「その2」と題名が付けば、承前と始まらなければならない。しかし気が変わりやすい私の場合はそうはいかない。「その1」で年寄りの繰り言を語った次は、また繰り言だったということも大いにある。
ともかく緊急事態その2を始める。
緊急事態って、みなさんどんなことをイメージしているだろう?
私は単純ですから、規格に書いてある通り「緊急に対応しなければならない事態」と理解している。
それは消火器をもって駆けつけるような現場で手足を動かすこともあるだろうし、会議室に関係者を集めて速やかに処置対策を決めなければならないのも、緊急事態であることは間違いない。
だから「RoHS関係物質の混入は緊急事態ではない」とするのは間違いだと思う。
ともかくおのれの職責を果たすために、早急に動かなければならないことが緊急事態と考えています。
会社で働いていれば、すぐ動かなくちゃならないとか、手遅れになると大変だというものはたくさんあります。それすなわち緊急事態と解しておかしくないでしょう。だって「緊急に対応しなければならない事態」なのだから。
近隣住民から「悪臭がする」といわれたら即座に現場に行くとか、絶縁材にRoHS規制物質が混入したと材料メーカーから連絡があれば、すぐさま資材、保管、製造、倉庫などを集めて打合せしなければならない。それすなわち緊急事態です。
でありますが、前述した某ウェブサイトにあった「事業継続が困難になる」というのは違うんじゃないかな。例を上げると搬入に来た運送会社のトラックから燃料が漏れていたとき、当社の事業継続に影響ないからそれは緊急事態ではないとは言えないでしょう。
そんな状況を見たら、あなたはすぐさま人を集め、周辺を火気厳禁を周知するとか、燃料タンクを石鹸でふさぐとか、路面に垂れた燃料をふき取るとか、消防署に通報するとかしませんか?
そしてまた緊急に対応しなければならないとしても、ISO14001の緊急事態は環境関連に限定されるでしょう。
ジム・ロジャーズがTOBをかけてきたら、経営層や株主にとっては重大で緊急な問題でしょうけど、環境担当者にとっては職責外だ。環境担当者にとっての緊急事態はISO14001に限定されないが、己の職務の範囲を超えるものではない。
TOBは株式部とか総務部の、品質クレームは品質部門の、不審者や犬猫 の侵入は警備部門の緊急事態であって、環境部門の緊急事態ではない。
もちろん会社の仕事は、環境・品質・財務だと分けられるものではなく、シームレスにつながっているのは言うまでもないが、司司であるのだから、それぞれが己の職責を必達しなければならないということだ。
注:
私の経験を振り返り緊急事態といえるものといえば……
しかし緊急に対応しなければならないということは、環境問題ばかりではなく、事故とか異常ばかりではない。
「悪臭がする」と近隣住民から通報があれば、発生源が明らかに社外であっても、最低限、苦情を言ってきた人の前で、すぐさま動く姿勢を見せないとならない。
何者かが工場構内に入り込んだと通報があれば、ガードマンは悪童どもを探して構外に放り出さなければならない。成人なら場合によっては警察だ。
法違反は緊急事態ではないと語るISOコンサルは多い。確かに省エネ法やPRTR法の集計が手間取り、法で定める期限より遅れても緊急事態とは言わないだろう。
でも法違反といっても多様だ。昔はシンナーなどの盗難が多かった。はっきり言って塗装屋でシンナー1缶なんて目じゃないから「またか」で終わるところもあるが、盗難があれば直ちに届け出なければ違反で罰金は30万である。(毒劇物法17条の2・25条)
廃棄物処理委託で委託先がなにか問題を起こせば行政に相談なりするのは早いほうが心証が良い。
緊急事態とはどんなもので、その範疇は大体見えてきた。
では具体的な緊急事態とは何か、どのように見つけるべきかを考える。
ハインリッヒの法則というのがある。元々は労働災害における経験則だった。100年ほど前に保険会社で働いていたハインリッヒという人が見つけたそうだ。
それは「1件の大きな事故や災害の陰には、29件の軽微な事故や災害、そして300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)がある」というもの。
重大災害 1件 |
軽微な災害 |
29件 |
災害に至らない事象 |
300件 |
後に労働災害以外のことがらでも、大きな問題が起きる前には小さな問題がいくつも起きていて、問題に至らない事象はたくさん発生していることがわかった。もちろんものにより比率が1:29:300とは限らない。
それで大問題の発生を防ぐには、小さな問題が起きれば再発防止策をとること、ヒヤリとした事例を集めて潜在している問題を見つけて、事故を予防するという考えが一般化されてきた。
半世紀以上前に工業高校で、アメリカで航空機事故をなくそうとヒヤリ・ハット事例を集めて対策して事故を減らしたことを
今はヒヤリ・ハットが発生したら、即時情報を関係部門に伝え予防処置をするのが一般的になった。
すると当社にはどんな緊急事態があるのか? と考えるまでもないことが分かる。
過去に発生した小さな事故、ヒヤリ・ハット事例を集めれば済む。わざわざオイルタンクから重油が漏れたなんて無理やり想定することはない。
具体例をあげる。
2019年の台風で洪水があり、九州の某工場で油漏れが起きた。加工に使う油が入っていた槽に洪水の水が入り、油は水より軽いから外に流れ出たと報道された。最初それを聞いたとき、私も工場の施設管理をしていたから「担当者は運が悪かったなあ〜」と同情した。
ところがところが、ネットで調べたら、その工場は20年くらい前の台風来襲時に、まったく同様の油漏れ起こしていた。それじゃ同情の余地はない 💢
仏の顔も三度というけれど、実際問題 世間では仏の顔は一度だ。二度目はない。だから再発防止が必須だ。
環境先進企業として知られるIBM社は、発生した事故や違反を愚直に再発防止をしてきたという。その結果、事故も違反も減ってきて(それでもゼロにはならない)世の中から素晴らしい企業だと評価された。
そういう目であなたの会社を振り返ればどうだろう。すぐに緊急事態なるものが10も20も見つかるのではないだろうか?
「ボイラーの屋外重油タンクがあるから油漏れがあるかもしれない」ではなく、昨年発生した事故は何か? 一昨年発生した事故は? 三年前、四年前……20年くらいさかのぼりなさい。現実が見えてくるはずです。
案外ボイラーの屋外重油タンクから油漏れなんて発生していないんじゃないですか?
じゃあ重油タンクからの漏れは緊急事態に取り上げなくてよいのか? という逆ねじを食いそうだ(笑)。
ちょっと待って、
漏れや事故が発生してなくても、消防法(12条の3の2)で定める定期点検しているはず。定期点検は年間計画とか社内文書に定めているはず…でないと忘れちゃうから…ということは、元々手順を決め、計画を立てて点検していることになる。
それってどう呼ぼうと、名前はともかく緊急事態に取り上げたときにISO規格でしなければならないと決めていることを、過去からしているということにならないか?
緊急事態に取り上げた場合と、取り上げなかった場合は何が違うの?
ISO14001の緊急事態の項で述べているのは、
注:上記は永遠に繰り返されるわけで、どこから始まってもよい。
要するに事故が起きたときに備えておくだけのことでしょう。
それはほとんど既に法律で規制されている。そしてまともな企業なら法律を守っているはず……ISO14001でも法律を守れって書いてある。
だとすると多くの場合、世間で緊急事態があるだろうと考えているものは、定期的な点検や保守、警報、用具、通報などを法律で定めているのが現実だ。
ということは……屋外危険物タンクをISO14001で緊急事態にしようとしまいと、実質的に関係ないのではなかろうか?
屋外石油タンクのような大物はおいといて……過去10年間のヒヤリ・ハットと小さな事故を調べると、緊急事態に取り上げなければならないものが多数になるかもしれない。
私の経験だが、ISO審査員が「小規模な油漏れとか室内で収まるなら緊急事態にしないで良い」なんていうんだよね。会社の担当者も緊急事態は手順書を作りテストをしなければならないから、数が少ない方が手間がかからない。喜んで安易な方に妥協してしまう。
それはおかしいよね!
緊急事態とは緊急に対応しなければならない事態である。たくさんあるなら、そのたくさんあるすべてに対応しなければならないのは理屈だ。
もし緊急事態に順位をつけて、上位20位までは対応するけれど、21位以下は無視することができるなら、それは本当は緊急事態じゃなかったわけだ。ならば初めに抽出した方法が間違っているということになる。
その辺を議論するときりも限りもないからとりあえずパス
ある会社に行ったときのこと、担当者が私に従来から事故が起きないように対応しているのは何十とあるのですが、ISO審査のとき煩わしいので大きなもの10件だけを緊急事態にしているのですという。
その気持ちはわかるけど……いや、わかんね〜なぁ! まじめに仕事しているのを、わざわざ隠して二重帳簿にすることはないだろう。そうすると何か良いことがあるのか? 堂々と「当社には緊急事態がたくさんあります。みんな対応手順を決め、用具を準備し、テストをしています」と言えばいいじゃないですか。
それと勘違いしてはいけない。そもそも緊急事態が予測されるならその対応手順を定め、作業者に教育訓練をすることは元々していたはずだ。たくさんあるから手順書を作らねば……訓練せねば……となることはない。
過去からある手順書を見せ、過去からしていたことを説明すればすむ。
過去していないなら、ISOと関係なく、今までしてなかったことがおかしい。
はっきり言って、審査員が言ったとかコンサルが言ったというのは無意味だ。あなたはISO審査で不適合が出なければよいのではない。あなたの会社で事故や違反があったとき、速やかに異常な状況を正常に戻し、被害を最小にとどめ、もちろん法を守ることが責務なのである。
ISO審査員が大丈夫と言っても事故や違反が起きれば、責任を負うのはあなたである。言い換えると、ISO審査員がダメと言おうと適法で事故予防と緊急時の対応がとれるなら恐れることはない。
はっきり言うけどISO審査員なんて言いたい放題で責任を取らない。もし審査後に御社で事故が起きたり違反が見つかれば、認証機関/審査員は会社が嘘をついていたから認証取り消すと言えば済むのだ。
本日のまとめ
緊急事態とはなにかと聞かれたら、過去からしていることを説明すればよい。
緊急事態が多すぎるとかいう審査員は……教え諭すしかないORZ
本日の予告
私のブログ「うそ800」にK様、あぐー豚様からお便りをいただいた。
それについてその3に書く。来週まで待ってください。