JQA CSR報告書 2020

20.11.26

環境報告書の発行日は、6月末の企業が多かった。それにはいくつか理由がある。
まず日本の会計年度は4月はじまり3月締めなので、環境報告書のデータも会計年度に合わせているのがほとんどだ。それで4月初めから作業を開始すると、頑張っても6月頃になる。
それから多くの会社では株主総会が6月にある。今から20年前から10年前までは、環境報告書は立派な会社の証明のように見られていて、環境報告書を株主総会に配布したいとは誰でも思いつく。そんな訳で、6月末に発行していた会社が多かった。
過去形で言うなら、今は違うのか?
そう、現代ではあまり無理せず正確な情報をまとめようという風潮となり、無理して株主総会までに発行する会社は減った。言い換えると環境の重要性というか注目度が下がったのだろう。

JQAは当初から11月発行(報告期間は2019年4月から3月)だった。これはかなりゆとりがある。今年も11月9日に2020年版が発行された。
JQA CSR報告書 2020 JQAは2009年から環境報告書を出している。我が国にJAB認定のISO認証機関が36社(2020.11.22時点)あるが、過去現在、環境報告書を日本語で発行したのはJQA以外ない。これは立派なことだと申し上げておく。(環境報告書を広報しない認証機関があるかもしれない)
とはいえ、2009年からというのは日本では超遅いほうだということも申し上げておく。例えばパナソニックは1997年からだ。日本の一流企業はみな20世紀から発行している。
JQAの「環境報告書」も2014年から「CSR報告書」と改名し、それ以降 社会貢献やコンプライアンス体制の広報が増えたが、代わりに環境情報が減った。2020年報告書は表紙込みで40ページあるが、環境情報はたったの3ページである。これでは環境パフォーマンスの広報としてはちょっとプアだろう。

本日は「JQA CSR報告書2020」を見て、感じたこと・考えたことをコメントする。
もっとも私がまともに読んだのは環境のパートのみだ。

環境負荷の全体像の数字に理解できないところがある。(p.30)
エネルギー投入量の原油換算と、アウトプットの温室効果ガスの排出量の数字のつじつまが合わないように見える。
もしかしたら電気の購入先の一次エネルギーの違いとか、二酸化炭素排出係数の異なるものが混じっているのかもしれない。正確な数字であると思うが、関連がわかるような記述が欲しい。省エネをしていた者には非常に関心のある数字であると申し上げる。

品質の取り組み 技術力の維持・向上を図っています(p.33)
ISO審査員に対して、「「目からうろこの環境法」とともに、「環境法の基礎の基礎」の審査実践編を行いました」とある。
教育訓練の成果をどう評価するかは、いつも議論となるところだ。教育訓練をすることを力量強化の指標としてよいのか? その結果として実際の力量が向上したことを指標とすべきかである。
このCSR報告書において、ISO審査員の力量向上を教育訓練したことをもって成果としていることから、一般企業についても教育訓練を実施することによって要求を満たすと考えていると理解する。
間違いないよね? ISO9001:2015では「力量を身に付ける処置をとり、とった処置の有効性を評価する(7.2 c)」とある。JQAは、この後段がなくても規格要求を満たすと考えているわけだ。
もちろん審査員にも、「教育訓練の実施をもって力量があると判定すべき」と周知されていることだろう。いや、皮肉ではない。審査において後段を要求するなら、自組織に対しても同様に判断するだろう。

おっと、失礼、
JQAにおいてはしっかり研修の成果を確認し力量の向上を評価していますか。それならぜひとも力量を示す指数とその確認方法をご教示いただきたくお願い申し上げます。


JQAの概要(p.39)
感想というか老婆心であるが・・・この時世でもJQAの売上は順調に増加している。しかしISO認証関係は微減が続いており、売り上げに占める割合は減る一方だ。

20152016201720182019
売上(億円)148145153157158
ISOの占める割合53%49%49%48%46%
ISO売上推定(億円)7871757572

注:JQAのCSR報告書には総売上のみ数値が記載されている。ISO売上推定額はグラフから読み取った。

生物だけでなくどんな製品やサービスにも、そしてビジネスモデルにも寿命がある。むしろ第三者認証というビジネスモデルが30年も継続したという事実は不思議とさえいえるだろう。JQA内部ではISO認証事業の今後が検討されていると思う。
かって検査機関だったJMIが、第三者認証ビジネスに進出しJQAと改名したように、今 新たなチャレンジのときなのかもしれない。
昔、JMIに種々の試験でお世話になり、JQAとなってからISO審査も受けた人間として、更なる発展を祈念する。


うそ800 本日の希望
JQAの環境活動を、ISO14001の要求事項を満たすように改善してほしい。
ひとつ、環境目標策定においてにISO14001規格に準拠していただきたい。JQAの目標を参考に作成した受査企業についてはISO審査において問題なく適合判定をすると理解するが、それでよいのかと疑問をもつ。
ひとつ、CSR報告書の環境パフォーマンスを具体的な数字で示してほしい。イメージだけの環境報告書では、環境報告書ガイドライン制定以前の20世紀末の環境報告書ようだ。
ひとつ、もっと多様な環境データを公開してほしい。内部監査でカテゴリーがAとかでなく具体的に、順守評価結果の内容など知りたいことは多々ある。
なお、昨年もJQA環境報告書の読書感想文を書いております。ご一読いただければ嬉しいです。残念ながら昨年から一歩も進歩が見られない。
環境報告書を検証する機関なら、国内外に範を垂れてほしい。




注1
ドラム缶 原油換算とは、使用エネルギーには電気、ガス、石油などがあり、それらを合計するために、それぞれのエネルギー量を原油に換算する。換算係数は省エネ法で定められている。

注2
売り上げが増えれば使用エネルギーが増えるのは当然だ。だから単純に使用エネルギーを減らすことを法律で定めているのではなく、売上とか生産数量などで使用エネルギーを割った原単位当たりエネルギー使用量を削減することになる。

注3
省エネ法で工場やビルなどで、原油換算3,000kl以上だと第1種エネルギー管理指定工場等に該当し省エネ義務、有資格者の配置、管理体制の構築などが要求され、1,500kl以上だと第2種エネルギー管理指定工場等に該当して第1種より緩いが省エネなどの規制を受ける。

注4
資源エネルギー庁ウェブサイト 省エネポータルサイト



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