ISO認証ビジネス2020

21.01.04

馬鹿の一つ覚えであるが毎年最初のコンテンツには、ISO認証ビジネス状況を概観したものを書いている。今もうISO認証に関わってませんが、私の現役時代のISO認証制度に対する恨みつらみを忘れない。その終末がどうなるか興味津々です。
おっと、そんなふうに言ってはいけない。逆境から甦ってほしいと言い直します。


うそ800 認証件数

全体を見て感じるのは、もうこれから認証件数増加はないだろうということ。QMSは2006年ピーク、EMSは2009年ピーク、それから10年以上一貫して減少を続けている。2020年も変わりない。

認証件数

どんな製品でもビジネスでも栄枯盛衰はあるし、それを避けることはできない。だが組織に寿命はない、いや組織は終わることを避けられる。なによりも組織の目的は存続することだとドラッカーが語っている。
だが組織は本質的に永遠の命を持つわけではない。存続するためには新しい製品、事業、ビジネスモデルを考えていかなければならない。

長い寿命の会社も常に革新を続けている。例えばIBMはパンチカードから始まり、タイプライター、小銃、機械式計算機を作り、電子計算機更にパーソナルコンピューターを作り、21世紀はハードウェアを売却してソフトウェア、eビジネス、ビジネスソリューションへと変身している。
ISO認証機関が明日からコンサル会社あるいは投資会社になってもおかしくない。いや、それができない会社は淘汰されるしかない。

いよいよISO認証が終末に近づいたと思える今、ISO認証関連組織・企業は、己が永続するために何を検討しているのか、まさにそのことに興味がある。まさか座して死を待っているわけではなかろう。

さて2020年、JAB認定の認証件数は大幅減になった。理由は簡単で認定を受けていた認証機関 数社がJAB認定を辞退したからだ。そのためにJAB認定の認証件数が減るのは当たり前だが、日本国内のISO認証件数が減ったかどうかは分からない。
残念ながら日本国内のISO認証件数がリアルタイムで公表されているわけでもなく、そもそも誰かが把握しているわけでもない。
ヤレヤレ 知ろうとすると、1年遅れであるがISOが毎年行っている ISO survey を見るしかない。しかしこの数字もJAB認定の認証件数とは大きく異なる。どういう調査方法かわからないのでJAB認定の認証件数とは比較できない。ISO surveyから分かることは、前年のISO surveyより増えたか減ったかくらいである。
ところがISO surveyの集計方法も突然変わるから、ISO surveyの数字同士でさえ推移をみることが叶わないというわけがわからないのである。

ちなみにISO survey 2019(2019年の調査結果を2020に公開)では下図のようであった。

全世界のISOMS認証件数推移

注:2017年の後ろに縦線を引いたのは、前述したように調査方法が変わりそれ以前・以後では連続性がないのだ。調査方法がどんなふうに変わったのかも分からない。
ただ日本の数字は連続性があるから、全世界が大幅に減ったのか過去の数字が正確でなかったのか、そんな気もする。

ともかくこれを見ると日本の認証件数はQMSとEMS共にJAB認定の倍以上であるが、認証組織数なのか認証拠点数なのかも分からないのでなんともいえない。言えるのはISO surveyでも日本の認証件数のピークはQMSは2006年、EMSは2009年であったということ、そして今はその半分以下になったということだけだ。
JAB認証件数はまだピークの6割くらいだから、JAB認定はノンジャブより減っていないと思えるが、調査方法や判断基準が不明だから何とも言えない。

全世界の認証件数の推移をみれば、まだまだ伸びるように思えるかもしれない。では中身を見てみよう。

ISO9001世界と中国の認証件数推移ISO14001世界と中国の認証件数推移

注:上ふたつの図の縦線もISO surveyの調査方法が変わったことを示す。

図でオレンジは中国の認証分、グレーは中国以外の国々である。見れば単純であり、認証件数が増加しているのは中国である。全世界から中国を除いたものはQMSは減少、EMSはピークになったところのように思える。
そして大事なことは、ISO認証のQMSの3割以上、EMSの4割以上が中国だということだ。その中国さえもトランプのせいかどうかはともかくISO認証件数が増えてないということだ。
ちょっと待て
ISO surveyの方法が変わってから、全世界が伸びているように見える。うがった見方をすると、全世界もそして中国も認証件数が伸び悩んでいるから調査方法あるいは算出方法を変えたってことはなかろうか? 私はそんなことを考えてしまった。


プロダクトライフサイクルの絵というもは模式的には下図のようにあらわすことが多い。
しかし実際の製品や事業の生産数量や売上推移をみると、 プロダクトライフサイクル ピークに到達するまでのカーブは正規分布の左半分に近似しているが、ピーク以降はものすごく緩やかな直線近似で減少するのが普通だ。
冒頭にあげた日本の認証件数を眺めると、EMSは完ぺきに現実のプロダクトライフサイクル曲線に一致する。導入期と成長期は正規分布の左半分に近似しており、ピークを過ぎたのちはだらだらと緩い坂道を下っている。

しかしQMSは2006年のピークから急減した後、2010年からは傾斜が緩やかになっている。雲仙普賢岳の溶岩ドームというか大型船のバルバスバウのような形状が、おわかりいただけるだろうか。
これはいかなる理由なのだろうか。公共事業における建設業の加点制度のせいなのか? だが国交省はQMSだけでなくEMSも対象だったので、カーブに違いがでる理由が思いつかない。


うそ800 簡易EMS認証件数

ISO14001認証はハードルが高いと考えている組織向けに、簡易EMS認証と呼ばれるものを行政指導、民間主導、また営利企業などが独自の認証制度を設けている。
こういった認証制度の登録件数はどのような状況であるか、簡易EMSの大手みっつを取り上げる。

簡易EMS認証件数推移

注1:
同じ年であってもある認証制度においては上期、別の認証制度においては年度末などのズレがあること
注2:
数字を公表していない認証制度/年度については講演会や論文などの数字によった。
出所によってはこのグラフでは増加していても、2016年から足踏み状態となっているものもある。真偽はわからない。

簡易EMS制度をみっつ合わせても登録件数1万3千件と、ISO14001の認証件数とほとんど同じで、この件数で認証制度を維持することは大変だ。営利企業では固定費もでないだろうし、ボランティアに依存するにしても限界だ。
本家であるISO14001も過去10年以上減少中なのだから、簡易EMSもどうするか決断の時だろう。
手っ取り早いのはCEARの業務をJRCAが引き継いだように、三つが合併すれば固定費削減はできるだろうが、それぞれ規格も違い運営母体も様々だからまずありえない。
簡易EMSの終末はISO認証より早いか遅いか? ISO認証制度あっての簡易EMSだから、ISO認証なき後もということはありえないだろうけど……


うそ800 ISO関連書籍出版数

1997年以降発行されたQMSとEMSに関する書籍数の推移である。それ以外のMSの規格は含まない。

ISO関連本出版数

図に示す範囲にあった規格改定は、2000年、2004年、2008年、2015年であった。規格が改定されたのは今まで年の後半であったので、その年内の発行は間に合わなかったのだろう。そのため発行される本のピークは規格改定の翌年である。
そしてピークは改定を繰り返すたびに低くなってきた。規格が改定されても中身はそんなに変わらないし、改定対応には普通1年半くらい猶予があるからあわてれ対応することもない。また認証機関が改定対応の解説をするのが常だから、わざわざ規格改定の解説本を買う必要がないとわかってきたのだろう。

直近の2015年改定によるピークも2018年には終わった。2020年は8件発行されているが、法改正を反映して環境法規制の解説本が毎年3冊発行されているので、規格解説本は5冊であった。
次回規格改定があるまで、環境法規制解説本と規格解説本合わせて5冊程度で推移すると予想する。

聞いた話だが、ISO本は3000部売れればベストセラーとか、講習会で本を配ることもあるとか。A4の資料を配るなら、製本したほうがありがたみがあるということか?


うそ800 ISO雑誌発行部数

2020年現在、ISOMS規格やマネジメントシステムに関する定期刊行物はアイソス誌のみとなってしまった。2000年頃はアイソムズ誌(2006年終刊)とかISOマネジメント誌(2013年終刊)があった頃は、ISOもまだブームだったのだろう。
2018年には日経エコロジーもタイトルをESGと変え、内容もマネジメントよりも環境や持続可能時代のビジネス誌となってしまった。もう完全にISOの時代は終わった。

過去からの継続の意味で現存する二誌の発行部数推移を示す。

ISO雑誌発行部数

過去5年間、発行部数に変化がなく、既に二誌とも利益は出てないだろう。環境雑誌ビジネスの終末だろう。アイソス誌は電子書籍とかカットアンドトライをしているが、あとどれくらい続くのか?


うそ800 CINII論文数

CINII(サイニイ)とは国立情報学研究所の略称。そこで日本の論文のデータベースを構築している。「ISO+14001」と「ISO+9001」で検索して該当する論文を数えた。

CINII収録論文数

なおCINIIに収録される論文は、いわゆる学術論文だけでなく雑誌の記事なども対象であり、その時代に関心を呼ぶものが登録される。だからCINIIの登録件数が記述された論文の多寡を示すのではなく、世の中がどれほどその分野とか事柄に関心があるかの指標としたほうが良い。
なお、いったん登録されても時が経つと登録が見直しされて、削除されるものも多いようだ。上記グラフはその年に登録されたものを数えているので、現時点既に削除されてしまっているものもあり、過去の件数はこれより少なくなっている。

2020年に登録されたものはISO9001・ISO14001共に2件であった。20年前に年間300件もの論文が登録された時代は想像もできない。

規格が制定や改定があった翌年と翌々年はその解説などで数多くなるわけだが、時と共にその山も低くなってきている。ちなみに今までに制定・改定があったのは1994年、1996年、2000年、2004年、2008年、2015年である。2008年改定のときまではその影響がみられるが、2015年改定では山が見られない。
関心を呼ばなくなったのか、あるいは規格改定のインパクトがなくなったということか。インパクトがなくなったということは世の中に同化され騒ぐようなことでなくなったなら良いことだ。


うそ800 グリーン調達におけるISO14001の扱い

毎度であるが、各社のグリーン調達基準書で環境マネジメントシステムがいかほど重要視されているか(いないか)を調べた。調べる方法はgoogleで「グリーン+基準書」で検索し、検索されたグリーン調達基準書あるいはそれに準じたもので、2020年に制定・改定されたものにおいてEMSに関する要求内容を調べた。

これはその年で生きている調達基準書の要求を調べているのではなく、その年に制定・改定された調達基準書の要求を見ている。つまりその時代ではどのような要求がされているかを見るものである。

グリーン調達とグリーン購入について グリーン調達とグリーン購入の定義は定まったものはない。使用する人や団体によって意味が異なり、真逆のこともある。
一般的に企業においては、グリーン調達という言葉を製品に関わる原材料や役務について使い、グリーン購入という言葉を生産財以外の例えば文房具やオフィス什器の購入に使う。
ここではこれに従い、文房具や器具備品などの購入の際に環境配慮を求めるものは除外している。
ちなみに文具、什器などの購入の際の要求事項は、購入品の環境配慮だけで、調達先における環境配慮やマネジメントシステム要求はない。
原材料や役務調達においては、ISO認証、マネジメントシステムの構築、原材料の含有化学物質の規制、輸送・保管における環境配慮、環境活動など多様な事柄から取捨選択されることが一般的である。

グリーン調達においてEMS要求状況

注:「認証要求」とはISO14001だけでなく、エコアクション21、エコステージ、KESなどを含めて外部認証を要求するもの。

過去より要求レベルが2年ないし3年で波打っており、それは企業の調達基準書の見直しがその間隔で行われているからと推察する。上記グラフからは全体的なイメージが持てないので、それぞれに重みを付けて一つのグラフにしたものが下図である。

グリーン調達におけるEMS要求の変化

注:重み付けは下表による。配点の根拠は特にない。
「調査のみ」も0点にすべきかもしれない。

重み付け点数
5点ISO認証を要求
4点ISOまたは簡易EMS認証を要求
3点EMS構築を要求
1点EMS認証状況の調査のみ
0点EMSについて要求なし

EMS認証に関する要求は年と共に減少してきており、2015年頃から評点が2点、つまりEMS構築を要求とするレベルに落ち着いてきている。世の中の要望は、認証は不要だがEMSはしっかりしてほしいということだろう。

経過を考えてみよう。企業が環境イメージアップのためにアッピールするために、2000年まではISO認証を強調していたが2000年にはISO認証しているのは当たり前となった。
そこで次なる活動としてグリーン調達・グリーン購入を打ち出してみたものの、マネジメントシステム要求を前面に出したものでは漠然としていて意味がないことに気づいた。また2010年頃からの欧州の化学物質規制など具体的な規制が表れて購買基準に反映することになり、これが真のグリーン調達だと気がついたのではなかろうか?
当然そのときマネジメントシステム(仕組み)よりもアウトプット(結果)が最重要であり、規制を守るためのシステムはISOMS規格の要求事項すべてでなく、また規制事項は絶対に遵守しなければならない、ゆえに必要十分事項だけ達せよという要求に変わってきたのだ。

もちろん包括的なマネジメントシステムが悪いわけではない。しかし現行のISOMS規格は漠然としすぎており、欧州の化学物質規制には不十分なのだ。買い手にとって調達先の環境マネジメントがしっかりしているか否かは、長期取引において考慮事項ではあるが、個々の調達品においては法遵守が最重要だ。品質における品質管理と品質保証の違いだろう。

ともかく感じることは、もうグリーン調達はしくみも基準も完成の域に達したと思える。それは最近、グリーン調達基準書の新規制定はほとんどなく、改定も少なくなっていることで裏付けられる。グーグル検索で出てくるのも2010年代半ばに制定改定されたものが今も有効な版としている企業が多い。もう改定の要なしとみなしているのだろう。

私が学生・院生ならグリーン調達基準書とかグリーン調達の考え方や基準の変遷について論文を書きたい。約20年という短期間に考えの発祥から完成形に至るというモデルは稀なことだろう。今なら黎明期の情報が散逸していないから、容易にまとめられるはず。


うそ800 ISO認証売り上げ推移

最初にISO認証ビジネスの業界規模を書いたのは2011年であった。そのとき作成した業界規模のグラフが下図である。

2011年ISO認証ビジネス売り上げ

当時はQMSやEMSの認証件数がピークを過ぎたとはいえ、まだまだイケイケドンドンという雰囲気であった。認証機関やコンサルは、ISO認証の必要性、ISO認証のメリットなど仲人口を、ネットに書き、売り込みをしていた。
当時、ISO第三者認証制度は既にライフサイクルの終末期に入ったことは先見の明がなくても分かっただろうが、それを堂々と書いた人は少なかった。そんな当たり前だがビジネスの渦中にいる人は言いたくなかったことを私はずっと書いてきた。
ところで私の予想は当たったのかというと、当たり前だが私の書いた通りになった。

2020年までの推移と2021年の予想である。予想よりは減少率は大きく2020年現在JAB認定の認証事業の売上はピーク時の5割に減った。ひとつの事業分野(業界?)のマーケットが半減したと考えるととんでもない事態だ。まあ、それがプロヅクトライフサイクルの衰退期そのものであるわけだが……

2020認証ビジネス売り上げ

冒頭に述べたように、2020年には複数の認証機関が認定辞退したために、認証件数は年初より1割以上減少した。しかし私が集めた範囲では審査単価が1割ほどアップしている。もちろん認証組織の規模拡大とか、認定辞退した認証機関の認証組織が小規模だったということもあると思われる。それらを考慮してJAB認定の認証組織の売り上げ規模は2019年比9%減と推定する。
2021年は今のところ認定辞退するところはなさそうで、売り上げ規模はそれ以前の認証件数減と同じとみて2.5%減と予測する。

このグラフを見ると、ISO認証ビジネスはトライフサイクルの終末であることが明白である。ISO認証という制度が必要なのかどうか、再検討するときだろう。

話は変わるが、2020年の倒産は新型コロナウイルス流行があったが、小規模企業の倒産が多いためか負債金額などは過去から増加しているようではない。
東証1部企業ではレナウンが倒産した。負債総額は138億円。なおレナウンの2019年売り上げは連結で500億、単独で350億であった。
JAB認定の認証売り上げは私の推定で2020年約230億であるから、レナウンよりはるかに少ない。また認証機関や認証企業内部の担当者の雇用問題については、絶対数が少ないから問題になることはないだろう。
ISO認証ビジネスが消滅しても、日本経済に与えるインパクトはないに等しいだろう。


うそ800 本日の予想

2020年は新型コロナウイルス流行というとんでもないことが起き、また複数の認証機関の認定辞退もあったが、認証件数も売り上げも過去からの推移の延長上で予想から外れなかった。ということはドラスティックな対策を講じなければ、この流れは変わらないということだ。
過去20年間の審査機関や審査員研修機関の現実を見れば、事業撤退とか身売りをしたところはあるが、アグレッシブな活動は見られない。とするとこれからもなにもせずただ消滅を待つ可能性が大だ。今後10年くらいこのまま年2〜3%程度で単調減少を続けるのではなかろうか。そしてピーク時の4割程度となる8年後(2028年)に終息と予測する。
そのときは簡易EMSも同時に消滅するだろう。ISO認証が消滅して簡易EMS認証が残ることはありえない。




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