JQAのCSR報告書は過去数年11月中旬発行だったので、11月末にウェブサイトを見たら今年は10月に発行していた。気づくのが少し遅れたが特に困るわけでもない。
さて早速プリントアウトして読んだが、私は誤って一年前のものをプリントしたのかと思ってしまった。
だって表紙も中身も、既視感があり変わり映えがない。
2019年 | 2020年 | 2021年 | ||
まず表紙はあいも変わらずの絵柄だし、表紙をめくると見開きの絵がある。ところがこれ、2020年版と何も変わっていない……と思っていたら1か所変わっているところがあった。
昨年は「安心と信頼を支え続けて60年」だったが、2021年は「安心と信頼を支え続けて65年」になっていた。1年間に5年進むとはどういうことかと頭に疑問符が浮かぶ。
創業1957年とあるのは昨年と同じである。となると創業からの年数は、昨年は2020−1957=63年で、今年は2021−1597=64年である。
一般的に必要桁以下の端数を処理するとき四捨五入するが、JQAでは数字の端数処理には三捨四入するのかもしれない。わざわざ三捨四入するには何か理由があるはずだ。その理由を考えたが思いつかなかった。
注:普通三捨四入とは端数が4以上なら切り上げ、3以下なら切り捨てることをいう。
しかしJQAの場合は体重計のような方法かもしれない。デジタル体重計で1kg以下の表示が0と5しかないものでは、55.2なら55.0kg、55.3なら55.5kgと表示する。この場合は二捨三入であり七捨八入である。
オーストラリアでは1セント貨も2セント貨もなく5セント貨が最小金額なので、98セントの買い物は1ドル払い、97セントのときは95セント払うのだそうだ。これも二捨三入だ。
体重計なら表示装置の制約、オーストラリアの支払いは細かい貨幣がないためだ。JQAはどんな理由なのか、考えても分からない。
おっと、細かいことに拘っていると進まない。ツッコミどころはたくさんあるから先に進もう。数字とか表現に、不思議だと思うところがいくつもある。実を言ってその多くは昨年もおかしいと思っていたことだ。
そう言えば「1年前のCSR報告書の数字を覚えているか?」とツッコみがあるだろう。
もちろん私は忘れっぽくて1年前の報告書の数字など覚えていない。しかしだからこそ私は2021年版報告書の脇に2020年版を並べて、さらに昨年のJQAのCSR報告書について書いたレビューを32インチモニターに映して、そのみっつを見比べて読んでいる。
だから数字の変なとことか、目標が昨年と全く同じとかいうのがすぐに目につく。
JQAのCSR報告書は完全にパターン化しており、項目名だけでなく、それが何ページにあるかまで決まっている。標準化は悪いことではなく、報告書のガイドラインを満たしているなら問題ない。
だがカットというか写真も毎回同じものというのはかなり手抜きだ。表紙をめくった見開き2〜3ページもそうだが、p.13、p.14、p.16、p.18、p.20、p.22、p.24、p.26、p.32の写真は全く同一だ。あげくにp.32の写真には「2019年実施」とキャプションがある。これは編集者の見逃しか?
だから私は2020年版のCSR報告書かと思ってしまったのだが……
まあ、手抜きといっても単なるイメージ写真なら責めることもなく、安く作ったほうがお財布にも環境にも良いだろう。
とはいえ、p.5の小林理事長だけは2020年より少し老けた御真影が載っている。
おっと、問題はそこではない。
環境関連の指標や内容がおかしいということだ。
お断り
私はCSR報告書全体ではなく環境のパートのみに関心があるので、それ以外は真剣に見ていない。見逃しがあると言わないでほしい。
■p.28 環境負荷低減に関する環境目標
2020年度の目標が1,500kl以下だったのが、実績が1,721klで目標不達であった。それだけをみればCSR報告書にあるように「未達成☁」で済むかもしれない。
だが、ちょっと待ってくれ!
p.30に「JQAの環境負荷の全体像」というページにエネルギーの詳細がある。
2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
電気 万kWh | 543 | 532 | 534 | 568 | 657 |
灯油 kl | 0.16 | 0.38 | 0.48 | 0.20 | 0.34 |
都市ガス m3 | 15,272 | 16,636 | 16,041 | 17,921 | 20,080 |
LPG m3 | 275 | 250 | 359 | 388 | 459 |
テナントビルの空調 kl★ | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 |
合計 原油換算 kl | 1,422 | 1,394 | 1,399 | 1,488 | 1,721 |
この表を見て"おかしい"と感じないだろうか?
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日本のオフィスビルにおける電気使用量の割合は省エネセンターによると、照明40%、空調28%、コンセント32%である。
リモートワークになればいずれも変動するが、リモートワークできるのは一部だろう。試験・校正・検定事業などはリモートワークできない。
ISO審査をリモートで行ったとあるが、審査員は在宅か出社か不明だ。在宅ならご自宅の照明、空調、通信費を会社が持つとしても、家庭の消費電力をJQAの負荷に参入するとは思えない。審査を社内で行っても電気使用量が90万kWh増えるとは思えない。
注:JQAの認証件数は全部で2万くらいだから審査1件あたり45kWhになる。45kWhとは日本の平均家庭での使用量の4日分になる。リモートワークでパソコン・ルーターフル稼働の消費電力は150Wと言われるから、審査7.5hで1,125kWh、まさか1件の審査に44人工もかかるはずがない。
2021年5月に「中部試験センター」開設したということが大々的に掲載されている。
しかしこの「CSR報告書2021」の対象期間は2020/4/1〜2021/3/31までとされている(p.4)。となると電力使用増加は中部試験センターのせいではない。
2021年5月の開設が、2020年度(2020/03〜2021/04)の報告書に載るのもちょっと違和感がある。これは対象期間と発行日が大きくずれていることによるのだろう。
多くの企業の環境報告書は発行日が遅くとも上期中であり、4月以降のイベントは載せないのが多い。
話を戻すが中部試験センターは新たに追加になったのではなく、従来からの組織を移転しただけのようで丸々追加になるわけではない。まして時代を先取りして建物や設備は省エネにしたはずだ。移転により電力増加したとは思えない。
この報告書を見る限り、2020年度では売上や人員に大きな拡大がなく消費エネルギーのみが大幅に増えているとなると、これは問題である。突如として使用エネルギーが16%も増えているのに、なぜかそれを問題としていないのは、それこそフィードバックがかからないおかしな組織だ。
仮にこの増加が年度の後半に発生したとすれば、月3割くらいの増加となるはず。それこそ異常事態だろう。そうでなく年度初から月々16%増加していたなら上半期いや第一4半期で異常を検出し、是正/計画見直しを行うだろう。
「年度末まで計画見直しをせずに16%オーバーしちゃいました、テヘペロ 😋」という話をISO審査でしたら、JQAの審査員なら舌舐めずりして突っ込んでくるだろ。それほど明らかで美味しい不適合だ。
私は新設備購入、例えば新しい機器の検査業務のために新設備導入があり電気使用量が増えたのであれば当たり前のことだと思う。だがだからといって見通しも立てず、計画をそのままにしていてオーバーになりましたではおかしいのだ。
ISO14001規格にあるように、新規プロジェクトなどがあった場合は、速やかに計画を見直さねばならない。
新設備を入れたからエネルギー消費が増えましたではいけない。新しい設備を入れるなら計画を修正し、実績がどうなるのか把握しなければならないだろう。
ともかく前年比15.6%増加、原単位比14%比、目標11.5%オーバーという異常事態であるにも関わらず、数字だけ挙げて解説しないのでは一体これはCSR報告書たりえるのか?
これこそ異常である。
私は前年の報告書のレビューで「JQAの省エネ目標は第2種指定にならないことを目標としているのではないか」と書いていた。
そうかどうかはわからないが、いずれにしても2021年度からJQAは第2種に該当になり、それなりの対応が必要になったはずだ。それについてもこのCSR報告書には何も書いてない。
でもさ、目標を16%もオーバーしても曇☁で良いのか?
土砂降りの雨🌧でなかろうか
■p.29「事業を通じた環境貢献」の環境目標が曖昧模糊である。
JQAはISOMS認証機関である。しかし己の環境目標についてはISO規格要求を無視しているようだ。
私は昨年のCSR報告書レビューにも書いているが、JQAの環境目標は曖昧模糊と言えば上品だが、はっきり言えばいい加減であり、ISO審査なら不適合を出さねばならない。
以下、環境目標をいくつかとりあげる。
もっとおかしなことだが、登録組織とは既にISO認証していることで、認証拡大とはISO認証していない組織を認証することではないのか?
論理的に考えて、既に「登録組織」である企業を更に認証させることができるはずがない。この文章は病的である。
それともこの文の意味は他の認証機関からの鞍替えを推進することなのだろうか? となると他の認証機関よりJQAは認証組織を活性化するなにかがあるのだろうか?
更に根本的なことだが、ISO認証すれば環境活動が向上するのか、未認証であれば環境活動は低レベルなのか?
既にISO14001認証が長期間にわたる企業において、卒業と称して認証を返上するところも出ている。ISOMS規格を満たす環境マネジメントシステムを持つのであれば、認証を受ける意味はない。
であれば「認証=環境活動活性化」という等式は成り立たない。
認証維持サービスというビジネスが興隆している現実を見れば 認証≠環境活動活性化 であることは明白である。
さらに進捗状況が「99〜60%達成」と評価しているが、一体この数字の分母は何か? 分子は何か? 想像もつかない。
要するに、この環境目標は定量的どころか定性的でさえなく、それどころか論理的でないように思える。
これで規格適合なら、JQAはISO14001審査において環境目標がどんなものでも不適合を出せるはずはない。
反論を待つ。
取り組み
「JIS 規格C 9801 に基づく電気冷蔵庫・冷凍庫の消費電力量の測定、
JIS 規格C 9108 に基づく吸引仕事率の測定、
業務改善によって、紙の使用量の削減を行い、環境負荷の低減」
環境目標とはなんだろう?
無邪気に「環境改善のめざすもの」ではない。そもそも環境目標という語はISO14001と共に誕生したものであり、ISO14001認証機関であるJQAは当然その意味を分かっているはずだ。
それは「組織の著しい環境側面及び関連する順守義務を入れ、かつリスク及び機会を考慮し、関連する機能および階層において、確立するもの(ISO14001:2015 6.2.1)」なのである。
だがJQAのCSR報告書にあげられている環境目標たちは、定常業務を羅列しただけに思える。つまり改善目標でさえないのだ。
なんとか環境目標と思えるのは「業務改善によって、紙の使用量の削減を行い、環境負荷の低減」だけだ。とはいえ、それは「取り組み」どころか「環境目標」でさえない。
いったいどこに環境目標の定義である「3.2.5 達成する結果」があり、6.2.2の計画の要件である「a)実施事項、b)必要な資源、c)責任者、d)達成期限、e)評価方法」があるのか?
JQAは規格のshallを満たさなくても適合なのか?
■分からないことは他にもいくつもある。
p.30 JQAの環境負荷の全体像の「資源投入量」と「アウトプット」で、水が過去より急増している。これも中部試験センターとは関係ない。過去4年間、年率11%増加が継続しているなら手を打つ必要があるのではないか?
いやいや、これこそ紙の使用量削減などよりも、重要性緊急性が高いのではないか?
だがこちらについても説明はなくスルーだ。
ぜひ内容を知りたい。そしていかなる原因なのか、どのような手を打っているのか知りたい。それこそが説明責任だろう。
これほどの変化を気にしないなら、地球環境問題を気にしているはずがない。
p.04に参考にしたガイドラインとして「環境報告書作成基準案(平成16 年3 月環境省)」と「環境報告ガイドライン2018 年版(平成30 年6 月環境省)」を挙げている。
上記を読んでみたが、数字を載せれば良いというものでもなさそうだ。説明責任とは数字を見せることではなく、その数字をいかに管理しているのかを説明しなければならないだろう。
高い目標を掲げても達成せずに終わっては絵に描いた餅でしかない。
とはいえJQAのエネルギー削減目標は全然高い目標ではない。努力しないで達成できるとしか思えない。それを達成しなかったのは?
本日の檄
警官・教師・裁判官が罪を犯すと、一般サラリーマンより厳しく糾弾される。それは人を教える人や法の番人は高潔であるべしと期待されているからだ。
環境報告書の審査を行う機関には、一般企業に範となる環境報告書を期待することはおかしくないし、期待外れであれば批判されるのはやむを得ない。そして10年間も改善が見られないなら、おかしいと言われても当然だ。
JQAが私のケチなウェブサイトを見ているとは思わない。しかし自社のCSR報告書を読んでいるJQAの役員や職員は多いだろう。いや環境報告書の審査をしている担当者なら絶対に目を通しているはずだ。自社のCSR報告書は当然、ビジネスとして行っている環境報告書の審査と同様の工程を踏んでいるだろう。
そういう人たちは自分のところのCSR報告書がおかしいとか、つじつまが合わないと感じないのか? 10年もの間、一人も疑問を持たなかったのか?
まさか某理事長が語ったような節穴……
JQAは頑張らねばならない。