環境審査 レッスン14 2006.12.09
内部監査員でも二者監査の監査員でもISOの審査員でも、力量が必要である。
力量とは何か? などと改めて考えることはない。そのような定義は国際規格ISO19011で明確に定めている。
これを満たせばあなたは立派な監査員! になれるのだ。 
しかし、ISO19011を満たすことはらくだが針の穴を通るよりも難しく、これを満たした内部監査員、審査員は日本に少ないらしい

man7.gif しかし不思議だと思いませんか? ISO19011規格は理想とか願わくば・・というものではなく、満たさなければならない基準である。なぜISO19011を満たさない監査員、審査員が存在するのでしょうか?
もうひとつの不思議として、ISOの認証を希望する企業に対してはISO規格を完全に満たすことを要求しながら、審査機関はISO19011を満たさない審査員でお金を取っているのでしょうか?

まあ、そんな俗世間のことは忘れて、本日は、監査員、審査員に必要な要件を考えて見たい。
私も、ISO19011で定める、監査の手順、手法、知識など知るべきことは重要であると考える。
しかし、それらのほとんどは標準化し、系統だって教育することができると信じる。
現実にそうでない審査員が多数いるということは、もちろんそれは非常に困難なことなのだろう。
どの会社でも内部監査員教育なんてしているだろう。しかし、教室での座学や事例紹介だけでは、なかなかというより全然力はつかない。一度、某審査機関主催の「実際の不適合を基にしたスキルアップ研修」というのに参加したことがるが、具体的な不具合を提示すること自体守秘義務との関係で難しそうで、提示される事例は不透明であり当然是正処置もあいまいであり、受講した甲斐がなかったのを覚えている。
審査員の5日間研修を受けて力がついたと感じた方はいらっしゃるのだろうか?
もし、そのような方がいたなら、参加する前は一体どんなレベルだったのだろうかと心配である。
あの程度の幅と奥行きの研修では知っていることの再確認という程度であり、力量をつけるには程遠いと思う。
講師の方だってこの時間ではたいしたことはできないと認識されているはずだ。
本来なら居眠りしていても良いくらいなのだが、後の方で居眠りしていないかチェックしている人がいるそうなので居眠りをしてはいけない。 
現実の書類、実際の現場で現実の文書・記録を見て適合かあるいは不適合かを判断するという訓練、あるいは実戦にきわめて近似したロールプレイを積まないと力量はつかない。
書面であっても現実の監査では教科書とおりというか、法律に合っているかいないかが簡単に判定できるような事例より、判断つきかねる事例が多い。法律を読んでもわからずその場で行政に問い合わせるということだって日常茶飯事である。そういう現実の監査を経験しないと本物にならない。
しかし私はどんな仕事も標準化し、普通の人ならだれにでも訓練によって力をつけることができると考えている。
私は内部監査員教育のためにステップを分けて、それぞれの段階ごとにさまざまなマニュアルを作り教育指導に使っている。そして一定レベルに到達したら、実際の監査にオブザーバーとして何度も参加させて少しづつ役割を重くしていくという手順で行っている。以前も書いたが何度オブザーバー参加しても指導者が同じではいけない。複数の指導者の下で先輩をみてどの方法が良いか悪いかを考えることも大事なことだ。
しかし、そんなステップを踏んでも、人には向き不向きがあるから、最終的に不向きな人には外れてもらうしかない。

私の経験では、環境監査員として育成するにはどのような人、どのような経歴の人がいいのかというと・・・
そりゃ環境業務経験者は未経験者よりベターではある。種々の資格保有者、特定施設の管理経験などがあればうれしい。しかし、現場一筋できた人が、始めたお会いした人とのコミュニケーションがうまいかというとこれもまた向き不向きがある。文章を書くのが苦手という人も不向きだ。私が文章を書くのが苦手ではないのはご存じの通り。この拙文も4000字以上あるが、会社から帰宅後約2時間半で書いた。おおっと、パソコンが使えないのでは今の時代文盲同然である。
パソコンが使えるとはブラインドタッチができて、ワードやエクセルをある程度使えるレベルを意味する。
そして自分が担当していた設備や業務については詳しくても、知らない施設や業務というのは多々あるわけで、新しい知識へのチャレンジ精神も必要だし、またその能力も必要だ。だから経験者が未経験者より好ましいとは言い切れない。
経験者で一番困るのは、ISO規格の理解を間違えている方、あるいは特定の審査機関の見解に凝り固まっている人、更には環境管理に従事していても官公庁の立ち入りとかISO審査で不具合を隠す、ごまかすということをしてきた人である。いったんそういう型にはまった方をまっとうにする労力はたいへんだし、修正ができるかどうか自信がない。
それと環境事務局担当でした、環境施設は知りません、環境法規制も知りませんというISOしか知らない人も不適切である。ISO規格でいう内部監査はシステム監査であるとはいうものの、それだけでは会社に貢献しない。遵法も環境管理改善もそしてお金を節約するという観点からも、ISO規格だけでは・・・使えない。

そういう人に比べれば未経験者の方が良いといえる。しかし未経験者といってもなんでもかんでもいいというわけでもない。課長クラスであった方が監査員候補者としては一番好ましいようである。部下を持つ課長職を何年間も勤めたということは、人とのコミュニケーション能力はあるということだし、また日常いろいろな問題が起きても臨機応変に対応できることは実証済みである。
man2.gif しかしこれが部長経験者となるとへんにプライドがあり、自分が動くより人を動かして仕事をしようというずるさがでてくるので不適当である。 
ISO審査員でも元部長クラスだと「わしが絶対正しい。わからんおまえが悪い」という態度をとる人が多いが、元課長クラスだとなんとか説得しようとする。これは大きな違いである。
このような人であれば過去全然環境管理に無縁であっても問題ないと思う。環境施設、法律、社会の動向なんて一生懸命勉強すればよい。どちらにしても、何事も日々進化し、従事者は常に勉強していないと時代に遅れてしまうのだから。そういった新人(若いとは限らない)に法律の知識、環境施設の知識、ISO規格、監査の基本などを教えるのはたやすくはないが不可能ではない。

しかしちょっとやそっとでは教えることができないと思っているのは目ざとさというか感受性である。
語るに落ちるという言葉がある。
語るに落ちるとは、人に聞かれたときは用心して話しいても、自分で何気なく語るときは、ついうっかり秘密を漏らしてしまうことがある、ということらしい。
じゃあ、監査では被監査側に話をさせておけば秘密、ボロ、ミスがでてくるのでいいのか?と言えば、現実はそうではない。誰でもいろいろな情報を積極的に話しているのだが、聞き手がその情報に気付かなければ語るに落ちたことにならないのである。話者が自分からぼろを出しても、それを聞いている人がその話のおかしなところ、矛盾に気付かないとならない。それに気づくか否かということが感受性というものだろう。

監査をしていて、下水道法の届けはしているか?届けたエビデンスを見せよ、その内容はどうか、受理印は・・などといちいち確認していたら疲れてしまう。一般的にそういう監査をしている人が、第三者から見るとすばらしい監査員と思われているようだが私はそうは思わない。
いえ、単に私が怠け者だからかもしれない。
一言、「下水道の管理をどうしてますか?」と聞くとたいていの人は、下水排水管理の手順、測定方法や測定結果、行政の採水結果と通知などを見せて説明してくれる。相手にいろいろと話をさせて、こちらはだまってうなづいて聞いていれば良いのだ。こちらがまなじりを決してあれを見せろ、これを見せろとか数字を逐一チェックすることもない。
そしておかしなところとか、良い点をメモしておいて、一段落したところで確認する。聞くまでもなく、相手が提示したエビデンスで適合、不適合がわかれば監査は終了である。







現場でも同じようなものである。
「廃棄物保管場所の看板はどこか?」と質問する前に看板が気が付くところになければ不適合である。
劇物のタンクに見えるところに劇物表示がなければこれもまた不適合である。
防液堤の雨水抜きのバルブをちょっと触れば閉めてあるか開いているかわかる。
消火器の間隔がちょっと広いんじゃないか? 消火器が目立たないなあ〜、ああ消火器の看板がない
pHの記録紙を見てちょっとゆらぎが大きいんじゃないか? 全然変動がなければガラス電極がおかしくなっているんじゃないか? と感じるか感じないかである。
そんなものが感受性というのではないかと思う。

感受性とか目ざとさというものは一朝一夕ではなく、やはりこれは経験の積み重ねでしか身に付かないと思う。
私が高校を出て某社に入った時のこと、その職場では毎日仕事が終わった後、交代で工場の戸締りなどを確認をすることになっていた。初めて私の番になったとき、職長が一緒に回って教えてくれるという。
この方は当時42・3歳、18歳の私から見ると年寄りに思えました。今80を越え健在です。薫陶に感謝申し上げます。
さあ行きましょうと急ぐ私に、まあ待てという。工場の端に立って「音を聞け」と言いました。確かに仕事が終わっているとはいえ、いろいろな音がしています。
空気漏れや誰かが切り忘れたモーターが空転している音がないかを良く聞き取れというんです。確かにシューシューという音がいくつか聞こえます。空気漏れはバルブを閉めるのを忘れたところとかシールが悪くて漏れているのがある。場所を確認して保全部門に伝えること・・・などなどを教えてくれました。
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血圧を測る人とか、体重を測る人がいます。
しかし血圧でも体重でも、ときどき気が向いたときに測ったのではあまり意味がありません。定期的に測りその変化を見ないと体調がいいとか、太ってきたとはいえません。体重って朝晩で500グラムくらい変動しています。また一週間くらいで1キログラムくらいの揺らぎもあります。あるとき測って減ったと喜び、あるとき増えたといってもそりゃ意味がありません。
機械の音も振動も、正常の時を覚えておかないと異常とは判断できません。そして正常を知っているからこそ、異常に気付くのです。もちろん音や振動だけでなく、五感をフルに活用して正常を覚え異常に気付くように努力するのです。


本日のおさらい

監査員には感受性が最優先の必要条件なのかもしれません。




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