目的及び目標のプログラム 2005.05.02
えー、本日は私の飯のたね、ISO14001のお話であります。
man2.gif 興味のない方は、無視してけっこうでございます。
しかし、「文章とはこう読むのか!?」と案外ためになるかもしれません。
もちろん、役に立たないかもしれません。 

大声で「環境を良くするぞ!」と叫んでも環境はすこしも良くなりません。
あっつ、すみません。バカなことを言ってしまいました。
でも世の中には、バカなことを語っている方も大勢いるので、案外バカなことでもないのかもしれません。

ISO14001では環境を良くするためには、「環境を良くしよう」と叫ぶだけでなく、それを実現するためにしなければならないことをこと細かく決めています。
まず、環境方針というもので「わが社は何を改善するぞ!」と叫ぶというか宣言するわけでございます。
環境方針
「省エネに努めよう」
環境目的
「長期的に電力を半減しよう」
環境目標
「一年間で電力を5パーセント削減」
実施計画
「夏の冷房温度を上げよう」
多くの企業や自治体では「紙・ごみ・電気」と言われるように安易なことを改善するぞ!と叫んでおります。そのようなことなら大声で叫ぶとかえって恥をかくようであります。
さて、環境方針ができてもすぐさま実行するわけにもいきません。それで、環境方針の項目を環境目的に具体化し、さらに環境目標というものに展開します。
「環境目的」とは一般に使われる目的の意味とは異なり、到達点・あるべき姿というニュアンスであります。多くの人はそのニュアンスの理解が困難なせいか「長期目標」と理解しています。まあ、ちょっと違うけど大きく間違ってはいないかな?
当然その結果として「環境目標」のことを「短期目標」と理解している人もいます。まあ、これも大きく間違ってはいないか?

さて、「省エネに努めよう」という環境方針を立てて、「長期的に電力を半減しよう」という環境目的、「一年間で電力を5パーセント削減しよう」という環境目標を作ったとしましょう。
しかしこれだけでも省エネ活動は進みません。具体的な実行計画が必要です。それが「実施計画」あるいは「環境マネジメントプログラム」と呼ばれるものです。
そこには「夏の冷房温度を上げよう」とか、「ノーネクタイを認める」とか、「残業は必要最小限にしよう」なんてことが羅列され、そして実行されるわけでございます。
どこの企業、自治体でもはじめはスイスイと活動が進み成果が上がりますが、2年もたつと飽和してしまい、ギブアップとなるのが通常です。
あなたのところもそうでしょう? ご安心ください。 

さて、ここで問題です。
ISO規格ではこの部分を次のように記述しています。
「目的及び目標を達成するための実施計画を策定し、実施し、維持すること」(ISO14001:2004 4.3.3項)
このたった一行の文章をどのように理解されましたか?
    次のいずれでしょうか?
  1. 「目的を達成するための実施計画と目標を達成するための実施計画が必要」
  2. 「目標を達成すると目的が達成されるなら、目標を達成するための実施計画があればよい。目標を達成しても目的が達成されないなら、目的を達成するための実施計画も必要」
  3. 「目標は目的を展開したのだから、目標を達成するための実施計画があればよい」
2番目と3番目は似ているようですが、違います。2番目は目標が目的を達成するかどうか吟味が必要です。3番目はそのようなことを考えなくても良いと断定しています。
でも、良く考えると・・・よく考えなくとも・・・目標を達成しても目的が達成できないなら、もともと目的と目標が矛盾しているようです。 
さて、この世にはたくさんの審査登録機関(認証機関ともいう)があり、星の数ほどのISOコンサルタントがいて、浜の真砂(まさご)ほどのISO事務局があります。
ISOに関わっている大勢の方々はこの一行をどう読んでいるのでしょうか?
インターネットで調べますと、1、2、3の解釈ともにあるようです。
小説や和歌であればいわく言いがたいところを、人さまざま、人それぞれに受け取っていただいてよろしいでしょうし、案外作者が思っている以上に深読みしてくれるかもしれません。
しかし、ISO規格ともなるとそれじゃあ困ります。
私は3番目だと思ってシステム構築していたら、審査機関が1番目の解釈であれば「不適合」と呼ばれる有罪判決を受けてしまうのです。
これは大変です。

実際に1番目の解釈をしている審査機関もあります。
また、インターネットや雑誌でも1番目の読み方を教えているコンサルタントもたくさんあります。
この文章だけでは決着がつきません。でもISO規格の頭から尻尾まで何度も読むと答えが書いてあります。
環境目的という語を使っているのはISO14001規格では次の7箇所です。
  1. 4.3.3 組織は、組織内の関連する部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定し、実施し、維持すること。
  2. 4.3.3 目的及び目標を達成するための実施計画を策定(現在の論点)
  3. 4.4.6 組織は、(略)、その環境方針、目的及び目標に整合する特定された著しい環境側面に伴う運用を特定し、計画すること。
  4. 4.4.6 a) 文書化された手順がないと環境方針並びに目的及び目標から逸脱するかもしれない状況を管理するために、文書化された手順を確立し、実施し、維持する。
  5. 4.5.1 この手順には、パフォーマンス、適用可能な運用管理、並びに組織の環境目的及び目標との適合を監視するための情報の文書化を含めること。
  6. 4.6 レビューは、環境方針、並びに目的及び目標を含む環境マネジメントシステムの改善の機会及び変更の必要性の評価を含むこと。
  7. 4.6 d) 目的及び目標が達成されている程度
今問題としている文章、「4.3.3目的目標を達成するためのプログラム」を「目的を達成するためのプログラム」及び「目標を達成するためのプログラム」と読むならば、他の目的及び目標に関してもすべて「目的に関する***」及び「目標に関する***」が必要であると読まないと文字解釈のスタンスが矛盾しますよね。 man7.gif
しかしながら、私の知るかぎり「目的を達成するための実施計画と目標を達成するための実施計画が必要」と語る審査機関やコンサルタントはあれど、「目的から逸脱しないための手順書と目標から逸脱しないための手順書」を別個に作れと語る審査機関もコンサルタントもいません。
もしご存じでしたら、教えてください。私の閻魔帳(えんまちょう)にメモしておきます。

目的を達成するための実施計画と目標を達成するための実施計画を要求する審査機関が、目的から逸脱しない手順書と目標から逸脱しない手順書を要求しないのは不思議というか、まじめに文章を読んでいないとしか言いようがありません。


結論は「目標を達成する実施計画があればよく、目的を達成する実施計画はいらない」です。
本日のおはなしは、これでおしまいです。

なんだ! バカにするな!
などといわないでください。
文章って、それくらい注意して読まないといけませんというのが本日の教訓です。
ISOや環境に関わっていない方にとっても、少しは役に立ったでしょう?


この拙文を一番読んで欲しいのは、
「目的のプログラムがないと不適合だ〜!」と叫んでいる審査機関なのですが 




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