今こそISO認証の価値

21.08.30

注:この文章は少し前に私のブログに書いたものを発展させたものである(文字数が増えただけかもしれない)。私は20年も前からこのような発想をしなければならないと常々語っていた。
でもISO関係者はそうは思わなかったようだ。まあ考えはいろいろあってよい。しかし個人でも企業でも己の存在意義を立証しなければ誰からも認められない。その先にあるのは不要なものはなくすという未来しかない。


日本は災害の多い国だ。なにしろ日本列島は4つのプレートのはざまにあり、世界の火山の7%があり、また太平洋とユーラシア大陸の境目にあるために台風の通路にあたっている。さらに海岸線が長く、はるか地球の裏側の地震でも津波が押し寄せる。
その結果、世界中の地震の22%、災害被害額の17%、死者の0.4%が日本で発生している(注1)日本の面積が世界の0.25%であることを考えるとものすごく多い。

なお災害は平均的に発生するのでなく、散発的に起きる。だから大災害が発生するとその年だけ被害や犠牲者が突出する。
2019年はフランス、ベルギー、オランダなどで多くの死者を出したが、これは欧州の猛暑によるもの(注2)
暑いよお 確かにドイツやポーランドで38℃とかフランスで40℃を超えたとか。すごい猛暑であったが、日本ならこれほど死者が出なかったと思う。彼らは災害慣れしていないんじゃないか?
ちなみに私が住んでいた福島県某所の過去最高気温は39.1℃(1942)で、133年間に39℃台が2回、38℃台が8回記録がある。8%の年が最高気温38℃以上なのだから暑いなんて驚いていられない。
フランスにはエアコンがないというかもしれないが、私が働いていた会社では事務所にエアコンが入ったのは1980年代、現場は私が去った2002年までなかった。今もないんじゃないかな?

ともかく日本は災害が多く被害も大きい。しかしそれは国民に危機意識がないとか日本の国や自治体が災害対策していないからではない。もちろんそのおかげで日本人は働き者だ、貯蓄する国民性だ、助け合いの精神があるとかいろいろ言われる。

ともかくかような環境にあって現状程度に被害を抑えていること、更に年々犠牲者が減っていることから、防災をしっかりやっているといえるだろう。
疑うなら外国の地震や台風の被害と、同程度の地震や台風による日本の被害を比べれば一目瞭然だ。

最近の報道を振り返っても、台風、集中豪雨、土砂崩れ、地震など災害は多い。
これによる被害は一般市民に対するものだけでない。企業も多大な被害を受けている。中には災害によって倒産や事業終息するものも多い。そこまでいかずとも被害地の事業所を廃止するなど地域への影響も大きい。

ところで最近特に災害が増えていると感じている人もいるかもしれない。しかしそれは勘違いだ。データを見れば過去10年そんなに変化はない(注3)台風が巨大化している傾向もないし、台風が増えているわけでもない。災害による死者も増えていない。いや行政の施策と消防などの努力で災害による犠牲者は減っている。

救急隊員
そういう事実をご存じないなら、よく現実を認識することが必要だ。そうは感じてないのは災害が平均的に発生せず、阪神淡路大震災とか東日本大震災などでは平常時の10年以上の被害額、犠牲者を出すために、大きな災害の記憶が残り平常時の状況に思い至らないこと、また災害はゼロであるべきという思いがあるからだろう。

私は現状が素晴らしいとか、何もしなくて良いというのではない。日本の行政はちゃんとしていること、消防・警察・自衛隊は立派な仕事をしている。
もちろん予防や対応力をさらに高めて、被害を一層減らしていくべきであることは言うまでもない。


災害は地震や津波ばかりではない。2020年からはパンデミックといえる新型コロナウイルス(COVID19)流行は、感染者の死亡や入院治療という問題にとどまらず、経済の低迷、感染拡大防止のために営業規制や個人活動の規制などまさに国難といえる状況である。
新型コロナウイルス流行がいかに大きな影響をもたらしたかを認識しなければならない。

参考までに 近年の災害や経済恐慌による被害額を示す。
阪神淡路大震災直接被害9.6兆円
リーマンショックAGDP減少45兆円 (2008〜2009年)
東日本大震災直接被害16.9兆円
新型コロナGDP減少 30兆円 (2020年のみ)
上記を見て新型コロナの影響が、東日本大震災の被害額の2倍というのに驚くだろう。
なお直接被害とは動産、不動産、社会インフラの損失をいい、GDP減少とは災害がなかった時のGDP推計との差をいうので必ずしも同じ尺度ではないが、 COVID19 コロナの影響が甚大であることは理解できるだろう。
2021年8月時点、コロナ渦が収まる気配もなく、ワクチン接種も2回では足りずブースター接種が必要だという声もある。今後もコロナによる経済損失は続き、総額はいくらになるのか……2021年中に70兆円をはるかに超すだろう。

この文章を読んでおられる方は働いているだろうし、このサイトの看板であるISO認証に関わっている方も多いだろう。ならば当然だが、ISO認証と災害とのかかわりを考えたことがあるはずだ。
御社ではISO認証の前にはマネジメントシステムの見直しを行ったはず。世間ではそれをマネジメントシステムの構築という。本当は構築じゃなくて、点検し不足を補うことに過ぎないのだが。
その結果、災害に対して強靭になったのか? 復旧手順は決めてあったのだろうか? 速やかな復旧ができたのだろうか?

果たしてISO認証によって災害対応効果はあるのだろうか? 具体的に言えばISO認証企業は認証していない企業より、災害にあっても被害を少なく、平常への復帰が早く、事業継続の適応力は向上したのだろうか?

おっと、当社はBCMSの認証を受けていないとか、ISO9001は品質で環境や事業継続とは関係ないとか、当社は情報セキュリティだから災害とは無関係だと遠慮することはない。いや言い逃れは許さない。


品質とは「製品、サービス、プロセス、人、組織、システム及び資源(ISO9000:2015 3.6.1)に備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度(ISO9000:2015 3.6.2)」と定義されている。
過去のISO規格で「本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度(ISO9000:2005)」などと定義していたときでも、ISO認証制度側(認証機関やコンサル)はISO認証すれば(製品/サービスの品質だけでなく)業務の品質を上げる、組織の品質を上げると宣伝し売り込んでいた
それはISO認証された企業の製品/サービスが顧客要求事項を満たす程度の向上ではなく、企業活動の有効性効率性を向上させることになる。ここまではよろしいでしょうか?

上記に同意できないとか、異論のある方も多いだろうから再確認しよう。
QMSというのは「品質に関するマネジメントシステムの一部(ISO9000:2015 3.5.4)」でありマネジメントシステムが事業を推進していく「組織の一連の要素(ISO9000:2015 3.5.3)」であるから、事業が倒産/終息しないようにQMSは組織に貢献するものでなければならないことになる。
その意味ではISO業界がISO認証は会社を良くするというのは当たらずとも遠からじということになるのかな?

いやいや私がそんなことを語ることもない。あまたの認証機関は1990年代初頭から、ISO認証は製品やサービスの品質を上げると語り、1990年代半ばにはISO認証は企業を良くすると騙り、2000年頃からはISO認証は企業の利益を増すと語ってきたではないか
大学教授などもISO認証はすばらしい、ISO認証企業は素晴らしいと語り、実際にあまたの論文を書いた。

某市民団体の事務局長は、ISO認証企業で不祥事が起きたとき「信頼が裏切られた」と叫んだ。裏切られたとは国語辞典によれば「約束、信義を破り敵に味方して味方にそむく」こととある。ということはISO認証とは「不祥事を起こさない効果があると思われていた」ことになる。
その事務局長が勘違いしていると言ってはいけない。社会はそう認識していたということだ。その背景にはISOTC委員はISO14001は公害防止なんかじゃない、経営の規格だと語り、認証制度側も会社を良くする、利益を増すと語っていた事実もある。

私の語っていることを事実無根と語ることは許さない。1990年代半ばからの雑誌に書かれたり認証機関の講演会ではそんなことばかりだ。
疑うなら今から10年前、2010年頃のISO雑誌を引っ張り出してほしい。当時はアイソス誌の他に、アイソムズ誌、ISOマネジメント誌があり、日経エコロジー誌も常にISO認証を取り上げていた。ISO認証制度側の人たちがそこにどんなことを書いていたか読み直してほしい。


とはいえ、ISO認証は会社を良くするとはまったくの虚言でもない。

論理学で言えば
QMS(仮)が有効である⇒(包括的)マネジメントシステムが有効である⇒組織の機能は有効である
はおかしくない。
この対偶は
組織が有効でない⇒(包括的)マネジメントシステムが有効でない⇒QMS(仮)が有効でない

対偶は常に真だから、上記は常に正しいとみてよろしいね?
いや、正確に言えば(包括的)マネジメントシステムは組織活動のすべてではない。それに組織には耐ええる限度があるから、一律にAならばBとは言い切れない。EMSの狭い範囲では有効であっても、包括的マネジメントシステムでは力不足という可能性もある。もっともそうなると「ISO14001は経営の規格」とは言えないことになるが……まあ概ねそういうことにしよう。

ともかくISO認証すればそれがどんな種類のマネジメントシステム規格であろうと、企業の包括的マネジメントシステムを改善し、組織の有効性を高めるはずだ、そうだよね?


具体的なことをあげよう。
ISO14001では緊急事態の対応を要求している。「緊急事態とは環境を汚染するとかその恐れのあるときです」なんて遠慮することはない。
会社の規則(具体的名称は手順書でも規定でもよい)を作るとき、必要なものを作るだろう。環境の緊急事態対応の会社規則を作るとき、取引先が倒産したときも緊急時だと認識しなければならないだろう。ならばそれに対応する手順を決めるはずだ。また感染症が流行したときの対応を決めなければならないと考えるだろう。
エレベーターの保守会社とか生活必需品の販売会社などでは非常時の体制を構築しているはずだ。いやそういった緊急時の対応が必須の業種でなくても、例えばコロナ流行によって営業規制を受けた飲み屋にしても、緊急事態に必要となる対応、例えばパート・アルバイトへの連絡と休業時の扱い、在庫の処置、店舗の電源・空調・戸締りの手順、取引先のとの調整などを決めておかないとまずいのではないか。

個人的な体験だが、ISO規格要求対応の規則を作り、規格の適用範囲以外は作らない会社を多々見かけるが、軽蔑の念しか湧かない。それは審査のためのシステムであり仕事のためのシステムではない。
審査に合格すりゃいいんですなんて言葉を何度も聞いた。社会人として失格ではないのか。自分が担当している環境管理において問題が起きなければ良いのか?
まあ世の中にはISOマニュアルにすべてを書き込め、それで審査は問題ないなんて騙るコンサルも多いから世の中のレベルはそんなものだろう。

あれ?
するとISO認証は会社を良くするとか、経営の規格だと語っていたのと整合しないような気が……


おっと、話が大いにそれた。あなたの会社はそんなレベルではないはずだ。ISO認証のために品質や環境管理に不足があればシステム(制度)を見直しただろうし、同時に品質や環境だけでなく包括的マネジメントシステムの不備がないかを点検し見直しを行ったに違いない。俗に言われる水平展開に過ぎない。

それによって環境の緊急事態とかセキュリティの問題だけでなく、緊急事態対応全般において改善が推進されただろう。同じく品質の認証を受けたなら是正処置とか教育訓練においてしっかりと体制が築かれたに違いない。そうだよね?

ISO認証企業においてそういう体制が構築されているなら、ISO認証企業は認証していない企業より、東日本大震災においても、毎週のように台風が来た2019年のときも、今回の新型コロナウイルス流行でも、その対応は滞りなく行ったであろうし、復旧も素早かったに違いない。当然その結果として被害は抑えられ、正常化するまでの期間も短く被害額も少なかったはずだ。


ではここで提案したい。
ISO認証制度は、ISO認証の効果をそういった改善効果を取りまとめて社会に広く知らしめるべきではないだろうか。
ISO認証の信頼性なんていうあやふやでとらえどころがないものとは違う。既に現実に発生した災害において、ISOMS規格認証は素晴らしい効果を発揮したはずだ。それを調査して取りまとめれば認証の有効性の証拠になるだけでなく、多くの企業に素晴らしい事例を示すことなるだろう。
日本の行政機関は、何事においても調査しその結果や統計を情報公開しているが、残念ながらISO認証との関連は調査していないようだ。

東日本大震災の際に多くの企業において、PCB機器の紛失や漏洩があった(注4)ISO14001規格の認証している企業と認証していない企業においていかほどの差異があったのだろうか? ISO14001以外のMS規格認証企業においての効果はどうだったのだろう?

人 2019年の台風による千葉県の広範囲かつ長期にわたる停電において、ISO認証企業と認証していない企業において対応にいかほどの差があり、被害の差はいかほどだったのだろう?
それは極めて大きかったのではなかろうか?

今猖獗を極めている新型コロナウイルス流行においてISO認証は素晴らしい効果を出し、認証していない企業に差別化しているに違いない。

20年ほど前、ISO認証の効果としてオフィス用紙の削減を取り上げた研究者もいた。れっきとした学術論文であった。
私から見たら残念な人としか言いようがない。
ISO認証制度の方々がそんな話を聞いたら、そんな程度の低い筋違いなことを取り上げられたことで怒り狂うだろう。ISO認証はそんなちゃちなことではない。会社を良くする、利益を上げることではなかったのでしょうか?
ISOTC委員は言ってました「ISOMS規格は経営の規格」だと、
ではオフィス用紙の削減でなく、真の改善効果を見せようじゃありませんか!

コロナ流行で医療関係以外の大学教授も暇だろう。ぜひともISO認証によってこれだけの改善効果があったという論文を書いてほしい。
私はどんなMS規格でも効果があるだろうと期待しているが、QMS、EMS、BCM、セキュリティその他認証規格によって、地震や台風やパンデミック対応の効果に違いがあればそれも知りたい。

おっと、忘れてはいけない
東日本大震災が起きる数か月前に、BCMSを認証したという企業が数社あった。
BCMS認証企業は、震災後に素早い復旧ができたのか、被害をなくすとか極小化できたのか、大震災から10年経つが、そういった報道発表を見ていない。それも忘れずに取りまとめてほしい。

もちろん効果は定性的でなく費用や時間など定量的なものを知りたい。だって何事も費用対効果だ。ISO認証した結果、災害への対応力が向上しても、その効果が投じた費用より小さいなら意味がない。

認定機関やJACBはその成果をまとめて社会に公表する義務があるのではないだろうか?
いや義務どころではない、大いなる宣伝になるでしょう。
それによって認証企業は大幅に増えるでしょう。
期待しております。


すべてのものには存在する目的があり、目的を果たせば存在意義が認められる。
存在意義を立証できなければ、いかに高尚な目的であろうと価値はない。
ISO認証制度は信頼できないと言われ、いや認証制度側がみずから信頼できないと言っていた。
だが何と言おうと認証を受けた企業から毎年数百億の金を集めているわけだ。それは大金だ。認証にはそのお金の価値があると今こそ立証すべきだ。日本中にISO認証の価値を示す責任は認証制度にあるといっておかしくないだろう。


うそ800 本日の挑発

ISO認証の価値について多くの人がいろいろ語った。そんな方々へ一言申し上げる。
ここがロードス島だ、ここで跳べ
さあ、ISO認証の価値を示してもらおう。

BGMにAKBの「ここがロドスだ、ここで跳べ!」をどうぞ
AKBの歌は何度も聞いたけど、しげしげと歌詞を読んだの初めてだった。この歌詞のテーマは水戸黄門の「ああ人生に涙あり」と同じだ。時代が変わり、メロディもテンポも変わろうと、日本人の心情は変わらない。素直な気持ち、愚直な積み重ねこそが尊敬されるのだ。
「ここがロードス島だ、ここで跳べ」は他人へではなく、自分自身への戒めだ。




注1
・内閣府 防災情報 我が国の災害の状況

注2
気候変動監視レポート2019、気象庁、2020.7

注3
台風や気象状況は気象庁のウェブサイト、犠牲者は総務省のウェブサイトを見ればわかる。
 気象庁
 総務省

注4
行政が種々調査をしている。
PCB廃棄物に係る漏えい・紛失等の事例について




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