文書の標準化について思いついたことをダラダラと書く。
会社によっては文書には明朝体を使うと定めておき、制定される前の検討中の文書はドラフトであることを明示するためゴシックにしているところもある。なるほどとも思えるし、そこまでとも思える。
12ポイントを70%縮尺するのと、最初から9ポイントを使い縮尺しないのと同じというわけではない。
A4サイズで1行の文字数は、11ポイントで37文字、9ポイントで51文字になる。一行の文字数は30〜40字が最適とされていて、50文字超えると二段組みしないと読みにくい。新聞記事でなく規則とか指示書を二段組というのは見たことがないが、読みにくいからだろうと思う。
縮尺するしないに関わらず、一行50文字では読みにくい。
記事や小説は読みやすさという観点で二段組はありえるが、規則や指示書においては分かりやすさという観点で二段組は好ましくない。理屈は分からないが、自分が作成して読むとそう感じる。
注:私はリットルを小文字筆記体のエルを書くよう習ったので、どうするのだろうと悩んだこともあった。現代は論文などは「L」と書くそうだ。
小文字筆記体で表さないからこそ、それに文字コードが設定されていないのだろう。
行間や文字間の隙間も多くの企業では定めている。作成者によって、1ページ節約しようと行間を数ポイント狭くしたりすることがあるが、してはいけない。決めたルールは愚直に守ること。1ページ節約することより、読みやすさの効果のほうが大きい。ましてや後に改定した際に見苦しくなったりする。
注:まったく別分野だが「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の正式略称は、第一が「廃掃法」、第二が「廃棄物処理法」である。
廃棄物処理法なら初見でも分かりやすいが、廃掃法と言ったとき「配送法というのがあるのですか?」と聞かれたことがある。工場なら不勉強ですよと言い返せるが、オフィスなら知らなくてもしょうがないかもしれない。相手に理解されるように言葉を選ばねばならない。
難しい漢字や熟語を使わないこと。
仕事の手順や基準を書き表すのに常用漢字以外を必要とするとは思えない。平易な文章、常用漢字で間に合うはずだ。
「厳守する」とか「確認する」という表現を見かけるが、遵守すると書いてない場合は守らなくてよいのか?、確認すると書いてないときは見直す必要がないのかという疑問がある。
類似のものとして「確実にする」「明確にする」「決定する」「考慮する」などがあるが、日本語として共通的な認識はないと考える。そういう言い回しは使うべきでないと考えるが、文書に使うなら会社として統一した意味あるいは定義を定めること。
お手紙に使うことはここでは対象外である。
例えば「厳守する」を考えてみよう。
そもそも会社規則や作業指示書に書かれた一語一句は、すべて守らなければならないものである。なぜ守らなければならないのかという疑問を呈されるかもしれない。これは明白だ。就業規則においてどこでも「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない(厚労省 モデル就業規則)」と決めているはずだ。
手順書(イクイバレント)に記されたものは永続的な命令であり、従業員はそれを守らなければならないし、逸脱した場合は懲戒に処される。なぜ懲戒されるのかは、これまた就業規則に決めてある。「懲戒の事由Eこの規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき(同上)」
そういうことを踏まえて考えると、「遵守する」とは屋上屋を架すようなおかしなことだ。言葉のあや程度なら削除すべきだ。
どうしてもそういった語句を使うなら、その組織として定義(もしくは解説)が必要だ。
例えば、【厳守】を次のように定義するなどする。
この工場において「厳守」とは、指示命令を受けた場合直ちに実行し、完了した後直ちにその旨を報告することをいう。
そのようなことをするより、本来の日本語を使いこなしたほうが良さそうだ。
日本語ではないが、アメリカ陸軍の兵器マニュアルは、14歳までに習う言葉で書かれなければならないという決めがあると読んだことがある。
格調高い文章よりも、平易な単語とわかりやすい言い回しの方が実用性が高いのは間違いない。
cf.「マニュアルバイブル」エドモンド.ワイス、啓学出版、1985
注:上の文章の文字数は112字あり、内漢字は39文字で、漢字の割合は35%である。
かなり白っぽく見えてもそんなものだ。漢字の割合50%となると真っ黒に見えて読みたくなくなる。
そのためには、一つの文章だけ読んで、主体や客体が分からないことが生じないようにする。
原則として代名詞(こそあど言葉や前者・後者)を使わない。
定義した語は常に定義を使う。
定義していない言葉で長い場合は、法律でよく見かけるように「この規則では以下○○という」というふうに記述してからその略称することが良い。
穏やかに回復? 大きく改善? 小幅な値動き? | |
実を言って、私も職場を変わったとき上長から「主語がない。誰がするのかわからない」と何度も突き返された。書いている本人が行為の主体者が誰か分からなくて主語を書けないなら、もっと関係部門と調整し決定しなければならない。
常に主語のある文章を書いていると、主語のない文章を見ると異常と感じるようになる。
ちなみに法律では主語のない文章はない。すべての文は「○○は」で始まる。これは立派というか、当たり前なのだろう。
もちろん同じ主語を書き連ねるのも大変だから、下記のような記述をすることもある。
○○大臣は、○○方針を定めるものとする。○○方針には下記を含む。
イ……
ロ……
帳票(伝票)を定める規則・手順書を考えてみよう。
その規則にはその帳票の目的とか法的な意味合い、保管期間などを定めるだろう。
運用だけを考えても、発行する部門、記帳者、記載する場所があり、二枚目以降の行き先とそこでの取り扱い、保管、廃棄などを決める必要がある。
その処理工程すべてにおいて5W1Hつまりどこで、いつ、誰が、なにを、どのように処理するのか、送り先などを盛り込む必要がある。その他付帯的なこととして、帳票がなくなったときどこから入手するのか、保管場所、表示、非常持ち出しの要否、電子データとして保管するならバックアップなどもあるだろう。
作業指示書であるなら、作業者の資格要件、工具などの仕様や点検、作業手順、チェック項目・頻度・合否基準、いろいろあるだろうが、とにかく5W1Hを満たすことである。
もちろん書ききれないということはある。それこそそれに従事する人は○○を満たすこと(必要力量)とか、別途基準を定めるとかになる。
その際は下記のようなことに注意する。
表1.ISO本出版点数
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図1.ISO本出版点数グラフ |
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図表1.ISO本出版点数
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図表2.ISO本出版点数グラフ |
本日の開き直り
私は会社規則(procesure)とか作業指示書(instruction)を大量に作った。もちろん品質マニュアルも環境マニュアルも粗製乱造とは言わないが多数書いた。
そして書いただけでなく、それを説明し使わせた。また自らそれらを常に参照して仕事をしていた。
その経験から「すべての文書は読み手(顧客)のためである」と認識している。
誤読された、読んでもらえなかった、不鮮明であった、図が分かりにくかった、それはすべて書いた人の責任である。
JISに従ったのに…、製図通則では正しい…、図の表題は下に…、ちゃんとここに書いてある…、俺は間違っていないと言ってもせんない話だ。結果が良くなければ書いた人(指導した人)の責任であり、書いた人はどこか誤ったのだ。
間違える可能性を最小にすることが、文書作成者に必要な力量だ。
いかに分かりやすく誤解されないように文章を書くか、図表を描くか、それが腕の見せ所だ。
それは文章で事細かく書くことでもなく、JIS規格や三角法に合わせることでもない。
アグリコラのデ・レ・メタリカにあるような遠近法を無視したポンチ絵が分かりやすいなら、そういうふうに描けばよい。
結果がすべてというと非論理的とか無節操に聞こえるかもしれないが、失敗しないためにはなりふり構わずである。文書を書くことは挑戦的で創造的なお仕事なのだ。
侍とは死ぬことと見つけたりという言葉がある。文章とは誤解されることと見つけたり。
おばQさま 今回の記事に関連した体験をしたので,いつもの部分突っ込みです。 「文章とは誤解されることと見たり」と「遵守」についての体験のご披露です。 とある一部上場の大会社の購買部門から誓約書が送られてきました。 その趣旨自体は問題ではないのですが,中にあった一文を見てびっくり。 「当社のCSRを遵守することを誓約する」とあります。 誓約書の中の「遵守」ですから,永続的な命令であり、取引先はそれを守らなければならないし、逸脱した場合は取引停止と解釈しますよね。 膨大なCSRの中身を見れば,この会社は消費者向けの生産物もありますから,環境から労働環境,消費者保護まで多岐にわたり,本気で遵守するならば,「大会社」と同様の体制が必須となります。 大会社ならばCSR専門部門だのコンプライアスだけやっている部門や人員もおりますが,小さな会社にはとても無理。 背景は想像できます,CSRのサプライチェーンまで広げるべきという事で担当者がさらっと入れたのでしょう。これぞ「読み手の立場を考えない」行為。 調達先が調達元と同じ環境やグループ会社ならば必然もありますが,調達先が中小企業ならば,その業務範囲は限られる。 つまりCSRの中で要求される部分は,もっと限定されて当然と思います。 ですから,せめて「当社CSRを正しく理解し,関連する部分については」という一言を入れてほしかった。 他の大手はどうだと調べてみると,セブン&アイHD、調達先に関連する部分のみ抜粋,さらにセミナーも設けて,チェックシートまであり。 確かに本気で調達先にも同じことを求めるならば,正しいやり方です。 困難な約束を誓約させるよりも,チェックシートで現状を把握,改善の方向に導く方がまともで誠実なやり方だと思います。 言い方は悪いですが「誓約書」の提出は,何かあったときに「やるいっていったよね」と責任を相手に転嫁できるための証拠のように思えます。 本気でやってほしいならば,セミナーやって,チェックシートを提出し,不明点は質問にも応じて,未達部分は改善に導く方が建設的だと思いました。 という事で文章は誤解されるけれど,文章から本気度も読み取れるなという感想でした。 |
おっしゃること、良く分かります。私も経験あります。 1990年頃、某リンゴ会社から「ぜーったいに有機塩素系溶剤を使ってないと社長のサイン入りの誓約書を出せ」なんてメールが来たことがありました。 そんなことわかりませんよ。社内での使用の有無ならわかっても、購入品なら調べようがありません。MSDSでさえ告示が出たのは1993年で法制化されたのが1995年。ましてや含有でなく工程での使用など営業秘密ですよ。 あんな横暴なことができたのは大会社だからでしょうね。もっとも回答が集まったのか無視されたのか、定かではありません。神に誓ってなんてとても無理です。正直な人人ほど誓うなんてできません。だって情報がありませんから。 本日の都都逸、 三千世界のリンゴ🍎を食べて主と朝寝がしてみたい |