SDGsとISO14001その1

22.04.11

最近はISO14001よりSDGsだとか、あるいはISO14001とSDGsを統合とか、ISO14001やSDGsについて語る認証機関や SDGS コンサルが多い。
そんなものをいくつか読んで感じたこと、考えたこと、本日はそんなことを書く。

第1回の今回は、某認証機関の広報誌にそこの幹部が書いたものを取り上げて論評する。
なんという認証機関かは内緒だが、もしその広報誌を読んだことのある方は「アッ、あれか」と分かるはず。


SDGsが達成されれば持続可能になるのか?
この方は「SDGsを実現すれば持続可能になる」と語っている。私にはそれが不思議だ。SDGsを実現したら持続可能性になることは証明されたのか?

外務省のウェブサイト(注1)でも「(SDGsは)2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です」と書いているが、SDGsが達成されたら持続可能になるとは書いてない。
「SDGs-危機の時代の羅針盤(注2)」を読むと、17のテーマは政治的な外交交渉の妥協の産物であり、科学的根拠や理屈があるものではない。当然、それらを達成すれば持続可能が実現するという科学的根拠はない。
これくらいならできるだろう、これくれくらいやればなんとかなるだろうという臆測以上のものはない。

もちろんSDGs作業部会メンバーでない我々が、SDGsの内容の真偽(審議ではないよ)を語ってもしょうがない。所与として扱うしかない。
しかしいくら所与であるとしても、「これを達すれば持続可能になる」と語ることはいささか忸怩たる恥ずかしく思うものがあるのではないか? 私ならそこに触らずに、「SDGsではそういうことになっている」程度にしておきたい。嘘つきにならないためにも、


まずはちょっとした疑問点から行く。

SDGsは実現可能なのか?
次にというべきか、もっと大事というべきか、SDGsに挙げていることは実現可能なのだろうか?

どのテーマでも良いが例えば一番目の「貧困をなくそう」を取り上げてみよう。それは可能だろうか?
今現在、日本には生活保護受給者が204万人いる(注3)生活保護受給者を表す指標には被保護人員数(率)、被保護世帯数(率)などいろいろあるが、いずれも1994年に底になって以降上昇傾向にあり、2010年代は1994年の2.5〜3倍程度で推移している(注4)
ここで貧困をなくそうというのは生活保護受給者をなくすことなのか、生活保護を与えることなのか、どちらなのか分からない。

それはともかくバブル崩壊から日本経済は低調を続け、21世紀になってリーマンショックと呼ばれる世界金融危機などにより我が国はGDPも賃金も停滞している。当初は失われた10年と言われたが、今は失われた20年といわれ、なお更新中だ。
単に一国の景気回復さえできないのに「国際的貧困撲滅」ができるのか?
これはいちゃもんでもなんでもない、素朴な疑問だ。


戦車 No.10のテーマは「人や国の不平等をなくそう」だ。ウクライナの紛争を解決できるならこのテーマは実現するかもしれない。いやいや、もっと小さな企業や学級におけるイジメをなくせばSDGsのテーマNo.11は実現可能だと信じてもよい。
さもなければSDGsは実現不可能だと私は信じる。

これも前項と同じくSDGs作業部会のメンバーでない我々が、実現の可否を論じても意味がない。だが同時に実現できると信じる根拠もない。いや実現できないと信じるに十分な根拠がある。

であれば「これらの目標を達成しなければ持続可能にならないということだ」など明記しないほうが良い。実現については語らず、せいぜい「これに向けた施策を展開しなければならない」くらいで止めておけ。


ではISO14001がSDGS実現に貢献すると語っていることについて考えよう。

PDCAサイクル
PDCAはシューハートサイクルとも言われ1950年頃からあらゆる活動の基本と考えられている。
PDCA 広報誌に書いてあるように、マネジメントシステム規格に記述されたのは確かにISO14001が最初だが、開発や問題対策とか改善などにおいてそれ以前から普遍的な方法であり、「SDGsは実現のために目標達成の方法論を備えたISO14001は最良の相性」と語るのは大げさというか、誇大広告というか牽強付会だろう。
仮にISO14001がなくても、まともな人ならなにをするにもPDCAを回すのは当たり前だ。

桜木花道だってダンクを身につけるための試行錯誤で、テニスの丸尾栄一郎は常に計画・試行・反省を繰り返し、綾小路静子も農業でPDCAを回している。というかいまどきのラノベでもマンガでも「もしドラ」に限らず理論武装してないものはない。
わざわざSDGs実現のためにPDCAを使いましょうとは恥ずかしい。ましてPDCAを最初に規格にもり込んだISO14001が使えるという発想は……


論理展開のつじつま
某認証機関の広報誌では、
 ・SDGsを実現しなければならない
 ・SDGsとISO14001は相性が良い
 ・ISO14001はSDGs実現の方法論を備えている。
上記3つから「SDGsをISO14001に統合する方法」と話を進めるのだが、その論理展開が理解できない。
まず上記みっつから結論へのつながりは三段論法ではない。ではどういうつながりなのだろう?

そもそも前提の3項目は真なのであろうか?

前段で1番目について疑義を呈したが、これに拘ると進まないから1番目はアプリオリ(所与)としよう。
2番目について「持続可能な開発目標を示したSDGsと、(中略)目標達成の方法論を備えたISO 14001は最良の相性」と語っているが、語義から言って相性より相互補完と思えるが、まあそれはいい。まあいいが……ひっかかる。
3番目の「ISO14001はSDGs実現の方法論を備えている」は事実なのだろうか? 前段から思うに、それは単にISO14001がPDCAの構造を採用したということにすぎないように思う。少なくてもそれ以外に広報誌では「実現の方法論を備えている」ことに対応する記述は見つからない。
でもそれをいうならISOMS規格の構造の標準化によりISO14001に限らないように思う。
まああまり突っ込んでも本質でもないし、結論が出るわけでもないから前提が真か否かは保留する。

おかしいと思うのは結論の「SDGsをISO14001に統合する方法」という記述である。
SDGsはテーマでISO14001は仕組みであるから、テーマを仕組みに「統合」するとは言わないだろう。販売戦略の検討で実験計画法を使うとき、販売戦略を実験計画法に統合するというか? SDGsはISO14001で展開するとかいうべきだろう。
これは小さなことではない。SDGsとISO14001がなにものかを理解していないのではないかという疑問である。

広報誌では「SDGsをエスディージーエスと語る人がいるが、それは中身を知らない」とあるが、「エスディージーズ」と読もうと、SDGsとISO14001がなんなのかを理解していなければ話は進まない。
どうでもいいことをさも大事なことと書くことが価値を下げてしまう。
実を言って私は今まで「エスディージーエス」と読んでいたが、恥ずかしいとは思わない。

そんなことより重要なことを考えよう。
守備範囲だが、環境マネジメントシステムは組織が汚染の予防と遵法を確実にするための仕組み(システム)であり、SDGsは人間社会が持続可能となる目標(Goals)を定めたわけだ。どう考えてもSDGsが主であり方法論はそのツールに過ぎない。
それからISO14001を方法論としたのは他のMSより法規制などの順守義務があったからと思うが、その順守義務をいくらこじつけようとISO14001が貧困、飢餓、教育、ジェンダー、トイレ、働きがい、経済成長、技術革新、不平等、平和と公正、パートナーシップまで拡大解釈できるか?
SO14001が関係あるとすれば、安全な水、エネルギー、海・陸の豊かさくらいではないのか?
守備範囲を考えれば「SDGs ⊃ ISO14001」の関係なのだ。
どうみても「SDGsをISO14001に統合する」という表現はないだろう?

注:「⊃」とは数学の記号で、左辺は右辺を含むという意味。


「SDGsをISO14001に統合する方法」とはそういうことでなく、ISO14001認証のためのマネジメントシステムにSDGsを実現する事項を盛り込んでいくことですという反論があると予想する。
それもおかしい。

定義を確認しよう。
ISO14001:2015 定義3.1.2 環境マネジメントシステム
マネジメントシステムの一部で、環境側面をマネジメントし、順守義務を満たし、リスクおよび機会に取り組むために用いられるもの

英語原文では
part of the management system used to manage environmental aspects, fulfil compliance obligations, and address risks and opportunities.
これをどう読んでも「環境側面をマネジメントし、順法義務を果たし、リスクと機会に対処するために使用されるマネジメントシステムの一部」としか読めない。

ついでにマネジメントシステムについても上げておく。
ISO14001:2015 定義3.1.1 マネジメントシステム
方針、目的及びその目的を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素。

企業に限らずすべての組織はマネジメントシステムを持つ。それは必然というか自然発生的なものだ。マネジメントシステムを持たない組織は存在しない。存在するのはマネジメントシステムが不完全な組織だけだ。
組織のマネジメントシステムは定義から、人事もセキュリティも安全衛生もコンプライアンスも、そして品質も環境も含んでいる。

企業のマネジメントシステムにおいて、社会問題である貧困、飢餓、教育などまで機能や手順を決めているとは思えないが、安全や衛生やエネルギーやジェンダーその他SDGsの多くの項目は備えているはずだ。そういうのを無視して「SDGsとISO14001の相性が良い」とか、「SDGsをISO14001に統合する方法」と論じていく論理は全く理解できない。


もうひとつ考え方について述べたい。ISO14001:2015の序文「0.3 成功のための要因」の中に次の言葉がある。
「トップマネジメントは、他の事業上の優先事項と整合させながら、環境マネジメントのガバナンスを組織の事業プロセス、戦略的な方向性及び意思決定に統合し、環境上のガバナンスを組織の全体的なマネジメントシステムに組み込むことによって、リスク及び機会に効果的に取り組むことができる」

ここで注目してほしいことは、主となるものは組織のマネジメントシステムであり、そこに環境マネジメントが組み込まれるのだ。間違っても環境マネジメントに組織のマネジメントを合わせるとか統合するのではない。なにしろ「環境マネジメントシステムは組織のマネジメントシステムの部分(序文にそう書いてある)」なのだから。組織/企業においては組織のマネジメントシステムが主であり、環境上の要求事項はそこに組み込まれるにすぎない。


おかしなことをいくつかあげたが、より気になることがある。
SDGsを実現しようとするなら、ISO14001よりも先に取り上げるべき規格というか手引(Guidance(注5)がある。それはISO26000だ。

SDGsは具体的でなく、そのテーマも一般企業から見れば身近なものではない。だからその展開にISO14001をと考えるのは少し飛躍しすぎ……見当違い……といえる。
だが環境、品質、セキュリティといった個別のテーマでなく、企業が関わる包括的な要求事項というか責任についての概要を示したものが、「ISO26000 社会的責任に関する手引」である。この指針では、既に存在するISOMS規格はほとんどが網羅されている。環境についていえばISO26000だけで十分、ISO14001が無用でないかと思えるほどだ。
ISO14001はISO26000の環境のパートを詳述したものと思うかもしれない。ところが実は、ISO14001の本文(4〜10項)よりも、ISO26000の「6.4章 環境」の方が文字数が多いのだ。
じゃあISO26000があればISO14001は不要かと問われれば、YESというのが答えだろう。もちろん第三者認証ができなくなるから、認証関係者はNOと答えるだろうけど。

一言でいえば、SDGsへの対応はISO26000を参考にすべきであり、極論すればISO26000に適合することで十分なのである。

ではなぜ認証機関がISO26000でなくISO14001を薦めるのかと考えると、ISO26000は認証規格でなく、それが企業で活用されてもお金にならないからだろう。
現時点SDGsにかすっている認証規格はISO14001しかないから、それを取り上げたのだろうね。違うか?

認証などしなくても、認証機関がISO26000をいかに企業において展開活用するかというコンサルの需要はありそうだ。
とはいえそれができる人がいるかとなると、まずいないだろう。
私は人権も労使問題も消費者問題も雇用も健康も社会的投資も全然わかりません。とはいえ大学で社会的投資を語っていた先生は公害問題もごみ処理もわからなかった。
ということはISO26000でSDGsの実現を推進するとしても、そのすべてを指導できる人はまず存在しそうない。
いやISO26000を持ち出さなくても、ISO14001でSDGs対応を見るなら、ISO審査員はその審査ができるものなのか?

次項に続く
矢印

ISO審査でSDGs対応を見る?
広報誌には次のようにある。
環境目標をISO14001 附属書A.6.2から「トップマネジメントは、戦略的、戦術的又は運用レベルで、環境目標を設定してよい」とあるからSDGsの各テーマから設定してよい、しかも審査で支援するとある。

支援云々はISO17021に抵触するが、とりあえず棚に上げておく。

ここで論評した文は書いた幹部一人の見解でなく、某認証機関としての見解であると受け取るが、この認証機関の想定する「環境」の範疇はどこまでなのだろうか? 職場の人間関係も、コンプライアンスも、マナーも、セキュリティも、精神身体の健康状態も、家庭環境も入るのだろうか?
そう考えないとSDGsの17テーマをISO14001に統合するとは言えない。そのとき環境マネジメントシステムは組織のマネジメントシステムと同一になり、定義の環境マネジメントシステムとは異なるものになる。
その発想はもうISO規格解釈を超えるとしか言いようがない。審査基準はどうなるのか? ISO14001認証ではなくSDGs認証というのだろうか?

ちょっと待ってくれ
考え中
この認証機関は今までの審査でも、環境の範囲を人間関係や労働条件なども含めて審査していたのか?
36協定違反のブラック企業はISO14001不適合、パワハラセクハラがあればISO14001不適合、管理職の女性が少ない…、取引先のESGを評価してるか……という審査をしていたのか?
まさかSDGsが現れたから審査基準を変えたということはあるまい。いや審査基準はMS規格にshall付きで記載されているものだけなのだが?
どういうことなのか訳が分からないが興味深いことだ。

いやそんなに深く考えることもなく意味深長でもないのかもしれない。簡単に言えば、ISO14001認証は陰りどころか落日間近だ。ぜひともSDGsにかこつけてISO14001認証してほしいというメッセージに過ぎないのか?


うそ800 本日の提案

いつも私は皮肉だけで建設的なことを語らないと思っている人は多いかもしれない。では今日は最後に建設的なことを語ろうと思う。
まず某認証機関の方が書いた文を添削することはほとんど不可能だ。一部の表現を直せば済むというものではない。そしてまたISOMS認証を否定してしまうのはまずいだろう。

ということで、まともな論理でSDGsとISO認証をつなぐ一文をしたためてみよう。
ちなみに元の文章で、SDGsとISO14001の関連を語っている部分は692文字である。よって700文字でSDGs実現のためにISO14001が効果的であると宣伝する文章にトライしてみたい。

企業の目的は企業理念の実現である。その遂行過程において関係する法律や社会的要求を遵守することはもちろんだ。 さて今、持続可能社会実現のためSDGsと称する包括的な社会的要求への対応が求められている。これは従来の顧客要求や法規制などに比べ、対象とする範囲ははるかに広くまた漠然としている。
それを実現する進め方をISO14001を参考に考えてみる。ISO14001においては環境側面及び順守義務を把握することから始まる。SDGsにおいてもその17項目について自組織が関わるもの、対応すべきものを把握することがスタートとなる。
自組織が関わる事項が明確になれば、それらについて目指すところを決め、計画をたて活動を進めることになる。
ここで留意すべきことは、SDGs対応の計画・目標・手順を新たに追加するのではない。従来から企業活動を推進してきた方針や業務手順の中に、それを織り込んで進めることになる。
それは過去よりしてきた方法と同じだ。例えば新設備導入において、品質、環境、安全・衛生など多面的に検討していたはずだ。そのとき品質マネジメント、環境マネジメント、安全衛生マネジメントなどそれぞれの観点で分けて検討することはありえない(注6)
SDGs対応もその進め方と同じである。SDGsが包括的であるから個々のマネジメントシステムがあるという発想でなく、組織にはひとつのマネジメントシステムしかないという考え方のアプローチしかない。

700文字どころか574文字で済んだ。
内容はまっとうだと自信があるが……ISO14001も否定してしまったようだ。


うそ800 本日のおすすめ

お暇なら、私が過去に書いた下記をお読みください。
SDGsを考える その1
lSDGsを考える その2
持続可能性は存在するのか




注1
外務省のSDGsとは
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)別ウィンドウで開くの後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。」

注2
「SDGs−危機の時代の羅針盤」南 博・稲場 雅紀、岩波書店、2020、p.46

注3
注4
注5
ISO規格として制定されたものでも、その性質により認証規格(standard)、指針(guidance)、ガイドライン(guideline)などに分けられる。
  • 基準(standard):記述されたことを守らなければならないもの。
    例「ISO14001環境マネジメントシステム-要求事項及び利用の手引」
  • 指針(guideline):強制力のない要件、基準、方法などをいう。
    例「ISO14004 環境マネジメントシステム-実施の一般指針」
  • 手引(Guidance):何事かについてのアドバイスや指導。
    例「ISO26000 社会的責任に関する手引」
注6
なぜQMSやEMSというバーチャルなものを考えたのかといえば、認証のためである。いや従来からある手順書と現実を見るだけでISOMS規格対応の審査はできるのだ。しかしそれができない審査員がいたから、わざわざバーチャルな個々のマネジメントシステムを想定し、それぞれのマニュアルを作成して審査していたにすぎない。
その証拠に環境マニュアルを求める認証機関もあるが、求めない認証機関もある。
いや待てよ、そもそもマニュアル作成の要求ってあったか?



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