監視についての雑談

20.12.10

私は退職してからフィットネスクラブに入会し、そこで開設しているスイミングスクールに参加した。 クロール ところが初歩から初めて1年も経たないうちにコーチが退職してしまった。後任はフィットネスクラブのえらいさんで、中継ぎであることがみえみえ。更に儲けがないからか、その翌年スイミングスクールはなくなってしまった。
それでもまったくの金づちだった私も、一応クロールは泳げるようになった。それからは、延々とクロールを泳ぐ日々。そんなことを以前書いた
でもクロールだけでは面白くない。周りで平泳ぎしている人を観察してはその真似をした。そんなことで平泳ぎもどきはできるようになった。
いろいろと問題があって、2019年夏にフィットネスクラブを代えた。そこにはスイミングスクールがあったので、平泳ぎもどきを卒業したいという思いでちゃんと習うことにした。


では本日のお話の始まり、始まり……
おっと、本日はスイミングのお話ではなく、ISOのお話であります。いや、そのつもりなのですが、ISOまでつながるかどうか定かではありません。
ともかく行ってみましょう…

通常フィットネスクラブのスイミングスクールといってもいろいろあります。お金のある方は、マンツーマンで習うというのもあります。それほどお金のない人は、数人でコーチを頼むというのもあり、お金を使いたくない人は無料レッスンというのを受けることになります。無料レッスンとは、コーチ一人で10人とか多いときは30人くらいの受講者が習うという形式になります。
もちろん上達はレッスンの密度次第ですから、生徒が一人より二人、二人より三人と増えるにつれコーチの目は届かず、指導密度は下がり上達スピードは鈍化します。
もちろん上達スピ−ドは指導密度だけの従属関数ではなく、本人のモチベーションや素質、コーチの能力、練習時間なども関わります。

熱心な方はそれだけでなく、スイミングのハウツウ本を読んだり、水泳のDVDやU-tubeを見たりするでしょう。更に自宅の畳の上で体を動かして、習ったことを確認する方もいるでしょう。
そんなことの積み重ねが、泳ぎを習うということかと思います。


さて、そんなふうにスイミングを習うわけですが、簡単には上達しません。一番問題と感じるのは、 平泳ぎ 自分の動きを把握できないことです。
コーチが「キックは足を広くけるのですよ」と言う、そしてやって見せる。そこまではいい。しかし自分がそれを真似てキックしても、それがコーチの教えた通りのものかどうか自分ではわからない。あげくに足の広がりが狭いとか、あおり足になっているとかダメだしされます。

* あおり足とは足の平でけるのではなく、足の甲でけること。これでは前へ進みません。

問題は、自分の手足の動きを自分が見ることができないからです。上達とは、コーチの動きと同じように動けるようになることです。でも自分の動きが見えないのですから、コーチと自分がどう違うのかわからない、だからその差を縮めようがありません。私もコーチのする通り手足を動かしているつもりでも、全然違うと言われることが多いのです。
文字通り自分を客観視できない、これが問題です。
手取り足取りという言葉がありますが、コーチが手足をもって動かしてこうしなさいといっても、それは動きを見ているわけではなく、動かされた感じを受けてそれと同じように動かすというだけです。直接的に動きを見るわけではなく、いってみれば代用特性なのです。どこまでいっても自分の動き見ることはできない。

何かの本で読んだが、元SONYの大賀社長が芸大の学生のとき、当時SONY社長だった盛田氏に会った。そのとき大賀氏は、声楽家は自分の声が聞こえない、自分の声を聴かなければ上手にならない、だからテープレコーダーを作れと語ったそうだ。
その結果、盛田社長は大賀氏をSONYにひっぱり、後に大賀氏はSONYの社長になった。SONYがまだ元気だった時代の話である。出井社長以降はSONYは見る影もない。

SONYはどうでもいいが、大賀氏が語ることは真理である。フィードバックをかけるには現実を把握することが重要だ。
その手段が声楽家にとって録音なら、スイミングでは録画である。ときどき生徒の泳ぎを撮影して見せるスイミングスクールはあるが、日常の指導で常時録画して見せ、悪いところを示して正しい動きを教えてくれるところは知る限りない。
ましてレッスン以外に、個人的に泳いだときの自分の泳ぎを見ることは叶わない。常時プールの映像をロビーのテレビで流しているフィットネスクラブもあるけど、自分が泳いでいるところが見られるところはないようだ。
じゃあ友人同士で撮影すればよいかといえば、一般のフィットネスクラブでは場内の撮影を禁止している。なぜかわからない。
ということで、自分が泳いでいる姿を見たいと思ってもできない。それが上達を妨げていると思う。


自動制御においてフィードバックをかけることは重要というか必須である。正しい状態に維持するとか、目的地(目的値)に達するためには、オープンループ制御では、よほどシステムの信頼性が高く(あるいは単純で)そして外乱を受けないもの以外は実用にならない。系内に異常が起きても外乱を受けても目的を果たすには、フィードバックが必須だ。

毎度ばかばかしいお話ですが…… 最近ではフィードバックというと、地球温暖化しか思い浮かばない人が多いかもしれない。しかし"feed back"は一般的な熟語であり、その意味はto give advice or criticism to someone about something they have done、つまり「行為や動作についてアドバイスや批判すること」ということだ。もちろん使われる分野によって特有な意味あいはある。
例えば自動制御や電子回路では「出力された結果を入力側に戻して目的値を狙うこと」であり、ビジネスでは「仕事の仕方や成果を見た人が、行為者に意見・指導すること」であり、マーケティングでは「市場調査結果から仕様や売り方を見直す」などを意味する。
決して温暖化ガスによって、寒帯で海水浴が楽しめるようになることではありません。

フィードバックをかけるといっても多様な方法がある。
オーディオならアンプの出力を帰還させるのが一般的だが、それではアンプを出てからのノイズやスピーカーの周波数特性の影響は反映されず野放しだ。それでスピーカーから出た音をマイクで捕らえ、それをアンプの前に帰還させるモーショナルフィードバックというものもある。

フィードバックの絵
* 方法は上図以外もある(下記囲み参照)

モーショナルフィードバックとは…… スピーカー 細かいことを言えばモーショナルフィードバックには多様な方法がある。私が関わったものには、スピーカーにボイスコイルを二つ巻いてひとつを駆動用、他を検出用とした方式と、スピーカーの直前にマイクを置く方式がある。
よりリスナーの状況を反映するなら、見たことはないがリスナーのところにマイクを置くのも考えられる。ともかく電気信号でなく、振動を捉え帰還させればモーショナルフィードバックだ。

同じようにNC工作機械の位置決めのフィードバックも、サーボモーターの出力を帰還させるもの、実際の刃物の位置を検出して帰還させるものなどいろいろだ。
理屈からは、出力の最終段階から帰還させるのがあるべき姿だろうが、仕掛けが複雑になる、位相を合わせるのが難しい、タイムラグの問題がある。それで最終段から信号を戻しているフィードバック機構はめったにない。


自動制御でも人がする仕事でも、フィードバックをかける意味は全く同じだ。とはいえ自動制御と人では違うこともある。

自動制御の場合は必要な信号を取り出して戻すことができるというか、把握できる信号しか戻せないというのが現実だ。
人間の場合は融通がきくから、必要な信号を取り出すことが難しいときは、代用特性をとってフィードバックをかけることになる。
スイミングスクールでコーチが生徒の動きを論評することや、手足をもって動かすことは、言ってみれば代用特性であり、生徒の実際の動きを生徒に伝えているわけではない。

またフィードバックかける信号をどこから取り出すかも考えなければならない。
例えば顧客満足を調べるのを前記のオーディオに例えれば、社内の営業部の意見を基にするのはアンプの出力からフィードバックをかけていることに、最終顧客の意見を聞くことはスピーカーからでた音をマイクで拾ってフィードバックをかけることに相当する。
最終顧客の声が真実だから最終顧客の声を聞くことがベターかといえば、そうとも言えない。回答者の視野が狭いとか立場や状況が大きくばらついていて統計的に意味がないかもしれない。また営業部の声のほうが過去の歴史とか、コンペティターの状況を知っていて適正かもしれない。
だからどんな場合でもフィードバックをかけるには、ノイズや位相などを検討し、最適な信号検出ポイントを決めなくてはならない。

自動制御では回路を組んでしまえば自動的に処理してくれるからおしまいだが、人間の場合は定期的に管理者が状況を把握し、相談に乗り指示しなければならない。更に人間のほうが繰り返し作業においてはバラツキやすくエラーが起きやすく、注意が必要である。

現行のスイミングスクールの教え方を改善して上達スピードを向上させるには、生徒の動きを動画に撮って、コーチとの違いを目で見て比較できるようにすることだ。
そうすれば生徒はコーチの思う通りの動きができなくても、コーチが示すあるべき姿と自分の泳ぎの実際を知ることができる。
以上述べたことはスイミング上達だけの話ではない。我々が日ごろしているお仕事でも、是正したいことが正しく伝わっているのかどうか怪しいものだ。

PDCAとフィードバック PDCAの絵 フィードバックとPDCAは同じかと問われると、似てはいるがちょっとというか大きく違う。
まずフィードバックにプランはない。というかフィードバックはプラン/目的を実行するために存在する。だからフィードバックはチェックとアクトだけ。
PDCAのシューハートサイクルは継続的改善が目的だが、フィードバック(正しくはネガティブフィードバック)は継続的維持が目的である。

ええと、ISO14001には……というか2015年以降はISOMS規格はどれも共通テキストになって同じですが……「パフォーマンス評価」という条があり、その「一般」という項で監視について記している。だが記述していることは微々たるもので、実際にどんな仕組みにすべきか、どんな情報をどうするかってのはまったく及んでいない。
まあ、そこは組織(企業)が適当にしろよということなのだろう。

私は44年のサラリーマン人生で管理される立場にもあったし、管理する立場にもなった。また個人的に勉強なり趣味なりにチャレンジしたこともあった。
そんなとき目標を立て行動したわけだが、自分自身まずいと思ったのはフィードバックが十分には機能しなかったことだ。その原因はやはりチェックが弱い。更に言えば監視の指標が適切でないというか目標が具体的でなかったから、いやいや更にさかのぼればプランが具体性に欠けるからだ。
目的(objective)が具体的になっていれば、主要点での目標値(target)が具体化し、それを達するための行動(plan/act)もそれに見合ったものになる。
要するに計画策定すべてに渡って甘かったのだろう。
上司も部下も、私以上にいいかげんで甘かったから仕事が務まったのだろう。😄


うそ800 本日の口癖
誰にでも口癖はある。
ローマ帝国の政治家カトーはどんな演説でも、最後は「カルタゴは滅ぼさねばならぬ」で締めたと伝えられる。
自称ISO評論家の私はどんな話でも、最後は「ISO認証制度にフィードバック機構はないのか」で終える。




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