地球と生命の誕生と進化

21.04.26

お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。


最近、持続可能とか地球温暖化についての本とか、それについてのウェブを見たりしている。地球温暖化などない!と語る有力な人は、渡辺 正と丸山茂徳だ。お二人とも気象が専門ではないが研究者である。
他にも地球温暖化懐疑論の人はいるが、温暖化論者が主に反論(攻撃)しているのは、このおふたりのようだ。攻撃されているというのは、目の上のたん瘤なのだろう。

渡辺 正はダイオキシンが問題になった頃からその著作をいくつも読んでいる。渡辺さんは反骨というか、己の意見に正直な人なのだろう。ダイオキシンなんて問題じゃないと初期から語っていた。後に渡辺さんが語った通りダイオキシンは大して危険なものではない、環境ホルモンなんてないと明らかになった。ダイオキシンを騒いだのは、それで儲けようとした人たちだったようだ。

他方、私は丸山さんのものは記憶にある限り二冊しか読んだことがない。それで図書館から丸山さんの著作を8冊ほど借りてきて読んだ。丸山さんはたくさん本を書いている。ご専門の地質学だけでなく、科学解説から地球温暖化否定まで、対象は専門家向け、一般向け、子供向けと多方面にわたる。
怪しげなというか感情的・感覚的な地球温暖化懐疑論者ではないようだ。なお、感情的・感覚的な温暖化論者は極めて多い。

借りてきた丸山さんの温暖化否定の本を読んだ。
今までいろいろな地球温暖化肯定論も懐疑論も読んだ。否定と肯定の基本的な違いというか分かれ目は、IPCC報告書を信用……信頼ではない……するかしないかだし、それ以外については、データの解釈の違いと言ってしまえばおしまいだ。

私は温暖化しているとは思えないが、素人だから是非は言えない。結局は結果を見るしかない。そして結果は21世紀末にならないとわからない。
もっとも21世紀末になって気温上昇してないときは、温暖化論者は間違いとは言わず、温暖化を止めたのはIPCCと各国政府の成果だというだろう。決して負けのない賭けだ。


書名著者出版社ISBN初版価格
地球と生命の誕生と進化
ガイドブック
丸山茂徳清水書院97843895011742020.06.052800円

借りてき本は温暖化否定ばかりではなくいろいろだった。中に、この「地球と生命の誕生と進化」があった。
正直言って私は本を借りるとき、中身を見てるわけではない。というか今は新型コロナウイルス流行のために、図書館は予めネットで予約して用意できたとき取りに来てほしいという。図書館の書架をさまよったり長時間の滞在は芳しくないようだ。

それで私が借りるときというか予約するときは、自宅でアマゾンその他のレビューを参考に図書館の蔵書検索をしてヒットしたら予約する。どうせ図書館から借りるのだから無料だ。だから途中まで読んで面白くなければオシマイ、あるいは読むのが間に合わなくて返却期限が来たら読まずに返すというのもあり。それで誰に迷惑をかけるわけでもない。

さてこの本を読み始めたが、どうもあまり乗らないというか引き込まれない。全ページカラーでCGの絵がたくさんあり、解説というかキャプション程度の文字があるページが続く。
乗らないというか興味を持てないのは理由がある。一つ一つの絵はきれいで作画するのは大変だったろうが、解説している事項とどう関係するのかわからないものもある。隕石が落ち大きなクレーターができたとキャプションがあっても、古代地球の想像図があるだけで、隕石が落ちる姿もないしクレーターがあるのでもなし。ハテ? と思うだけ。
いろいろな変化とか関係を示すなら、リアルなCGよりも模式図とかブロックダイアグラムにしたほうが分かりやすいのではないか……なんて思う。

というわけであまり興味が持てず170ページの本を50ページほど進んで、パタリと本を閉じたら表題に気が付いた。
タイトルは「地球と生命の誕生と進化」ではなかった。「地球と生命の誕生と進化 ガイドブック」なのである。ガイドブックとはどういう意味か?
初めのページに戻って「はじめに」を読むと、地球の誕生から地球の消滅までをCGで描いたものがYou Tubeにアップされているとあり、その解説を本にしたものだという。なるほど、ではまずYou Tubeを観なくちゃならない。

「地球と生命の誕生と進化」は12編に分かれていて、合計1時間ちょいになる。
最初は興味を持たずに見始めたのだが、中々面白い。結局1時間少しかけて全編通して観てしまった。

そして初めて分かった、本に載っているCGの絵はYou Tubeの動画の一画面なのだ。だから「隕石が落ち大きなクレーターができるとキャプション」のある絵は、隕石が地球に近づいてきて、落下し、すごい衝撃で地殻を吹き飛ばし、クレーターができ……という流れの中の一画面なのだ。本を見ただけでは流れを理解できないのはもっともなのだ。
このガイドブックはまずYou Tubeを観た人が、感動再びとか、もっと詳しく知りたいと思って読む本のようだ。本を見てからYou Tubeを観るという流れはなさそうだ。

最新の研究の成果なのだろうけど、生命が地中で放射線によるエネルギーをもらって誕生したというのは本当なんだろうか?(注1)

You Tubeの全編は、太陽系ができるところから終末までを描いている。地球ができてから大気を持つまで長い時間があり、大気中に酸素が存在するまでは更に長い時間がかかり、CO2が増えたり減ったり、そして水の惑星が水のない惑星になり、プレートテクトニクスが止まる、そして更にまた長い時が過ぎて地球は消滅する。

恐竜だあ 地球も太陽系も一定状態を保つことはなく、常に状況・環境がが変わり続けている。気温も大陸も生物も太陽の核反応も放出するエネルギーも……
現在の地球環境は神が人類に与えてくれたエデンの園ではない。そのときそのときの地球の環境条件に、生息環境が近い生物が繁栄しているに過ぎない。地球の環境が変化していけば、変化した環境に合わなければ滅亡し、適合している生物に座を譲る。そればかりでなく突発的に大きな隕石が落ちたり、大噴火が起きれば、現在生息している生物は一掃され、また新しい生物が表れて新しい生態系が作られる。

サイコロ 今我々が存在するのは、神に選ばれたのではなく、サイコロに選ばれたに過ぎない。その事実を認識しなければならない。


何億年もの時間を相手にしている丸山さんから見ると、大気中の二酸化炭素濃度が産業革命前の280ppmが、21世紀初めの現在400ppm近くに増加したなんてのは、ゴミみたいなどうでもいいことなのだろう。

もちろん400ppmでも生きる死ぬなら重大問題だが、彼から見れば過去から気温の変化、CO2濃度変化、酸素濃度変化など長期短期ともに大きな変化があったわけで、ppmオーダーの変化など、どうせたいしたことはない程度のことなのだろう。
そしてなによりも人類だけでなく生物の生存できるタイムリミットがあるわけで、自分の代で終末では困るかもしれないが、子々孫々の代に終末が来るのは避けられないわけで、それにあがいてもしようもない。

ならば今ジタバタすることもない、ということになるのだろうか?
そして丸山さんは、仮に人類が生き延びられないなら、新しい生物に舞台を譲るから頑張ってねというスタンスのようだ。高校野球の予選で敗れたチームが勝ったチームに俺たちの代わりに甲子園で頑張ってほしいと夢を託すような感じだろうか?

この本では高等生物だけでなく多細胞生物の終焉は10億年後、微生物も15億年後にはすべて死滅するとある。
もちろん最後の多細胞生物は、今存在するものは全く異なっているだろう。現在生息している生物が、今後10億年の気象や地形の変化、天変地異を乗り越えていけるわけはない。


以上はこの本のあらましである。以下、この本を読んで私が思ったこと、考えたことを書く。

私は地球温暖化が本当に起きるのか、そうではないのか、専門家ではないからわからない。ただ天気予報の合間に天気予報士が「桜が咲くのが早くなったのは地球温暖化のせい」とか「近年台風が強力になったのは地球温暖化のせい」と語ることにはまったく同意できない。

桜 だって桜の開花が早くなったのは、地球温暖化説の語る50年前より0.5℃上昇する程度では説明できない。もっと気温が上昇していなければならないが、それは地球温暖化説では説明できない。そして「近年台風が強力になったのは地球温暖化のせい」とか地球温暖化の代わりに気候変動と呼び名を変えても、強烈な台風番付をみれば、伊勢湾台風、枕崎台風、室戸台風、カスリーンお嬢さん、洞爺丸とみな1960年以前だ。最近の台風が強いって本当ですか?

天気予報士でも学者でもアナウンサーでもなんでもだが、私の知っていることについて正しいことを語っているなら、私の知らないことで彼らが語ることも正しいだろうと推定する。
しかし私が知っていることについて間違ったことを語るなら、私の知らないことについても彼らが語るのも正しいとは思えない。
その考えは論理的に正しいとか正しくないではなく、そう考えるのは生きていくための知恵ではなかろうか?

そしてまた資源枯渇は逃げようない現実だ。石油がなくなると半世紀前から言われたがいまだなくならないと揶揄する人は多いが、それは事実と違う。確認埋蔵量とは採算がとれるものであり、採掘費用を上げれば無限ではないが増加していく。 太陽光発電 それにここ10年ほどの状況変化はオイルシェールから石油を取るようになったこともある。

太陽光とか風力発電が化石燃料の代替えになると語っている人もいるが、それはどうだろう、無理なんじゃないかな。究極的には核融合でもしないとだめだろう。あるいは質量を直接エネルギーに変える新しい理論が現れるかどうか?

私が思うに、資源が枯渇すれば科学技術がどんどんと失われるというか、資源に見合った文明レベルになり高度な技術は不要となると思う。
資源枯渇だけでなく地球温暖化によって、現在の科学技術が失われるかどうかわからないが、当然文明が退化するだろう。
その結果、ヨーロッパの中世とか日本の戦国時代に、あるいはどんどんと縄文時代まで戻るのかどうかわからないが、文化も思想も後退しても、生物としての人間が少しでも生きながらえることができるなら、それもよしと思う。

科学とは元々は金持ちの暇人の遊びだった。古代ギリシアや江戸時代の和算を思い浮かべれば納得できるだろう。遠い将来今の科学や数学が失われ、暇人が集まって再び2次方程式の解き方を考えるようになっても、それはそれで良いのではないだろうか?

しかしそのときもっとも求められるのは核融合とかテンソル解析ではなく、農業の輪作とか虫害対策かもしれない。あるいは敵を殺すために砂鉄から刃物を得る方法かもしれない。
それでよいと私は考える。

21世紀初頭の今、地球温暖化だと必死の運動をしてCO2排出をゼロにしても、21世紀末の気温上昇を0.5℃下げるくらいしか効果がないそうだ。その程度のことに頑張るなら将来文明が退化するのに備えて、子供たちにキャンプとか狩ったウサギのさばきかたを教えるほうが生きていくのに役立つ気がする。

昔読んだSFに「大地は永遠に(注2)というのがある。舞台設定は未知の感染症が現れ、あっというまに世界中に蔓延し、過去に毒蛇にかまれた人だけが生き残った世界。
当然政府も自治体も消滅、完全な無政府、無法状態になる。
学者であった主人公は、初めは子供たちに算数や科学を教え、図書館を維持しようとする。しかし読み書きは獲物をとるに役立たず、図書館は生存のための知識をもたらさない。銃の扱いを教えても、孫の代になると銃砲店からあさった弾丸は不発ばかりで狩りには使えない。
最終的に主人公は読み書きや算数を教えるのを止め、考えを変えて弓矢の使い方やコインを叩いて矢じりを作るのを教えていく、そんなお話だ。

資源がなくなる、技術を維持する人口もエネルギーもなくなれば、基本的な生存のための技能が最重要になる。


ところで同時に読んだ「生命と地球の歴史」は1998年発行だが、内容的にはほぼ同じである。学者とはひとつのことを何十年も追い続けないと一人前にそして名を残すことができないのか……大変だなあ〜としか思えない。


書名著者出版社ISBN初版価格
生命と地球の歴史丸山茂徳・磯崎行雄岩波新書40043054381998.01.20740円

「地球と生命の誕生と進化」があまりにもきれいにまとまりすぎていて面白くないと思う方は、こちらの新書(古いけど)のほうが読みごたえがあるだろう。出版時期が20年も違うけど、中身がほとんど変わらないというのもすごい。

面白い図がある。「大気中の各気体の分圧」というもの(p.163)。環境展望台(注3)というウェブサイトに図が載っている。
今CO2増加が騒がれている。しかしCO2が倍になったとしても、この図から過去同様な大気があったときの生態系をたどってみてもたいした違いはなさそうだ。
おっと、この本では丸山さんは地球温暖化について語ってはいない。

3章の末尾は「知らず知らずのうちに、誤った仮定を自明の事実として鵜呑みにしてしまうことが少なくない」と締めくくられる。
これは肝に銘じておかねばならない。我々は「知らず知らずのうちに、マスコミが語ることを自明の事実として鵜呑みにしてしまうことが少なくない」のである。

地震よ 7章の末尾では2億年後には5大陸(南極を除く)がひとつにまとまるある。そのとき日本は巨大な大陸の中央部の大山脈になり、ニューヨークやロンドンはその超大陸の東側の縁にあり、地震や火山に悩まされるという。2億年なんて言わず今すぐ地震をニューヨークとロンドンにお譲りしたい。


うそ800 本日の出会い

そもそもはISO認証も飽きたから持続可能性について書こうと、いろいろ本を読んで地球温暖化に行き当たり、温暖化懐疑論の雄 丸山さんを知り、丸山さんの著書をあさっていて地球の歴史に至ったと……
水野治夫
「映画って本当にいいですね」と語った人もいたが、読書も本当にいい、




注1
生命は地中で発生したと考えている研究者は多いのかもしれない。
東京工大 ジョン・ハーンルンド
物質・材料研究機構名誉フェロー 中沢 弘基

注2
「大地は永遠に」、ジョージ・R.スチュワート、早川書房、1968

注3



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