ISOサーベイ2019

20.09.14

そろそろ今年の(というか2019年の)ISOサーベイが発表されるかと、ときどきISOのサイトを巡回していたが、ISOサーベイの2019年版が9月4日に発表された。
好奇心だけでできている私だから、早速ダウンロードしてグラフにしたり、縦から横から斜めから眺めたり、差額を取ってみたりといろいろしてみた。

本日はそんなことをした大まかな報告と感想である。
発表から10日遅れだが、昨年のひと月遅れよりはまだましとお許しくだされ。


2019年広報のISOサーベイ2018年版からデータの集計方法なのか区分なのかが変わり、それ以前のデータとの継続性がなくなった。それまで認証数(Certification)だったものが、昨年からサイト数(Site)と認証数(Certification)と二本立てになったのだが、サイト数はもちろん認証数も名前が同じだが以前とはかけ離れた数字である。
どんな理由があったのか、どのように区分が変わったのかわからないが、過去とのつながりが取れないので昨年は増減を論評できなかった。

下図は1993年からの認証件数をプロットしているが、2017年と2018年のつながりはないので図の断絶部に縦線を入れた。ともかく今回は2018年版と2019年の比較はできる。

全世界と日本の認証件数推移

ところで……
述べたように、統計の取り方が変わったために、上記グラフの全世界の線は2017〜2018のところが不連続なのだが、日本についてはISO9001もISO14001も連続しているように見える。
これは、なぜだろう?

図から過去1年間は非常に伸びが少ないことがわかる。全世界はISO9001が△1%、ISO14001は△2%である。日本はそれぞれ前年比▼3%と▼6%である。なお日本の数字はJAB認定だけでなく、認定を受けていない認証機関や外国の認証機関による認証を含めているから、JABが公表している数字とは異なる。
ちなみにJAB認定の認証件数は、2019年はそれぞれ前年比、▼5%、▼4%であった。

注:増減の際に付ける▲の表記は、分野によっていろいろな方式があるらしい。
この文においては、増加には△を、減少には▼を付けることにする。
理由は、「+」や「−」だけよりは分かりやすいと考えただけだ。

ではQMSとEMSの状況を見ていこう。
おっと、ISOサーベイはQMSとEMSだけじゃなくて他にも多くのMS規格がある。もちろんISOサーベイではそれらについても認証件数が公表されている。

規 格Certificatessites認証件数
の割合
規格名称
ISO9001883,5211,217,97265.1%品質マネジメントシステム
ISO 14001312,580487,95023.0%環境マネジメントシステム
ISO/IEC 2700136,36268,7652.7%情報セキュリティマネジメントシステム
ISO 2200033,50239,6512.5%食品安全マネジメントシステム
ISO 4500138,65462,8892.8%労働安全衛生マネジメントシステム
ISO 1348523,04531,5081.7%医療機器品質マネジメントシステム
ISO 5000118,22742,2151.3%エネルギーマネジメントシステム
ISO 223011,6936,2310.1%事業継続マネジメントシステム
ISO 20000-16,0477,7780.4%ITサービスマネジメントシステム
ISO 280001,8742,4030.1%サプライチェーンマネジメントシステム
ISO 370018724,0960.1%贈収賄防止マネジメントシステム
ISO 390018641,8520.1%道路交通安全マネジメントシステム

上表を見ると全世界でISOMS認証は、QMSとEMSで9割を占めている。ちなみに日本ではQMSとEMSで96.6%を占める。
ISO28000は2007年発行ですから13年前、現時点全世界の認証が2,400件しかないものがこれから爆発的に伸びるとも思えない。そういうものを制定する必要性があったのか、私には理解できません。
いずれにしてもQMSとEMSを検討すれば、他は無視してもよろしいでしょう。
ということで以下はQMSとEMSについて述べる。

閑話: 環境先進企業と言われているIBMは、1990年頃から社内犯罪とか環境事故などで支払った罰金を毎年アニュアルレポートで公表している。それを見た人たちは批判するどころか、透明で素晴らしい会社だとほめてきた。私もIBMの行動は素晴らしいことだと思う。
人間も会社も公正で正直であらねばならない。
本当を言えば、他の企業でも不祥事があるに違いない。いや不祥事が報道されても、その顛末と是正処置を公表しない会社はたくさんある。もちろん公開している会社もある。
しかし注目すべきことは、管理レベルでも正直さでも他より優れているIBMであっても、横領や環境事故の再発を防げていないということだ。 聞いてください

ならば、それ以下の会社(IBM以外のほとんどが該当する)が贈収賄防止マネジメントシステムの認証を得ても、贈収賄を防げるとは思えない。
いやいや、顧みれば、ISO9001の認証を受ければ顧客満足が増進され、ISO14001の認証を受ければ遵法と汚染の防止が図れるなどと思うのはバカげていると思わないか?
そんな勘違いとか思い込みなんてたくさんある。
ISO審査で企業が虚偽の説明をしたなんていうのは、虚偽の説明をしたのが悪いのでなく、事実を見つけられない審査員が悪いのだ。
裁判において、偽証罪に問われるのは証人だけで、当事者である原告、被告、被告人が嘘をついても罪にならない。判事も検事も弁護士も、当事者は嘘をつくという前提で裁判に臨んでいる。だからこそ証拠裁判主義になる。
ISO審査で虚偽の説明を受けても、エビデンスを基に判断すれば良い。それともISO審査とは証拠裁判主義ではなく、証言裁判主義なのか?
虚偽の説明をされたと語るのは、己が未熟という恥さらしだ

さて2018年と2019年の全世界の認証件数は、ISO9001が△1%、ISO14001が△2%とわずかな増加ですが、過去15年間下がりっぱなしの日本に比べればまだ優等生です。
ただ変化にお気づきでしょうか?
グラフをながめて、中国の認証件数が占める割合が減ってきた感じがしませんか?

ISO9001世界と中国の認証件数推移

ISO14001世界と中国の認証件数推移

注:2017年と2018年の間の縦線は不連続であることを示す。

全世界で微増、なのに中国以外が増えているのが明らかなら、中国の認証件数が減っているのか?
その通りです。

規格名エリア認証件数 前回比増減
2016⇒20172018⇒2019
ISO9001世 界▼4%△1%
中 国△12%▼5%
日 本▼9%▼3%
ISO14001世 界△5%△2%
中 国△21%▼1%
日 本▼13%▼6%

注:前述のように2017以前と2018以後では集計方法が違い、その間の増減はわからない。

しかし中国は2017年は前年比で1割とか2割増加だったのが2年後には急減少になったのだから驚く。通常のビジネスで、売上が2割増だったのが2年後減少となったら大騒ぎだよ。

2018年から2019年の中国の認証件数は、QMSは▼5%、EMSは▼1%である。ISO9001は日本より減少率が大きい。過去10数年間…統計区分が異なるにしても…伸びに伸びてきた中国の認証件数ですが、2019年になにがあったのか?
それ以外の国々をみると特段ISO認証が減る要因は思いつかず、中国だけとなると中国経済が弱ってきた影響かなという気がする。
景気が悪くなればどの企業でも、不要不急の費用削減、無駄排除をするから、ISO認証返上も起きて不思議でない。もちろん日本は過去10年以上そういう流れになっているわけだ。

世界の認証件数に占める中国のシエア変化はどうでしょうか?
2017年と2018年のISOサーベイの数字は断絶していると何度も言いましたが、分子も分母も同じ影響を受けているなら相殺されるはず、

さてグラフを作ってみれば……
中国の認証件数の世界に占める割合

あれあれ、中国のシエアの減少は2018年からだったのか?

ちなみに中国経済の成長率推移です。(日本経営合理化協会より引用)
中国経済成長率の推移

過去10年以上、中国の成長率は低下傾向にある…とはいえ日本よりはるかに高い…2017年に一度上向いてまた減少傾向にあります。
さて、このグラフの2015年から2019年までの中国の成長率は、上のグラフ「世界のISO認証件数に占める中国の認証割合」の変化と似通っている気がしませんか?
もちろん認証件数は経済だけでなく、ISO認証が始まってからの認証のライフサイクルの関連もあります。それに中国経済の統計は全く信用できないというのが定評です。

中国の李克強首相が「中国の統計で信じられるのは鉄道貨物輸送量だけだ」といったとか。鉄道貨物輸送量10%減でも経済成長が7%なんてことが過去の公表にありましたが、そんなのを見れば普通の人はアリエネーと思いますよ。もし本当なら中国は既に究極の省エネ、そして持続可能性を実現したようです。
それこそアリエネー
とはいえ、ISO認証と中国経済はまったく無縁じゃないとは思います。たとえ真の値を多めに偽っても、他の数字と大小関係は辻褄を合わせるはずです。
本日のトリビア…中国ではISO認証件数から経済成長率が推定できる

ともかくここでお詫びしなければなりません
私は昨年「ISO第三者認証は、中国の中国による中国のためのものである」と書きましたが、あれは間違いでした。
「ISO第三者認証が、中国の中国による中国のためのものであったのは、ほんの一時であった」と、訂正させていただきます。
とはいえ、一般の製品サービスにおいて、マーケットシェアが4割を超えたら独占状態でしょうね。
といいつつ、ISO認証件数が多数を占めても、それがいかなる影響力を持つのかとなると疑問です。売り手がマーケットシェアを独占すればウハウハでしょうけど、買い手がマーケットシェアを独占してもあまり意味がなさそう。いやいやいつ少数の顧客の嗜好が変わるのか売り手はヒヤヒヤものです。すぐさまリスクの分散を図らねばなりません。それだけに中国はISOとIAFに対する発言力が持つのかもしれません。それがなんだってなりますが、

何事も視点を変えると…… 中国のISO認証件数は世界一で4割を占めているといっても、人口当たりISO認証件数は日本の72%にすぎません(下表参照)。
がんばりましょう 中国の数が多いのは単に人口が多いからです。
全然大したことありませんね、

2019年データ中国日本比率
人口1,433百万127百万日本の11倍
ISO9001280,38633,330日本の8.1倍
ISO14001134,92618,026


これからの予想ですが……
過去10年間、全世界の認証件数の伸びのほとんどは中国のおかげだった。先進国はもう飽和状態だ。中国の伸びが止まれば新たな新興国で認証が活性化しなければ、世界の認証件数も今後は単調減少傾向に移る可能性が大である。
しかしそれを大変なことだと考えることはない。どんなビジネスモデルも技術も流行も、それほど長く続くことはめったにない。三分の一世紀もISO第三者認証というビジネスモデルが続いたのを感謝すべきだろう。本来であればその期間に、次なるISOビジネスを考えておくべきだったのだ。

ISO9001に始まって、環境や情報セキュリティなどに拡大してきたなんて言ってはいけない。
QMSにしてもEMSにしてもエネルギー管理にしても、第三者認証という範疇で考えると、すべては同類である。
そもそもISO14001があればエネルギーマネジメントなんて規格はいらなかったのではないか。その証拠にISO50001は全く認証件数が伸びていない。
認証規格ではないが、ISO14005なんて使っている人がいるのか?
粗製濫造これに極まる。

あげくにISOMS規格が多種制定されたので、共通な要求事項についての標準化を図り、共通テキストを作ったなんて上手いこと言っているが、そもそもISOMS規格を粗製濫造したのが誤りだったのだ。
QMSを作り、EMSを作ったまではヨシとしよう。だが、それ以外は無用である。どんなマネジメントシステムでもISO9001で間に合うのだ……と言えばよかったのだ。
ちなみにISO14001は対象が製品/サービスでなく、環境についての品質保証であるにすぎない。
品質保証とは、やるべきことを約束してそれを実行することに過ぎない。やるべきごとが品質維持であるか、遵法と事故防止の違いでしかない。

ISOMS規格が増えても、企業は認証疲れで新しい認証に挑む元気も金もない。私の知っている会社では、食品安全の認証をするからとISO14001を返上した。


毎度、私の持論である。
まずISO規格と第三者認証制度は別物である。思い出してほしい。ISO9001が1987年に制定されたときはISOMS規格ではなかった。二者間の品質保証の規格だった。それが1994年改定で第三者認証用に修正された。
現在ではすべてのISOMS規格は第三者認証制度を前提として作られている。そしてISOという機関は、その存在意義において、MS規格に負っているところが大きいようだ。例えばISOサーベイといえば、ISO規格全般についての調査と思うだろうが、実際はISOMS規格しか対象にしていない。

また第三者認証というサービスが、一般企業や社会から求められて始まったという証拠を私は見たことがない。
特に二者間の品質保証において顧客の代理人と称した時から、不特定多数の顧客を相手にした第三者認証になったことには、大きな飛躍があったはずだ。
その発想はすなわち、新しいビジネスを始めたのだと私は思う。

そして多くのMS規格の制定をいったい誰が望んだのか?
ISO9001が品質保証要求事項を標準化しようとしたのはわかる。ISO14001がリオ会議から始まったのもわかる。
ではエネルギーマネジメントシステムは誰が望んだのか? それにかかる費用と効用(認証件数)の予測はどうだったのか? 労働安全衛生はどうだったのか? 採算が取れる根拠があったのか? そういうことを誰が考え、だれが検証したのだろう。

そして一般社会、企業や消費者は現在ISO第三者認証制度が提供するサービスで満足しているのか?
満足しているというなら、その証拠を見せてほしい。

JABのウェブサイトに行くと「ISOマネジメントシステムと社会のかかわり」というページがあり、JAB博士がいろいろと講釈を語っている。
博士のたまわく「あなたに代わって確かめる役割を担っているのが「認証機関」です」
一般企業や消費者が認証した会社を信頼してますか? いや認証を信用してますか?
そもそもどこかの理事長が、企業は審査で虚偽の説明をする、だから審査員は騙される、審査員は節穴だとのたまわっているのです。
認証制度の元締めが審査は信頼できないと語っていて、一般社会が信頼しますか?
日本でISO認証は信頼されてないから、認証件数が過去15年間減っているんじゃないですか?

ところで今ISO17021はクライアントを認証組織と定義している。もちろん第三者認証制度の最終顧客は消費者であり、一般市民だ。
認証機関はそういう直接・間接の顧客の声を、どのよう審査や第三者認証制度に反映しているのだろうか? 認証機関が顧客重視を受査企業に要求すると同じく、我々消費者は顧客重視を認証機関と認証制度に要求する。ぜひ手本を示してほしい。
認証制度と契約関係にない一般市民が要求する権利がないと言ってはいけない。認証制度からそっぽを向くだけだ。それは一層の企業のISO離れをもたらし、認証件数の減少は加速されるだろう。
ではISO第三者認証制度は認証制度を利用する人たちの顧客満足を向上させているのか?
そしてその顧客重視が認証拡大につながっているのか? 認証件数が増加していけば、企業も認証の効果があると実感するだろう。
なにしろ第三者認証は消費者の安心感を得るためと、JABの「ISOマネジメントシステムと社会のかかわり」で語っている。語っていることを実証しなければ信頼されるわけがない。
ISO第三者認証はビジネス(商売)なのだから、顧客重視に徹しなければ市場から消え去るのは当たり前だ。

認定機関そして認証機関の、事業継続マネジメントシステムは機能しているのか。自らが手本になるマネジメントシステムを持たずに、人様の会社に行って審査ができるはずがない。そして認証/認定した組織のマネジメントシステムが信頼されるはずがない。
認証機関の経営が継続していかなければ、認証された事業継続マネジメントシステムが信頼されるはずがない。審査サービスの品質が悪い認証機関が認証したISO9001が信頼されるはずがない。

閑話: ISO認証がブランドだったのは30年前のこと、今は認証はブランドではない。
ではコモディティになってしまったのか? いやコモディティだって悪くない。そしてコモディティだって品質は重要なのだ。むしろ代替えが豊富にあることから一層品質が求められる。
そしてコモディティの良いことは、陳腐化しても需要がなくならないことだ。
いやISO認証件数が減っていることから、ISO認証はコモディティですらないのかもしれない。

うそ800 本日のお断り
いつも申し上げておりますが、私が嘘をついているかもしれず、この文章は査読(笑)を経ていないので、間違っている可能性もある。
ここにあるグラフや数字の裏を取るために、ISOのウェブサイトから元データをダウンロードして、あなた自身がグラフを作ったり表計算して考えることが大事です。
そうそう李克強首相が、本当に「中国の統計で信じられるのは鉄道貨物輸送量だけだ」と語ったかどうか、裏を取らないといけませんよ。
瑕疵を見つけたら教えてください。
二年位前、某氏がネットで世界のISO認証のグラフを探したら、私のウェブサイトにしかなかった、お前は出典のないグラフをウェブサイトにアップしているのかと非難してきました。
私は捏造なんて面倒なことはしません。ISOサーベイの数字から、いろいろなグラフを作ってアップしているだけです。いちゃもんをつける前に自分でエクセルのグラフくらい作って考えなさい。

注:ISOサーベイは過去のデータもただで一式公開されている。
でもほんとのことを言えば、こんなデータよりもISOMS規格そのものを、無料で公開してほしい。そうすればバカ高いISO規格とかJIS規格を買わなくて済む。
ISOの運営予算は、会員各国が国民総生産(GNP)に比例して負担しているそうです。じゃあ、我が家も税金から払っていることになるじゃないか!




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