うそ800始末31.希望

20.07.13
うそ800始末とは

「希望」といっても、明日は○○になろうとか、試験でよい成績を取りますようにとか、そういう将来に向かってのことではない。いまから25年前、ISO9001の第三者認証が日本に上陸したとき、どうであれば良かったのか? どうあって欲しかったのか? そういう後ろ向きの希望を語る。
過去の希望は、とうに実現しないことが確定しているのだが……

実を言って私の希望というか、25年前にISO審査がこのようであったならと仮定法過去で述べることは、あまりにも当たり前でささやかな望みなのである。現実にはそんなささやかな望みも叶わず、ISO第三者認証制度は断崖めがけて走り続けてきたようだ。いつ断崖から落ちるのか……


では参る。
対象を審査員、認証機関、そして制度全体についての三つに分けて述べる。

審査員への希望

  1. ISOMS規格についての知識を身につけてほしい
    審査員は審査するMS規格について十分な理解が必要である。間違った理解、拡大解釈、縮小解釈は無用である。解釈は文字解釈であることはもちろん、日本訳であるJIS規格でなく英語のISO規格に基づくことが必須である。
    ご理解いただけると思うが、お金を払って審査を受ける側から見れば大変遠慮したささやかなものである当たり前で簡単で要求水準は極めて低いと思うがどうだろう?
    現実はどうだったのか?

    「環境方針に枠組みという言葉がないので不適合です」これって方針の不適合としてはティピカルなものです。知ってました?

    • ISO規格に書いてない要求事項を頭の中で作り上げ、それを根拠に不適合をジャンジャンと出したのは誰だ? あっ、審査員に決まっているじゃないですか(笑)
      読みやすく
    • 「文章はわかりやすくって要求がありますね。これはわかりにくいから不適合(キリッ」
      「規格要求は読みやすくであって、分かりやすくじゃない! 規格もわからん審査員なら、金返せ!(これは言ってません)」

  2. 法律の知識
    ISO14001は基本的に法律を守っているかいないかを判定するものではない。しかし審査においては、法を遵守していないことがあれば、それがなにゆえ発生したのかをトレースしなければならず、法に関する知識は必須である。
    現実には関係法令をご存じない審査員が多数いた。今はどうなのだろう?
    さらなる問題は、審査員が法違反だと発言したので、我々が所轄行政機関に問い合わせ問題ないという回答を得ても、一旦出した不適合を撤回しないとはまったくもってけしからん。
    そういうのは法律の知識ではなく、審査の姿勢というか信義にもとるというべきかもしれん。

    • 「危険物保管所に人が入ったら、自動的に換気扇が回らないと違反だ(実話です)」と語ったのは誰だ!
      そんなバカなことを叫ぶのは審査員に決まっているでしょう(涙)
    • 「御社も成長したらエネルギー管理指定工場になるでしょう。省エネ法が漏れています(実話です)」
      「審査員さん、冗談じゃない、当社はゆくゆく世界的企業になるつもりです。そのときは社内に火力発電所や原子力発電所も作ります。そうなりますと電気事業法も電源三法も入れておかないとならないですね。指摘にそれが漏れているので、審査員が不適合でよろしいか?(これは言ってません)」

      ちなみに: 発電所 googleは発電所をもっている。それで自分の保有する膨大なサーバーの電力を賄っているわけだ。
      最近は再生可能エネルギーに切り替えるとのたまわっているが、そんなことをするより必要なことだけして無用なサービスを止めたほうが環境に良いような気がする。

  3. 審査能力を身につけてほしい
    審査は証拠を集め、それを根拠に適合・不適合を判定しなければならない。当然、不適合を示すにはその証拠と根拠となるshallを示さなければならない(ISO17021)。
    実際の所見報告書をみれば、20世紀いや2010年頃までは不適合の項番、例えば「4.4.5文書管理」とか「4.5.5内部監査」という程度の表記しかなかったものが大半である。具体的にどのshallかを示していないんだよ。
     注:項番はISO14001:2004による。
    その結果、証拠根拠が不明でなぜ不適合なのかあいまいで、後で不適合を特定することができないものもがほとんどだった。
    審査する力量がないと言わざるを得ない。

    • 「マネジメントレビューは期首に行うとありますが、今年は5月上旬に行っています。それは期首といえません。国語辞典を見てください。期首とは期のはじめ、4月1日です(実話です)」

  4. 人格、人間性は期待しないが、社会生活できるレベルになってほしい
    客先に行っての礼儀作法にもとる態度、発言が多い。
    具体的には言葉使い。敬語・謙譲語というレベルではなく、通常のビジネス用語に反するような言葉使いが目立った。
    受査企業の経営層・上級管理者に対してため口、ぞんざいな言葉使い。若手社員に対しては「小僧」「坊や」といった、ビジネスではアリエナイ非常識な呼び方が多々あった(実話です)。
    名刺交換 その他、インタビューの際にも、足を組む、片手を上着のポケットに入れての名刺交換など、まともなビジネスマンとは思えない事例をたくさん見ている。

    オープニングミーティングにおいて、審査員の話を聞く人が少ないからもっと人を集めろと言われたこともある(実話です)。きっとその審査員は聴講者に単位時間あたりの生産高あるいは売上高以上の価値ある話をされたに違いない。いや現実は聞くまでもないくだらない話だった。

    基本的に審査員は上から目線である。でも考えてごらんなさい。一般企業に入社すれば、出世競争でトップは社長になり、次は役員あるいは子会社の社長になる。その次は子会社の幹部に出向となる。
    業界系認証機関の場合、株主会社から転籍して認証機関の社長になるのはそのあたり。取締役になるのはその辺かその下か? 審査員に出向するのはそのまた下の課長レベルだろう。
    東証一部とか二部の企業に審査に行って、社長のインタビューが必要とごねるのはこれいかに?
    あなたは社長と話すなにものかを持っているのか? 社長の30分は、あなたのひと月分の価値があるのだよ。
    応対するのが部長、課長じゃご不満ですか?


認証機関への希望

  1. 企業としてのモラルを守ってほしい
    こんなことを言っては失礼極まりないが……考えてみればこんなウェブサイトを主宰していること自体失礼そのものである(笑)……認証機関も法人ならば己が実行すべき企業倫理を明記しトップ以下遵守しなければならない。
    企業の目的は利益追求であるが、その活動において法令遵守はもちろん、自然環境や社会環境、人権保護といった道徳的観点から企業活動を規定し、組織として統率することが求められ、それが企業倫理である。
    コンプライアンスが法規制とその周辺限定と理解されているよりも、企業倫理は広範囲にわたると解釈されている。
    ならば企業倫理を確立していないのか? 守っていないのか? と問われるかもしれない。

    金勘定は楽しいなあ もう20年も前だが、審査予約するには審査料金全額支払わなければならないなんていうのは、足元を見た商売、はっきり言ってアコギではなかろうか?
    不動産取引なら手付は20%以下に決まっているぞ。
    審査契約の手付の上限は法に決めてないって! 法に決めてないこと…法に罰則がなくても社会通念を守ること、それこそがモラルではないのか? 民法第1条の信義則を知らないのか?


  2. 審査員の教育をしてほしい
    まず何をおいても、コミュニケーション能力を含めた礼儀作法を、ぜひともお願いしたい。(ISO17021をご参照ください)
    私はサラリーマンを44年しましたが、下請けに対しても、売り手に対しても、向こうの人を「君呼び」したことは一度もありません。嘘をついたこともありません。約束を守れなくなったときは、その旨前広に連絡し対応を協議しました。
    審査員でなくても、ビジネスマンでなくても、大人なら当然のことです。

      最低これくらいは知ってほしいな、知らない人がいるから
    • 挨拶、名刺交換、座る位置や順序
    • 話し言葉、尊敬語、丁寧語、人を呼びかける言い回し
    • 態度・相手の前で足を組む、腕組みする、目を見て話さない

  3. 規格の教育をしてほしい
    規格解釈は余計なものを足さない引かないを徹底し、審査員を教育してほしい。外資系とか外人の審査員に笑われるようなユニークな解釈を講釈しないように期待する。
    審査員独自解釈のマイルール、認証機関独自のアワルールは止めてもらう。我々はISO規格に適合か否かを知りたいのであって、認証機関の規格に適合しているか否かには興味はない。
    そしてそれに従わない審査員は徹底的に排除していただく。商取引においてQCDは最優先である。それはグッズだけでなくサービスもしかり、審査というサービスも同じである。

    (弊認証機関)の統一見解ですと言わせない。認証機関の統一見解なるものを作ることは不法ではないが、その場合は第三者に公開することが義務のはず。ヤミテンは禁止。
    顧客満足を図らない認証機関が、顧客満足の規格(ISO14001)の審査ができるとは思えない。


  4. 苦情、異議対応の改善をしてほしい
    ISO17021では苦情や異議を受け付け処理する仕組みを定めている。しかしその運用をどうするのかということまでは書いていない。受け付けろとあるから受けつけさえすれば終わりではないだろう。
    審査で不適合を出されたのち、私は認証機関にご相談に伺ってまともに対応してもらったことはない。行政に相談したりISOTC委員に相談した結果、問題ないと言われて不適合でないと説明しても、不適合を撤回されたことは一度もない。

    解釈の幅があるとかではない。危険物保管所が法違反で改造しなければならないという不適合を出されたことがある。消防署に相談すると、消防吏員が完成検査をして合格しているものであり、改造の許可など出さないといわれて、その旨を認証機関に言っても、対応はモゴモゴ、
    「ハイ、わかりました。不適合を撤回します」と居酒屋のようなハキハキしたご返事をいただいたことは一度もない。
    そういう審査員は更新時に問題なく更新できたのだろうか?


  5. ブラックホールをなくしてほしい
    審査のための事前資料を送ったものの、審査直前に「資料をいただいておりません。困るんですよねえ〜」なんて電話を受けたことがある。あるいは審査後に求められた資料を送っていたのに、受け取ってないといわれたこともある。特に異議申し立てとか苦情のメールは不達になることが多かった。
    我々は認証機関には、郵便物を吸い込むブラックホールがあると冗談を言っていた。

    郵便 日本の普通郵便の不達率というか事故率は、0.001〜0.01%という。年間認証機関との普通郵便のやり取りは多くて数回だったから20年としてもQMS/EMS合わせて200通、これに事故率をかけると事故発生期待数は0.002〜0.02回、経験した不達件数は数回あったからどう考えても3σには入らない。私は受け取ったものの紛失したのではないかと考えている。受け取ったものの自分が紛失して相手に苦情を言うとは、責任転嫁も甚だしい。顧客満足の正反対だ。
    冗談でなく普通郵便とかでなく、配達証明で送ろうと考えたこともある。


  6. 我々はコンサルを望んでいない
    多くの認証機関は「経営に寄与する審査」とか「会社をよくする審査」を標榜している。まず経営に寄与するとか、会社をよくするということを定義してほしい。そしてその認証機関はどの指標においていかほどの改善効果を出せるのか示してほしい。
    例えば良くすることとは、棚残の回転数なのか、ライン不良率なのか、標準時間削減なのか、株価収益率なのか、法違反率なのか、環境事故発生率なのかということだ。審査を受ける側は、自社の目標と費用対効果を考えて、自社に見合って改善効果が大きいところに依頼したい。棚残を減らしたいのに、品質を上げますという認証機関に依頼しても仕方がない。品質水準を5%上げるという認証機関より8%上げるというところの方が好ましいのは言うまでもない。
    経営に寄与すると大言される認証機関ですから、きっとそれくらい具体的な効果を示すことができるでしょうね。

    しかしながら私たちは審査で経営に寄与とか、会社をよくすることを期待してはいないのです。
    餅は餅屋という言葉もあります。生産性を上げるにはどこそこの技術士の先生、情報システム更新は○○ソフトハウスさんに、法律の解釈は顧問弁護士に、節税は税理士に、会社組織の見直しはマッキンゼーに頼みます。そして認証機関にはISO規格適合判定をお願い致します。
    もちろん会社を良くしてくれるとおっしゃるなら、効果がないときは責任は取っていただけるのでしょうね。少なくても審査料金を払い戻すとか? 謝罪広告を出すとか?


    認証制度側がなすべきこと

    1. 規格解釈を定めて公開してほしい
      ひとつの要求事項にいろいろな解釈・見解があっては困る。法律でも規格でも言いたいことはひとつのはずで(さもなければ法や規格の欠陥である)、間違えた理解をされては困る。本人が困るのではなく、規格とはスタンダードすなわち基準であり、それがいくつもあっては話が通じない。長さの基準は、光の速さだ、メートル原器だクリプトンの波長だと言い出しては混乱するばかり。
      だからもしISO規格の読み方に違いがあり混乱が生じれば、日本のISOTC委員たちは、その誤解、勘違い、読み違いを正さなければならない。それはISO14001規格解釈に対する通知なり広報となるべきだろう。

      実は、たった一度だけそういう広報が出た。2002年10月にISO 14001/4 翻訳・解釈 WGというところからである。
        注:「ISO 14001 規格解釈に関する質疑応答」(H18.10)

      そこでは「適用範囲」「環境側面」などについて範囲とか理解について解説している。
      しかし、そういうことはたったの一度しかない。
      現実の審査で「有益な側面がないから不適合」とか「通勤の環境側面がないから…」「環境目的と環境目標のプログラムは別」などなどという問題が多発していても、なんのアクションも取られなかった。
      TC委員会は規格を審議するだけか? 現実に起きているトラブルに対する責任はないのか?
      まさか知らないとは言わせない。
      本来ならそういう間違い、勘違いをただすために認証機関や審査員研修機関に厳重抗議をし正しい理解を周知徹底する義務があるのではなかろうか?
      これについては「駆込寺が欲しい」で述べたところである。


    2. 異常なる振る舞いを取り締まってほしい
      2000年頃になって、マスメディア……主に新聞であるが、審査員がお土産をねだったとかうまい食事を求めたということが社会問題に取り上げられ、認証機関はその是正を取る羽目になった。
      確かに今現在、ゆすりたかりは見かけなくなった。だがあれから20年たっても、異常なふるまいは皆無ではない。
      審査において企業の若手を「坊や」とか「小僧」と呼ぶ審査員などいまだに存在する。審査員が高齢な場合は、若い人を坊やとか小僧と呼ぶことは、日本の社会通念として妥当なものなのか? 会社の経営者にため口をきく審査員もいる。尊敬語も謙譲語も死語となりつつある現在であるが、丁寧語までは消滅していないだろう。英語だって敬語があるんだ。
      そりゃ第一原因はビジネスマナーも知らない、いや己を天上天下唯我独尊と自認している審査員にあるのかもしれないが、かようなものが存在するという現実である。
      ならば審査員研修機関は責任がないのか? 彼らは審査員登録前に研修をしているはずだ。そして試験で合否を選別しているはずだ。かつ定期的に再講習を受けているのではないだろうか?
      審査員登録機関は責任がないのか? 登録時に審査能力、規格の理解、そして人間性を評価しているのではないのか?(ISO19011の求める三要素である)
      ヤレヤレ 更新時に審査トラブルがあった審査員はリジェクトしているのか? ぜひ知りたい。
      毎年、審査員更新時においてどのような理由で何人の審査員が資格更新できないのか知りたい。もしひとりも資格喪失者がなく、全員が資格更新しているというなら、審査員登録機関は信用できない。それどころか無用の存在である。


    うそ800 本日の期待
    2020年の現在は、審査員の力量は高く、法律はたなごころを指すがごとく熟知し、礼儀作法は体得し、認証機関は近代企業としてのあたりまえの機能を具備し運営されているに違いない。そう信じている。





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