うそ800始末39.ISOで会社を良くする

20.09.07
うそ800始末とは

世の中には「ISOで会社を良くする」あるいは「ISO認証で会社を良くする」と語る人がいる。
「誰が言った」と問う人もいるかもしれない。ご安心ください、証拠はあります。

経営成果とか無駄排除は「会社を良くする」とは違うじゃないかという声がしたようだ。
でもISO認証すれば、経営力、管理力、営業力の強化、費用削減、企業イメージアップ、経営効率改善、ライバル企業との差別化ができたらそれは即「会社を良くする」ことでありましょう。
じゃ、100歩譲って経営成果とか無駄排除が会社を良くすることでないとして、ISO認証すれば経営成果が出るのか、無駄排除ができるのか考えましょう。私にとっては同じ事です。

果たしてISO認証すればそんなことができる、実現するのでしょうか?
失われた10年が今や失われた30年と言われ、新型コロナウイルス流行で40年になろうとしている今、会社が良くなるなら、いますぐISOを買ってこいと言いたいところです。だって、ISOが手に入れば、少なくても我が社は失われた歳月とはおさらばできるのです。

でもマネジメントシステム規格ではそんなこと言ってないんですよね。
例えばISO9001:2015の序文「3.基本概念及び品質マネジメントの原則」をお読みになるとわかります。
そこでは「QMSは、製品及びサービスの提供において、意図した結果及び意図しない結果に取り組むための処置を特定する手段を提供する」とあります。その先にあるのは顧客満足です。
その結果「組織の」マネジメントシステムが良くなることがあるかもしれませんが、直接的にマネジメントシステムを良くするわけではない。
というかそもそも組織の顧客は自分が満足すること(顧客満足)を期待し、それは製品及びサービスのQCDでしょうけど、供給者の会社が良くなるとか利益を出すとかブランドイメージが上がることを望んではいないでしょう。もちろん供給者が倒産することを望んでいるわけではないでしょうけど。

しかしISO9001が顧客満足、ISO14001が遵法と汚染の予防が規格の意図だったのだが、会社を良くするということは、既に顧客満足と遵法と汚染の予防は達したのであろうか?
それとも顧客満足と遵法と汚染の予防はもうダメと諦めたので、せめて会社を良くすることにしたのであろうか?

それに良い会社とはなんだろうと考えると、百人百様なのは間違いない。つい最近も良い会社とは何かなんて考えたこともあった。 例を挙げると……

上記を見ると、すべてを満足させることは不可能です。だってOBは会社に浮き沈みがないことを求めるのに対しデイトレーダーは株価の乱高下を欲し、働く人は高賃金で経営者は世間並では真っ向から対立です。
デイトレーダーの考えはおかしいと言ってはいけない。現実に彼らはそういう会社を探し、買っては売りうっては買いをしている。それは悪い会社だと言っても通用しない。
では「ISOで会社を良くする」とは、だれにとって良い会社にするのか? そして誰を満足させるのでしょうか?

くだらないことですが……
宇宙船 「暴力は愚か者の最後の拠り所」という言い回しがある。「拠り所」の代わりに「砦」とか「避難所」とする訳もある。
私は有名な古人の言葉かと思っていたが、最近アシモフの小説「銀河帝国興亡史(ファウンデーション)」の登場人物の言葉と知った。銀河英雄伝説とは違うよ。
おっと、銀河帝国はどうでもいいけど、私は「ISOは会社を良くする」と聞くと「ISOは会社を良くするはISO関係者の最後の拠り所」と頭の中で変換してしまうようになった。

ところでJABの飯塚理事長は、最近ISOは会社を良くするなんて言わなくなったようだ。
以前は、「JAB/ISO9001公開討論会」で「製品・サービスが本当に大丈夫なのかを、認証機関が評価(2019)」とか、「マネジメントシステムを認証すると、それによってそこから生み出される製品・サービスの質なりが担保されます(2017)」なんて製品の品質を保証するようなことを語ったり、「供給者の品質マネジメントを良くする(2009)」あるいは「QMS認証の価値向上(2010)」などと語っていたが、少しはまともになってきたのかもしれない。
とはいえ、彼の語ることの本質はISO規格の真髄ではなく第三者認証制度の維持である。つまり認証制度を維持継続するための便法であり屁理屈に思える。
そういっちゃいけないなら、株式投資の世界でいうところのポジショントークだろう。

注:ポジショントークは、自分個人の考えでなく、組織や社会において自分に期待されている役割によって行っている発言のこと。

ともかくISO関係者は認証制度よ永遠なれと望み、その望みを「ISOは会社を良くする」という論理で実現しようと願っているのだろう。願うというのは計画ではないからだ。
計画とは「これこれをいついつまでに実施し、どの指標をいかほど改善する」というものでなければならない。「ISOは会社を良くする」というのは単なるかけ声に過ぎない。それがISO認証制度興隆とどうつなぐのかとなると、つなぐものはまったくない。

例えば
今までISOと無関係だった会社が認証する
🠋
その会社において良くなったという測定可能な効果が表れた
🠋
それを広報する
🠋
さらに認証企業が増える
🠋
第三者認証制度は左団扇になった
めでたし、めでたし

という理屈を考えたとしよう。
でもそれはまだ計画ではない。計画とは例えば、今までISO認証していない会社に認証を売り込む5W1Hを立案しなければならない。
それも10社や50社ではだめだ。2020年現在、ISO9001は年2000件、ISO14001は1000件も減少している。2020年はJAB認定を辞退した認証機関も続出している。点滴レベルでなく集中治療室レベルで、ちょっとやそっとではどうにもならない。
ならば半年でそれぞれ最低500件くらいの新規認証を開拓し、上記ループを急速に回していかなければ、鳴門海峡の渦潮に吸い込まれてしまう。

あるいは現時点認証しているISO9001の24,000社、ISO14001の13,000社の中から「ISOが会社を良くした」事例を集めて大々的に広報宣伝することがある。この場合は前者よりも簡単に思える。なにしろ調査すればいいだけだ。
それにしても情報収集、とりまとめ、キャンペーンの5W1Hの計画がなければ意味がない。もちろん改善効果が集まらないと始まらない。

ただ注意しなければならないことがある。それは改善効果が間違いなくISO規格に適合させたことによって生じたか、ISO認証したことによって生じたことでなければならない。

ネットにあるコンサルや認証機関の宣伝文句はどんなのがありましょう?

ISOは会社を良くするのではなく、良いか悪いかを判定するだけです。
要するに「会社を良くする」のはあなた(会社)次第なのです。ISO認証するために社員が頑張った結果、会社が良くなったというなら、ISO認証を持ち出さないと改善しなかったことが問題でしょう。
よく見かけるのはISOのために省エネをするとか、廃棄物削減しなければならないという言い回し。嘘も方便といいますが、それは方便ではなく責任逃れのうそつきのウソです。そういうことを語るのは、省エネとか廃棄物削減をしなければならないことを説得できないから、ISOにかこつけてやらせようとしているだけではありませんか?
そんな他力本願とかうそをつくのではなく、費用削減のために省エネに協力してほしい、ルールを守れと説得し実行させることができないのでしょうか?


ISOが会社を良くするとかそれに類することを語る書籍やウェブサイトが多いのは、ISOビジネスが低調だからだ。不景気になると印刷屋が儲かるといわれたのは半世紀も前。今ならネットでの広告・宣伝の時代だから印刷屋が儲かるわけはない。
1992年頃から欧州への輸出のためにISO9001認証が始まったが、認証が必要な企業はせいぜい数千社、1994年頃には一段落ついてしまった。そこで仕事がなくなったコンサルや認証機関は「商売のためにISO認証するのではなく、会社をよくするためにISO認証しなければならない」というレトリックを考えたのだ。
レトリックつまり言い回し、口先だけなんだよ。

認証件数推移

だけど認証件数は2006年にピークとなり、それから15年認証件数は減少するばかり。こりゃあれだ、製品のライフサイクルではなくビジネスのライフサイクルの衰退期そのものだ。
もちろん認証ビジネスに見切りをつけて撤退するところも多い。

認証機関数推移

認証機関も減る一方、ISO14001審査員研修機関は今では3社しかなく、審査員登録機関はふたつがひとつになっちゃったよ。
己のビジネスを伸ばせなくて認証がすばらしとはいとおかし(by 清少納言)

なにごとも目的に対応した策を考えなければならない。
ISO認証を伸ばそうというなら、認証を返上した企業と認証している企業にヒアリングして問題を把握してその是正をしなければならない。
ただ新しい酒は新しい革袋に盛れというから、ISO認証をそのまま担ぎ上げても今更かもしれない。ならば新しい神輿にする必要があるのか?
それとももう第三者認証というシステムが古いのかもしれない。

話は変わる。新聞が売れないという。
それは当然だと思う。私は新聞を読まない。でもニュースは見ている。インターネットの新聞社、CNNやBBCなどの英語/日本語のサイト、ニュースのまとめサイト、朝から夜まで4回くらいそれらを巡回すると地域のニュース以外は間に合う。自分の住む自治体のニュースは警察(事件・事故)と消防(火災)と市(コロナ)の広報を見れば間に合う。それらは行政機関を巡回するのではなく、広報メールを申し込んでおくと、何事か発生するとメールがくる。例えば窃盗事件、火災、コロナ感染者が発生するとくる。

紙の新聞には欠点というか限界があるのだ。
時々刻々と発生する世界のニュース・出来事が紙の新聞では最低でも半日遅れだ。いくつも購読するには金がかかりすぎる。日本に限らずマスメディアは特定政党や主義に偏向しているから1紙だけでは頼りにならないこと。
新聞を見るのに両手で広げて持ったり、畳の上に広げてなんて家の中でしかできない。電車の中、会社の机上では無理。
1社だけでなくいくつかの新聞を読みたい、それも国内だけでなく海外のニュースは海外の新聞を読みたい。

しかも新聞代の高いこと! 最近近所の人に聞いたら朝刊だけで月4,000円だという。あほらしいと思った。もっとも隣人の話では近くのスーパーの割引クーポンなどがあるし半年ごとの更新時の発泡酒サービスなどで1000円くらいは回収できるらしい。それでも月3000円! 驚きだ。

過去30年間続く価格破壊の攻勢に、新聞は頑固として立ち向かう!
かっこいいのか、時代遅れか?

価格破壊どころではありません。インターネット時代の今は、新聞からの情報はすべてお金を払わずにゲットできます。
なくなる・なくなるといわれても存在している紙の新聞ですが、発行部数は間違いなく減少が続いていて、今後長くは続かないでしょう。
国内外の新聞社も生き残りのためにいろいろトライしています。紙でなく電子データという状態で売ろうかというのもまたいろいろな形態があるでしょう。2020年の今方向は定かではありません。

ISO認証も紙の新聞と同じように、新生代になったのにまだ死に絶えてない中生代の恐竜のようなものです。 恐竜 でも自分が何も変わらずにあがくだけでは、滅亡は時間の問題です。新生代の気温低下、植生の変化などに対応するには、体躯の小型化、機敏性、知能の向上などがなければ生き残ることはできません。
何事においても適者生存の掟からは逃れられません。
「会社を良くする」という念仏を唱えるだけは生き残れるはずがありません。天は自ら助くる者を助けるのですから。


うそ800 本日の主張
21世紀も既に2割も過ぎたのに、いまだにISO認証が会社を良くするなんて語っている人が多いからちょっと苦言を吐いただけです。
それと自分が努力しないで"ISO認証にかこつけて改善をしようとする人たち"に苦言を呈したい。
そういう方々は、本音より建て前、良心よりも損得を優先するのでしょうか?
まあ、願いが叶えばよろしいですが、そうはいかないようですね、




外資社員様からお便りを頂きました(2020.09.08)
おばQさま
いつも参考になるお話し、有難うございます。

いつも乍らの本旨と関係ない部分ツッコミで申し訳ありません。
会社は何かの例
>OBは、倒産して企業年金が払えなくならないこと……
私も、そういう風に思っていましたが、企業年金は第三者に預託されて会社が潰れても保全されるのです。
すでに退職しているならば、その人の掛け金は殆ど影響ないようです。
というのも、私は前の会社を退職する時に、こんな会社無くなると思って企業年金を解約しました。(自己都合解約だと殆ど無し)
その後、新聞をにぎわす問題が出て、倒産寸前まで行って読みは正しかったのですが、企業年金は痛恨の勘違い。
会社がどうなろうが貰えたのです。
家内の会社は、思い切り潰れましたが、企業年金を貰っていて、小遣いにしています。
あぁ羨ましい(笑)

ISO9000,14000は、仰る通り認証目的が弱くなり続けですが、17025(試験機関の認定)15189(臨床検査機関の認定)などは重要なようです。
変な審査員がいないのは高度な専門性が必須で、退職後の片手間は無理で、実務経験がないと出来ないからなのでしょうね。
土壌汚染や食品添加物の検査機関では17025をとっていないと、海外で検査結果が認められない。
15189は、コロナなどのPCR検査で、認定機関で無いと海外で陰性証明が認められないなど、国際的にも必要なのですが、なぜか公的機関の取得が少ないのですよね。
私もグチになりました。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
ええええそうだったのですか
JALが左前になったとき、OBたちが企業年金の賃下げに同意しないとかでだいぶ時間がかかったことが報道された記憶がありますが、勘違いだったのでしょうか。
でもそれなら企業年金にしようか、退職金にしようかと悩むことなかったです。それなら年金一択のような気がします。

審査員の専門性、ズバリそれが重要だと思います。私はいつも愚痴っておりますが、和訳では紛らわしいことであっても、英語原文では明白なことってたくさんありました。環境実施計画がひとつでいいのか、ふたつほしいのかなんては、2015年改定前は審査のたびに唾を飛ばして議論しました。
私はISOTC委員より詳しいなんて騙る審査員がザクザクいたのです。
でも英文は The organization shall establish a programe(s) for achieving its objectives and targets. となっていて単数でも複数でもよいのです。
 注:不定冠詞の「a」には()がないのはなぜなんでしょう?
しかしながら日本のISO14001審査員の大先生たちは中学校で習った複数形など忘れたようで、己の主張を強引に突き通し、遮るものはすべて不適合!と叫んで去っていったのです。
あんな人たちが主任審査員をしていた、いや今でもしているというのが日本のISO14001審査の現実です。私が叫ばなければ誰が糾弾するのか!
熱くなってはいけません。まあ今でも腹ふくるる思いです。


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