うそ800始末34.成果を出すには

20.07.27
うそ800始末とは

私は現場監督時代の経験から、仕事や勉強の成果あるいは出来高は

成果(仕事・勉強・スポーツ)=かけた時間×熱意×能力

だと考えている。そんなことをはるか昔に書いたことがある。
いつだろうと探してみると、えっあれからもう15年になる。それを書いたことを覚えている私もすごい。

ともかく仕事でも勉強でもスポーツでも、練習あるいは勉強する時間が長いほど、上達しようという気持ちが強いほど、適性や才能があるほど、進歩すると考えている。証明はできないが私の経験則である。


40年も昔、職場で新規設備を導入するとき、担当である私が、そのメーカーに説明を聞きに行ったり講習を受けたりということはなかった。全然関係のない先輩が出張して講習を聞き接待を受けてきた。そして先輩から講習会で配布された資料をうまくやれよと渡されて終わりということが普通だった。

「先輩は無理へんにげんこつと書く」というほど昔ではありませんが、先輩とはろくでもない人種だったのは間違いない。 げんこつ 出張して講習を受けたり酒を飲んだりするのが先輩で、入ってきた機械を使い方も知らずに、汗だらだらになって試行錯誤して動くようにするのが後輩と決まっていた。そして動かせなければ私の責任だ。
もちろん私も何もしないわけではなく、機械が搬入される前から先輩から渡された機械の取説をひたすら読み、姿かたちを想像して動かし方を考えたのです。
そんなとき自分が一生懸命考えれば考えたほど、新しい設備が入ったとき素早く立ち上げることができた気がします。勉強するモチベーションを持つのも使命感がなきゃだめです。そしてひたすら勉強することに意味があると思いました。何度も何度も読んだり考えていると、その時はわからなくても、バスに乗っていたり会話をしているとき、分からなかったことが分かったり、良いアイデアが浮かんだりしました。

能力の差は自分ひとりですから比較できません。しかし他人が同じことをするときはその違いを実感しました。スポーツでも機械操作でも、すぐに要領を得る人と、そうでない人がいます。サッカーの試合を見ていて、すぐにオーバーヘッドキックを真似た友人がいました。私にはとても無理です。それは才能なのか過去の経験の蓄積なのかわかりませんが、ともかく個体差は大きい。
自分が何事かしなければならない状態では、能力は変数ではなく定数と考えるしかありません。

とまあ、そんなわけで、物事の成果は、熱心さ、費やした時間、そして能力であると考えている。私の考えが間違いとか、より良い算式があるのかもしれない。そもそもが漠然としたイメージにすぎないが。


ISO審査とは審査員が会社に来て、現実と書類を見て、その会社の仕組みがISO規格の要求事項を満たしているか否かを比較検証することだ。そのときの成果はやはり、審査員の熱心さと、審査にかける時間と、審査員の能力の積になるのだろうか?

ISO審査
私の受けたあるいは立ち会った審査を振り返ると、審査員の熱心さというのはだいぶ差があった。
是が非でもこの会社を良くしてやろう、悪いところはないか、悪いところがないならもっと良くできるところはないか、そう目を皿のようにする審査員はいましたね。
いやいや、その前に「経営に寄与する審査をします」とか「御社を良くしたい」と語る審査員は大勢いました。
もちろん私の知る限り「御社を悪くする審査をします」と語った審査員は一人もいなかった。

他方、審査する会社が良くなろうと悪くなろうとどうでもいいとは言わなかったが、会社を良くしようと考えていないと思われる審査員もいた。
いずれのタイプにも規格要求事項を満たしているか要求事項とエビデンスをひたすら参照する人と、チェックリストやマニュアルなど見ずにひたすら現実を観察する人がいた。
さて会社を良くしようと考える審査員と、会社を良くしようと考えない審査員と、どちらが審査の成果を出したのだろうか?

もちろん審査の成果を定義しなければならない。審査の目的は「審査を受けた組織(企業)が規格に適合しているか否かを判断すること」である(注1)上記のISO第三者認証に関する規格の定めから言って、審査には「会社を良くしよう」という意図は全くない。
すると審査の成果は「規格適合か否かを判断すること」であり、審査の効率・生産性は定められた審査時間内で規格適合を判断する証拠を収集して結論を出すことである。

であればいかなる審査員の生産性が高いのか? いやいやそれ以前に有効性(注2)があるのか否かを考慮しなければならない。有効でないなら、その審査は効率を考えるまでもない重大な欠陥がある。
審査とは規格適合か否かを判断することが目的なのだから、会社を良くするために行う審査はそもそも本来の目的から逸脱している。いくら会社を良くしても、規格適合か否かを点検していないなら目的を果たさない、審査たるを得ない。
もちろんISO17021-1では「改善の機会を特定し、記録してもよい(注3)とある。しかし「してもよい」のであって「する必要はない」のである。規格適合の判断は「しなければならず」、それを達しなければ審査ではない。
ゆえに「会社を良くする」ことは審査ではない。本来の目的を達した上で「会社を良くする」審査をしてほしい。

となると、審査前に「経営に寄与する審査をします」とか「御社を良くしたい」と語った大勢の審査員たちは、まっとうな審査をしないと宣言したのだろうか?
逆に審査する会社が良くなろうと悪くなろうとどうでもいいと思っていた、あるいは会社を良くしようなんて考えていない審査員こそが、もっとも理想の審査員だったのだろうか?
私はそう思う。


冒頭にあげた方程式

成果(仕事・勉強・スポーツ)=かけた時間×熱意×能力

で考えてみよう。

ISO審査では審査工数は組織の人員数で大まかに決まり、業種と形態で色が付けられる(注4)しかし審査員に実施が指示されたときには既に審査工数は決定されている。

よって審査の成果は

審査の成果=審査工数(既定)×熱意×能力

となる。ここで熱意はむしろないほうが良いことになる。いや待て、私の勘違いだ。
審査員が熱意を持つべきことは、審査する会社を良くすることではない。審査の目的を達することなのである。会社を良くすることでなく、規格適合の証拠の収集と適正な判断をしようとする熱意に比例して審査の質は向上するだろう。

認証機関の社長や経営層が「当認証機関は経営に寄与する審査をするぞ」と対外的に広報したり、社内的に発言あるいは方針を示せば、当然従業員である審査員はそれに従うだろう。従わねば別の問題……つまり方針が徹底されないという(注5)……で、その組織の体質・体制が疑われる。
つまり経営層がしっかりしていれば審査員たちは勘違いせずに、ISO第三者認証の意図を実現すべく審査を執行することになるはず。

閑話もしすべての問題がシステムに起因するなら、審査の問題の責任はすべて認証機関の経営層にあるはずだ。そうではないと多くの人は考えているだろう。担当者の故意、偶発的な問題、外乱によるものなど、システムに起因しない問題はある。
だがある審査で、「この不適合が起きたのは方針が徹底されていないからだ」という理屈で文書管理における不具合を方針の不適合としたISO審査員がいた。この論ならISO規格は方針だけでよく、審査員が見つけた不具合はすべて方針の不適合とすれば済む。これほど簡単なものはない。
あの審査員は今も「力量不足は方針の不適合」「法の届け出漏れも方針の不適合」とやっているのだろうか? 放心してしまう。

審査員の能力? これも個人的な研鑽もあるだろうし、組織として体系的な育成、力量向上のシステムを備えていなければならない(注6)
ISO審査員の口癖ともなっている「品質を良くするのは個人ではなく、品質システムである」というのは真理である。
そしてそれはほかの事柄についてもいえる。「審査員の能力を向上するのは、個人の責任ではなく、認証機関の教育システム」なのである。認証機関の研修システムによって、審査員の力量向上をしてほしい。

課題達成にもっとも重要なことは、常に目的を果たすことを認識し、今の仕事がそれに見合っているかを考えることだ。
そして審査員が会社を良くしようなんて大望を持つことは素晴らしいことではなく、してはいけないことなのだ。
いやいや、少年が大志を抱くのは大いに結構である。しかし抱いた大志を実現するための個々の目標を達成する過程では、目標をさらに小分けして(目標展開の出番である)やっつける、いや上品に言えば各個撃破していくことが必須であり、そのとき目的目標の関係を理解し、今何をなすべきかをしっかり把握して実行する必要があるということだ。
審査員は会社を良くしようと考えず、与えられた仕事を100%達成することに全力を投じるべきなのである。
それはいかなる仕事においても当然であり、そうであるべき文書でしっかりと定められているのが常である。

参考に地方公務員法をあげておく
第30条 すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
第31条 職員は、条例の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない。
第32条 職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

公務員ばかりではない。一般の会社の就業規則でも同等のことを記載している。 下記に厚生労働省が出している「モデル就業規則」の該当部分を示す(注7)
第10条  労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。

いずこの認証機関においても、就業規則に同等の定めがあると思う。それを遵守してほしい。
あっ、定款に「審査する企業を良くする審査をする」と書いてあるのだろうか?
それは困る。


うそ800 本日言いたいこと
よく手段を目的にするなと言われる。
健康第一 すべての仕事は最上位の目的を達するためである。自分が担当する仕事がいかに小さくても、最上位の目的を常に確認して務めを果たさなければならない。
いや、大きな事ばかりではない。ダイエットに励み体重を61キロに抑えようと頑張るのもいいが、その目的は健康維持だろう。ダイエットはその手段であり、体重61キロは単なる指標だ。まあ、これが今現在の私自身への戒めだ。



注1
それらの言葉は下記の通り定義されている。
@審査:「認証審査を略して言う」(ISO17021-1:2015 3.4 注記1)
A認証審査:「依頼者のマネジメントシステムを認証する目的で実施される審査」(ISO17021-1:2015 3.4)
B認証:「製品、プロセス、システム又は要員に関する第三者証明」(ISO/IEC17000:2004 5.5)
よって、ISO審査の目的は「組織(会社)マネジメントシステムが該当するISOMS規格に適合していることの第三者証明を目的とする」
注2
有効性:「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」(ISO9000:2015 3.7.11)
ISO9001:2015でも同じ定義がされている(ISO9001:2015 3.7.11)

注3
ISO17021-1:2015 9.4.5.2

注4
IAF MID5:2015を日本語訳してJAB MS305と制定されているはずなのだが、JABのウェブサイトでは見つからなかった。
IAF MID5:2015
MS305:2015のドラフト

注5
ISO17021-1:2015 10.2.1一般
「認証機関のトップマネジメントは、機関の活動のための方針及び目標を確立し、文書化しなければならない。(中略)トップマネジメントは、この方針が認証機関の全ての階層において理解、実施及び維持されることを確実にしなければならない」
注6
ISO17021-1:2015 7.1.1
注7
厚生労働省 モデル就業規則


ある製造業の担当者様からお便りを頂きました(2020.07.29)
成果(仕事・勉強・スポーツ)=かけた時間×熱意×能力
この式の右辺には、もうひとつ係数が必要ではないでしょうか?
絶対値は、1で、+or-の符号があるのではないでしょうか?
何かというと、成果実現に向けての方向性、あるいは意図する成果の適切性です。方向性を誤って時間をかけても負の結果となるだけ。そもそも課題設定を誤れば、時間や熱意や能力あっても意味のない結果を出してしまいます。
いわゆる“お役所仕事”“大企業病”とはそういうものなのかなと考えたりします。ドラッカーの言う「間違った問題の正しい答えほど始末に負えないことはない」かな

ある製造業の担当者様
まさしくおっしゃる通りです。私の場合は自分自身のことですから、自分が間違えても検出できるわけがなく、そのような次元を考え付きませんでした。
うーん、奥が深い
おっと、本家のコンテンツにご指摘を転載しておきます。


Initial A様からお便りを頂きました(2020.08.07)
佐為様、おばQ様
ご無沙汰しております。initial Aです。
お久しぶりにメールさせていただきます。

うそ800始末34を読ませていただき、感想をお伝えしたくなりました。
直近受けた審査があまりにも酷く、私が考えていたことに当てはまる部分とそうでない部分があるので、あくまでも個人の感想です。
(審査の愚痴が半分以上ですのでご容赦ください)

成果(仕事・勉強・スポーツ)=かけた時間×熱意×能力

かけた時間を審査工数とされていますが、これは実地での工数でしょうか。
審査は実際に現地で行う以前の事前準備が大切かと思っています。いわゆる段取り八分というやつで、ここがしっかりしている審査員はとてもスムーズに進行されます。そうでない場合は、出だしからバラバラになっていきます。
普通は訪問する会社のHP、IRレポートなどは目を通してくるものでしょうが、先日の審査員は会社概要をさっぱり把握せずに来ました。そのかわり、事前に私が送っていたチェックシートはどうなった?それをもとに審査では確認していくのだが、、、と始まったので、審査をスムーズにするチェックリストに受審側が準備するのは筋違いだ、公式に審査機関として提示要求のあったもの以外は作る義務はない、と言ってしまいました。

本文中にもありましたが、機械が納入されるのであれば来てから準備しても、もう手遅れでしょう。現地に来てから、どんな製品があるのですか?などと、審査員としては失格でしょうね。

また、熱意も違った方向に熱意をかけられては、困ります。いわゆるベクトルが違う感じです。まだプラス方向であればいいですが、反対側へ熱意をかけられても。。。能力も然りですね。

熱意が受審側をむかず、判定会議で自分が説明するため、レビューワーから指摘が出ないようにするため、上位機関に報告するため、という言葉で、熱意が逆向きの人もいるわけです。

その先日の審査員は、内部監査の是正を見て、原因の深堀がされていない、規格の要求する是正が実施されていないという不適合を出しました。
記録に不備があり、漏れや間違いがでないように様式を改訂するのは是正ではなく修正、深堀するとそもそもの記録を作った時にレビューが不十分、文書管理の不適合にすべきでそこからの是正が必要だそうです。もっと深堀すると規格要求事項の理解不足から生じている、私はそう思いますって言いましたので、個人的な見解でしょうか。
「力量不足は方針の不適合」によく似てますね。

課題達成のために目標を小分けにしてやっつける、とても共感します。
メジャーへ行った大谷翔平も使ったとされる「マンダラート」というものを思い出しました。(ご存じでしたらすいません)
審査員にはぜひ、「審査目的を達成すること」をスタートに考えなおして欲しいものです。もしかしたら、そもそものスタートが「経営に寄与する審査をする」と勘違いがあるのであれば、無駄なのかもしれませんが。

審査員の生産性は、時間内にどれだけ監査証拠を集められるかではないでしょうか。それも、規格に対比するものではなく、その会社で運用されている生の状態から見つけ出す能力が必要かと思います。

取り留めのない感想で、失礼しました。
猛暑の折、またコロナ渦ですが、お体にはご自愛いただき、末永く連載(笑)を続けてください。毎回、更新を楽しみにしております。

Initial A様 毎度ありがとうございます。
まずお詫びというかお断りしておきますが、私は既に引退した身、みなさんのように日々実務に励んでいるわけではありません。逃げるわけではありませんが、真剣勝負のように考えてはいませんでしたということです。

その1
審査にかける時間はJABの基準にあり、審査する組織の大きさによって審査前に何日、審査に何日、審査後に何日と決まっています。
とはいえ、どこも費用削減、つまり審査にかかる時間を削減しています。知り合いの審査員、特に契約審査員は自宅で予習というか事前調査をする時間は金にならない、それを含めて計算すると最低賃金にもならないとこぼしています。
まあ、世の中そんなものでしょうね、トホホ
その2
Initial A様は審査員よしっかりしろと言いたいでしょうけど、審査員としては仕事した分お金を払えと考えているでしょう。そして認証機関の経営者は審査単価が下がる一方で青い顔をしているという状況でしょう。
おっしゃるように段取り8分というのは真理ですから、良い審査を提供する方法を認証機関は考えるなければならないでしょう。それができないという結論なら事業を撤退するという判断も全うかなと思います。
現実には毎年3社くらい認証機関が事業売却とかしていますからそういう動きになっているわけです。
その3
ISO認証ビジネスがある程度安定しないと審査の質が安定しないのか? それとも審査の質が悪いから認証ビジネスが先細りなのか? 鶏が先か卵が先か、スパイラルダウンが続きそうな感じですね、
それと基本的に、審査とは要求事項を満たしているか否かをみる、それ以外はしないと徹底しないとニッチもサッチも行かないと思います。会社に寄与するなんて言い出したら笑うしかありません。
その4
>公式に審査機関として提示要求のあったもの以外は作る義務はない、と言ってしまいました。
これって当たり前のことですよ。私は一度、認証機関に審査員が資料作成を要求することが迷惑であると苦情を言いました。すると、それは認証機関が求めるものではない。審査員個人が研鑽するために要求したということと、今後はそのようなことをさせないという回答をもらったことがあります。ぜひとも文書で抗議したほうがいいです。
審査員登録機関が審査員登録を更新するとき、審査員が異議や苦情を受けたかどうか報告しなければならず、異議や苦情があれば更新するかどうかもめると思います。そんなことになればその審査員は自今以降、おかしなことをしなくなるはずです。


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