顔色がよくありませんよ!
もちろん審査する会社には最大貢献したいとお考えでしょうね、
趣味は自分が満足すれば良い。しかしお金をいただくならプロである。プロは自分でなく、顧客(製品やサービスを受け取る人)を満足させなくてはならない。
当然、顧客が満足するレベルは供給者ではなく顧客が決める。
とりわけ提供するものがサービスであると、作業する人の成果が検査などを経ずに直接顧客に提供されるので、社内の検証が行われない。また認証のように、提供するサービスがグローバルに標準化されていれば、提供者を比較することは極めて容易である。
それと世の中はサービスの供給者同士を比較するだけではない。物事はすべて費用対効果だ。ある製品/サービスを購入する効果と、別の製品/サービスを購入する効果を比較する。それは私たちの暮らしでも同じこと。パソコンを買うとき、家族とディズニーランドに行くとか、奥様に指輪を買うのと比較することはおかしくない。
ISO認証と設備投資が比較されることはおかしくない、というか当たり前、普通のことだ。企業経営において費用という観点では全く同列。
ISO認証はグローバルで統一されているから差別化できないとか、審査では指導することはできないとあきらめることもない。
提供する審査というサービスの品質を上げることは可能だし、しなければならない。審査員によるばらつきをなくすこともできるだろう。
その前に他の認証機関と御社のサービスのTQCの違いを認識しなければならない。もし劣っているなら改善しなければならない。
我々は常に仕事に関する知識や意識の向上に努めなければならず、それはできるはずだ。
というと、とんでもなく大変だと思われるかもしれない。
でも世の中の働くすべての人は、厳しい競争、評価をされていて、少しでも己の仕事の質向上と付加価値をつけようとしている。
冒頭では販売員の例を挙げたが、販売員に限らず資材調達でも生産管理でも、いやいや昨日・今日入ったアルバイトでもパートでもそれは同じだ。
スーパーのレジだって、食品の扱い、バーコードをどう読ませたらリードエラーが起きないか、バーコードを読んだ後に商品をどう店内カゴに入れたら早くきれいに痛まないように入れられるか、そういう日々の研鑽が求められる。
そんなことを日常考えていると、冒頭の「審査員に認証ビジネスの将来とか市場動向を考えている人はいない」という思いが抑えきれないのですが、どうなんでしょうねえ〜
あの社長の認識が正しく、私の思い込みでしょう。もっともそうならあれから何年も経ちますから認証ビジネスは興隆しているはず、となると?
いやいや、間違いなく私の認識が誤っていて、私は不遜なのでしょう。
本日の認識
「汝自身を知れ」とは古代ギリシアの格言。孔子のおじさんは「誤っても改めればよい」と語りましたが、過ちに気づかなければ改めるはずがありません。
半世紀前、私も小集団活動で「改善活動は現状認識から始まる」と習いました。
現状把握、実情認識が重要なのは、いつの時代も変わりません。
本日は実情を知らずに、ええかっこしてもダメというお話でした。
次回は「自覚」で一文したためるか……おっと、英語ならどちらも同じawareness 😄
不思議に思っているのですが「awareness」をなぜ「自覚」とか「認識」に訳したのですかね? こ難しい漢語にせず、やまとことばの「気づき」とか「悟る」にすれば分かりやすかったと思います。
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