うそ800始末23.認識

20.05.17
うそ800始末とは

タイトルが「認識」とあっても、ISO9001やISO14001の要求事項「7.3認識」ではありません。一般語としての認識、つまり物事を見て理解したり、状況や善悪を判断する心の働きという意味です。

もう10年近く前のこと、某認証機関の社長に会ったときのことである。話をしていて私は「審査員に認証ビジネスの将来とか市場動向を考えている人はいない」と語った。するとその社長は「無礼者!」とは言わなかったが「不遜である」といった。
無礼とは失礼なことだし、不遜とは身の程知らずの思いあがった態度だから、不遜のほうが厳しいのだろう 😄
その社長は隷下れいかの審査員は力量十分でかつ常に研鑽に励んでいて、それは審査技量だけでなく認証ビジネスの将来性や事業規模拡大まで考えていると認識していたのだろう。
だがそれは事実だろうか?
ということで今回は、私が審査員の認識(見識?)について思っていることを書く。

あなたが何か消耗品でも家電品でも、メーカーの営業担当者、あるいはお店の販売員としよう。具体的に例を挙げれば、スマートフォンでもトイレットペーパーでもよい。自分が扱っている商品の知識を持っているだろう。
スマホであれば、iPhoneやアンドロイドの基本的な操作方法、他社品との比較、契約と種々のオプション、自社/他社の値付け/値引き状況、各機種の評判や売れ行き、新機種情報といった接客に必要なことはもちろん、業界の動向や売れ行き、ビジネスの先行きなど大局的なことも勉強しているはずだ。そういったことを知らないと、客と話もできないだろう。

私はものを買うとするときは、そうとう調べるというと大げさだが情報収集のためにお店を見て歩く。今年初めに今のスマホを購入してから2年になるので、キャリアを変えるか機種変するか決めるのに、昨年末だいぶキャリアの直営店とか家電量販店を見て歩いた。そして販売員に各メーカーのスマホの評判、総務省の通知による料金体系の変化などを聞いた。
スマホ もちろんそれだけでなく雑談もする。どこでも販売員が語ることは、スマホはもはや科学技術の先端商品ではなく、コモディティ化したこと。買い替え間隔も伸び、2017年から売れ行きはほぼ横ばいであること。自分のいる店は台数が減少しているから次のことを考えているとか。今の販売員はほとんど派遣だから、製品やお店の状況を認識して、次にどうするか考えている。

もちろん本題のスマホについても、あなたの使い方ではこのキャリアの料金体系では損をする、○○社の○○プランが一番じゃないかとか、あのキャリアでも同じ型式を売ってるけど、この色は扱っていないとか、ざっくばらんに教えてくれる。目の色変えて嘘をついても売りつける人はおらず、みなこちらの身になってアドバイスをくれる、ありがたい。
もちろん中には右も左もわからないレベルの販売員もいるが、多くはものすごい知識とそれを日々最新化している努力がうかがえる。他のキャリアの商品について質問しても、知りませんという販売員に会ったことはない。


さて、ISO審査員はどうだろうか?
スマホと認証はまったく異種なものだ、片や耐久消費財で此方サービスだとは言わないで、考えてみましょう。
まず手軽というか身近な規格解釈からいってみますか……


あまりそういう方面は得意じゃありませんか。それじゃ審査実務のお勉強について伺います。


もちろん審査する会社には最大貢献したいとお考えでしょうね、


趣味は自分が満足すれば良い。しかしお金をいただくならプロである。プロは自分でなく、顧客(製品やサービスを受け取る人)を満足させなくてはならない。
わしは無用の介だ
何年やっても素人は素人
駆け出しでも玄人は玄人
無用の介のセリフ
当然、顧客が満足するレベルは供給者ではなく顧客が決める。
とりわけ提供するものがサービスであると、作業する人の成果が検査などを経ずに直接顧客に提供されるので、社内の検証が行われない。また認証のように、提供するサービスがグローバルに標準化されていれば、提供者を比較することは極めて容易である。

それと世の中はサービスの供給者同士を比較するだけではない。物事はすべて費用対効果だ。ある製品/サービスを購入する効果と、別の製品/サービスを購入する効果を比較する。それは私たちの暮らしでも同じこと。パソコンを買うとき、家族とディズニーランドに行くとか、奥様に指輪を買うのと比較することはおかしくない。

ISO認証と設備投資が比較されることはおかしくない、というか当たり前、普通のことだ。企業経営において費用という観点では全く同列。
ISO認証はグローバルで統一されているから差別化できないとか、審査では指導することはできないとあきらめることもない。
提供する審査というサービスの品質を上げることは可能だし、しなければならない。審査員によるばらつきをなくすこともできるだろう。
その前に他の認証機関と御社のサービスのTQCの違いを認識しなければならない。もし劣っているなら改善しなければならない。

我々は常に仕事に関する知識や意識の向上に努めなければならず、それはできるはずだ。
というと、とんでもなく大変だと思われるかもしれない。
でも世の中の働くすべての人は、厳しい競争、評価をされていて、少しでも己の仕事の質向上と付加価値をつけようとしている。
冒頭では販売員の例を挙げたが、販売員に限らず資材調達でも生産管理でも、いやいや昨日・今日入ったアルバイトでもパートでもそれは同じだ。
スーパーのレジだって、食品の扱い、バーコードをどう読ませたらリードエラーが起きないか、バーコードを読んだ後に商品をどう店内カゴに入れたら早くきれいに痛まないように入れられるか、そういう日々の研鑽が求められる。

そんなことを日常考えていると、冒頭の「審査員に認証ビジネスの将来とか市場動向を考えている人はいない」という思いが抑えきれないのですが、どうなんでしょうねえ〜
あの社長の認識が正しく、私の思い込みでしょう。もっともそうならあれから何年も経ちますから認証ビジネスは興隆しているはず、となると?
いやいや、間違いなく私の認識が誤っていて、私は不遜なのでしょう。


うそ800 本日の認識
「汝自身を知れ」とは古代ギリシアの格言。孔子のおじさんは「誤っても改めればよい」と語りましたが、過ちに気づかなければ改めるはずがありません。
半世紀前、私も小集団活動で「改善活動は現状認識から始まる」と習いました。
現状把握、実情認識が重要なのは、いつの時代も変わりません。
本日は実情を知らずに、ええかっこしてもダメというお話でした。
次回は「自覚」で一文したためるか……おっと、英語ならどちらも同じawareness 😄
不思議に思っているのですが「awareness」をなぜ「自覚」とか「認識」に訳したのですかね? こ難しい漢語にせず、やまとことばの「気づき」とか「悟る」にすれば分かりやすかったと思います。




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