4.3.3 環境実施計画 2006.04.28
いつもISO審査員を茶化している私であるから、全面的に被監査側(事務局)の味方と思われているかもしれない。そうではないことを本日は立証する。

本日のお題はISO14001規格4.3.3後段の環境実施計画である。
だれでも望みや夢を持っています。
「本気で実現しようと願ったら必ず実現する」とは史上最小のヨットで大西洋を渡ったアメリカ人の言葉。
piano.gif しかし大西洋横断でも、彼女と仲良くなりたいでも  TOEIC900点とりたいでも、ピアノが引けるようになりたいでも夢を持つだけでは実現しません。
実現するためには目標実現に向けた地道な努力が必要です。
そしてその努力もがむしゃらなだけではだめです。しっかりとした計画がなくては、効率が悪いし目標のどこまできたのかもわかりません。
目標を確実に達成するためには、現時点から到達点までの道筋、到達時間、いつなにをするかといった計画が必要です。

計画を立てるといいますと何を思い浮かべますでしょうか?
小学校や中学校の夏休みの予定としてカレンダーにこの日は宿題をする、この日は遊ぶとか書いた思い出があります。正直申し上げますが、私は計画性のある子供でしたので最後の日に宿題をするようなはめになったことは一度もありませんでした。
もっともそのようなことになったら、私の父親は手伝ってくれないどころか往復ビンタをくらわす危険がありました。 

過去より人間は計画をどのように表すかを考えてきました。
(注)
「左甚五郎は東照宮の造営に関わっていない」というご意見を賜ったので若干追記
甚五郎そのものが伝説とも言われているし、飛騨の甚五郎が正しいという説もある。地元のガイドによると造営の指揮をとったという説もあるとのことで、ここではこう記した。
左甚五郎であろうと、飛騨の甚五郎であろうと、まったくの別人であろうと計画の困難さは変わらない。
私は知りませんが、ピラミッドを作るためには計画表が必要だったでしょうし、秀吉は一夜城を作るに計画表を作ったはずです。左甚五郎が東照宮を造る(右注)にあたっては、丸ビルを造る以上の精緻な計画が必要だったと思う。それらはものすごいイベントの連なりとなるはずだが、当時は計画は科学ではなく個人的才能に依存していたのかもしれない。あるいは経験を積むことにより頭の中でデータ処理できたのかもしれない。
残念ながら我々は特別な頭脳を持っていないので、計画を立てたり伝えるために図表にすることが多い。
普通使われている計画表といえば横軸に日付をとり、線を引いて仕事の予定を示す。これをガントチャートといいますが、それはこの図表の発案者であるヘンリー・ガントのお名前です。
彼は科学的管理法の創始者であり高速度鋼の発明者でもあるテイラーの弟子で、ガントチャートを約100年前に考案したといわれる。
ということはそれまでそういった表記法がなかったのですね。今当たり前に思えるものでもそれをはじめに考えた人はすごいですね。もっとも本当のガントチャートは単に線を引くのではなく、工数とのリンクがないとだめです。

jfk.gif 1961年アメリカ大統領になったケネディは60年代末までに人間を月に送り込むと宣言した。当時はアメリカ人はスプートニクショックとかビートニクといわれたように1957年旧ソ連に人工衛星で先を越されかなり打ちひしがれていたのです。ケネディの宣言はアメリカの軍事的優位のためだけでなく、国威発揚のためもあった。これがアポロ計画で人間が取り組んだ史上最大のプロジェクトではないだろうか?
原爆を作るマンハッタン計画やヨーロッパでの戦争というものも大プロジェクトであったろうが、アポロ計画はそれらに比べてきわめて巨大、複雑そしてプロジェクト実現のためには新たな開発や発明・発見までもが必要となるとてつもないものだったそうです。
アポロ計画を進めるにプロジェクト管理のための方法を開発しました。それがPERTでした。
人工衛星もアポロ計画もケネディの就任も暗殺も、私の子供時代のことでよく知っている。私も長生きしすぎた気がする。
さて、我が愛するというか飯の種であるISO14001では環境改善を義務つけている。日本では聞かないが、アメリカでは環境との関わりが少ないから改善事項はないという会社もあるそうだ。しかしISO規格では環境改善を要求事項としているので、最低ひとつは環境目的がないと認証できないらしい。
なんかこのあたりの解釈というか常識で考えておかしいなあ〜というところである。
まあ、それはおいといて
環境改善を進めるにも目的も計画もなくては進むはずがない。ISO規格というのはそのあたりの手順について懇切丁寧に決めている。
まず、その会社がどのような項目について改善を進めるかを環境方針で宣言しなければならない。
そしてその方針を実現するために、到達点(環境目的)、経過点(環境目標)の設定と、計画(環境実施計画)を決めよといっている。
ISO14001規格4.3.3では次のように記述している。
組織は、その目的及び目標を達成するための実施計画を策定し、実施し、維持すること。実施計画は次の事項を含むこと。
a)組織の関連する部門及び階層における、目的及び目標を達成するための責任に明示
b)目的及び目標達成のための手段及び日程
簡潔であり明瞭である。まさしくビジネス文章の鑑である。
簡潔であり明瞭である。まさしくビジネス文章の某氏より誤字指摘され修正いたしました。
まあ、どんな仕事も同じである。大目標を中目標に、そして具体的実施事項と日程計画にまでブレークダウンしないと仕事は効率的に進まないのは当然である。

さて、ISO14001を認証しようとする工場や会社は当然環境実施計画というものがなければならない。
もちろん、会社や工場ではISOなどできる前からさまざまなプロジェクトがあり、それを実現するための計画があるはずだ。
・新製品開発計画
・生産性向上計画
・新設備導入計画
・省エネ推進計画
・○○製品拡販作戦
man2.gif
まあ、どんなプロジェクトを進めるにも計画をたてなければならないはずだ。そういった過去から存在する計画表をISO規格でいう環境実施計画であると宣言(断定)することに問題はない。
というよりそれが本来の姿であるのだ
まあ、どんなものでもよいのだが、いずれにしても環境実施計画にあてはまる書き物がなければならない。

さて、ISO規格でいう実施計画とはいったいどのようなものなのだろうか?
多くのISOの解説書や参考書を見るとほとんどがガントチャートを示して、このようなものを作れと書いてある。
実施事項4月5月6月7月8月9月10月・・・
あれする
これする
そして過去わたしが拝見した企業のほとんどはガントチャートまがいの計画表を作っている。わたしが見た限り、それがどれほど吟味検証されたのか、どのように役に立つのか、判然としない。

実は、ISO14004には環境実施計画の事例が掲載してあるのだ。それは単にテーブルに目的、目標、実施計画、指標、運用管理、監視及び測定といったものが書かれている。
側面目的目標実施計画・・・
燃料油の消費燃料消費量削減1年以内に20%削減する効率の良い燃料バーナー設置・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
(ISO14004:2004 表A2を参照した)
複雑・精緻(?)な環境実施計画を作っている方々はあまりに簡素で拍子抜けするのではないだろうか?
話は変るが、これを見ただけでも環境目的を実現する環境実施計画と環境目標を実現する環境実施計画の双方が要求されていないことが一目瞭然である。
規格制定者が意図したものはガントチャートのように時系列に表示するとか、PERTのように相互関係を示すような厳密性を求めているのではないようです。
しかし!
規格に書かれている、実施責任と手段と日程は必須で、それを実行すれば目標が達成できることが必要条件であることは間違いない。
さて、現実に見かける環境実施計画は横に時間軸があり、縦方向にたくさんの実施事項が記載され、それぞれの実施を示す線がたくさん引いてあり、一見してその緻密に圧倒されてしまいそうです。 
でも、実施計画のアイテムを実行すれば目標が達成できるのか?という規格適合の観点から見るとすべて不適合のような気がします。
いつも申し上げておりますが、このようなものを環境実施計画と証するのは僭称というもの。
鳥なき里のこうもりと言うべきかもしれません。
僭称(せんしょう)とは称号を勝手に名乗ること。
正式に戴冠せずに王を名乗るのは僭主(タイラント)
紙を減らすという簡単と思えることでも実現するためにはしっかり考え、実現できる計画をたてないと掛け声倒れ、プロジェクト崩れになります。
笑っちゃうのは、詳細な目標値が記載されているにも関わらず具体的方策・手段のない計画(?)ですね。
たとえば、OA用紙を減らそうという実施計画に昨年度の月次実績、今年の月毎の目標、実績記入欄があって、その下の線が一本引いてあるのをみたことがあるでしょう。いったいどんな手段をいつ実施するのでしょうか?
精神論やケチケチ作戦で紙が減るなら京都議定書も簡単に実現できるはずでしょう? 
紙を減らすというならば、紙の用途を減らすしかありません。
それは精神論ではない。もし論理で裏付けられていなければ絵に描いた餅 そして実施計画の右辺と左辺があっているか検証しなければならない。貸借対照表のごとく目標と実施計画による成果が等しくないと・・・それは実施計画ではない。



本日の叱責

世のISO事務局よ!
矢印だけの環境実施計画を作るんじゃねえ
・・・しかし待てよ 
そんな会社に認証を与えている審査員も同罪だ





赤穂様からお便りを頂きました(08.07.01)
はじめまして
今年の2月頃からISO担当として認証取得(という表現で良かったのでしたっけ・・・)のため勉強しているものです。
こちらのコーナーは面白みがあり、とても取っ掛かりやすいので、何かに困ったときなど、関係する箇所を何度も読ませていただいています。
うちはもうすぐ第一段階審査を迎えますが、それにあたって各部署の目標等を提出したところ、「実施計画」がちょっと物足りないというような内容のお電話を審査員の方からいただきました。
「iso14004を参考にして作っているんですが・・・」
というと「ISO14004というのはないですね」と頓珍漢なことを返され、
(その後「確認しておきます」とおっしゃってましたが)
電話口で項番についてページ数を指示され、なにやらおかしいと思ったら
「お手元にあるのはJISではないんですね・・・」といわれ
(私が持っているのは対訳のものだけです)
非常に不安感のよぎる今日この頃です。

もしネタになりそうな結果になりましたら、またご報告させていただこうと思っております。

赤穂様 お便りありがとうございます。
実施計画が物足りない・・・ということですが、状況を知らない私にはなんともいえません。
実を言いまして、世の中の実施計画の過半数は規格不適合であろうと私は考えております。矢印だけの実施計画、目標値と実績欄だけの実施計画、改善施策の効果の合計が目標に合っていないなど規格不適合の理由はいろいろです。
赤穂様の実施計画がそういったものでなく、審査員が別のことに気がついたのか? あるは勘違いしているのか? ちと分りかねます。
ISO14004を参考に作られているなら間違いないと思いますが、審査員どころか、認証機関がISO14004を知らないところもあり、油断はできません。
規格のページ数をいうような審査員は偽もんでしょう。たぶん。ふつうは規格項番を呼びますからね。
不安など持たずに、おかしかったら審査員が間違っているとドーンと構えていきましょう。


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