水質事故と環境側面 2003.01.29
本日はつい最近の経験から『困ったもんだ!』ということをひとつ、
興味のない方も、ジジイがどんな仕事をしているかを知るためにぜひお読みください。

ISO14001の環境側面というのをご存知でしょうか?
ISO14001とは環境マネジメントシステムの国際規格、その規格の中で組織(会社、工場、自治体など審査を受ける単位)の環境への影響を調べその原因を把握することを求めています。
  環境影響の原因が環境側面、例えば騒音は環境影響で騒音を出すプレスを環境側面といいます。
さて、ISO規格では環境側面の特定を求めています。ところが、多くのISO審査登録機関(多くの場合誤って認証機関と自称・他称しています)は環境側面評価を求め、多くの各種講習でも環境側面評価を教えています。イエ、真に環境側面特定を求める審査機関、環境側面特定を教える講習もあります。
そういった環境側面評価方法の多くは数値化すると見た目が良いと思うせいかなんでもかんでも数値化し計算し、これ以上は有意!これ以下は有意じゃない!とすることが多いのです。

ところで、環境側面を特定する目的って何でしたっけ?
そうです、自組織の持つ危険性や環境負荷を認識し、負荷を減らし事故の予防を行うためです。

ではもう一つの言葉を説明します。
水質事故とは法で定める水質基準を超える流体が公共水域・下水道あるいは道路など敷地外へ流出することです。例えば重油などの液体燃料、塗料、有機溶剤、アルカリ・酸、薬品、未処理の工場排水などのほか温水・冷水、着色・汚濁などが該当します。
冷水は法で規制されていないが、大量の冷排水を排出し魚が浮いて問題となった事例があります。
ご存知のようにテレビ、新聞をはじめとする各種メディアによって数多くの水質事故が報じられています。大はタンカー事故から小は家庭からの生活排水に起因するものまで・・・・
ナホトカ号の記憶はまだ消えていないでしょう。
最近、座礁事故を起こした船長は国交のない国に逃げ帰ってしまう手が流行っております。あれは水質事故ではなく犯罪です。
プンプン 
国土交通省によると水質事故は毎年約700件発生しており、年々50件程度増加している。年度毎に水質事故が増加しているのは、事故発生が増加していることの他に住民の環境に対する意識向上と危険に敏感になっていることが考えられます。

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油類重油、軽油、ガソリン等の流出
化学物質シアン、有機溶剤、農薬等の流出
油類、化学物質以外土砂、糞尿等の流出
その他自然現象ではなく、魚の浮上死等が確認され、原因物質が特定できなかったもの
いずれも国土交通省のウェブサイトより引用

水質事故のほとんどは、異常を発見した付近住民が行政に通報し、行政が回収や緩和処置を行っており、そののちに原因や排出者の調査がしています。
発見された水質事故の30%の原因者が不明であるということは、流体流出を起こしても発生者が通報せず行政や住民が異常に気づかないものもあるでしょうから、水質事故の実態は統計以上に発生していることでしょう。

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左図は私が関東地方で報道された水質事故の流出量を調べたものです。
見て分かるように水質事故の多くはその流出量が数リットルから数十リットル規模であり、消防法で定める指定数量などよりはるかに少い。


指定数量の例
種類
指定数量
ガソリン
200L
軽油/灯油
1000L
重油
2000L
潤滑油
4000L
指定数量とは可燃物の危険性から保管や使用に際して保管設備の設置や許可の要否の基準となる数値です。指定数量1以上は消防署の許可が、0.2以上は届出が必要です。

家庭用の灯油タンクが198リットルなんて数値であるのは1000リットルの0.2倍より少なくして届出不要にしているわけです。
第1次大戦後の軍艦の排水量が軍縮規制を逃れるため1万トン以下にしたとか、車の排気量が1998ccなんていうのと同じです。

つまり『水以外のものが多少なりとも敷地外に流出したら水質事故』なんです。
日本全国の環境担当者のみなさん、ISO事務局の皆さん、この事実を認識してください。
水質事故予防のためには『敷地外には一リットルたりとも流出させない』ことです。

ハイ、環境側面と水質事故に関して述べましたことを考え合わせると本当に役に立つ環境側面を把握しようとすると数値計算なんて意味がないような気がしてきます。まして足切り(一定量以下は無視すること)なんてまったく?
過去にダイオキシンを流したり、クレゾールを流したりして話題になった多くの会社はすべてISO14001認証をしていたんです。
なぜ?って疑問を持ちません?
ISO14001はシステム規格ですから即環境パフォーマンスには結びつかないでしょう。でも環境影響評価などにおいて実態を調査把握してなかったんでしょうか?

似たようなことはほかにもあります。
ISO14001規格では内部環境監査を行うことを求めています。
この内部環境監査は遵法確認並びにリスク管理に効果を発揮しているのでしょうか?
ISO14001に関わっている日本全国のみなさん、水質事故に限らず事故の危険を発見したことがありますか?
ISO小僧の方々、「ISOの内部監査はマネジメントシステム規格との適合性確認であり、遵法確認やリスクの予防ではない」などと語ってはいけません。
それはあなた、大きな間違い、勘違い!
ISO14001規格では、内部監査において遵法を確認せよとは定めていないが、他の要求事項に記載されている遵法の実施を確認することを要求している。規格を読み直してください。
ISO14001の内部監査においては、
「組織に適用される法規制を調査しているか?各部門でそれが利用できるようになっているか?」
「法規制を関係者に周知し、それを遂行するために必要な能力を持たせているか?」
「法規制を守って業務を遂行しているか?」
「組織は適用されている法規制を守っていることを定期的に確認しているか?」
を聞き取りし、適合を確認しなければ内部監査が規格に適合しません。
ではISO14001の認証取得(正しくは審査登録)している企業でなぜ水質事故が起きるのか?
理由はふたつあると思います。
ひとつにはISO14001の序文にあるように、「この規格の採用そのものが最適な環境上の成果を保証するものではなく」「同様な活動を実施しているが異なる環境パフォーマンスを示す場合」もあるからです。具体的規制基準のないISO14001に基づくマネジメントシステムの運用効果は組織の成熟度に依存します。それはシステム規格の限界でありやむをえないでしょう。
第二には構築した環境マネジメントシステムがほんとうはISOの要求を満たしていないんじゃないですか?
ISO14001規格が求める重要側面や緊急事態は定常時・非定常時における各種設備や作業の状況、状態などを十分に把握して決定されるはずであり、その結果定められる運用基準は環境側面を十分に認識し、法規制や過去の経験を反映していると思うんですがね。
多くのISO14001の環境側面特定はお遊び・オママゴトじゃないんですか?
そんなマネジメントシステムは本当はISO規格に適合していないバーチャルな机上の空論ではないでしょうか?
   
もし、これをお読みになった方が、私に講演とか指導を要請されても対応いたしかねます。私は雇用されておりアルバイトは禁止されてますので。
あっ、そんな奇特な方はいませんか! こりゃまた失礼しました。



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