SDGsとISO14001その2

22.04.14

最近、ISO14001とSDGsを統合とか、ISO14001をSDGs実現に活用と語る認証機関とかコンサルがいる。そんなものをいくつか読んで感じたこと、考えたことを書く。
本日はその2回目である


一般のISO審査員が雑誌に寄稿するとか、自分のウェブサイトで信念を吐露するなんてのはめったにない。そんなことをしてもなんのメリットもないだろう。せいぜい自己顕示欲の満足くらいだ。それに日々のお仕事が忙しくてそんなことをする暇もないだろう。
持続可能性とかSDGsについて雑誌とかウェブに書いている人は、認証機関とかコンサル会社の幹部である。彼らにすれば今政府が旗振りしているSDGsを利用して、企業にSDGsをISO14001認証につなげようとしているに違いない。それは彼らにとって本来業務だから励むのもむべなるかなもっともなことである

まあ商売のためには何でも活用しようという考えを批判する気はない。なりふり構わずISOMS規格の売り込み、認証の宣伝に努めることは大いに結構だ。
しかしその際に論理の進め方とか、できもしないことをできるというのは、ちと納得がいなないことではある。
私が関心を持っているISOMS認証とSDGsに関する記事を読んでいるとアレと思うことは多い。中にはそれはないだろうと思うことも多々ある。
本日はそんなことを語る。


多くの人が、SDGsはISO14001(環境マネジメントシステムの規格)で実現できると語っている。
マネジメントシステムといえばISO14001でなく複数存在している。ISO9001(品質マネジメントシステムの規格)とかISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)その他ではダメなのだろうか?

SDGsはISO14001でと語る根拠はISO14001の序文に次の文章があるかららしい。

序文 0.1背景
将来の世代の人々が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすために、環境、社会及び経済のバランスを実現することが不可欠であると考えられている。到達点としての持続可能な開発は。持続可能性のこの"三本柱"のバランスをとることによって達成される。

この段落の前半は1987年のブルントラント報告書の文言なのだが、後半の"三本柱"は2012年の「地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル(GSP)報告書」に「ブルントラント報告書は、持続可能な開発は、これら3つの柱すべてを含む統合された政策枠組みにより達成可能であると論じた」とあるのを引用したのだろう。

不思議なことに、ブルントラント報告書を全文検索したが「これら3つの柱すべてを含む統合された政策枠組みにより達成可能である」という文章が見つからない。300ページもある英文だから、どこかにそういう趣旨の記述があるのかもしれない。それをエレガントに表現したのが三本柱云々なのだろうか?
ここに拘るのは「達成可能である」という断定は、何を根拠にしているのかを知りたいからだ。


もちろんISO14001の存在は「持続可能性は実現可能である」ということを前提にしていない。別に持続可能性が実現しよとしまいと、ISO14001は持続可能性とは独立した存在だ。
なお序文のほかに、本文中で「持続可能」という語句は唯一下記一か所のみで使われている。

5.2 環境方針
注記 環境保護に対するその他の固有なコミットメントには、持続可能な資源の利用、気候変動の緩和及び気候変動への適応、並びに生物多様性及び生態系の保護を含み得る。

序文でも本文でも「ISO14001によって持続可能性が達成できる」と書いているわけではない。単に引用しているだけだ。

ちなみに他のMS規格では持続可能という言葉はないのだろうか?
ISO9001(JIZQ9001)に次の文がある。

序文 0.1一般
品質マネジメントシステムの採用は、パフォーマンス全体を改善し、持続可能な発展への取り組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る。

この文章では「役立ち得る」であって、ISO14001の「達成される」より弱いから棄却されたのだろうか。
なおISO27001には「持続可能」という言葉は出てこない。他のMS規格まで見ていないが、「このMS規格の採用によって持続可能は実現する」なんて書いているものはないだろう。

このようにISO14001で持続可能が実現できるという記述はISO14001にはない。それでも認証機関やコンサル会社がISO14001で持続可能を実現しようと語っているのは、このわずかな持続可能とのつながりを利用して、ISO14001認証を売り込もうとしているとしか思えない。SDGsにすがっているともいえる。

しかしそれにしては「ISO14001をSDGsに統合する」ではなく「SDGsをISO14001に統合する(その1参照)」とは、上から目線というか大きく出たもんだ。ISO14001とはそれほどのものなのかと2時間ばかり問い詰めたい。
前述したように商売のためには何でも活用しようという考えを否定しないが、贔屓の引き倒しか、庇を借りて母屋を乗っ取る気としか思えない。盗人猛々しいともいう。


ところでGoogleで「SDGsとiso14001」で検索すると、あっという間に300万件くらいヒットする。
さぞかしすごいアイデアがあるのだろうと思って(思うわけがないだろう)上位から見ていくと、まあ呆れるものばかりだ。

SDGsとISO規格の共通点はサスティナビリティだそうだ。
どこが共通点なのか? いまだに分からない。
確かにSDGsは持続可能な開発目標だろうし、ISO14001規格には持続可能という言葉が8回出てくるが、「持続可能に寄与することを目指して」とあるだけで、有効だとも最善だとも書いてない。
私もタイガーウッズも人間だから共通だとは言えないだろう。


「SDGsとISO14001は相性が良い」という説は多数説のようだ。残念ながら多数なら正しいということはない。多数説が通用するのは法律くらいだろう。科学や技術の世界では、もちろんISOの世界でも多数だからと言って通用しません。

前回の某認証機関の広報誌には「SDGsとISO14001は相性が良い」という記述があったが、理解不能だ。
ISO認証機関とかコンサルの感受性は私とは違うのだろう。
そもそも相性なんて言葉を使うのは、技術的に解明されていないときに使われるものだ。ISOの世界で生きていくなら「相性」なんて言葉に逃げてはいけません。


「ISO14001でSDGsを回す」
この表現をする人は多い。だが発言者をみると某認証機関が発祥のようだ。
「SDGsをISOで回すとはSDGsの示す社会課題をPDCAで継続的に解決すること」だそうだ。ホウとしか言いようがない。

別にPDCAに恨みがあるわけではないが、なぜわざわざPDCAと言わねばならないのか?
機械だけでなく人体もオープンループでなく、フィードバック機構が備わっている。目をつぶればまっすぐ歩けない。モッキリをコップ一杯に注ぐなんてのはものすごい精密制御だ。
そんなことは人に限らず動物でも昆虫でもしていること。
そういうのをわざわざ取り上げる必要性はなんだろう?

物事を進める上でフィードバックを行うことをPDCAと表現したのは半世紀以上前だが、現実には文明と共にあったはずだ。
お城 秀吉が墨俣一夜城を作ったかどうかは定かでないらしい。お話の上では信長に築城を命じられた前任者ができなかったのを見て、藤吉郎が請け負ったとかいろいろ逸話がある。失敗を見て対策することは、それすなわちPDCAだ。
元寇があれば敵の戦術を反映して元寇防塁を築く。人は常に反省し次の行動に反映する。それがPDCAでないのか?
最後の日本兵 小野田寛郎さん(注1)が書いたものに「戦闘は錯誤の連続なり、錯誤を速やかに発見し、修正したものが勝利を得る」という文章がある。彼はそれを中野学校で習ったという。出典は定かでないが、それは究極のPDCAだ。
きっと認証機関やコンサルの人たちは、頭が良すぎて簡単なことを難しく表現するのに長けているのだろう。


トイレット 安全な水とトイレを世界中に
「安全な水とトイレを世界中に」は大変結構なことであるが、それを企業が推進するっておかしくないか?
安全な水とトイレを世界中に広めるのが社是です、そんなことを語る社長がいれば、アホです。
おっと、衛生陶器会社の社長なら、安全な水とトイレを世界中に広めるのはもちろんです。


気候変動に具体的な対策をしよう
「こまめに電気を消す、CO2排出量の少ない移動手段(徒歩、自転車等)にするだけでも、環境を守れるため、できることを考えていきましょう」
これは政府広報オンラインにあったものです。
ほんとうですか 岸田さん正気ですか
地球温暖化も資源枯渇も大した問題じゃないんだねえ〜
笑うべきか呆れるべきか、どっちだ?

ABC分析ってのがある。日本全国の電気使用を調べてください。そして無駄な照明を排除することによっていかほど改善されるか考えましょう。
無駄排除は決して悪いことではありません。でもあなたの周りの無駄排除を頑張っても気候変動は改善されません。あなたの家の電気代を1%も減らせないでしょう。


SDGsはISO担当者のノウハウを使う
ISO担当者っていってもピンキリだ。いや私の知っている企業はキリのほうで、世間一般はピンのほうの人ばかりなのだろう。
そういう上澄みのISO事務局担当者を使えば地球温暖化はすぐにも解決、貧困も撲滅、水洗トイレも普及するだろう。そうだといいねえ〜(鼻ホジ)
できないISO事務局は無能なのだ(バカボンの父)


ISO認証機関とかISOコンサルには、SDGsとISO14001は相性が良い、SDGsをISO14001で回すと語る人が多い。だがISOに関係なかった人がいろいろさまよった結果、ISO14001(あるいはISOMS規格)がSDGs推進に効果的だと書いたものは……まったくない。

探せば探すほど、ISO14001を売り込もうとするのがミエミエだ。そりゃ認証機関もコンサルもISO認証が増えればウハウハだろう。だがウハウハになるよりも、実際に効果があるのか、最善の方法なのか、その辺を考える必要がある。
SDGsは目標であり、ISO14001は手段である。目標を達するのにどの手段が良いのか考えることは大事だ。このツールを売りたいから使わせよう……という発想は出発からおかしい。


うそ800 本日の感想とまとめ

実を言って最近はやりのSDGsとISO14001についていろいろと書こうかと思ったが、奥行きのない話だったようだ。1年もするとSDGsは残るだろうが、ISO14001でSDGsを回そうなんて発想は消えているだろう。とまあ〜そんなわけでSDGsとISOの関りについて急速に関心を失ってしまったのです。
そしたら次はなんだろう
ウクライナ問題をISO14001で解決するとか、北方領土をISO14001で取り戻すとか言い出すのかねえ〜

公害 だいぶ前になるが、2007年に経産省は『「公害防止に関する環境管理の在り方」に関する報告書(注2)というものを出した。要はISO14001が普及したが環境事故も違反も減らない。公害防止や遵法のために初心に帰えれという趣旨だ。露骨に言えば、ISO14001なんてのにうつつをぬかすなということだ。

SDGsをISO14001で実現しようとか、こまめに電気を消したり車の代わりに自転車を使えば温暖化が止まるなんて主張をしていると、バカなことは止めろ、真面目に考えろと環境省あたりが通知を出すだろう。
もっとも政府広報と他の省庁が、矛盾することを語るとどうなるのだろうか?

何度も言うが金儲けは悪じゃない。でも嘘をつくのは悪だ。かっこ悪くても、人目を引かなくても、ISO14001認証の減少を止められなくても、まっとうなことを愚直に実行することがまともな道じゃなかろうか?




注1
小野田寛郎ひろお(1922-2014)太平洋戦争終結から29年間フィリピン・ルバング島に潜伏しゲリラ戦を戦い続けた最後の日本兵(将校)。帰国後、マスコミに悩まされてブラジルに移住し10年後牧場で成功した。その後帰国して青少年の教育などを行った。

注2



外資社員様からお便りを頂きました(2022.04.14)
おばQさま いつも原典に基づいた論理的なお話有難うございます。
せっかくのお話なのに,ロシア,ウクライナの戦争を見ると,SDGsなんて言えるのは平和だったからと感じます。
クリーンエネルギーだぁとか,省エネだぁといくら頑張って積み上げても,戦争の壮大な無駄遣いの前には霞んでしまう気がします。
先日 国内線の飛行機に乗りましたが,「この便はクリーンエネルギーで飛んでいます」,空港まで行く私鉄には「2022年4月からクリーンエネルギー100%」と,どちらも誇らしげに書いてありました。戦争のむなしさは人命が損なわれる事が最大ですが,それに加えて省エネやクリーンエネルギーなど,必死に導入した結果が霞んでしまう壮大なエネルギーの無駄遣い。だからと言って省エネは不要とか無駄だから辞めろという気はありません。

今回の記事にあったご指摘「錯誤を速やかに発見し、修正したものが勝利を得る」
こういう事態に至ったのも,ロシアがEUや日本へのエネルギー供給という重要な要素を握っている点。 特にクリーンエネルギーとして重視されていた天然ガスの大供給元。
水素燃料も,結局は天然ガスから。 クリーン電力も,石炭ではなく天然ガス頼り。
この天然ガスの頚木から離れないと外交上は不利,一方でSDGsの計画はEUも日本も天然ガス重視。となると,速やかに修正するしかないのか?
何かといえば原子力再開ですね。 2012年の古い統計ですがウランの主要供給元:1,000tU以上を生産した国は、カザフスタン、カナダ、オーストラリア、ニジェール、ナミビア、ロシア、ウズベキスタン、米国、中国及びマラウイの10ヶ国
ロシアと中国を除いても,まだ8か国あります。 今からでも遅くない,オプションや手立ては複数ある方が良い。再稼働への検討は,日本も早く進めるべきと思います。

ちなみにEUは,ロシアの動きが怪しくなった2月時点で既に,原子力はクリーンエネルギーだと見直しております。
>原発事業への投資環境好転も EUのグリーン認定(産経)
https://www.sankei.com/article/20220203-MDIYNCS6KFOQZMHQFSQ2ZQVDUM/

外資社員様 いつもご教授ありがとうございます。
私ものんきにSDGsなんて書いていては、ウクライナの人たちに合わせる顔がありませんね。反省します。
1992年リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」で採択された附属書に原則が27あるのですが、その24番目で「戦争は、元来、持続可能な開発を破壊する性格を有する。そのため、核国は、武力紛争時における環境保護に関する国際法を尊重し、必要に応じ、その一層の発展のために協力しなければならない」とあります。
まあ言っていることは当たり前、ありきたりのことですが、27項目の24番目とはいかに戦争が重要視されてないかということでしょう。
ガスの元栓を閉めるぞ しかしEUもロシアからの天然ガスに頼っていて、何年も前からことあるごとにガスの元栓を閉めるぞと脅されてきました。親父が生きているとき「日本は鉄や石油を輸入している国と戦争したんだから勝てるはずがない」といつもこぼしていました。
EUも同じ轍を踏んでいるわけ、アホかバカかとしかいいようがありません。何年も前からガスの元栓を閉めるといわれてきたのですから対策しておかねばならなかったはず。
真に費用対効果とか安定性などを求められたら、欧州の太陽光発電、風力発電、そしてEVなど頓挫してしまうでしょう。そうなれば原発一択でしょうね。
坂本龍一太陽光で演奏 日本も坂本龍一とか太陽光発電で演奏するパフォーマンスも石を投げられるでしょう。ある意味、そうなれば面白いかなと思います。
ウクライナはどうなるのでしょうか。スウェーデンとフィンランドがNATO加盟すると報道されていますが、加盟前にロシアが侵攻する可能性もあるでしょうね。現時点軍事同盟はないからNATOが出てくることはできないでしょうし。なんだかんだでロシアのやりたい放題で終わってしまうのでしょうか?
いずれにしてもSDGsも地球温暖化もネガティブプライオリティ(非優先)で、これから先進国はエネルギー問題、食糧問題、もちろん安保問題が最優先課題ですね。地球温暖化など一般人は忘れてしまいそう。


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