安全・毒性・リスク管理 2003.03.02
原子力発電に関する議論ではむちゃくちゃな論理を見かけます。
 「絶対安全を保証せよ」
 「安全であることを証明できないなら運転を認めない」などなど・・・
電力会社の記録捏造や隠蔽は犯罪ですが、上記のようなご意見も行きすぎと思います。

02年4月PRTR法というのが施行されて、日本ではすべての事業所(工場だけでなく学校や自治体その他も含む)が使用している化学物質(当面は354物質)の使用量、排出移動量を行政に届け出て、行政がこれを公表する仕組みが動き出しました。本当は02年秋から数値を公表する予定だったのですが集計が遅れ03年からになりそうです。
危険性はあるのかないのか? 公表されたデータを基に地域住民あるいはNPOなどが事業所や行政に対して『もっと情報公開せよ!』『説明会を開け!』という運動が日常茶飯事になるでしょう。アメリカは日本より10年早くスタートし、そういった過激な運動が起きました。
そのときのやりとりは、
 「絶対安全と言えるのか?」
 「安全を保証できないなら使用をやめろ!」
といった論調となるでしょう。(と予想します)

人間は神様ではありませんから、『絶対』なんて言葉は絶対言えるはずがありません。
それに論議を進めるには「YESか NOか」という二分法では建設的な成果はでないと思います。
マレー半島で山下将軍が「YESかNOか」といったのは、決して「問答無用!いう事を聞け」と言ったのではないそうです。降伏したパーシバル中将の話が要領を得ないので「いったいあなたの意思はYESなのですかNOなのですか?」といったのが真相だとか?
「原発は危険だ!」という論は正しいと思います。原発推進派だって原発は絶対安全なんて考えていないでしょう。
では石油は危険ではないのでしょうか?石油による自然破壊は毎年たくさん起きていますし、死傷者もでています。ナホトカ号の原油流出事故の記憶はまだ薄れていないでしょう。アラスカでも中近東でも原油流出は発生してます。いえ、日本国中いたるところで重油やガソリンの流出事故は発生してます。交通事故で燃料が漏れ火災発生や河川、田んぼの汚染も発生してます。
原発の事故は大小たくさん報じられていますが、過去から現在までの原発関係の死者は東海村の核燃料処理での臨界事故で2名発生しただけです。
その間に重油流出や火災によって何名の方が亡くなったでしょうか?石油に関わる事故は大きなものしか報道されませんが数千人にはなるでしょう。ナホトカ号の原油回収作業でも複数の方が命を落としています。
これら実際の被害状況を見ると、『火力発電は危険だ!原発に転換しよう』という人がいてもおかしくありません。
いえ、私は原発推進派ではありません。考え方を言っているだけです。
原発は危険だし石油も危険だ!風力や水力は安全で自然保護であるという方がいます。
専門家の間では発電方法の中で最大の自然破壊は水力なのだそうです。現実問題として自然保護派がダムを作るなどころじゃなくて「ダムを壊せ」と言っているご時勢ですから新たな水力発電所は無理でしょうなあ〜
ついでに言えば長江のダムは21世紀最大の自然破壊なのかもしれません。

原発の事故は被害甚大であるし子孫まで影響するが、重油の事故は遺伝子破壊はないとおっしゃるかもしれません。
そうです、そこでリスク管理という考えが必要になってきます。
リスクとは何か
「リスク」はさまざまに定義されているが、一般的には「人間の生命や経済活動にとって望ましくない事態が発生する可能性」と理解されている。この「リスク」の概念は、将来発生するであろう望ましくない事態を想定してその対策を講じる際に、複数のリスクの中で優先的に対応しなければならないリスクを決定したり、個別のリスクの大きさにあったリスクマネジメント手法を決定するためのものである。
一般にリスクの大きさは損失期待値として表される。損失期待値とは、リスクの「発生可能性」とその「損失の大きさ」を乗じたものである。

損失期待値(リスク)=発生確率×損失の大きさ(ハザードの大きさ)

たとえば、自社施設の立地を検討する場合、200年に一度の割合で台風の被害を被る地域Aと、20年に一度同規模の台風被害を被る地域Bの台風リスクを比較すると、施設は同一とすれば「損失の大きさ」は同じだが、地域Aの台風の発生確率は地域Bの10 分の1であるため、地域Aの台風リスクは地域Bの10 分の1ということになり、台風リスクに関しては地域Aに立地した方が有利になるといえる。
このようにリスクの大きさを測ることにより、事業者がどのようなリスク対策を講ずれば効果的か、またどの対策を優先的に行えばよいかの判断が可能となる。
(平成12年度リスクコミュニケーション事例等調査報告書:環境省より引用)

絶対安全といえないならば、発生する被害の大きさと発生の確率を考え合わせて評価して選択や対策をしなくてはなりません。
化学物質でも同じことです。
「毒というものはない。すべてが毒なのであって、毒となるかどうかは、使い方しだい」というのが毒性学の原則なのだそうです。
お断りしてきますが、私は化学物質の専門家じゃありません。昔はガスクロとか検知管などで環境測定を仕事としていたこともありますし、今はPRTRや化学物質管理と関わっておりますが、それだけのことです。
佐為ジジイです
LD50というのをご存知でしょう。半数致死量といいます。この毒は何グラムで死ぬかといっても個体差がありますから同じ量を摂取してもみないっせいに死ぬわけではありません。それで統計的に半数が死ぬ致死量(体重1kgあたりのグラム数)をLD50といいます。この値が少ないほど毒性が強く大きいと弱いわけです。それでLD50の値が小さければ毒物、少し多いと劇物といいます。
ですから実際問題としていろいろな化学物質や食べ物を毒であるものと毒のないものという二つには分けられないのです。
すべての物質は毒性を持っていて大量に摂取すれば死んじゃいます。
砂糖だってでんぷんだってみなLD50が測られています。私たちは毎日毒性のあるものを食べて生きているわけです。具体的数値は便覧などを見てください。
ですから雑食性でいろいろな物を食べるということは危険を下げていて良いことなのです。
子供の頃、一番手っ取り早く自殺するには醤油をコップ一杯飲めばいいと教えられました。
まだ試したことはありません。 
でもその伝でいけばサラダオイルでもマヨネーズでもお酢でも自殺できそうです。
おお!キッチンは毒物保管庫だったのだ
そういった前提で考えると、PRTR法で公表される化学薬品などについて考える時には、会社側も住民やNPO側もリスクという概念を持たなければなりません。
「ぜった〜い反対!」じゃ話しにならないのです。

殺虫剤を使わない農業がいいんだ!と叫んでいる方々がいます。
けっこうなことです。日本国憲法は信教の自由を保障していますからね。
以前、私の実家がりんご果樹園をしておりました。あるとき「もう、りんご作るのやーめた」と決めました。 果樹園は荒れるにまかせて放っておかれました。
次の年にどんなりんごがなったか想像できますか?虫食いだらけでプチトマトくらいの大きさのりんごがほんの少し付いていただけでした。食べてみましたが食べる果肉はありませんでしたね。
化学肥料反対者の宣伝文で『野生の作物がたわわに実っている』という言い回しをみたことがありますが、まずそんなことはないでしょう。もともと生物は子孫を残すために実をつけるのであって、それ以上の実をつけることは経済効果から考えてありませんし、現実の自然界は厳しい世界であり種の保存さえ限界状態なのです。種の保存以上に人間様に食べさせるほど実をつけるはずがありません。
じゃあ、どうするの・・・人間が手入れして肥料をやって雑草を取り害虫を駆除してはじめて人間が食べる分と翌年の種が手に入るのです。
なんか話が飛んじゃいましたが、まあ、このウェブサイトで勉強しようという方はいないでしょう 


最後はいつものテーマでおしまいとします。
軍備は悪いことなのか?
そりゃ軍隊は建設的なものではありませんね。ただ、今時点の世界情勢、日本周辺の国々の軍備を顧みれば非常に危険な状態にあり、日本は自国の安全のために一定の軍備を保有しなければならないことは常識でご理解いただけるでしょう。
そして、弾道ミサイルが従来の兵器で防御できないならばこれを迎え撃つ方法を開発しなければあなたの命の安全が保証されないことも自明なことです。
もっとも中国人民解放軍の精強を称え北朝鮮の閲兵をよしとして、自衛隊の危険性を語る方々はリスク管理以前の無知蒙昧としか言いようありません。
無知蒙昧(むちもうまい)知識が乏しく物事の道理に暗いこと・・・広辞苑による 

本日の論に異論・反論は多々あるでしょう。
いえ、私もリスク管理を勉強中の身であります。間違いも多々あると思います。
ただ言いたいことは二分法じゃあ議論はできないよ!ということです。
多面的に見なければならないこと、そして危険性をゼロにするということではなくリスクを許容できるか判断をしなければならないのです。
がん保険は保険料の無駄だ!と考えても、いやあ万一に備えて保険に入っておこうと考えてもそれはご本人のリスク判断と言うことです。
ですから原発に反対、殺虫剤不使用、軍備反対という決定をしてもよいのです。
但し、反原発であるなら現在の半分の電力量の生活に甘んじなければなりません。
殺虫剤を使わないなら害虫の駆除に大変な労力を投じないといけません。
軍備反対ならいつ何時北朝鮮あるいは中国の侵攻を受けて殺されても諦めなくちゃいけません。
あなたがそのリスクを受け入れたのですから・・・


それとも北朝鮮や中国は決して侵攻してこないと信じてらっしゃいますか?
それじゃあ、原発の事故も化学物質の危険もないと信じてくださいな
 


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劇物って、飲むとふらふらしてそれが踊りを踊っているふうに見えるので劇物というと某薬剤師に聞きました。
真偽は不明です。

高橋留美子の名作「うるせい奴ら」に劇薬を飲んでみなで劇を演じるというストーリーがありました。
するってえと、アイデアはとっぴではなかったのですね?

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