ISO第3世代 1.本社に転勤

22.07.07

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。


ISO 3Gとは

えー、以前は小説もどきというか、いろいろなシチュエーションでISO規格を解説するお話、つまりケーススタディを書いておりました。

最後に書いた異世界審査員が終了して早3年……本当に月日が過ぎるのは早い!
最近 "ふとし様"から「次の物語を待ってます」というメールを頂きましたので、これは期待に応えねばと再びお話を書くことにいたしました。

私はISO9001初版から関わっており、顧客志向主義なのです。ISOに詳しいあなたは勘違いしてないと思いますが、顧客とはお金を払う人ではなく、製品やサービスを受け取る人です。私のつまらない文章を読む方は皆 顧客です(注1)


今まで書いたお話の主人公は、会社員だったり、審査員だったりしましたが、いずれもISO規格と結びついていました。いや、ISO規格の解説とか問題点を論じていたのですから、それは当然です。
とはいえ日本でISO第三者認証ブームが起きてから、もう30年が過ぎました。30年といえば一世代(generation)、つまり生まれた赤ちゃんが結婚して子供を持つまでの期間です。そりゃISO認証に対する世の中の認識も会社の対応も変わります。

当然ISOに関わる人たちも世代交代しているわけで、今度はその第三世代(the third generation)の人たちがISO認証制度をどう考えているか、そんなことを書き表そうと思っています。

ここでいう○○世代とは、今私が勝手に呼び方を決めたもので、世の中で一般的に使われているわけではありません。
まず第一世代とは、1990年初めに新たに登場したISO認証を受けようとした私のような立場の人を意味します。もちろん第一世代といっても年齢はいろいろで、当時60近い人も、私のように40代初めも、30代もいたでしょう。先行事例の情報がなく手探りで認証活動を始めた人は皆 第一世代です。

第二世代とは、既に認証していた仕組みを引き継いだり、先行した会社を見学したりした人たちのことで、2000年から2010年頃までにISOに関わった人たちが該当します。
第三世代とは、既にISO認証はあるのが当たり前と認識している人たちです。具体的には2010年以降でしょうか。

ネズミは短命なんだ 人の一世代は30年と言っておきながら、ISOの世代は10年かという声が聞こえそう。
でも生物や品物によって一世代の年数は違います。マウスの一世代は数か月、スマホの一世代は…実は世代によって長短があります(注2)あなたのスマホは第5世代ですか? 私のものは第4世代です。

書いている内容は全くのフィクションでありますが、現実離れとかうそ800ではないつもりです。もちろん規格解釈とか法規制は真面目です。もっとも法規制もISO規格も、どんどん変わるので、改正されるとその限りではありません。実際、昔書いたケーススタディ物語では法改正によって規制や基準値が変わったものもあります。でも面倒くさいから修正はしません(キリッ
では、始まり、始まり


時は元禄(注3)……じゃなかった、物語は2016年の4月に始まります。某大手電機メーカーの福島工場で電気主任技術者とエネルギー管理者を務めていた磯原晋作が東京の本社に転勤することになりました。
磯原は37歳、結婚して9年、子供も小学3年になり家を建てようかと考えていた時で、転勤と言われいささか困惑しました。
上長がこれは出世のチャンスだぞと言うのでなんとか奥さんを説得し、それからたった2週間で、親子3人で住まいの候補を数か所見て千葉 稲毛のマンションを借り、それから学校や市役所の手続き、かかかりつけの医者のところで子供のアレルギーとか夫の持病について、これからかかる医者への紹介状を書いてもらったりした。
そして引っ越しと、もう大車輪でありました。


磯原は転勤の辞令を受けた数日後、本社に出張して異動先の上司に面接というか挨拶をしていた。
磯原の転勤先の部署は、本社 生産技術部の施設管理課という部署です。本社の部は、階層から言えば工場と同じレベルで、本社の部長は工場長と同格か少し上、施設保全課長というのは工場なら部長です。
但し工場の場合、工場長が平社員と仕事の話をするなんてめったにないが、本社組織は人数が少ないから、日常顔を合わせるから挨拶もするしご下問を受けることもしょっちゅうである。

生産技術部長との面接は本当に簡単で、自己紹介のあとこれから頑張ってくれ期待しているよというだけで5分もかからなかった。まあ平社員が一人転勤したところで工場長レベルの人が細かな話をするなんてことはない。
それから直属の上司となる施設保全課長の鈴木と2時間ほど話をした。

鈴木課長
「磯原君はつい先月に本社の組織が大きく変わったのを知っているだろう」
磯原
「はい、社内広報誌の新年号で組織変更を解説していたのは読みました。でも実を言いまして内容をよく理解できませんでした。工場勤務では本社機構などあまり関係なくて……」
鈴木課長
「そうかあ〜、本社の組織変更なんて工場の人たちにとっては無縁なんだろうなあ〜」
磯原
「覚えているのは、この施設管理課関連では、従来所属していた環境部が分割されて生産技術部に属するようになったと……そして施設管理以外の機能はほかの部に属するようになったと読んだ記憶があります」
鈴木課長
「そうそう、それだよ。今まで独立した環境部があって、そこには環境設備と公害防止、環境法規制対応、環境配慮設計、工場省エネ、環境広報、それからISO対応もあったな。まあそれだけ人数もいたわけだ。
それがまず環境報告書はなくなってCSR報告書と名実共に変わったこともあり、環境広報をしていた人たちは広報部に異動になった。
環境配慮設計……省エネ設計とか含有化学物質などは、ラインと独立した環境関連というわけではなく設計機能そのものだから、製品研究所に異動となった。
環境法規制対応は、製品省エネとか工場省エネとか物流など多様であり、そもそも環境部門がまとめるものでなく、本来の担当部門が担当することになった。
そんなわけで残ったのは、環境設備と公害防止、廃棄物処理それから工場省エネだけとなり、そうなると環境を冠するのもおこがましいと施設管理課という名前になり、つまりレベルも部から課に落ちて、生産技術部に所属することになったというわけだ」
磯原
「なるほど、そうだったのですか」
鈴木課長
「私がここに異動して10年ちょっとになるが、ここに来た当時は京都議定書が発効(2005年)したとか、環境がブームというか脚光を浴びていたからなあ〜。当時が懐かしいよ」
磯原
「いえいえ、それは環境のブームが去ったわけではなく、それだけ通常の業務に溶け込んだというか、内部化されたということでしょう。
環境部が旗振りしなくても設計は環境配慮設計、つまり希少金属の使用を避けるとか、省エネやリサイクルしやすい構造などを設計標準に織り込んできたということかと思います。
広報に関しても、負の遺産は経営報告書に載せるのが当たり前になりましたし、それだけ環境が重要になったのです。喜ばしいことではないですか」
鈴木課長
「磯原君の言うとおりだ。そう思えば昔より重要になり大きく前進したことではある」
磯原
「ところでISO対応を聞き漏らしましたが、その担当部門はどこになったのでしょう?」
鈴木課長
「おお、話そうと思っていたが遅れてしまった。どこにも行かないというか、引き取り手がいない。もちろん担当者一人分は減ってしまった。それで磯原君には工場省エネとISO対応を担当してもらうつもりだ」
磯原
「ISO担当ですか? 実を言いまして私は工場ではISO50001でしたっけ、エネルギーマネジメントシステムの認証をせよという通知がありましたね。認証するときはその担当になる予定だったのですが…」
鈴木課長
「ああ、あれは……2011年だったね。もう5年も前になるのか。あのときは品質、環境ときて、次はエネルギーマネジメントシステムの認証をしなければならないと大騒ぎだった。それで各工場に認証するよう通知を出したことがある」
磯原
「とはいえいつの間にか立ち消えになったようで……私とISOの関わりはそれだけです」
鈴木課長
「最初は経団連もISO50001認証と言い出したんだが、制定されてからよくよく中身をみると、日本の省エネ法のほうが制度も中身もしっかり作られているし、省エネ法は義務であるわけで……わざわざ手間ひまかけてISO認証する意味がないということになってね、当社では認証しないことになった。認証しないという通知も出していると思うが」
磯原
「そうだったのですか。省エネ法は私の担当でしたから、その内容は理解しているつもりです」
鈴木課長
「磯原君には工場省エネのとりまとめを担当してもらう。基本的に本社は細かいことまで手を出さないというか出せない。だから生産技術研究所と工場と外部のメーカーなどとのコーディネートになる。それとテクノロジートランスファーだ。
工場で新規設備を導入する際の基準とか指導、一般的な工場省エネの指導、省エネが進んでいる工場の技術やノウハウを全社に展開する……そんなことだ」
磯原
「省エネ法では全社のエネルギー管理統括者と企画推進者を、本社に置くことになっていますが…そういったこととは?」
鈴木課長
「エネルギー管理統括者は生産技術本部長が任じられている。生産技術本部長は執行役だから、細かいことはタッチしてない。まあ名前だけだな。
企画推進者は本部長室に無任所大臣がいっぱいいてね、その中に研究所長を役職定年になったドクターがいて、彼が任じられている」

注1:本部長と部長は違う。職制は会社によってさまざまだが、概ねビジネスユニットのトップが本部長と呼ばれ、たいていは役員が就く。部長も会社によってさまざまだが、役員がなることはまずない。従業員としての上りが一般的だ。
但し人事部長などは本部長と同等の階層で役員が就くことが多い。

注2:本部長室といっても本部長がいる部屋の意味ではない。
組織構造として本部の下に部がいくつかあるが、このとき部に属せず本部長直属の手足となる部下が属するのが本部長室と呼ばれる。
部長室もあるのかといえばある会社もあるかもしれないが、組織が下層になると業務が複雑でなくなり管理者が切り盛りできると考えられていて、課長以下の管理者にスタッフがつくことはあまりない。
なお多数の人間を動かす仕組みを考える組織論は軍隊から始まった。現代の企業の組織はすべて過去の軍隊の運用を参考に作られている。
作戦を考えるのは司令官一人ではできないので、司令官の手足となり情報収集と作戦の立案、そして司令官の決裁を受けて隷下の部隊への作戦の通知を図るのが参謀(staff)である。
一般的に司令官/管理者の指揮命令系統をラインと呼び、指揮命令系統にないものをスタッフと呼ぶ。昔は企業参謀なんて表現したこともあるが、今は軍事用語は嫌われてカタカナでスタッフとすることが多い。

ラインとスタッフの絵
組織図

注3:上図で生産技術本部、生産技術部、施設管理課がラインと呼ばれ、生産技術本部の横についているものをスタッフ(参謀)と呼ぶ。


磯原
「では私はそのドクターの指示を受けて、省エネ法関係の業務つまり調査や資料作成をするということでよろしいですか?」
鈴木課長
「話が早くてありがたい。職制上はこの施設管理課だが、省エネ法関係について磯原君は部長室の企画推進者の指示で仕事をしてもらいたい」
磯原
「承知しました」
鈴木課長
「それから磯原君には先ほどでたISO担当もしてもらうわけだが……」
磯原
「先ほどの話では当社の工場はISO50001を認証してないはずですが?」
鈴木課長
「環境といえばISO14001だよ。工場で省エネ担当だったら毎年の審査で省エネ活動が調べられたと思うが」
磯原
「ええと省エネ法では工場の計画と実績報告だけでなく、全社をとりまとめて報告するのは分かります。
しかしISO認証で本社がとりまとめすることがあるのでしょうか?」
鈴木課長
「まあ、本音を言えば今更ISO14001でもないと思っているのだが……
毎年、各工場でISO審査があるわけだが、その際の不適合とか対策とかをまとめて社内展開するとか、あまりあっては困るが不適合が出たときには対応を指導するとか、そんなことだ」
磯原
「ISOの経験はありませんが、電気設備や省エネでは官公庁とのやり取りは十分経験してきました。それよりは簡単でしょう」
鈴木課長
「そう言ってくれると心強いよ。磯原君も知っているだろうが、ISO審査で不適合なんて出ると、後処理が大変で2000年頃まではうまく処理することがISO担当者の技量と思われていたものだ。
もちろんISO関係については省エネ限定でなく、廃棄物も公害も全部含めて対応してもらう。
もっともここ10年はISO認証も減る一方で、審査員も不適合を出す勇気がないというか腰が引けている。だからあまりそんな問題はない。
とはいえ我々が一番気をつけなければならないのは事故と違反だ。だからISO審査でそういったものが指摘されたら、監督官庁への報告とか是正などが重要な課題となる」
磯原
「おっしゃることよく分かります。そのへんは前任者に相談することはできますか?」
鈴木課長
「前任者は定年退職してしまった。実を言ってあまり重大な任務でないから後任を設けなかったのだが……
過去の資料はあるし、不明なことがあれば工場側の担当者に問い合わせてほしい。なにしろ本社は一人一人が一国一城の主なもので、隣は何をする人ぞという状態だ。隣の担当者に尋ねるより工場の担当者に聞いたほうが分かるだろう」
磯原
「課長も部下の仕事を把握するのが大変ですね」
鈴木課長
「実を言って把握しきれないね。生産技術部に移管された機能だけでも、以前は環境施設と公害防止、廃棄物処理、省エネそれぞれに課長がいたのだが、組織変更後はそれまで公害防止を担当していた私一人が全部見るようになってしまった」
磯原
「まあ、そういうことはどこでも同じです。本社はレベルが高く応用がきく方ばかりでしょうけど、工場では現場上がりの年配者が環境部門に来て、廃棄物管理を覚えた頃には定年退職になり順繰りに次の人が来るという状況ですから、アハハハ」
鈴木課長
「いやあ、磯原君のような大物が来てくれてうれしいよ」

登場人物紹介

ご尊顔ご芳名/年齢職務/役職備考


磯原磯原晋作
37歳
施設管理課
エネルギー管理担当
第二種電気主任技術者、エネルギー管理士(電気)、入社以来工場省エネ一筋で15年
直美磯原直美
35歳
磯原晋作の妻高校を出て現場作業者をしていて晋作と知り合い職場結婚、今までパートしていたので、こちらでも仕事をする予定
磯原ちなみ磯原ちなみ
9歳
磯原夫婦の娘小学校3年生
得意技はお父さんにおねだりすること





大川常務大川常務
60歳
常務執行役
生産技術本部長
昔は優秀だったのだろうけど、現在はハンコを押す機械となり果てている。
山内参与山内参与
58歳
本部長室参与
博士(工学)
元研究所長。彼の名前でCINII(注4)を検索すると論文がザクザクヒットするというのが自慢




江本部長江本部長
56歳
生産技術部長性格温厚で仕事に頑張っているご仁だが、これ以上の昇進はなさそう。
1年後は役職定年で子会社に出向か?




鈴木正信鈴木正信
48歳
施設管理課長工場の環境課長上がりで現場のことは何でも知っている。社内政治力ゼロ
山下一郎山下一郎
51歳
施設管理課
公害担当
工場の環境管理を経験して本社に来て10年
奥井正和奥井正和
35歳
施設管理課
廃棄物担当
入社以来ずっと本社勤務、泥臭いことより業界団体や審議会の華やかな活動が大好き
アメリアアメリア・吉本
25歳
施設管理課
研修生
アメリカ法人勤務。研修生として1年間本社勤務予定、二世でハーフ、アメリカの某大学のマスター
柳田ユミ柳田ユミ
38歳
施設管理課
庶務担当
一般職だが責任感が強い、170センチの長身

注:施設管理課に5人しかいないわけじゃないですよ。10名くらいいると思うんですが(?)まだ登場人物の詳細を決めてません。
俺の名前を出してくれなんて思っている方はどうぞ立候補を!



うそ800 本日の誓い

あまり規格解釈のとんがった話とか、深刻真剣なことは避け、のんびり・長閑な雰囲気で行きたいと思います。なにせISO 1Gの世代のようにISO審査が真剣勝負という時代ではありません。ISO認証などあってもなくてもどうでも良い時代ですから

それと1回の文字数を6,000字に抑えるようにしたいです。
昔からここをお読みになられている方はご存じでしょうけど、審査員物語のときは1回1万字に、異世界審査員のときは5,000字に抑えるといいました。しかし書き始めると、キーボードが止まらずほとんどが毎回1万字超え、2万字近いものもかなりありました。こんどこそ三度目の正直に挑みます。
ちなみに本日の文章は6,700字でした。デアゴスティーニも初回は安く値付けしてますから似たようなものでしょう?


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注1
ISO9000:2015
3.2.4【顧客】個人若しくは組織向け又は個人若しくは組織から要求される製品・サービスを、受け取る又はその可能性のある個人又は組織

しかし厳密に記述しようとしたんだろうけど、分かりにくいことこの上なしδ(⌒o⌒;)

注2
「誕生からどう変わった? 移動通信システムと合わせて読み解くスマホの歴史」
移動通信システムの世代
 1G…1980〜1990…アナログ方式
 2G…1990〜2000…デジタル方式
 3G…2000〜2015…世界共通のデジタル方式
 4G…2015〜2020…高精細動画
 5G…2020〜 ? …超高速・大容量・多数同時接続
正確には1stG、2ndGとか5thGであるはずだが、なぜ序数表示しないのでしょう?

注3
「時は元禄」をご存じない?
講談「忠臣蔵」の名セリフ「時は元禄15年、師走半ばの14日(扇子で机を叩く)、江戸の夜風をふるわせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓」である。

注4
CINIIとは国立情報学研究所の略称で、論文や研究者のデータベース
理系だけでなく文学・音楽・社会学など全分野を網羅している。




ふとし様からお便りを頂きました(2022.07.07)
ふとしです。
なんとまたISOに関するお話が読めるとは。
感謝感激です。
暫くは月曜と木曜が待ち遠?しくなりますね。
磯原さんはとても優秀そうで安心できます。
山内さんと奥井さんに対するヘイトが集まる未来が見える気が・・

ふとし様 おばQでございます。
だいぶボケが進んでおりますが、頑張ります。
以前書いたものはすべて主人公が落ちこぼれとか低学歴でしたが、今回はエリートとは言いませんが、並レベルにしてみました。
長い人生を送りますと、楽な人生を送るにはやっぱり高学歴ですよ(キリッ
山内さんと奥井さんについては内緒ですよ、
実を言って私の書いているものはすべて想定しているモデルがあります。
世の中には奥井さんのような人が多くて困ります。でもいいとこ出ているから人生スイスイ、せめて小説の中だけでも天誅を下さねば
まだ序盤ですからもう少し進んだらお便りください。


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